氷花の鬼神って誰のことですか?え、僕のことってどういうこと?

皇城咲依

6.入学試験


「エレミヤ。お前さ、世間知らずにもほどがあるからさ、学校入ってみろ。」
「は?」

ある日、エレミヤが朝食を食べていたときだった。
ジリアスが口にした一言でエレミヤは食べようとしていたパンを取り落とした。

「な、何故…?」

エレミヤは前世で学校でいじめられた経験がある。
なので、怖いのだ、学校が。

「ちょうど入学試験がある頃だし、いい機会だ。行ってみろ。」 

エレミヤは歯を食いしばり、手を握った。

(僕はシノハナの戦闘員だ。シノハナは死花しのはな。我々は死を運ぶ花である。怖いものは…死しか無い。そうでなくてはならない。)

エレミヤはふぅ…。と息を吐き、師匠の目を見る。

「…わかりました。行きます。」

 ジリアスはにたっと笑い、

「おっしゃ、決まりだ!ロンガット、手続きしておけ!まずは入学試験だが。」
「了解しました。」

そして早速取り掛かるためか、後ろへ下がっていく。
エレミヤは下を向いた。
額にじわりと浮かんだ汗が頬を滑り落ちていく。

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次の日、エレミヤは学校へ行くための仮初の制服をロンガットから受け取った。
そしてひと目見て目を曇らせる。

【氷蓮…。】
『何?エレミヤ。』

エレミヤと契約したとき以来、氷蓮はその姿が気に入ったのか、ずっと可愛いままである。

【…これ、似合うかな…。】

服を広げたエレミヤは目を細める。
いかにも異世界っぽい服である。
騎士めいた服にブーツ。
そして帯剣用のベルト。

(うっわぁ…。、こんなの、着れるわけないよ…。)

この服を着た自分を想像すると恥ずかしくなり、赤面してしまう。
しかし、想像と裏腹に

『似合うと思う!エレミヤ、着てみろ!』

とはやし立てられた。

【えぇー…。】

どうせ、着なきゃ始まらないため、エレミヤはぎこちなく服を羽織り始めた。
そしてベルトをつけ、剣を腰に帯びた。

「ど、どう…?」

エレミヤは念話ではなく、実際に声を発して言った。
すると、ぽん。と氷蓮が出て来て、エレミヤをまじまじと見る。

『エレミヤ。案外似合ってるぞ。いいんじゃない?』

エレミヤは鏡の前に行き、自分を眺める。

「…そう…かな…?」

まじまじと自分の姿を眺めていると、ノックも無しにがん!と扉が破壊しそうな勢いで開いた。びく、とエレミヤと氷蓮は全身を飛び上がらせるほど驚いた。 
この人…。気配消してたな…。

「準備できたか、エレミヤ!おお…!結構似合ってるじゃないか!いいぞ。かっこいいぞ!」

この大声は勿論、ジリアスの物だ。

「し、師匠…。」
『ジ、ジリアス殿…。』

ニヤニヤ笑っているジリアスにエレミヤの氷攻撃が襲いかかる。

「…刺氷しひょう。」

限りなく鋭く尖った氷がジリアスを襲う。

「どあーっ!え、炎爆えんばく!」
「え?!し、師匠のバカ!」

とっさに放ったジリアスの異能力がエレミヤの異能力を飲み込み、大爆発…する前にエレミヤが慌てて放った水が爆発寸前の炎を包み込み、凍る。
そして炎は分厚い氷の中で爆発し、事なきを得た。
コトンと一つの氷の玉が地面に落ちた。
汗だくのエレミヤと尻餅をついているジリアスがお互いを睨みつけた。

「「師匠のせいですから(お前のせいだからな)!」」

一斉にお互いに責任の押し付け合いを始めた師弟二人。

「いや、師匠が爆発系の異能力なんて使うから!というかその前に!師匠が気配消してノックも無しになった入って来るからでしょう!」
「いや、お前が急に刺突系の異能力なんて使うから!」

二人の喧嘩を見て氷蓮は慣れているため、はぁ、と息を吐き、例の人物が来るのを待った。
言い合いがエスカレートしていくに二人に声がかかった。

「ご主人さま、エレミヤさま。氷蓮さま。もうそろそろ入試の時間ですよ。」

笑顔ながらも轟々と怒りの炎を燃やすロンガット。
これには最強師弟も苦笑いを浮かべ、ぎこちなく頷く。

「「い、今行きます…。」」

ロンガットが満足げに頷き、踵を返す。
こつこつ…。と足音が遠ざかっていく。
師弟二人は顔を見合わせ、ふん、と顔を逸らす。

〘おいおい…。勘弁してくれよ…。〙

氷蓮は肩を落とし、エレミヤの肩に乗った。
そしてエレミヤは羽ペンなどが入ったバッグを肩にかけ、ジリアスに肩を貸し、立ち上がらせたあと、外へ向かった。
そこで待機していた馬車に乗り込むと、ロンガットが来たため、馬車を待機させる。

「行ってらっしゃいませ。向こうで揉め事を起こさぬように。氷蓮さま。ご主人さまたちを頼みますぞ。」

念を押された二人はぎこちなく笑い、

「「は、はい…」」

と頷き、人間二人を託された龍は真剣な顔で頷く。
そして龍に託された人間二人は苦々しく顔を歪める。
この会話が終わってからジリアスは馬車を発進させる。
そして馬車にがたごと揺られ、二人と一匹は試験会場へ向かう。

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「…わぁ。ここが学校…。」

学校に到着した一行は門の前で立っていた。
ちなみに、氷蓮はエレミヤの中に居る。

「広い…。」

と呟くエレミヤに、ジリアスは頷く。

「ああ!この国で一番でかく、難しい学校…。『トゥーリス国立剣士、異能力者育成学校』…。略して『トゥーリス学園』だ!って、ちぃっと早すぎたな…。まだ門が空いておらん。」
「わぁ…。」

エレミヤは門の前から学校の全体を眺めた。
トゥーリス学園はまるでよく異世界転生の小説にありそうなとても広い学校であった。
エレミヤはその学園の家よりも断然大きい門をさわった。

(…全部鉄か。家の門は木製だが…。流石、国一の学校…。…日本に居たときは鉄なんて当たり前だったけど、この世界では貴重なものだ。…ここにいると実感が沸かないな。ここが僕らの世界では無い、ということ…。)

と、言ってもこの国は日本と違いすぎるのでヨーロッパのどこかに来たという感覚だろうが。
ボーッと見上げていると、後ろから気配が近寄ってきた。3人だ。師匠たちではない。
同じ受験生か。
おっと。僕にぶつかってくるつもりか。
避けるか。
でも、無理に目立ちたくない。それに、約束がある。
だから、この学校では下っ端を目指す。
…また、いじめられたくない。
エレミヤが下した決断は、

「おっと、すまね。」

どん!とぶつかられることだった。
ジリアスが額に青筋を立て、氷蓮がぐるる…とエレミヤの中で唸った。

『おい!エレミヤ、なんで避けなかった!』
【だって、下手に目立ちたくないし。それに、師匠と約束したんだ。僕が国の中で最強の精鋭部隊、シノハナの一員であることをバラさない、と。そして、約束を守るには、これが手っ取り早い。】

氷蓮はくるるる…と悔しそうに唸り、ぶつかってきた生徒がこちらを見てニヤリと笑う。

「あれ、こいつ平民じゃないですかぁ!」
「なんで平民がここをうろついてんだ?」
「ここは平民がいるところじゃないですよ。さっさとおかえりなさいな。」
「もしかしてぇ、ここの受験生じゃないよな?」
「まっさかぁ!こんなヒョロヒョロが名誉あるトゥーリス学園に入ってくるわけ、ないですよね?」
「こらこら、平民に失礼ですよ。」

言いたい放題の受験生3人組。
下を向いているエレミヤ。
その顔は殺気を宿している。
ジリアスもそうだ。
弟子を馬鹿にされて相当いらいらしている。
エレミヤは深呼吸し、立ち上がる。

「…そうですけど…何か?」

笑顔で答えたが、目がまるで笑っていない。
貴族らしき3人は目を瞬かせたと、がはははと下品に笑った。

「今回の入学試験は格が落ちたなぁ!」
「ですなぁ。…無礼な平民よ。聞け。我々は…。将来のシノハナ隊員、ゴルゴ・ジニアとバローク・レイガン、そしてビグローレ・ナルマンだ!」

シノハナはこの国最強の異能力戦闘集団である。なので、シノハナを目指す人は大勢いる。
しかし、エレミヤにとっては友達がいる、自分の数少ない居場所の一つ…。
シノハナに所属している方々は皆、血のにじむような努力をしてきた方ばっかりだ。
見ると、ゴルゴ達の手には傷跡は少しもなく、腰に帯びている剣の柄には多少使われた形跡はあるが、擦れていない。
なので、シノハナを軽々しく考えているゴルゴ、バローク、そしてビグローレの言葉に激怒を覚えた。

「師匠…」

エレミヤはジリアスに言った。

使?」

ジリアスも頷く。 

「ああ。使。陛下には俺から言っておく。」

ジリアスの許可を貰ったのでエレミヤは貴族どもに笑いかけた。 

「…あの、そこの御三方。ちょっと、手合わせしませんか?僕が見極めてあげしょう。あなた方が、本当にシノハナに必要かどうかを。」

貴族3人はぴくと眉を動かし、

「く、はははははは!」

と大笑いした。

「貴様、後で後悔するからな。シノハナに必要か見極めるぅ?お前ごときじゃ、我々の能力に消されるだけだ!しかし、そこまででかい口叩くなら、いいだろう、その挑戦、受ける!」

エレミヤは笑う。

「では、この学園の闘技場を借りましょうか。ココだと、けが人が出てしまうかも知れませんし。」
「ああ。そうだな。死なねぇように気をつけろよ!」

エレミヤは一層笑みを深くし、顔を上げる。

「己の心配をしたらいかがです?」

エレミヤの全身から殺気が燃え上がるように広がった。



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