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世界実験開始 

クロム

第一章 その7

 ──全ての始まりは、今から三十年前。
 世界一の超大国であるゲルニカ帝国が、イグザリオン国に宣戦布告したことにより始まった。
 理由は、イグザリオン国海軍が行なった、ゲルニカ帝国への領海侵入、及び戦略導入。
 これにより、ゲルニカ帝国を中心とする同盟国側と、イグザリオン国を中心とする共同国側に世界は分断され、現在まで続く世界大戦に突入したのだ。
 当初は、ゲルニカ帝国率いる同盟国軍の圧勝によって、数年で終わると予想されていた。
 だが共同国軍は予想外の粘りを見せ、決着は一向につくことはなかった。
 世界各地で激戦が繰り広げられ、多くの命が、その輝きを失っていった。
 世界大戦勃発から五年。ゲルニカ帝国はこの状況を打開するため、新兵器の開発に着手した。
 様々な新兵器案が出される中、ゲルニカ帝国が導き出した答えは──、


『人間の能力を圧倒的に凌駕する、新たな生命体』


──という、人類初の試みだった。
 そして四年の歳月をかけて生まれた、世界大戦を終結にさせる切り札となる兵器──。
 ──それこそが、戦闘用ミュータント、イシュタークである。
 だがゲルニカ帝国は、イシュタークを自国で製造しようとはしなかった。
 彼らはイシュターク製造技術を確立するため、莫大な国家予算を投入。
 それにより巨額の財政赤字を生み出し、国内での製造が不可能となってしまったのだ。
 そこで帝国政府は、味方国にこの技術を高額で売りつけ、自国の経済復興と、イシュタークの製造を同時に進める方針を打ち出す。
 そしてその矛先は、ゲルニカ帝国と長きに渡り同盟関係にあった、大日本皇国にも当然向けられた。
 そうして日本は、半ば強制的にイシュタークの製造に着手することになる。
 ──この行動が、日本を戦争の渦に巻き込んでしまう。
 共同国からすれば、ゲルニカ帝国から技術を買い、その製造を始めたということは、日本の同盟国としての参戦を意味する。
 結果として日本は、予期せぬ形で世界大戦に参加することになり、何の準備もできていなかった日本軍は各地で敗北。共同国軍の本土侵攻を許すことになった。
 ──日本が壊滅まで追い詰められた原因は、涼河達にあるのだ。


「──何も変わらなかったな……」
 静寂の中、涼河は兵舎のベッドの上で言葉を漏らした。
 時雨と圭佑の反応はない。暗すぎてわからないが、もう寝たのだろう。
 涼河は、自分の右手を天井に伸ばす。
 窓から差し込む月明かりはほんの僅かであったが、手のひらを照らし出すには十分な明るさだった。
「もし僕達が人間だったら……引き金でも、赦されたのかな……」
 ──勝てば、全て赦されると思っていた。
 涼河達の製造費のために大幅な増税がなされ、貧富の差が拡大したことも。
 家族を養うために多くの人が兵士に志願し、死んでいったことも。
 戦争の原因という、大罪からも。
「……どうすれば……」
 いくら勝利を重ねても、この罪からは逃れられない。 
 だが敵が攻めてくれば、涼河は国のためにその刃を振るわなければならない。
 ──赦されることはないと、わかっていながら。
 人を殺すことは、どんな理由があっても正義ではない。
 だが国を守らなければ、絶対に赦されることはない。
 守るためには、殺すしかない。
 人殺しは罪だ。
「────ぁ」


──罪は、決して消えない──。


涼河の心は、恐怖で張り裂けんばかりだった。

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