異世界クロスロード ゆっくり強く、逞しく

アナザー

53話 もう1人の自分

皆が待つ食堂に向かって歩いていた。
プレゼンの練習をしていた俺をマルチとミズキが呼びに来てくれて、食堂に向かって歩いていたはずだったんだが、、、

・女神さん
「お久しぶりですね。」

不意に現れた女神さん。
何だか懐かしい感じがするなぁ~。

・マルチ
「あなたは、、、、?
それにここはどこ?」

あれ、、、何故かマルチが居る。
いつもは俺と女神さんだけなんだけどな。

・女神さん
「こんにちは、マルチ。
かなり力を付けたのね、それにその腕輪。
ランバートに伝えてくれたのね。」

目を瞑り、祈るような仕草をする女神さん。
急に別の場所に飛ばされたマルチは混乱中である。
分かるよ、、俺もそうだったし。
そういえばあの黒龍もそのうち倒さねばだな。

・「ところで今日は何の用でしょうか?」

・女神さん
「言いにくいのだけど、、、
貴方が今から行う事を止めに来たの。」

思いもよらぬ一言が飛んできたよ。
今から行う事、、、、プレゼンの事か?

・女神さん
「そう、そのプレゼンを止めに来たのよ。」

さらっと心を読む女神さん。
恥ずかしいから辞めてほしい、、、

・マルチ
「貴方が誰か知らないけど、ライオットの邪魔はさせない。」

俺の前に躍り出て武器を取り出すマルチ。
勇ましくも美しい、、、
とか言ってる場合じゃないな。

・「大丈夫だよ、マルチ。
この人は敵じゃない、だから武器をしまって。」

俺の言葉で渋々武器をしまうマルチ。
いつもありがとう。

・「ここまでやって来て、『はいそうですか』とは言い辛いです。
もし良ければ理由を教えて頂けませんか?」

・女神さん
「そうね、詳しくは言えないけど少しなら。
このまま進めれば、確実に貴方が不幸になる。
苦しい思いをさせたくないの、、、
だから貴方を止めに来ました。」

ふわっとした答えが返ってきた、、、
例によって詳細は話せないんだな。
さて、どうするかな。

・マルチ
「貴方が誰なのか知らないけど、、、
ライオットが不幸になるのは嫌。
ねぇ、ライオット。この人の事を教えて!」

マルチが女神さんの事を聞いてくる。

・「女神さんは、俺をこの世界に呼んだ方だよ。
俺はこの方に連れられて此処に来たんだ。
後は、初代勇者が守ろうとしていた人でもあるかな。」

ザクっとした説明をした。
俺自身あまり知らないしね。
詳細は教えてくれないし。

・女神さん
「詳しく話せなくてごめんなさい。」

さらっと心を読んでくるし、、、

・マルチ
「ライオットをこの世界に呼んだ人、、、」

暫く考え込むマルチ。
そう言えば、今回はあまり焦ってないね女神さん?

・女神さん
「一部の封印が解けたので、私にも力が戻って来ました。前の様に焦る必要はないわ。
話せる内容に制限はあるけれど、ゆっくり話しましょう。」

心を読まれる事に慣れてきた自分が怖い、、、
読まれる前提で考えてしまったぞ。

・マルチ
「ライオットと私を合わせてくれた。
この人は良い人ね、理解した。」

マルチさんのシンキングタイムが終了。
何ともあっさりとした答えが出てきたな、、、
結局、女神さんは良い人って事で落ち着いた。

・マルチ
「良い人のあなたがライオットを止める、、、
此処で止めなければ本当に危険なの?」

・女神さん
「はい、かなりの確率でライオットさんが傷つく事になります。」

マルチは再び考える。
しかし、2人が話している姿を見てると驚くね。
だって、そっくりなんだもの。
色々とサイズは全然違うけどさ、、、

・女神さん
「、、、、、エッチ」

ボソッと変なこと言わないで!
別にそんなこと考えてませんから、、、多分。

・女神さん
「貴方の言いたい事は解ります。
ですが、今はまだ心に秘めて置いて下さい。
いずれ、解る時が来るでしょう。」

ここまで言われたら何となく理解した。
女神さんが言うのなら今ここで言う事も無いか。

・マルチ
「ねぇ、ライオット。
今回の事は辞めにしない?」

不意にマルチが動いた。

・「孤児救出作戦の事かい?」

・マルチ
「うん、そう。
確かに孤児を助けたい気持ちはある。
でも、私にとってライオットが一番なの。
誰に何と言われても良い、、、
貴方が苦しむ姿を見たくない。」

マルチが俺に優しく言い聞かせてくる。
何とも人間らしい言葉だ。
でも、それで良いと思うんだ。
綺麗事だけでは生きていけない。
その事は知っているから。

・「そうか、マルチも俺を止めてくれるんだね。
本当はここで辞めるのが正解なんだろうな。」

さて、どうしたものか、、、
俺的には別に辞めても良い。
だが、俺が辞めたらミズキは悲しむだろうな。
ミズキの悲しみと俺の苦しみを天秤にかける形か。

・女神さん
「天秤に掛けてしまいましたか、、、
貴方は優しい人、、、でも悲しい人。
もっと、自分を優先してもいいのですよ?
お願い、マルチ。
どうかライオットさんの傍に居てあげて。」

まぶしい光が辺りを包む。
その瞬間、マルチが俺に抱き着いて来た。
きっとビックリしたんだろうな、俺も最初はそうだったし。
そして、、、

~ライオット低・廊下~

・ミズキ
「どうしたの?ボーっとして。」

屋敷の廊下に戻って来た様だ。
マルチも居るな。

・マルチ
「この計画、ここで辞める事にします。」

俺より早くマルチが発言する。
それに対してミズキが反応。

・ミズキ
「何故?
急に言われても納得できません。
確かに2人に何かしらの違和感を感じました。
でも、それだけでは話にならない。」

うむ、ミズキさんの言う通りやね。
と言ってもどうやって説明する気なんだろう。

・マルチ
「このまま進めばライオットが苦しむことになる。
私はそれが嫌。」

マルチの発言にミズキが止まる。

・ミズキ
「『報・連・相』が必要と感じます。
マルチ、詳細を伝えてください。」

報告・相談・連絡の合言葉が出てきたよ。
ミズキさんの学習能力が素晴らしい。
よく覚えてたね?

・「ありがとうマルチ、でも俺は辞めないよ。」

・マルチ
「でも、このままじゃ、、、」

・「大丈夫、俺には沢山の仲間が居るから。
根拠はないけど、乗り越えて行けると信じてる。
それにさ、子供達を見殺しには出来ない。」

嬉しそうに俺を見るミズキ。
悲しそうに俺を見るマルチ。
対照的なのが印象的だった。

・マルチ
「あの人が、、、、、
あの人が貴方の事を『悲しい人』だと言った意味が分かった気がする。
分かった、私はライオットを支える。
常に傍に居るからね。」

優しく俺に抱き着くマルチ。
何が起こっているか解らず考え込むミズキ。
とりあえず、食堂に行こう、、、

~食堂にて~

俺はこっそりと中を確認してみる。

・セリス
「ここまでのメンバーが集まっているとは思わなかった。一体何が始まるんだ?」

特に詳細は伝えていない。
にもかかわらずここまで多くのメンバーが居る事に驚く一同。

ギルド代表
・セリス(ギルド長)
・サリーヌ(ギルド裁縫担当)
軍関係者
・バルドロスト(軍司令部補佐)
・リーシュ(特殊医療部隊 隊長)
貴族
・セント・カーティス(仲の良い貴族)
・セーラ・カーティス(セントの奥さん)
・ロイヤル・カインズ(5大貴族バーバラの父親)
一般市民
・ネネ(教会の神官)
・ド―ン(貧民街の武器屋)
・ロクロウ(王国隠密だが今回は市民として参加)
・ポンタ(同じく隠密だが市民として参加)

こんな感じのメンバーだ。

・セリス
「まさかあんたまで来てるとは思わなかったぞ、バルドロスト。」

懐かしの司令官殿まで来ていた。
オーク殲滅戦で居たなぁ~。

・バルドロスト
「ふん、オーランドの奴がうるさくてな。
貴様らが動く時は力になれと言うから来たまでだ。
だが、おかしな行動をすれば即刻逮捕するからな。
まったく、、国王様もなんで私にこんな事を。」

なんだかブツブツ言っている。
国王さんもまだ俺の事を信頼してるんだな。
待たせても仕方ないし、そろそろ行くか。
俺は深呼吸をしてみんなの前に出る。

・「お待たせしました。
この屋敷の主ライオットです。
この度はお集まり頂き誠にありがとうございます。」

・バルドロスト
「挨拶は良い、さっさと本題に入れ。
こう見えて私は忙しいんだ。」

忙しそうには見えないけどね。
焦らしてもしょうがないか、本題に入ろう、、、
自己紹介が終わったらね!

・「今回はイベントを企画しました。
皆様には是非、御協力をお願いしたくお呼びした次第でございます。
この企画は大規模になると思います。
なので、まずは自己紹介から。
私はライオット、冒険者です。
今回は、面白い企画を持ってまいりました。」

自己紹介が続く、、、、
新しい人の自己紹介をしっかり聞かなきゃな。

・金持ちそうな爺さん
「ロイヤル・カインズだ。
今回は鑑定が必要だと聞いてな。
珍しいものが見れるとセントに聞いた。
楽しみにしている。
以上だ。」

・ドーン
「貧民街で武器屋をやっているドーンだ。
今回は何で俺みたいな奴が呼ばれたか解らんが。
場違いな事だけは理解している。
厄介事はごめんだぜ?」

ふむふむ、ロイヤルさんにドーンさんね。
オーケー、なかなかのメンツですな。

・「では企画説明の前にこの服をご覧ください。」

マルチとミズキが用意しておいた『服』を全員に配る。ぞれぞれが配られた『服』を調べだす。

・サリーヌ
「あら、、、、似てるけど、この服って、、、」

・「行き渡りましたね?
では、服に魔力を少しだけ流してみてください。
あと、サリーヌさん。
今は何も言わずに従ってください。」

サリーヌさんに少し被り気味に俺が発言する。
あぶねぇ~、いきなり暴露される所だった、、、
気を付けねばな、、、

・ロイヤル
「ほほぅ、魔力に反応して光るのか、、、
虹糸の特性と魔法石のコーティングで可能にしているのか?
考えたな、魔法石にこの様な使い方があったとは。
今後の服業界に激震が走るかもしれんな。
製造技術は公表するのか?
ワシが買い取っても良いぞ?
ふふふ、ここに来た甲斐があったな。」

・セント
「ロイヤル殿が唸るほどの物か、、、
私にも一枚噛ませて頂きたいですな。」

良いね、良い反応だ。
貴族たちの反応が一番大切だからな。

・ドーン
「魔法石のコーティングとは、、、
武器にも応用出来ないだろうか、、、」

向こうでは武器屋魂が疼き出してるみたいだな。
よし、ここで掌握する。

・「新しく開発したコーティング技術です。
今回の企画に協力してくだされば技術提供も考えています。」

ざわつく食堂、もう一押しって所か?
いや、今はステイだな、、、、出方を見よう。

・ロイヤル
「ふむ、実に魅力的な提案だ。
だが、企画内容を聞いていない現状では返事は出来ないな、、、まずは企画を聞こうではないか。」

・「これから寒い季節がやってきます。
寒くなると気分が晴れませんよね?
ですので、この服を国民に配り国の雰囲気を明るくしたいのです。
雰囲気が明るくなれば経済も回るのではないでしょうか?」

・ロイヤル
「確かに一理ある。
しかし、それだけでは何も変わらんだろうな。
経済とはそんなに容易く動くものではない。
君の裁縫技術があれば別だろうがな。」

流石に容易く喰い付きはしないか、、、
ならば次の作戦だ。

・「そうですね、、、
対価を得るにはまず腹を割らなければ始まりませんしね。では企画についての詳細をお伝えします。」

俺は次の資料を配らせた。
アシスタントの2人は優秀だな。

・「服の配布は起爆剤です。
新しいコーティング技術、、、
その新しい風を国に吹かせることが目的です。
その風は他国に吹き乱れ、他国の資金を運んでくるでしょう。
『あの国にいれば『あの服』が貰えるかもしれない』そう思わせるのが今回の目的です。」

・ロイヤル
「初めから他国狙いの戦略か、、、
確かに、この服にはそれだけの価値があるだろう。
いや、この技術に価値があると言っておこう。
それで、その風とやらを吹かせた後はどうする?」

みんな服に見惚れている。
そして、他国という単語を聞いて発言をする事に戸惑っている様子だ。
この、ロイヤルと言う男以外は、、、
俺とロイヤルがお互いを見ながらニヤける。
駆け引き勝負だ。
どうやら、落とすべき人物はこの老人だ。
ここからは綺麗事など無しだ、欲望を刺激しろ。
無欲の相手に向き合う相手じゃない。
これは、ビジネスだ。

・「技術提供を餌に各国の技術者を勧誘します。
小出しにしながら相手側の技術を吸収していく。
こちらは出し惜しみをしながら、相手側の技術を吸い取る計画です。
最終的には技術提供をしますが、与えるのは表面的な物だけ、いつでもこちらのアドバンテージを確保する形を崩さないように、相手のマウントを取る姿勢で挑みます。
そして、技術が集中すれば商人も集まるでしょう。
ひと月単位で新アイテムの提供を行っていけば数年は丸儲けです。
新しい技術がドンドン開発されれば技術者は離れられなくなるでしょう。
服の次は武器。
更に高度なコーティングに挑戦していると情報を流せば、次は軍事が動き出すでしょう。
軍事が動けば国が動く。
これで、一大事業が完成すると言う訳です。
そしてそれが取っ掛かりです。
その後の展開は、、、、
っと、話過ぎましたね。」

さて、ここまでにしておこう。
どうだ、美味しそうな餌だろう?
まだ先があるんだぜ?
どう出る?ロイヤル爺さん。

・ロイヤル
「筋書きは素晴らしい、そして技術もある。
しかし、コーティングだけで軍事まで動かす事は出来るのか?」

喰い付いた!
ここだっ!
ここで奥の手を出す。

・「ロイヤル様、こちらを、、、」

俺はレプリカではない本物の『奇跡の服』を差し出す、しかも改良を施した本物以上の物だ。

・ロイヤル
「ん?この服はなんだ?
見た目は全く変わっていないが、、、?」

・「魔力を流してみてください。」

・ロイヤル
「こ、、、これは、、、、まさか、、、
魔法具なのか?
ダンジョンでしか入手できない筈だぞ。
しかもこの高品質、性能、、神器に近い、、、」

・「魔具生産技術と名づけました。
現在では工程が難しい為、私しか作れません。
また、そこまでの品質を造るにはそれなりの素材も必要です。
しかし、工程を理解できれば優秀な技術者なら作れるでしょう。
神器程度の性能の武具ならね。
それに、それなりの素材が必要なんです。
ならば、冒険者はどう動きますかね?
ギルドは?商人は?
独占したいであろう国は?
如何ですか?軍事は動きますかね?」

神器程度と言ったのは大きく見せるためだ。
実際にはそんなものは作れない。

・ロイヤル
「ふっふっふ、、、、
お前さん、、、若いのに大したもんだな。
神器程度と来たか。
実際に、そこまでの物は無理だろう?」

バレてたか♪
お互いに目を見て腹の探り合いをする。
そしてニヤける。
ロイヤルと俺がビジネスで語り合う。

・ロイヤル
「真実を混ぜつつ、メリットを大きく見せる。
デメリットを考えさせない程にたたみ掛ける誘導。
聞いている相手をいつの間にか自分の土俵に乗せて勝負する。
、、、、お主、どこで習った?」

・「そこまでの情報提供になると、かなり高くつきますよ?」

そして、2人は笑いだす、、、

最初の段階はクリアだ。
次はデメリットを交えつつ細かく決めていく。
他のメンバーはポカーンとしていた。
全員完全に飲まれていたんだ。

、、、、何故だろう
、、、ビジネスをしている時。
自分が自分では無いような感覚だった。
違うな、、、、
嫌いな人間を、、、
すぐ間近で、、、
見ている気分だったんだ。
 

~主な登場人物~
・ライオット(主人公)
動き出したビジネス。
その時、自分の中に蠢く何かに気付き始めた。

・マルチ(ライオット婦人の1人)
女神のフィールドに入れた人物。
傍に居て支えると決めたが、ライオットの事が心配で仕方ない。

・ミズキ(ライオット婦人の1人)
今回ライオットのアシスタントとして動いている。
自分の出来ない事をするライオットにうっとり中

・ロイヤル・カインズ
5大貴族バーバラ・カインズの父親
鑑定の能力を持ち経済活動に秀でている。
今は引退しているが、今回の事で血が騒ぎ始めた。

 

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