世界実験開始
第一章 その18
その後、二人は花探しを続けながら、お互いのことを教え合った。
涼河は時雨や圭佑のことを。咲奈は自分の小さい頃のことを。
「そう言うと、今度は圭介が──」
「私ったら、そのことはてっきり勘違いして──」
話の内容は、どちらも下らないものばかり。
だが涼河にとって、軍に関係を持たない咲奈の話はとても新鮮で、本当に楽しい時間だった。
──時間は、瞬く間に過ぎていった。
「もうこんな時間ですね」
「え? あ、いつの間に……」
涼河もついさっきまで気がつかなかった。
世界を照らしていたはずの太陽は、いつの間にか光の色を変え、空を赤く燃え上がらせている。
落ちていく太陽に変わって現れた月の輪郭は、間もなく夜がやってくることを人々に告げていた。
「しょうがないですね。今日は帰りましょう」
「今日も見つからなかったな……。残念」
二人は花探しを諦め、集落に戻るため歩き出した。
「今日はありがとう、涼河」
「僕は何もしてませんよ」
「……あのね……」
咲奈の声が僅かに小さくなる。
「私、正直不安だった」
「え?」
「涼河が、もう二度と来てくれないんじゃないかって」
咲奈の歩く速さが、心なしか遅いように感じた。
「あの時は流れで声をかけたけど、涼河からすれば私なんてよくわからない一般人だし、軍隊のお仕事も忙しいだろうし、なにより初対面であんなこと言われたら、おかしい人だと思われちゃうし……涼河は、どう思った?」
咲奈は視線を涼河に向け、不安そうに返事を待つ。
「……そうですね」
涼河はあの日を思い浮かべながら、ゆっくりと話し出した。
「確かに、初めは驚きました。いきなり友達になろうなんて、言われたことありませんでしたから」
「ううっ……やっぱり……」
咲奈は恥ずかしそうに肩をすくめる。
「──でも、嬉しかったです」
「……え?」
「僕、事情があってとある施設です育ったんです。そこにいた子供は僕と、今日話した人しかいなかったから、『友達』って呼べる人がいなかったんです」
圭佑と時雨は涼河にとって、『友達』というよりは『家族』といったいった方がしっくりくる。
だからこそ嬉しかったのだ。
初めて会った人から。自分を全く知らない人から。
友達になろうと、誘われたことが。
「ありがとうございます。こみ……咲奈さん」
「ぁ────」
涼河の言葉に、咲奈はぽかんと開けて固まった。
「──っ? 咲奈さん? どうしました?」
「…………よかった」
そう呟くと、咲奈は小さく笑いながら言った。
「一日目にしてすごい成長だね」
「あはは。これくらいなら、どうにかできました」
「さん が残っているところは嫌だけど、今はこれでいっか」
咲奈は納得すると同時に、二人は森を抜けた。
その夜、兵舎は涼河への尋問大会となり、時雨の口が止まることはなかった。
涼河は時雨や圭佑のことを。咲奈は自分の小さい頃のことを。
「そう言うと、今度は圭介が──」
「私ったら、そのことはてっきり勘違いして──」
話の内容は、どちらも下らないものばかり。
だが涼河にとって、軍に関係を持たない咲奈の話はとても新鮮で、本当に楽しい時間だった。
──時間は、瞬く間に過ぎていった。
「もうこんな時間ですね」
「え? あ、いつの間に……」
涼河もついさっきまで気がつかなかった。
世界を照らしていたはずの太陽は、いつの間にか光の色を変え、空を赤く燃え上がらせている。
落ちていく太陽に変わって現れた月の輪郭は、間もなく夜がやってくることを人々に告げていた。
「しょうがないですね。今日は帰りましょう」
「今日も見つからなかったな……。残念」
二人は花探しを諦め、集落に戻るため歩き出した。
「今日はありがとう、涼河」
「僕は何もしてませんよ」
「……あのね……」
咲奈の声が僅かに小さくなる。
「私、正直不安だった」
「え?」
「涼河が、もう二度と来てくれないんじゃないかって」
咲奈の歩く速さが、心なしか遅いように感じた。
「あの時は流れで声をかけたけど、涼河からすれば私なんてよくわからない一般人だし、軍隊のお仕事も忙しいだろうし、なにより初対面であんなこと言われたら、おかしい人だと思われちゃうし……涼河は、どう思った?」
咲奈は視線を涼河に向け、不安そうに返事を待つ。
「……そうですね」
涼河はあの日を思い浮かべながら、ゆっくりと話し出した。
「確かに、初めは驚きました。いきなり友達になろうなんて、言われたことありませんでしたから」
「ううっ……やっぱり……」
咲奈は恥ずかしそうに肩をすくめる。
「──でも、嬉しかったです」
「……え?」
「僕、事情があってとある施設です育ったんです。そこにいた子供は僕と、今日話した人しかいなかったから、『友達』って呼べる人がいなかったんです」
圭佑と時雨は涼河にとって、『友達』というよりは『家族』といったいった方がしっくりくる。
だからこそ嬉しかったのだ。
初めて会った人から。自分を全く知らない人から。
友達になろうと、誘われたことが。
「ありがとうございます。こみ……咲奈さん」
「ぁ────」
涼河の言葉に、咲奈はぽかんと開けて固まった。
「──っ? 咲奈さん? どうしました?」
「…………よかった」
そう呟くと、咲奈は小さく笑いながら言った。
「一日目にしてすごい成長だね」
「あはは。これくらいなら、どうにかできました」
「さん が残っているところは嫌だけど、今はこれでいっか」
咲奈は納得すると同時に、二人は森を抜けた。
その夜、兵舎は涼河への尋問大会となり、時雨の口が止まることはなかった。
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