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ひと夏の思い出は線香花火のように儚いものでした

Raito

第9話:思い出

「あんた、なんでこんなに部屋汚いの!」


 母の怒鳴り声をまたもや聞くことになるとは…。
 俺は、ただただ何も言えず、俯いていた。


「夏休みなんだし、少しは掃除もしなよ」


「あーい」


「はい、でしょうが!」


「はい!」


 母の怒鳴り声に、俺は勢いよく返事をする。
 ドアがバタンと閉まり、ギシギシと音を立てて母が階段を下っていく。
 怒らせちゃったかなー。


「お兄ちゃん、私も手伝おうか?」


 明日香がドアの向こうから顔を覗かせる。


「俺だけの問題だ、お前は関係ない」


 俺はキッパリと言い切る。
 すると、明日香は散らかった本を一つ手に取った。


「見られたら不味いものでもあるの?」


「そそそ、そんなのあるわけないだろ!?」


「ベットの下とか…」


「や、やめろー!」


 すると、明日香はゴソゴソとベットの下をまさぐり出した!
 俺が必死に止めようとするも明日香は止まることはなく、やがて一冊の本を手に取った。


「お兄ちゃん、これって…」


「ほら、ただの女性週刊誌…!」


「だったらなんで取り上げようとするの!」


 明日香は週刊誌を開けて、パラパラとめくる。
 そして、どんどん顔が赤くなり、ひと言ぽつりと呟いた。


「お母さんには内緒にしてあげるけど、後で処分しておくから」


「は、はい…」


 それからはひたすら話しずらい空気だった。
 その沈黙をぶち破ったのは、インターホンと如月だった。


「おっはよー二人とも!なんかおばさん怒ってたけど、どうしたの?」


「あぁ、如月先輩。来てたんですか」


「ちゃんとインターホン鳴らしたよ?」


「それは分かってますけど…」


 何やら、明日香は煮え切らない様子だった。
 キッと如月を睨みつける。


「ど、どうかしたの?」


「なんでもないです!あとはお二人でお楽しみください!」


 女性週刊誌を勢いよく持ち上げ、ドアに向かってズカズカと歩いていく。
 バタン!と音を立てて、ドアが閉まる。
 俺と如月はキョトンとしていた。


「何かあったの?」


「知らない…」


 いや、なんでいきなり不機嫌になるんだよ、アイツ。
 昨日は何事も無かったのに…。


「で、何してるの?」


「見ての通り、片付けだよ」


「そっか、ちゃちゃっとやっちゃおー!」


「手伝ってくれるのか?」


「もちろん!彼女だもん!」


 そういうものなのか、彼女って。
 で、如月の手伝いのおかげで、直ぐに片付いた。


「ありがとな、如月」


「どういたしまして!それにしても、なかったね、あれ」


「あれって?」


「アルバムだよ!」


 あー、アルバムかー。
 確かに漫画とかだと、大掃除の最中にアルバム見つけて懐かしんでいるうちに時間が経って親から叱られるってのがよくあるけど…。
 どこにやったかな。


「俺は知らないから、多分母さんが持ってるだろ。あー、でも、秘密基地にはあったかな。『みんなの写真張りつけよー』って言って、一冊のアルバムに全部貼り付けたんだ」


「そうなの?」


「『みんなでまた今度掘ろう』って、タイムカプセルみたいに埋めたんだよ。如月がいなくなった後だけどな」


「ふーん、そうなんだー」


 俺達がそんなことをしていると、何やらメールが入った。


 ぱかりと携帯を開き、内容を見る。
 どうやら、都会の方では『すまーとふぉん』というのが流行ってるらしい。
 実際、如月が使っている。


「なんて?」


「おいきぃ、急いで秘密基地に向かうぞ!」


「何があったの!?」


 メールは卯月からのもので、『緊急事態発生、急いで秘密基地に来て』との事だ!


 そのメールは如月にも送られていたようだ。てか、いつの間にメアド交換したんだろう。
 それ以前に、小学生が携帯持ってることに俺は驚いている!


 俺達が急いで向かうと、明日香と真也、睦月と卯月、それに結弦まで居た。


「どうかしたのか?」


「まだ聞かされてない。全員揃ったら話すんだと。で?なんで俺達は呼び出されたんだ?緊急事態ってなんだ?」


「それは…」


 俺達はゴクリと唾を飲んだ。


「タイムカプセルの位置が分からなくなった」


『は?』


 俺達は完全に呆気に取られた。
 とんだ肩透かしだ。急いできたものの、しょうもなさすぎるだろ!


「帰ってもいいですか?」


「ダメ。みんなの思い出の品、今日掘り起こすもん」


「つまり、今日までにその場所を見つけないといけないと。でもなんで?」


「今日じゃなくてもいいんじゃないっスか?」


 卯月は、『それじゃダメ、今日じゃなきゃダメ』と言った。
 なんでそこまで今日にこだわるんだ?


「今日ってなんか特別な日だったか?」


「今日は、『霞ヶ原バスターズ』の設立日」


『なにそれ』


 俺らの声が完全にハモった。
 一方、卯月は信じられないとでも言わんばかりに驚いていた。


「もしかして、忘れた?」


「知らないな」


「知らないッスね」


「知りませんね」


「あー、そう言えば私が作った私たちのチームの名前がそんな感じだったかも」


 如月が作ったチーム…?
 俺は思考をめぐらせる。あー、なんか昔にそんな話題になった気が…。


「って、あれ小一の頃じゃないか!」


「うーん、そんなことがあった気も…」


 恐らく、戦隊モノとかにハマってたんだろう。
 て言うか、それって直訳すると、『霞ヶ原を退治する者』だぞ。


「お姉ちゃんに教えて貰った。『ここは霞ヶ原バスターズの本拠地なんだ』って」


「あー、そんなことも教えた気が…、あぁ、思い出しました!確かに今日は、『霞ヶ原バスターズ』の設立日です!」


 何基準で設立日が決まったのか忘れたけど、多分今日なのだろう。


 すると、何やら木の板の看板のようなものを卯月が持ってきた。


「これ、ちゃんと見て」


 そこには、汚い文字で『かすみがはらバスターズ』と書かれていた。


 そしてその下に設立日が書いてあり、確かにそれは今日を示していた。そして、年は今から十年前…。


 だからか。だからこいつは、俺たちにタイムカプセルを掘らせようとしてるのか。


「というわけで、みんなで宝の地図を探して」


「なんだよ、宝の地図って」


「書き置きがあった。多分この基地のどこかにある。だから探して」


 俺達は、特にやることもなかったためその他からの地図とヤラを探すことにした。
 ついでに基地の掃除も。


「屋根は案外丈夫なんだね、日が全く差し込んでないし、雨漏りもしなさそう」


「卯月の親父さんが大工もしてるからな」


「完全に順応してるね、引っ越してきたんでしょ?」


「まぁ、近所付き合いの一巻だとさ。前に聞いてみたけど」


 俺達はそう言いながら、ダンボールの中身を整理していた。


 出るわ出るわ、ガラクタの山。ひっくり返すと跳ねるやつ、階段を下っていくやつ、チョロQ、その他もろもろ。


 結局ハズレ。ガラクタを箱に仕舞い、ダンボールを隅に置く。


「あ!コレじゃないっスか!?」


「どうした?」


 俺達は結弦の元に駆け寄った。
 結弦は何やら藁半紙のようなものを手に取っている。


「うん、これ。見つけてくれてありがとう」


「どういたしましてっス」


「じゃ、掘りに行こ。スコップはそこにある」


 卯月は、大きめのスコップを基地の端から持ってきた。
 こんなのもあったな。


「じゃ、言うからその通りに動いて」


「おう!」


 真也がスコップを取り、意気揚々と言った。
 ついに、お宝発掘といくのだ。


「入口から右に三歩」


「右に三歩…と、次は?」


「左に二歩」


「戻ってるじゃないか」


「しー!」


 卯月は至って真剣な顔だ。
 恐らく、戻っているということに気がついてないのだろう。集中しすぎて。


「前に四歩」


「前に四歩…」


「その先の木の根元に埋まってる」


「ここか!」


 前に四歩進んだ意味はないと思う。が、言うのはやめておこう。


 掘ってみると、案外浅い位置に埋まっていた。
 そこには、少し大きめの箱があった。


 それを真也がこちらに運んでくる。


「これだな!よし、早速開けるぞ!」


 妙にテンションが高いな。
 パカッと箱を開けてみると、案の定中にはアルバムが入っていた。


「あ、これしーくんの!」


「可愛いですねー!この隣にいるのって、もしかして如月先輩?前から気になってたんですよ。この人誰なんだろうねーって。先輩に聞いても、もう出ていった人としか言わないし」


「そうだねー、小学校の入学式の時のやつだよー」


「恥ずかしいな…」


 見ると、手を繋いでいた。今でこそ付き合っているので別に恥ずかしくはないが、男女が手を繋ぐなんてあまりないからな。


 すると、今度は明日香の写真が目に入った。


「これはあーちゃんだねー」


「明日香ちゃん、可愛いっスね!」


「それは今は可愛くないって意味?」


「いやいや、この頃はなんというか、幼い感じの可愛さっスけど、今は綺麗な感じの可愛さっスよ!」


 明日香は「そ、そうかな…?」と口をごもらせた。
 お、いい感じの雰囲気じゃないか?


「睦月は…、今も昔も変わらないんだな。にしても、やっぱり都会って透けてる建物ばっかりなんだろ?これに写ってるみたいに」


「変わってます!それと、普通に透けてない建物もありますよ。開放感?を重視したんじゃないですか?」


 そうか、壁ばっかりだと気が滅入るもんな。
 こいつもたまには頭が回るんだな。


「失礼なこと考えました?」


「いや、考えてないぞ」


 もしやこいつがビー玉を?いや、さっきは覗いてなかったな。


「って!なんだよこれ、コスプレか?」


「コスプレじゃない、発表会だ!」


「わー、しーくん王子様だー、懐かしい!」


「木の役が良かったんだけど、それがなんか『木の王子様』で、なんか断るのが申し訳なくていやいややったっていう恥ずかしい記憶だよ」


「なんだよそれ、木の王子様って!」


「オリジナルだったからね、仕方ないよー」


 あの時はほんとに恥ずかしかった。
 なんか反響はあったらしいけど、当の本人が恥ずかしいんだからやめてもらいたい。


「あ、うーちゃん!これは…」


 何やら如月が、卯月の写真を見つけたらしい。
 お、これは発表会か。俺と同じだな。
 ただ、服装が…。


「バニーガールだな」


「バニーガールだね」


「バニーガールですね」


「違うもん…」


 露出度こそ高くないが、うさ耳と尻尾が着いてる。
 これは完全にバニーガールだ。


「卯月って名前だから、ウサギとカメのうさぎ役に選ばれただけだもん」


「名前で決まるんだな」


「確かに、卯月ってかけっこ中に寝たりしそうですよね」


「ぼーとしてるしな」


「寝ないもん…!」


 卯月がぽかぽかと睦月を殴った。
 と言っても、ダメージはないらしい。


「さてと、一通り見終わったし、この後どうする?」


「そう言えば、この『霞ヶ原バスターズ』のリーダーって、誰?」


「んー、しーくんでいいんじゃない?」


「俺!?どちらかと言えば、真也の方が合ってるんじゃないか?」


「いやいや、俺は頭悪いし、リーダーは頭いいやつがいいだろ?この中だと、明日香ちゃんが一番頭いいけど、やっぱり年上のやつがリーダーした方がいい。だからお前になるのが普通じゃないのか?」


「そこまで言うなら、やってみるか…」


 かくして、俺は『霞ヶ原バスターズ』のリーダーとなったのだった。


「よし、釣りでもどうだ?」


「うん、そうだね、行こう!」


「多めの釣りあげますよ!」


「釣竿はここにある」


「なんでもあるな…。しかも手入れしてあるし」


 俺達は川へ向かい、歩き始めた。
 山を下り、少しの道を歩けば直ぐに見えてくる。


「さ、始めるぞ。一番小さいやつ釣った奴が、一番大きいやつ釣った奴にジュース奢りな。制限時間は三十分!」


「上等だよー、腕はなまってないからねー!」


「それはどうでしょうね!」


 各々糸を垂らし、魚が食いつくのを待った。
 すると、初めにかかったのは…。


「お、来た!」


「しーくん!?」


 これはなかなかの大物だぞ!
 俺一人では釣り上げることも出来ずに如月と一緒に釣り上げた。


『デカッ!?』


 俺達が釣り上げたのは、大きなヤマメだった。


「ヤマメか!やるな、長門!」


「お、こっちにも来たっス!って、あだ!?」


「地球を釣りあげたんだね、凄いよ」


「そっスかね?凄いっスかね!?」


 皮肉なんだよなぁ…。
 明日香はプツンと途切れた糸を見詰めた。


「よし、ナマズ!」


「こっちはアマゴです!」


「ブラックバスだよ」


 一人でブラックバス釣り上げるとか結構力要るよな。
 流石は二つ上の男の先輩とビーチバレーで渡り合っただけはある。


「うーん、私はまだ釣れない…」


「これは勝負ありかもな」


「まだ、諦めない…!」


 卯月がそう言った瞬間、卯月の竿がグニョンと湾曲する!


「うわぁ!」


「卯月!」


 グイッと卯月が川に引き摺り込まれそうになるのを明日香が止める。そして、結弦と真也が合流し、大物を引き上げようとした。


 あとから俺達も混ざり、完全に大物対霞ヶ原バスターズの綱引きになっていた!


「ぐぬぬ、重い…」


「踏ん張れよお前ら!」


「もう踏ん張ってます!」


「これは長丁場になりそうっスよ!」


「卯月、頑張ってください…!」


「しーくん、もっと力込めて!」


「もうやってるっての!」


 つーか、これ網持ってきた方がいいんじゃないか!?


「俺、網持ってくるわ!」


「おう、頼んだぞ!」


 俺はガラクタの山の横に立てかけられた網を取り、川へ戻った。
 相変わらず、綱引きは続いていた。


「しーくん遅いよ!」


「飛ばしてきたっての!」


「いいから構えろ!一気に行くぞ!せーのっ!」


『うおりゃああああああああぁぁぁ!』


 ザパァーンっと音を立てて上がったのは、アオウオだった。


 最大1.6メートルを超える巨大魚である。
 俺は網を構え、何とか網の中にアオウオを収める。


 が、重さで再度川へ引きずり込まれそうになる。


「全く、長門は鍛えが足りないな!」


「ほんとっス!さっきは好き勝手暴れてくれたみたいっスけど、今度はそうは行かないっスよ!」


 真也と結弦がこちらに加わり、アオウオを引き上げ…、ようとしたところで、網の底が抜けた。


 バッシャーンと音を立てて、アオウオが落っこちる。
 俺達は水を被り、互いの顔を見合わせた。


「ぷふふ…」


「ぷふふふふ…」


「あははは…!」


『あはははははは!』


 俺達は盛大に笑い転げた。


「なんだよ、バッシャーンって!綺麗に落ちていったぞ!」


「底が抜けるとか、百均のやつでしょそれ!」


「デカすぎっスよ、あんなの見たことないっス!」


 水に濡れたことも気にせず、地面を転がり回った。


「引き分けだな」


「みんなで釣り上げましたからね」


「だねー」


 俺達は、そんなことを話しながら基地へ続く道を下った。

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