世界実験開始
第二章 その5
「その正直さがあったから、こんな時間なのね」
「と、いうと?」
「よろしい? いつでも来ていいといっても、普通こんな朝には来ないものですよ」
「ええつ!? そうなんですか!?」
あまりの驚きに、涼河は場違いなほどの大声をだして放つ。
そんな涼河の反応を見て、詩織はまた笑い出してしまった。
「すいません。以後、気をつけます……」
衝撃の事実を知り、明らかに落ち込む涼河。
そんな涼河に、詩織は笑いながらこう告げた。
「いいえ、そのままでいて下さい。その方がきっといいわ」
「ですが……咲奈さんは僕のせいで……」
「大丈夫。あの子が一緒にいたいのは、正直でまっすぐで、ちょっとおバカなあなたなんだから」
おバカ、という言葉に反論したくなったが、これ以上ボロを出すわけにはいかない。今日のところは飲み込むとしよう。
「あ」
その時、涼河はもう一つの失態に気づく。
今更遅いかもしれないが、気づいたらやるしかあるまい。
涼河は立ち止まり、詩織に対して身体を向けた。
「どうかしましたか?」
そして不思議そうに首をかしげる詩織に対し、涼河は告げた。
「挨拶が遅れました。私、上代涼河と申します。よろしくお願いします」
「もうお母さんったら! 何でその話しちゃうかな!」
咲奈は怒りをぶつけるように、無作為に辺りの雑草をむしり取る。
「ま、まあまあ、そんなに怒らなくても」
「ああもう私が甘かったんだわ……。お母さんが涼河に会おうとすることなんて、簡単に予想できたはずなのに……」
すると今度は判断の甘さを嘆き始め、涼河の言葉はただの独り言という扱いになった。
詩織と別れ、咲奈と合流してからというもの、咲奈はずっとこんな風に怒ったり嘆いたりを繰り返している。
「涼河!」
「は、はい!」
と思うと突然立ち上がり、顔を赤くしながら涼河の方を向いた。
「今日お母さんが話したことは全部忘れて! わかった!?」
「全部って言うと……咲奈さんが僕のことを楽しそうに話し──」
「──全部って言ったら全部! その話は特に早く忘れて!」
「りょ、了解!」
涼河は反射的に右手に手刀を作り、額に近づけて静止した。
涼河の敬礼を見た咲奈は、ようやく肩の力を落とし、いつもの美しい表情に戻った。
「お母さんにも後できつく言っておかなくちゃ。せっかく涼河が来てくれてるのに」
「僕は別に嫌じゃないですよ。とてもいいお母さんじゃないですか」
きっと、最初は驚いたはずだ。娘にできた友達が、まさか軍隊の者だったのだから。
そして、心の中で反対したはずだ。間接的とはいえ、軍隊に関係を持つことに。
だが、
『久しぶりにあの子の笑った顔を見たものですから』
娘の笑顔のために、その言葉を封印したのだ。
詩織は涼河に会いたくて待っていたと言ったが、そんなのは涼河に対する建前に過ぎないのだと思う。
──見極めていたのだ。
涼河が、娘の友達としてふさわしい人物なのか。娘の笑顔を増やしてくれる存在なのかを。
そのために、わざわざ仕事の合間を縫って待っていたのだ。
娘のためとはいえ、そんなことができる母親が、悪い人なわけがない。
「お母さん迷惑じゃなかった? 軍隊の秘密とか、答えずらいこと聞いてこなかった?」
「大丈夫。とても気さくに話してくださいましたよ」
そして今、涼河は咲奈と一緒にいる。
これは、認められたということなのだろうか。
『いいえ、そのままでいてください。その方がきっといいわ』
今は、そういうことにしておこう。
「そう? ならいいんだけど……。じゃ、今日は私が北の方を探すから──」
「──あ、ちょ、ちょっと待ってください。咲奈さんに、話さないといけないことがあるんです」
「? 何?」
咲奈が首をかしげる。
「ええと……実は……」
今話さなければ、きっと忘れてしまう。
この楽しい時間を、きっと過ごしきってしまう。
伝えるのは、今しかないのだ。
「と、いうと?」
「よろしい? いつでも来ていいといっても、普通こんな朝には来ないものですよ」
「ええつ!? そうなんですか!?」
あまりの驚きに、涼河は場違いなほどの大声をだして放つ。
そんな涼河の反応を見て、詩織はまた笑い出してしまった。
「すいません。以後、気をつけます……」
衝撃の事実を知り、明らかに落ち込む涼河。
そんな涼河に、詩織は笑いながらこう告げた。
「いいえ、そのままでいて下さい。その方がきっといいわ」
「ですが……咲奈さんは僕のせいで……」
「大丈夫。あの子が一緒にいたいのは、正直でまっすぐで、ちょっとおバカなあなたなんだから」
おバカ、という言葉に反論したくなったが、これ以上ボロを出すわけにはいかない。今日のところは飲み込むとしよう。
「あ」
その時、涼河はもう一つの失態に気づく。
今更遅いかもしれないが、気づいたらやるしかあるまい。
涼河は立ち止まり、詩織に対して身体を向けた。
「どうかしましたか?」
そして不思議そうに首をかしげる詩織に対し、涼河は告げた。
「挨拶が遅れました。私、上代涼河と申します。よろしくお願いします」
「もうお母さんったら! 何でその話しちゃうかな!」
咲奈は怒りをぶつけるように、無作為に辺りの雑草をむしり取る。
「ま、まあまあ、そんなに怒らなくても」
「ああもう私が甘かったんだわ……。お母さんが涼河に会おうとすることなんて、簡単に予想できたはずなのに……」
すると今度は判断の甘さを嘆き始め、涼河の言葉はただの独り言という扱いになった。
詩織と別れ、咲奈と合流してからというもの、咲奈はずっとこんな風に怒ったり嘆いたりを繰り返している。
「涼河!」
「は、はい!」
と思うと突然立ち上がり、顔を赤くしながら涼河の方を向いた。
「今日お母さんが話したことは全部忘れて! わかった!?」
「全部って言うと……咲奈さんが僕のことを楽しそうに話し──」
「──全部って言ったら全部! その話は特に早く忘れて!」
「りょ、了解!」
涼河は反射的に右手に手刀を作り、額に近づけて静止した。
涼河の敬礼を見た咲奈は、ようやく肩の力を落とし、いつもの美しい表情に戻った。
「お母さんにも後できつく言っておかなくちゃ。せっかく涼河が来てくれてるのに」
「僕は別に嫌じゃないですよ。とてもいいお母さんじゃないですか」
きっと、最初は驚いたはずだ。娘にできた友達が、まさか軍隊の者だったのだから。
そして、心の中で反対したはずだ。間接的とはいえ、軍隊に関係を持つことに。
だが、
『久しぶりにあの子の笑った顔を見たものですから』
娘の笑顔のために、その言葉を封印したのだ。
詩織は涼河に会いたくて待っていたと言ったが、そんなのは涼河に対する建前に過ぎないのだと思う。
──見極めていたのだ。
涼河が、娘の友達としてふさわしい人物なのか。娘の笑顔を増やしてくれる存在なのかを。
そのために、わざわざ仕事の合間を縫って待っていたのだ。
娘のためとはいえ、そんなことができる母親が、悪い人なわけがない。
「お母さん迷惑じゃなかった? 軍隊の秘密とか、答えずらいこと聞いてこなかった?」
「大丈夫。とても気さくに話してくださいましたよ」
そして今、涼河は咲奈と一緒にいる。
これは、認められたということなのだろうか。
『いいえ、そのままでいてください。その方がきっといいわ』
今は、そういうことにしておこう。
「そう? ならいいんだけど……。じゃ、今日は私が北の方を探すから──」
「──あ、ちょ、ちょっと待ってください。咲奈さんに、話さないといけないことがあるんです」
「? 何?」
咲奈が首をかしげる。
「ええと……実は……」
今話さなければ、きっと忘れてしまう。
この楽しい時間を、きっと過ごしきってしまう。
伝えるのは、今しかないのだ。
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