【コミカライズ】寵愛紳士 ~今夜、献身的なエリート上司に迫られる~
「今夜は絶対、キミを抱かない」3
家から離れて川沿いの道を並んで歩きだした。
冬の肌寒い空気が顔を撫でている。
あったまるように、雪乃は晴久の腕にくっついた。
「晴久さん。川の向こうに神社があるのでそこまで少しお散歩しませんか」
「あ、ああ。そうだね」
先ほど両親の前で爆弾発言をした呑気な雪乃にお説教をしたい気持ちになったが、晴久はそれを飲み込んだ。
(責めたところで、雪乃は嘘はついていない。事情はどうあれ出会ってすぐに家に泊めた上、部下だと分かってからも一緒に居続けたのは事実なんだ。それを取り繕うのは言い訳しているのと変わらない)
彼女の両親にこそ、嘘のない真摯な姿勢でいたい。
雪乃を懐柔したような卑怯な部分の謝罪も含めて、これからの付き合いを認めてもらわなければ。
そう心に誓った晴久は、彼らからはどんな咎めも受ける覚悟を決めていた。
「晴久さん?」
木々の多い風景が、覗き込む彼女の瞳の中にも映っている。
ぐりんと大きく綺麗な目の彼女はこの故郷で育くまれたのかと想像すると、晴久は考え込むのをやめ、フッと微笑んだ。
「雪乃に似て素敵なご両親だね。雪乃は実家だと甘えん坊になるんだな」
雪乃はカッと赤くなり、ブルブル首を振った。
「そんなんじゃないですっ。普通ですよ、普通」
「いいよ。かわいい。俺にもあんな感じで甘えてくれるとうれしいんだけどな」
晴久の言葉に、雪乃はむきになっていた表情をコロッと甘く変える。
「もう十分甘えています。これ以上甘えたら、バチが当たりそうですよ」
「そうかな?」
「……でも。もっと甘えていいなら」
彼女は目をトロンと潤ませ、晴久の腕に絡んだ。腕に胸が触れ、彼女はそれをわざと押し付けて挑発する。
「……雪乃」
ピクピクと緊張する腕に力を入れ、晴久は見つめ返した。
しかしーー。
「だめだよ」
めったにない彼の拒絶にキョトンとする雪乃。
「神社に行こう」と先を歩きだした晴久に、戸惑いながら時間差でついていく。
人の往来はない道なのにどうしてキスしてくれなかったんだろう、そんな不安を感じていた雪乃だが、人が通ると恥ずかしいからかなと納得し、気にするのはやめた。
緑の中にぽっかりと姿を見せた神社は小さく、近所の地元民に愛されている。
赤い鳥居が見えていて、その先に目を凝らすと奥まって拝殿があるつくりになっていた。
誰もいない静かな砂利道を踏みしめ、まるでバージンロードのようにふたりきりで進んでいく。
お賽銭を入れてガラガラと鈴を鳴らした。目を閉じ、うつむいて、願い事をする。
(晴久さんとずっと一緒にいられますように)
雪乃は心の中でそうつぶやき、同じタイミングで目を開けた晴久をちらりと見上げる。
「晴久さんはなにをお願いしました?」
ポッと赤い頬の彼女に、彼は笑みを落とす。
「雪乃と同じだと思うよ」
「晴久さん……」
彼と故郷へやってきて大好きが止まらなくなった雪乃は、キョロキョロとあたりを見渡した。
「あの、今なら誰も見てませんよ」
雪乃が背伸びをして、目を閉じた。
何度目にしても恋人のキス待ち顔に胸がドクドクと鳴り響くが、晴久は今回は目を逸らし、絡みつく彼女の体を正した。
「晴久さん?」
「ごめんね。今はキスできない」
意地悪ではなくハッキリと断られた。雪乃はピキンと固まり、「どうして?」とすぐに焦りだした。先ほどから二度目だ。
本当は神社という神聖なシチュエーションでキスをしてみたかった晴久は、ぐらついている欲求をゴクリと飲み込む。
「キミのご両親に認めてもらえるまではなにもしない。今夜、お話しするだろう?  それまでは控えよう」
「え?  うちの両親は認めてます。反対してませんよ」
「うん。でも、きちんとお話しするのが先だ。さっきのごあいさつは十分ではない」
彼女の父親が見せた複雑な表情が引っ掛かっていた。晴久の決意は揺らがず、理解できず首を傾げている雪乃の髪を撫でる。
「……誰も見てなくても?」
「そう、誰も見てなくても。頑固でごめんね」
不安になりつつ、彼の強い意志にキュンとした雪乃はむくれながらも納得した。
頑固、と表現したが、彼のこうと決めたら曲げないまっすぐなところは大好きだった。
晴久に任せておけばすべて大丈夫。恋人に全面的な信頼を寄せている雪乃は、笑顔に戻って「戻りましょう」と手をとった。
冬の肌寒い空気が顔を撫でている。
あったまるように、雪乃は晴久の腕にくっついた。
「晴久さん。川の向こうに神社があるのでそこまで少しお散歩しませんか」
「あ、ああ。そうだね」
先ほど両親の前で爆弾発言をした呑気な雪乃にお説教をしたい気持ちになったが、晴久はそれを飲み込んだ。
(責めたところで、雪乃は嘘はついていない。事情はどうあれ出会ってすぐに家に泊めた上、部下だと分かってからも一緒に居続けたのは事実なんだ。それを取り繕うのは言い訳しているのと変わらない)
彼女の両親にこそ、嘘のない真摯な姿勢でいたい。
雪乃を懐柔したような卑怯な部分の謝罪も含めて、これからの付き合いを認めてもらわなければ。
そう心に誓った晴久は、彼らからはどんな咎めも受ける覚悟を決めていた。
「晴久さん?」
木々の多い風景が、覗き込む彼女の瞳の中にも映っている。
ぐりんと大きく綺麗な目の彼女はこの故郷で育くまれたのかと想像すると、晴久は考え込むのをやめ、フッと微笑んだ。
「雪乃に似て素敵なご両親だね。雪乃は実家だと甘えん坊になるんだな」
雪乃はカッと赤くなり、ブルブル首を振った。
「そんなんじゃないですっ。普通ですよ、普通」
「いいよ。かわいい。俺にもあんな感じで甘えてくれるとうれしいんだけどな」
晴久の言葉に、雪乃はむきになっていた表情をコロッと甘く変える。
「もう十分甘えています。これ以上甘えたら、バチが当たりそうですよ」
「そうかな?」
「……でも。もっと甘えていいなら」
彼女は目をトロンと潤ませ、晴久の腕に絡んだ。腕に胸が触れ、彼女はそれをわざと押し付けて挑発する。
「……雪乃」
ピクピクと緊張する腕に力を入れ、晴久は見つめ返した。
しかしーー。
「だめだよ」
めったにない彼の拒絶にキョトンとする雪乃。
「神社に行こう」と先を歩きだした晴久に、戸惑いながら時間差でついていく。
人の往来はない道なのにどうしてキスしてくれなかったんだろう、そんな不安を感じていた雪乃だが、人が通ると恥ずかしいからかなと納得し、気にするのはやめた。
緑の中にぽっかりと姿を見せた神社は小さく、近所の地元民に愛されている。
赤い鳥居が見えていて、その先に目を凝らすと奥まって拝殿があるつくりになっていた。
誰もいない静かな砂利道を踏みしめ、まるでバージンロードのようにふたりきりで進んでいく。
お賽銭を入れてガラガラと鈴を鳴らした。目を閉じ、うつむいて、願い事をする。
(晴久さんとずっと一緒にいられますように)
雪乃は心の中でそうつぶやき、同じタイミングで目を開けた晴久をちらりと見上げる。
「晴久さんはなにをお願いしました?」
ポッと赤い頬の彼女に、彼は笑みを落とす。
「雪乃と同じだと思うよ」
「晴久さん……」
彼と故郷へやってきて大好きが止まらなくなった雪乃は、キョロキョロとあたりを見渡した。
「あの、今なら誰も見てませんよ」
雪乃が背伸びをして、目を閉じた。
何度目にしても恋人のキス待ち顔に胸がドクドクと鳴り響くが、晴久は今回は目を逸らし、絡みつく彼女の体を正した。
「晴久さん?」
「ごめんね。今はキスできない」
意地悪ではなくハッキリと断られた。雪乃はピキンと固まり、「どうして?」とすぐに焦りだした。先ほどから二度目だ。
本当は神社という神聖なシチュエーションでキスをしてみたかった晴久は、ぐらついている欲求をゴクリと飲み込む。
「キミのご両親に認めてもらえるまではなにもしない。今夜、お話しするだろう?  それまでは控えよう」
「え?  うちの両親は認めてます。反対してませんよ」
「うん。でも、きちんとお話しするのが先だ。さっきのごあいさつは十分ではない」
彼女の父親が見せた複雑な表情が引っ掛かっていた。晴久の決意は揺らがず、理解できず首を傾げている雪乃の髪を撫でる。
「……誰も見てなくても?」
「そう、誰も見てなくても。頑固でごめんね」
不安になりつつ、彼の強い意志にキュンとした雪乃はむくれながらも納得した。
頑固、と表現したが、彼のこうと決めたら曲げないまっすぐなところは大好きだった。
晴久に任せておけばすべて大丈夫。恋人に全面的な信頼を寄せている雪乃は、笑顔に戻って「戻りましょう」と手をとった。
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