戦場の悪魔

3話 帝国

「うっ……ここは……?」

 目を覚ますと知らない場所にいた。

「お、やっと目覚めたか……。ここは帝都にある兵士用看護室だ」

 俺の疑問に答えたのは、猪との戦いで隊長・・と呼ばれていた男だった。
 年齢は20代前半だろうか。赤い短髪で、精悍な顔つきをしている。

 彼曰く、ひとまず俺は目指していた帝都にたどり着けたらしい。

「助けてくれたんですね、ありがとうございます。俺は、アルキスです。……あなたのお名前は?」

「バルトだ。帝国軍少尉、一個中隊を任せられている。君の力添えがなければ我々はみな死んでいたかもしれない。礼を言うのはこちらだ、ありがとう」

 彼──バートさんはそう言って頭を下げた。
 隊長というのは小隊の、ということだったみたいだ。
 平民の俺とは違い、立派な兵士さんだったか。

「傷はもう平気か?」

「あ……はい、大丈――痛っ!」

「まだ痛むか……。しんどいとは思うがこちらも報告せねばならない、すまないが素直に答えてくれ。
 ──どうしてあんな場所にいたんだ?」

 骨が粉々になってないと良いんだけど……背中がめちゃくちゃ痛い。
 あまり体を動かさないように気を付けつつ、俺はぽつりぽつりと事情を語り始めた。

 王国で生まれ育ったこと。幼なじみが職業《剣聖》を与えられたこと。
 幼なじみと国の上層部に無実の罪で国外追放されたこと。

 変に疑われてしまわないよう、俺はそれらを素直に伝える。


「――なるほど、事情は分かった。上官には君の言葉通りに伝えよう。これから帝国で暮らすとしたら、何をするか決めているか?」

「いえ……今はまだ……」

「よし、そうか――ならば兵士になるというのはどうだ? 君の勇気はこの目で見させてもらったからな。命の危険はあるが素晴らしい仕事だ。君さえよければオレが推薦するが……」

 帝国には何の伝手もないし、ありがたい話だ。
 農家とは違って危険が伴う仕事だが、お願いする他ないだろう。

「ぜ、是非……よろしくお願いします!」

 こうして俺は、帝国で軍人になることになった。



   ◆



「キングボアにとどめを刺した平民が目を覚ましました!」

「報告ご苦労。して、何者であったか?」

「無実の罪で王国を追放されたと。新たな王国の《剣聖》の……」

「うむ、その話は小耳にはさんでいる。少尉、嘘をついている様子は?」

「御座いません! 本人は軍入隊を志願すると言っており、わたくしが推薦いたします!」

「ほう……そうか。あのキングボアに立ち向かう勇気。気を失ったことを見ると、王国からの諜報員ではないか……。よろしい、下がれ」

「はっ! 失礼いたします!」

 バートが退出した後、男は口角を上げる。


「……興味深いおもしろい」


 帝国軍――大将の言葉であった。

 時代が今、動き出す。



コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品