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ひと夏の思い出は線香花火のように儚いものでした

Raito

第2話:七夕祭

 俺達は、草の匂いと潮の香りが混ざり合う畦道を歩いた。
 所謂近道ってやつだ。


「あ、お兄ちゃんこっち向いてー」


「えっ?」


 振り向くと、明日香がすり寄ってきた。


「ハイチーズ」


 自撮りの体制で明日香が携帯のシャッターを切る。


「何だよ」


「記念撮影」


「しょうもないな」


 ほんと、何故写真なんて撮ったんだろう?
 こんな道端で撮ることもないのに。


「ねぇ、あーちゃん。なんで七夕祭なんて行こうと思ったの?」


「あーちゃんって…、気分転換ですよ、気分転換。頭ばかり働かせてると、疲れるんですよね」


「なんで敬語なの?タメ口でいいよ?」


「そうも行きません、上下関係厳しいんですから」


「そうなの?」


 確かに、中学生になってから妙に上下関係意識し出すよな。
 小学生の頃はタメ口だったのに、中学生になってから敬語なんてことはざらにあると思う。


 いつの間にやら、日はすっかり沈んでしまった。
 もう少しで会場だな。ちなみに毎年、公民館の近くの公園で開かれている。


「あ、蛍!」


 如月は溝の方に駆けて行った。


「危ないぞ、きぃ」


「うわぁ、久々に見たなぁ…、都会にはいなかったよ」


「そうなのか?」


「そうだよ、綺麗だなぁ…」


 如月はうっとりとした様子で蛍を見つめる。
 蛍に手を伸ばすと、指の先に留まった。


「ふふん、蛍のライト!」


「遠くまで見えそうですね」


 なんでこいつってこんなに無邪気なんだろう。
 蛍のライトなんて、遠くまで見えるはずないのに。


「あー、飛んで行っちゃった」


「気まぐれですね、虫って」


 なんかしんみりした空気になったな…。
 って、ん?なんかこっちに来る、走ってくる!猪か!?


「七宮先輩ー!」


「ぐはぁ!?」


 俺に駆け寄ってボディタックルしてきたのは…、中学生時代の後輩であり、明日香の同級生・白澤睦月しらさわむつきだった。髪は短髪、それを横で束ねている。
 そのまま、睦月に押し倒されるような形で、畦道に倒れ込む。


「七宮先輩、会いたかったです!あれから毎日あなたの家の周りをラフィーの散歩コースにしていたのになんで会えなかったんですか!?私、心配してたんですよ!?」


「ストーカー行為は辞めてくれ、あと放せ!」


 あー、インドア派でよかった。外に出てたらストーカーに襲われるところだった。
 あと、ラフィーはこいつの飼い犬だ。品種は確かポメラニアンだったか。


「大丈夫!?あとあなた誰!?」


「むー、あなたこそ誰ですか、美人局ですか?先輩には私という心に決めた人がいるので、諦めて帰ってください」


「つ、ツツモタセ!?」


 やばい、いくら温厚なこいつでもキレるか!?


「ツツモタセって何?」


 沈黙が辺りにたちこめ、カエルの声だけが反響する。
 こいつ、美人局も知らないのか?この歳になって!?


「美人局ってのは…、なんだろうな、あれだ。自分から言い寄って付き合わせたりして、その後男が出てきて慰謝料請求ってやつだ」


「んー?とにかく、酷いことなの?」


「酷い事に決まってるだろ」


「そうなんだー」


 そしてまたもや沈黙。


「え?」


「え?」


「怒らないのか?」


「何が?」


「いやだって、お前美人局って言われたんだぞ?」


「別に?ただの誤解だしー」


 後ろでは、明日香が睦月に事情を説明しているようだった。


「本当にすみません!」


「いやいや、誤解が解けたならいいよー」


 当の本人は全く気にしていない様子。
 心広すぎるだろ、こいつ!例えるならカスピ海ぐらいに広いぞ!


「お姉ちゃん、一人で走っていっちゃだめ」


「うひゃぁ、ミスディレクション!?」


 睦月の背後に現れたのは、睦月の妹・卯月うづきである。
 俺とは直接的な関わりはほとんどないが、何せ小さな街なので顔を合わせることはあった。
 確か今年で小六だったか。


「卯月、ごめんなさい。先輩を見たらつい…」


「お姉ちゃん、変なの」


「変じゃないです、脊髄反射です!」


「どんな脊髄反射だよ…」


 あれ?今思い返すと、ひとつ不可解なところがある。


「なぁ、睦月。お前、なんで俺のいる場所が分かったんだ?たまたまか?」


「いえいえ、情報を提供してもらったんですよ」


「情報?誰から?」


「明日香ちゃんからです」


 俺は、明日香を引き連れて皆から離れた位置で座り込んだ。


「どういう意味だ、明日香。あいつに何話した」


「話してないよ、ただ写真を送っただけ」


「送ってるじゃねぇか!」


「でも、ただのメールだよ?それに、道のど真ん中だったし」


 確かに、それだけでたどり着けるはずがないか。
 ならどうして…?


「ねぇ、どうやってここまで来たの?」


「ふふーん、知りたいですか?」


 なにやら自慢げに語り始めたため、耳を傾けてみよう。


「まずは明日香ちゃんから写真が送られました。そこで、明日香ちゃんの服装に注目。浴衣です。今日行われる祭りと言われれば七夕祭。さらに、背景にも注目。畦道です。そこから、七宮先輩の家の近くの畦道を絞り出し、さらに祭り会場に続く畦道を特定すると、ここにたどり着いたのです!」


「はぇー、凄いね」


「無駄なところだけ、長けてる」


「無駄じゃありません!」


 怖!こいつ怖!
 背筋が凍ったぞ、今!


「とにかく、今後ストーキング行為は辞めてくれ」


「メールアドレス交換してくれるなら考えてあげます」


「わかったよ、後でな」


「わーいです!」


 これでやめてくれればいいけどな。
 こいつも、ストーカー癖がなければ普通に好感が持てる。ストーカー癖がなければだけど。


「で?お前らも来るのか?」


「先輩と二人でですか!?」


「こいつら含めてだよ。あと、卯月も」


 睦月は「むー…」と少し考え込んでいたが、結論が出たようで、俺たちと一緒に行くことになった。


「ありがと、お姉ちゃんのこと許してくれて」


「ストーキング行為が終わってくれるなら安い代価だよ」


 その途中、何やら呼び方の話になり、最終的には『むーちゃん』『うーちゃん』に落ち着いた。
 相変わらず安直だ。


 俺達は七夕祭の会場に着いた。
 そこでは真也が待っていた。


「おーい、長門、如月さん!遅いぞ…って、なんか多くねぇか!?」


「あ、どうも、うるさ…じゃなかった、加賀先輩」


「あ、明日香ちゃん!?」


「いつも兄がお世話になってます」


「いや、とんでもないよ!ははは…」


 今完全にうるさい人って言いそうになったよな、明日香のやつ。
 にしても、やはり真也は明日香のことが好きなのか。声が上がり調子だ。


「あー、うるさい人!」


「誰がうるさい人だ、誰が!」


 あー、やっぱり始まったか。
 中学生の頃からこいつらはほんとに仲が悪かったからな。
 所謂いわゆる、犬猿の仲ってやつだ。


「あなたに言ってるんですよ、この脳筋ゴリラ!」


「はぁ!?ちんちくりんのくせして何言ってるんだ!」


「二人とも落ち着け、冷静になれ」


「落ち着いてられるか!(ますか!)」


 わー、息ぴったり。
 この二人、こういう所では息は合うんだよな。
 なんでだろう?


「落ち着かないとメアド教えないぞ」


「むー、致し方ないです…」


 何とか睦月を宥めることに成功。
 むーちゃんという呼び方、案外こいつに合ってるかもな。さっきからずっとむーむー言ってるし。


「なんでこいつがここに居るんだよ!」


「別にいいだろ、出くわしたんだよ」


「だからって、連れてくることはないだろ!?」


「じゃ、お前だけ一人でいるか?」


「一人は寂しいだろ!」


 うーん、たしかに。でも、去年もこの前も一人だったはずだが…、寂しかったんだな。
 でも、こいつらを一緒にしたらまた何かやらかすかもしれないし…。


「なら、お前ともう一人で廻ってこい」


「もう一人って?」


「明日香、真也と一緒に廻ってくれないか?」


「へ?別にいいけど…」


「との事だ、真也。どうする?」


「あ、あー、それなら仕方ないな!行こうか、明日香ちゃん!」


「あ、はい。加賀先輩」


 あー、こいつ舞い上がってるな。
 内心絶対に「よくやった、長門!」とか思ってそう。


「じゃ、何かあったら連絡してね、お兄ちゃん」


「おう、楽しんでこいよ」


 楽しむことなんてないけど。


 俺達は受付で短冊を貰い、各々の願い事を綴った。


 俺は『安定した生活を送れますように』だ。
 それさえ叶えば、他のことなんてほとんどどーでもいい。


「きぃ、なんて書いた?」


「ナイショだよー」


「教えてくれたっていいじゃないですかー!」


「お姉ちゃん、図々しい」


 つくづく思う、こいつら精神年齢的には逆転してるんじゃないだろうか。
 明らかに睦月の方が騒がしいし、卯月の方が静かで大人びた印象だし、それにしっかりしている。


 各々、書いた短冊を笹まで掛けに行く。
 その前で、如月が立ち止まる。


「どした、きぃ?」


「いや、なんでもない!」


 そう言うときぃは俺に願い事が見えないように裏返して笹に括り付ける。
 そこまで見られたくないのだろうか?


「さぁ、屋台巡りですよ、先輩!目指せ全制覇です!」


「俺はいい」


「そうですか?残念です…」


「やけに素直だな」


「しつこい女は嫌われます!なので、あっさり系後輩でいこうと思います!」


「なんだよそれ…」


 睦月は『しばしの別れですー!』とだけ言って卯月を引連れ屋台の方に行った。
 卯月も大変だな、振り回されて。
 いや、しつこいしつこくない以前にストーカー癖をなんとかして欲しい。


「ねぇ、ちょっと星見たくなったんだけど」


「なんでだ?」


「七夕でしょ?今日は晴れてるし、天の川が見えるかも」


「それもそうだな」


 明日香にメールすると、『デート、楽しんできて』と返ってきた。
 あいつ、何勘違いしてるんだろう。


 俺は、持っていた懐中電灯を取り出し、足元を照らす。
 向かったのは、少し小高い山の上にある秘密基地。確か今は、卯月が気分転換にやってきているのだとか。


「はぁ、だいぶんオンボロだね」


「まぁな。で、本題はこっちだ」


 秘密基地を通り過ぎ、小道に入る。
 そこを少し進むと、視界が開けてくる。


「そうだ、目を瞑ってろ」


「で、でも、まだ着いてないんだよね!?」


「大丈夫、ほら、手を引いてやるから」


「そ、そう?」


 恐る恐る差し伸べられた手は、少し震えていた。
 怖いんだろうか。


 やがて、目的地に着いた。


「よし、もう目開けていいぞ」


 俺が合図すると、如月は恐る恐る目を開け、そして見張った。


「どうだ、今年は結構はっきり見えるからな」


「すっごい…」


 広がっていたのは、無数の星が浮かんだ夜空だ。
 手を口に当て、言葉を失っている如月を横目に、俺は草原に寝転がって星を見上げた。


「お前もどうだ?」


「浴衣、汚れちゃうよ」


「そっか、でも腰くらいは下ろしたらいいんじゃないか?立ってばっかりじゃ疲れるだろ」


「そうだね」


 ゆっくりと腰を下ろし、空を見つめる如月。
 こんな日が来るなんて、思いもしなかったよな。


「ねぇ、私の願い事、知りたい?」


「知りたいって言ったら?」


「教えてあげるよ」


「別にって言ったら?」


「別にどっちでもいいなら教えてあげるよ」


 どっちにしろ教えてくれるのな。
 さっきの「ナイショ」はどうしたのやら。


「知りたい」


「私の願い事はね…」


 立ち上がって振り返り、彼女は笑顔でこう言った。


「『皆と一緒に居たい』だよ!しーくんもかーくんも、あーちゃんもむーちゃんもうーちゃんも、みんなで!」


「それが私の願い事!」と言って、如月は笑った。


「なんだよそれ」


 俺は思わず笑ってしまった。
 俺や明日香はともかく、今日会ったばかりのやつらと一緒に居たいって。


「叶うといいな」


「うん、叶って欲しい」


 俺は、分かっていなかった。この願い事の、ホントの意味を。


「あ、あれが天の川だよね!?」


「そうだな、そんでもって、あれが織姫、彦星だ」


「綺麗だね!」


「そうだな」


「さっきからそればっかり」


「別にいいだろ」


 すると、背後から声が聞こえてきた。
 そこに居たのは、真也たちだった。


「なんで付いてくるんだよ!」


「そっちこそです!」


「俺は明日香ちゃんに『二人が星を見に行くらしいから、私達も行きましょう』って誘われたから来たんだよ!」


「私は七宮先輩が心配になってきたんです、明日香ちゃんからメールが入って!」


「二人とも落ち着いて…、あ、お兄ちゃん」


 なんでこいつらがここに居るんだろう。
 別にやましいって訳じゃないが、静かに星を見ていた雰囲気をぶち壊すのは頂けない。


「先輩、大丈夫ですか?怪我とかありませんか?こんな時間に山に入ったら危ないですよ!」


「お前は俺の母親か」


「恋人兼花嫁候補です!」


「全くもって違うだろ」


 ブレないな、こいつ。
 何故こんなことになったかは…、また今度話すか。


「それにしても綺麗ですね、加賀先輩」


「き、君の方が…、やっぱりなんでもない!」


「何か言いました?」


 明日香が不思議そうに首を傾げる。
 真也のやつ、『君の方が綺麗だよ』とか言おうと思ったけど恥ずかしくて言えなかったのか。


「おばあちゃんがスイカ冷えてるって言ってた。みんなで行こ?」


「そうだな、如月もどうだ?」


「行ってもいいの?」


「当たり前、如月さん、行こ?」


「うん!」


 卯月に誘われ、如月は笑顔で答えた。

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