世界実験開始 

クロム

第一章 その11

「ああ、任務中に出会った人だよ。それより、西側にも残党はいなかったみたいだね」
「その話はもういい。彼女はさっき会ったばかりなの?」
「よくないよ。僕達の任務は残──」
「さっき会ったばかりなの?」
 涼河の正論を、時雨は問答無用とばかりに切り捨てる。
 何故だろう。なんだかすごく怒っているように見えるのだが。
「ええと、うん。さっき会ったばかりだけど」
「その割にはすごく打ち解けたみたいね」
「そう? 集落には年上の人が多いみたいだし、単に同年代だったから話しやすかっただけじゃないかな?」
「あの人、私達より年上だと思うけど」
「年上っていっても、一、二歳でしょ。それに同年代って言ったじゃないか」
「涼河って年上がいいんだ」
「そういうわけじゃないよ! てか、今そういう話だったっけ!?」
 どうも時雨の様子がおかしい。常に冷静で感情的にならないはずの時雨が、こんなにも不機嫌そうに話す姿を、涼河は初めて見た。
 そういえば。女性には定期的に心身が不安定になる時期があると聞いたことがある。
「時雨、もしかして……」
「何? 早く言ってよ」
「ええと……なんて言ったかな? あの症状……」
「涼河、それは言ったらダメなやつだ」
 涼河が悩んでいると、いつの間にか圭佑がこちらに来ていた。
「言ったらダメ? どういう意味?」
「今日の任務が終わったら教える。それまでは考えるな、いいな」
 圭佑の表情は、何故か切羽詰まっているように見える。
「何よ。男同士の秘密ってこと? もういい」
 業を煮やした時雨は、不機嫌なまま調査隊の方へ歩いて行ってしまった。
「何だったんだろう? 今のやりとり」
 涼河が首をかしげていると、圭佑が言った。
「……涼河は、もっと理解できるようになれよな」
「え?」
「そろそろ移動だ。行こうぜ」
 そう言い残すと、圭佑は先に歩いて行った。
「なんだよ。圭佑までよくわかんないこと言って」
「──あの」
 その時、涼河の背後からまた声が聞こえた。
「ああ、さっきの」
「ありがとうございました。軍人さんが見つけてくれなかったら、私死んだことになってたかもしれません」
「いえいえ、確認できてよかったです。それではこれで」
「あ! 待って下さい!」
 その場を離れようとした涼河を、彼女は強く引き止める。
「どうかしましたか?」
「あ、あの……」
 彼女は少し言葉を詰まらせながらも、涼河の目を見つめて言った。


「──また、来てくれませんか?」

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