世界実験開始
第一章 その15
「約束してほしい。もうあんなことはしないって」
「…………悪かった。気をつける」
涼河は内心、時雨に感謝していた。
もしあの場にいたのが圭佑だけだったら、大惨事になっていたことだろう。
「……俺、訓練してくる」
「え?」
「別に弾ぶっ放したりはしないさ。体術のトレーニングだけ。それならいいだろ。じゃな」
そう言うと、圭佑はそのまま訓練場へと向かってしまった。
「どうしようか……」
恐らく圭佑は、自分への反省も込めて一人で向かったのだ。邪魔はできない。
だからといってもう兵舎に戻ってしまっては、時雨がまた怒り出すかもしれない。
どこかにないのものか。気まずくもなく、怒られもせず、それでいて楽しい。
そんな、休暇を過ごすにふさわしい場所は──、
「────あ」
その時、涼河はあることを思い出す。
『また、来てくれませんか?』
つい最近の出来事なのに、すっかり忘れていた。
圭佑でも時雨でもない、もう一人の友人との約束。
「……こういう日に行くものだよね」
まだ午前だ。今からでも遅くはない。
涼河は走った。
「全然顔出さないから、てっきり私のことは忘れ去られたのかと思ってた」
「すいません。任務がなかなか片付かなかったものですから」
「別に怒ってないわ。行きましょう」
集落に入ると、咲奈の家が入り口付近にあったのが幸いし、涼河はすぐに咲奈に会うことができた。
集落の人達も涼河を警戒する雰囲気はない。この様子なら、これからも気軽に訪れることができそうだ。
「あの、今日は何をするんですか?」
「涼河には、私の花探しを手伝ってもらおうと思ってるんだけど、嫌?」
「いえいえ! 了解しました!」
「…………」
「あ、あの……何か?」
涼河が答えると、咲奈は不機嫌そうに涼河を見つめ始めた。
「…………あのさ」
「は、はい」
すると突然、咲奈はずいっと顔を近づけて言った。
「何で敬語なの?」
「……え? そこ?」
「他にないでしょ。わたしが怒るところ」
「…………」
予想外の指摘に内心ほっとしたものの、涼河は反応できずに黙ってしまった。
その様子を見た咲奈は、大きくため息をついて続ける。
「私達って、友達でしょ?」
「も、もちろん」
「友達なら、敬語はやめようって言ったよね?」
「だ、だって……小峰さんの方が年上ですし……」
涼河が関わってきた人のほとんどは軍の人間。そして年上だ。
そんな環境で育ってくれば、誰しもおのずと話し言葉は敬語になっていく。
加えて、涼河は普通の兵士ではない。
戦闘用ミュータント・イシュタークだ。
日本参戦の経緯から、同年代の軍人とはろくな会話をしない。
敬語を使わなくても話せるのは、圭佑と時雨だけなのだ。
「年なんて関係ないわよ。友達なんだから」
「そう急に言われても、簡単に切り替えられるものじゃ……」
「はぁ……。わかった。慣れるまで待ってあげる」
「このままじゃいけませんか?」
「ダメ。早く普通に話せるようになって」
どうやら咲奈との付き合いも、簡単ではないようだ。
だが、
「はい……努力します」
「うんうん。それでよろしい」
得意げに話す咲奈の表情は、とても生き生きとしている。
青の双眸は太陽の光を反射、彼女の豊かな表情と相まって、まるで宝石のような輝きを放っていた。
──この光景が見られるのなら──。
涼河は肩を落としながらも、咲奈に敬語の克服を誓うのだった。
「…………悪かった。気をつける」
涼河は内心、時雨に感謝していた。
もしあの場にいたのが圭佑だけだったら、大惨事になっていたことだろう。
「……俺、訓練してくる」
「え?」
「別に弾ぶっ放したりはしないさ。体術のトレーニングだけ。それならいいだろ。じゃな」
そう言うと、圭佑はそのまま訓練場へと向かってしまった。
「どうしようか……」
恐らく圭佑は、自分への反省も込めて一人で向かったのだ。邪魔はできない。
だからといってもう兵舎に戻ってしまっては、時雨がまた怒り出すかもしれない。
どこかにないのものか。気まずくもなく、怒られもせず、それでいて楽しい。
そんな、休暇を過ごすにふさわしい場所は──、
「────あ」
その時、涼河はあることを思い出す。
『また、来てくれませんか?』
つい最近の出来事なのに、すっかり忘れていた。
圭佑でも時雨でもない、もう一人の友人との約束。
「……こういう日に行くものだよね」
まだ午前だ。今からでも遅くはない。
涼河は走った。
「全然顔出さないから、てっきり私のことは忘れ去られたのかと思ってた」
「すいません。任務がなかなか片付かなかったものですから」
「別に怒ってないわ。行きましょう」
集落に入ると、咲奈の家が入り口付近にあったのが幸いし、涼河はすぐに咲奈に会うことができた。
集落の人達も涼河を警戒する雰囲気はない。この様子なら、これからも気軽に訪れることができそうだ。
「あの、今日は何をするんですか?」
「涼河には、私の花探しを手伝ってもらおうと思ってるんだけど、嫌?」
「いえいえ! 了解しました!」
「…………」
「あ、あの……何か?」
涼河が答えると、咲奈は不機嫌そうに涼河を見つめ始めた。
「…………あのさ」
「は、はい」
すると突然、咲奈はずいっと顔を近づけて言った。
「何で敬語なの?」
「……え? そこ?」
「他にないでしょ。わたしが怒るところ」
「…………」
予想外の指摘に内心ほっとしたものの、涼河は反応できずに黙ってしまった。
その様子を見た咲奈は、大きくため息をついて続ける。
「私達って、友達でしょ?」
「も、もちろん」
「友達なら、敬語はやめようって言ったよね?」
「だ、だって……小峰さんの方が年上ですし……」
涼河が関わってきた人のほとんどは軍の人間。そして年上だ。
そんな環境で育ってくれば、誰しもおのずと話し言葉は敬語になっていく。
加えて、涼河は普通の兵士ではない。
戦闘用ミュータント・イシュタークだ。
日本参戦の経緯から、同年代の軍人とはろくな会話をしない。
敬語を使わなくても話せるのは、圭佑と時雨だけなのだ。
「年なんて関係ないわよ。友達なんだから」
「そう急に言われても、簡単に切り替えられるものじゃ……」
「はぁ……。わかった。慣れるまで待ってあげる」
「このままじゃいけませんか?」
「ダメ。早く普通に話せるようになって」
どうやら咲奈との付き合いも、簡単ではないようだ。
だが、
「はい……努力します」
「うんうん。それでよろしい」
得意げに話す咲奈の表情は、とても生き生きとしている。
青の双眸は太陽の光を反射、彼女の豊かな表情と相まって、まるで宝石のような輝きを放っていた。
──この光景が見られるのなら──。
涼河は肩を落としながらも、咲奈に敬語の克服を誓うのだった。
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