大蛇戦記Ⅰ
プロローグ
僕、小鳥遊潤 玉木建設営業部の営業マンをしている。ここ最近は取引先を主体とした大規模なプロジェクトを任されていて玉木建設のプロジェクトリーダーである田中営業部第一営業課課長補佐と山田営業課係長の2人を補佐してるのだが… 本来ならプロジェクトリーダーである田中課長補佐がやらないといけないプロジェクト関連の資料請求やそれを基に作成する報告書等の仕事を押し付けて定時退社して行く。 ホント 嫌な奴だよ… 
山田営業課係長は今年で定年 来年は僕が係長になることが決まっていたため、引き継ぎの作業も含めて今日もサービス残業をする羽目となったものの、仕事を黙々と片付けていく いつも通りの作業。田中さんは僕に話しかけてきた。
「小鳥遊くん、済まないね。今日は孫の誕生日なんだ。悪いんだが先に退社させてもらってもいいかな? 」と言ってきたので「良いですよ。」と答えた。
(良いわけねぇだろ。こんなにも仕事が残ってるのに )
「本当に悪いね。お先に 」
自分の荷物を持ってそさくさと帰って言ってしまったので1人で作業をこなし、全てやり切ったのは午後23時55分とギリギリ終電に乗れる時間であった。
「さて、仕事も片付けたし、さっさと帰ろう。」
自分の荷物を持って本社を出たのは午後24時5分になった頃で走って最寄り駅(東京メトロ副都心線有楽町駅)まで向かい、ギリギリ終電に間に合った。
「ふぅ 間に合った。」
電車内には乗客がまちまちいて、酔っ払いのおっさんやよく見かけるOLがいた。
僕が降りる駅は江戸橋駅なので残り5駅(桜田門、永田町、麹町、市ヶ谷、飯田橋) いつもサービス残業をしていた潤はウトウトしながら、つり革に摑まる。それがいつもの日常 いつもの毎日であった。あの事故が起こるまでは…
急にガッタンっと地下鉄の車輪が外れ落ちた音がし、ギューーーイーーーンという金属と金属の擦れ合う音が「キャーーーーーーーーーー!! 」と言う悲鳴共に聞こえてくる。
潤は大きな揺れでつり革から手が離れてしまい、扉に激突 意識を失ってしまった。
「おい、お兄ちゃん 大丈夫か? 」
酔っ払いのおっさんが近づいてきた時には潤のスーツの背中側には扉と後頭部を強打したことによる出血とガラスの破片が後頭部に刺さっており、ほぼ虫の息であった。
(物凄く… 痛い… 痛いのは…やだな…)
(痛覚無効を能力として取得します…... 成功しました。)
「意識をしっかりと… 持つんだ!! 」
酔っ払いのおっさんが懸命に励ますも、ほとんど聞こえていない。
その後、電車は急停車 潤も救急車に運ばれていた。
(振動分析を能力として取得します…... 成功しました。それにより聴覚退化を獲得しました。)
「後頭部にはガラスの破片が… 何ヶ所か刺さっており、大量出血が確認されています。更に意識混濁 会話もままならないそうです。」
「血圧 心肺共に下がりつつあります。病院に着いても間に合わないかと… 」
(血圧をコントロール出来る体を生成をします…... 成功しました。)
「アドレナリンを投与しますか? 」
(薬生成を能力として取得します…... 成功しました。続いて猛毒生成を取得します…... 成功しました。)
「危険だがこれ以上、血圧を下げると危ない。すぐに投与だ。病院まで持たせるぞ!!」
(何だ? 救急救命士の人以外から女の人の声が聞こえる… これが混乱か… )
(混乱耐性を能力として取得します…... 成功しました。混乱耐性を能力として獲得したことで精神統一exを能力進化を達成しました。)
(この女の人何を言ってるんだろうか? でも、心地よい声だ。)
ピーーーーっと言う心肺停止の音が救急車の中で鳴り響く。
「血圧を無理に上げすぎたんだ。脳出血を起こしたかもしれん… 」
(血を必要としない体を生成します…... 失敗しました。代行措置として酸素飽和向上を獲得しました。)
あっけなく、小鳥遊潤は死んだ。
だがこの時、小鳥遊潤の魂は、異なる世界の同一時空に偶然発生した神獣とシンクロしたのだ。
目視も出来ない、小さな次元の亀裂。発生した魔素の塊に、シンクロした魂。
魔素の塊は、神獣を生み出す元となり、シンクロした小鳥遊潤は本来有り得ぬ天文学的確率で異なる世界の魔物として転生する事となる。
大学を出て大手と言われる玉木建設に入社し、現在一人暮らしの25歳。彼女はいない。
僕は気ままな独身貴族だった。
次生まれ変わる事が出来たら、頭を使って論理的にガンガン攻めよう。女の人に声かけまくって、喰いまくるぞ・・・。ってそれは駄目か。
(脳を必要としない体を生成します…... 失敗しました。代行措置として脳処理速度向上を獲得… その付属として大喰らいも獲得… 成功しました。大喰らいを獲得したことにより捕食者exに能力進化を達成しました。)
(何だ? 音が… 聞こえてない… でも、女の人の声だけは聞こえる… )
そして30歳目前の僕なんて、30歳手前で魔法使いなのかな? 大賢者も夢じゃないが、流石にそこまではどうかと思うけどね…
(賢者を能力(タレンド)として獲得…... 成功しました。続いて特殊能力賢者を大賢者exに能力進化を達成しました。)
って、さっきから何だ?何が大賢者だ。分からないな? どういうものなのか… 
全然、面白くない冗談だよ。
笑えないよ、こっちわ!
本当に失礼な・・・!!
そんな事を考えながら、俺は眠りについた。
(これが死ぬって事か・・・思ったほど、寂しくないな。)
それが小鳥遊潤がこの世で思った最後の言葉だった。
ここはどこだ?てか、どうなったんだろう?
確か、賢者だ、大賢者だと言われたような気がする… 。
そこで僕は意識を覚醒した。
僕の名前は、小鳥遊潤。25歳のインテリ系男子。
確か僕は地下鉄の事故で後頭部を電車の扉に激突して死んじゃったんだった。
よし、覚えてるようだ。
周りを見回そうとして、気づく。目を開けると周りが暗闇に包まれていることに すると例の女の人の声が聞こえる。
(暗視を能力として取得します…...  成功しました。暗視を獲得したことで熱探知を取得します…... 成功しました。続いて目との同調を開始します…... 成功しました。)
目との同調が成功したことで周りが暗闇に包まれていた洞窟内を見通せることが出来るようになった。
身体周りにはコケに覆われて全体像は見られなかったものの、日本神話に出てくる大蛇 である八岐大蛇やヒドラ、ウロボロス、ヨルムンガンド、メルセゲル、ナーガなどのような巨大なヘビの姿をしていた。
(はぁ… 何で僕はこんな巨大なヘビの身体をしてるのか分からないけど… 僕は死んだことには変わりはないから異なる世界で転生したんだとは思うんだけど… どうしてこうなったのかは聞きたいけど まずは、この洞窟内をこの巨体で移動出来るのかが不安んだ。)
しばらくゆっくりとほふく前進をするかのように動いて行く度に葉の先っちょが自分の身体にツンツンと刺さる感触があり、くすぐったい感じがするなと思いつつ、洞窟内だから当然、大きく鋭い石があるのだが身体に傷がつかないほどに硬い鱗をしていることも分かったため、スピードを上げて進んでいく。
洞窟内をかなりのスピードで進んでも他の魔物にすれ違うこともどこかにいることも確認出来なかった。
基本、魔物たちは草原や森などで暮らしてるからである。
(やっと外に出られたけどお腹空いたな。) 
そう思っていると頭の中で女の人の声が聞こえた。
(捕食者の能力を使用しますか? はいかいいえでお答えください。)
捕食者は捕食、分析、保管、擬態、複製、創成の6に分類され、ヘビの捕食の特性と潤の意志がよく反映されたかなり便利な能力である。
(この能力はかなり便利ですね。でも、僕は何のヘビに転生したんだろう? )
(はい、それは答えられませんが、イメージをするならティタノボアのようなものです。)
(なるほど 質問には必ず解答してくれる訳じゃないのか。)
(転生以外の質問なら解答はします。ただし、答えられるかは知りうる範囲のみになります。)
(はい、ありがとうございます。この世界については知ってますか? )
(はい、もちろんでございます。貴方様もご存知の世界かと思われますが説明してもよろしいでしょうか? )
当然、潤にとってはこの世界の情報が欲しく、情報次第では大胆に動くことも出来るからだ。
(はい。よろしくお願いします。)
(承りました。この世界はユグドラシルと言われる世界でアースガルズ、ヴァルハラ、アルフヘイム、ヴァナヘイム、ニザヴェッリル、スヴァルトアールヴヘイム、ミズガルズ、ヨトゥンヘイム、ニヴルヘイム、ヘルヘイム、ムスペルヘイム、アトランティス、パシフィス、ムー、メガラニカ、レムリアの16の大陸に別れており、それぞれの大陸は大きく各種族によって統治される国が数千カ国以上もあります。)
(結構、国がありますよね。)
(はい。それは有力貴族同士の領土争いや家督・領土相続問題での争い、地方独立などによって次々と新しい国が毎日のように出来るためで貴方様がいらっしゃった現代の中世ヨーロッパとほとんど同じで違うとしたら現代では架空とされる生き物が跋扈して魔法
を使い、魔物から国や市、村を守る者がいるぐらいでしょう。)
(なるほど… 血の匂いがあちこちからするのでこれもそうなのでしょうか? )
(… 念の為に周りを熱探知と
振動分析の能力を使って周囲を確認してみましょう。)
(分かりました。)
熱探知と振動分析で周囲を確認してみると自分よりも少し小柄の魔物が魔人族と戦っていることが分かった。
(どうやら、人と少し小柄な魔物
と戦っているようですね。僕の存在には気づいているのか それとも気づいていないのか… うーん、困りましたね。)
(この周辺地域には普人族の国は無いので冒険者でしょう。)
潤は少し小柄な魔物を捕食するため冒険者たちに気づかれないようそーぉっと近づいて行く。
「アヒム 大丈夫? 」
「うん、大丈夫 かすり傷 くっ… 厄介な能力だよ。トロールの超回復の能力は… 」
「このままじゃ… まずい。矢を放ってる? 」
「うん、撃つから任せたよ。クラウディア 闇属性魔法 闇矢 」
矢を持って弓を引いてトロールの膝を狙って矢を放った。
「えぇ、任せなさい。水属性魔法 波紋 からの氷属性魔法 絶対零度 これで終わりよ。」
「ウガァァァァァァァ … ウガァァァ… 」
森に響き渡る呻き声を出して倒れていくトロール それを見守りつつも、怪我を負ったアヒムと言う男の子が放った真っ黒な矢がクラウディアと言う女の子が使った波紋によって四方向に屈折し、両膝、両手に刺さり、闇の力で回復のスピードは若干遅くなりそれから絶対零度の−273.15℃の息をトロールの方向に吹きかけたことで損傷箇所から冷気が入り、血が瞬く間に凍結してしまい死んでしまったようだ。
僕も少し浴びてしまったので(寒冷耐性を能力として獲得… 成功しました。)と言われた。
(そう言えば、擬態とヘビの滑らかな移動によって人には気づかれずに近づくことが出来ますね。無言で固まってしまい申し訳ございません。)
(いえいえ、大丈夫ですよ。新しい能力を取得しましたし、あのトロールを捕食しちゃおうかなと思います。まぁ、彼らには悪いですけど頂きます。)
彼らが会話をしている間にトロールを下に巻いてそのまま丸呑みしてトロールを捕食して簡易の分析を行い、トロールの能力である超回復を手に入れた。
(横取りされるのは分かっても僕の存在には気づかれないという利点があるし、空腹はある程度満たされました。ごちそうさまでした。)
(それは良い判断かと。かなりの魔源とこの身体を維持し続ける栄養分は補給出来たはずなのでしばらくはあの2人の後ろを着いて仕留めた魔物の能力を回収していくのもいいかと思われます。)
(はい!! 分かりました。割とトロール美味しかったのでまだまだ食べれますよ。あとはあの2人が動くかですね。)
トロールを食べられたことに気づいていない2人は未だ気づいていないのか話をしていた。
「流石だね。クラウディア いてててて!!」
「神の加護 」
アヒムの怪我がみるみる治り、血が止まった。
「やったわ。トロールを倒せた。これで任務が達成出来たから組合に報告しないとね。」
「さて、組合に提出しなくきゃいけない。耳を… !? 」
「どうしたの…!? 」
アヒムが気づいた。確実に仕留めたトロールが消えたことに… アヒムはクラウディアと共に草やぶへ隠れて様子を伺うことにした。
「仕留め損なった訳じゃないよね?… 」
「うん、確実に中核が止まっていたはず… だから別の魔物に喰われたかあるいは… 屍術師が近くにいるのかもしれない… 」
木の枝にいた潤は2人の会話を振動で感じて内容を理解していた。
ヘビには耳が退化しており、基本的に獲物が動いた時の振動で獲物との距離を測ったり、一部のヘビは熱を感知することで狩りを行うためである。
(屍術師ってそんなに強い魔物なのですか? )
(いいえ、屍術師は死者蘇生を行う闇魔術師の事でございます。貴方様と比べるのもおこがましい程の雑魚ですが… もし、この辺りで遭遇したら戦うことになるかと。)
(なるほど 分かりました。)
2人は周りを警戒しながら会話をし、どうするか検討していた。
「それはヤバいわね。私たち、C級の冒険者で対応出来ないわ。」
「どちらにせよ。テレポーションで組合に向かうしかない… 魔眼を持つ僕か3の属性魔法を使える君をここに残すかの2択… か。くっ… 」
魔眼は特定の条件下で普人族のみだけに発現する能力で精霊眼や石化眼、天分眼などがある。
少し考えてクラウディアが不安そうにしながらもアヒムに言った。
「分かったわ… 私がここに残る。もし、何かあったら私もテレポーション飲んで逃げるから… 大丈夫… 」
「うん、分かった。気をつけて… 」
テレポーションを飲んだアヒムは姿が消え、どこかえと移動して行った。
アヒムが消えた後のクラウディアは防御魔法を張って守りを固めつつ、アヒムが他の冒険者(アベントゥーラ)を引き連れて来るまで留まることにしたようだ。
「魔法防壁 対魔法障壁 氷属性魔法 霜柱障壁 ふぅ 一応、これだけやれば屍術師からの攻撃でも、何分かは持つでしょ。」
(他の魔物が彼女を狙ってきたら僕が捕食することで効率的に能力集めが出来ていいかもしれませんね。まぁ、囮役として女の子を使うのはなんか気が引けますが… )
(確かに 基本、他の魔物よりも圧倒的に魔源や能力などを持つ貴方様なら余裕でこの辺りの魔物を全滅させられるかもしれません。そうすれば能力が増えて今後の方針に役立てられるかと思います。)
(そうですね。囮役として頑張って貰いましょうか… まぁ何かあれば捕食する準備をしておきましょうか。)
(えぇ、貴方様も感じてるはずです。ナーガやロックガーゴイルなどが彼女に向かって集まってきていることに。)
(はい、気づいていますよ。しかもやばい気配も感じる… もしかして屍術師ですかね。)
(恐らく とてつもない魔源を持つ貴方様と彼女の魔源を感じたとなれば相手も迂闊には攻撃してこないかもしくは先制攻撃を仕掛けて来るかのどちらかかと。)
(流石に、彼女を残して逃げる訳には行かないということか。)
(屍術師が召喚しているロックガーゴイルやスケルトン、ゾンビ、リッチなどで基本的には貴方様よりも格下でゴミのような存在でございますが、捕食するのには最適で効率良く貴方様の姿も神獣として少しは進んでいくかと思われます。)
(なるほど それは楽しみですね。神獣としてなった場合、人型にもなれますよね。)
(残念ながらそれはお答えすることが出来ません。ただ、できる可能性は高いと言われていますが… これ以上は言及出来ません。ご了承ください。)
(分かりました。まぁ、神獣に少しでも近づいていくのが今目指すべき目標ですよね。頑張らないと。)
(私も陰ながらサポートの程をさせていただきます。もうすぐ屍術師が現れますが、貴方様の姿は見えてないはずです。)
(魔眼は持っている雰囲気… 撹乱のため、僕の魔法を使ってみましょう。水属性魔法 蜃気楼 シャァァ )
潤が使った蜃気楼は森全体に広がり、辺りの見通しを悪くし光の屈折を利用することで大量の彼女がいる場所を作ることに成功。屍術師や召喚したロックガーゴイルやスケルトン、ゾンビ、リッチなどは新手を警戒して進まねばならず、時間稼ぎには最適であった。
一方、クラウディアは屍術師の襲来を察知し、対物理攻撃防壁を貼って防御魔法を強化していた。
果たして彼女は無事、アヒムが他の冒険者(アベントゥーラ)を連れて戻って来るまでの間、守り切れるのか そして潤はどう動くのか。
次回、屍術師
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