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ひと夏の思い出は線香花火のように儚いものでした

Raito

第4話:ビー玉

「せんぱーい!迎えに上がりました!」


 インターホンを連打しながら大声で叫んだのは睦月である。
 家の中でも聞こえるほどの音量で叫ばれると迷惑なのだけど…。


「やめろ、インターホン連打はやめろ!」


「じゃあ、出てきて下さい」


「今行くから!母さんも迷惑してるから!」


 朝からの騒音に耐えかねた母さんは引きつった笑顔を浮かべている。


「ねぇ、随分と賑やかな子だね…」


「じゃ、行ってくる!」


 俺は勢いよく飛び出し、睦月の手を掴む。


「出てきたから、辞めてくれ…」


 睦月は指を引っ込め、俺に向き合って笑顔でこう言った。


「約束、守ってくださいね、先輩!」


 こいつの変な声も聞こえるのか?もしかしたら、ビー玉を覗くと聞こえるのかもしれない。
 俺はそんな睦月をビー玉を通して覗き込む。


「どうかしました?」


『先輩は今日もカッコイイなぁ』


 ブレないな、こいつ。
 にしても、やはりどこか変な声だな。


『にしても、昨日はあんなこと言っちゃったけど、加賀先輩気にしてないかな。あの人のこと、今更好きだなんて言えないし、それなら七宮先輩で我慢しようって思ったのに…。あぁ、あの時強がってなかったら…』


「お前、実は俺の事そんなに好きじゃないだろ」


「へぇ!?そんなことないですよ!」


「俺なんて、真也の代わりだろ」


「へ、へぇ、面白い冗談ですね」


「嘘つくな、お前が言ったんだろ?」


 全く、何バレバレの嘘ついてるんだ、こいつ。自分が発言したことすら覚えてないのだろうか。


 あっ、別に俺は真也の代わりとしか思われてなくても、別にいい。


「なんにも言ってないです!もう、行きますよ!」


『なんでバレたんだろう、怖いな…』


 俺はため息をつき、睦月の後ろを追いかけた。
 さて、俺達がしばらく坂を下ると、如月の姿があった。


「おっはようございまーす、如月先輩!」


「おはよう、二人とも。にしても、なんで二人一緒なの?」


「今日から一緒に登校することになりました、先輩も、よろしくお願いしますね」


「うん、よろしくー」


 俺は、如月をビー玉越しに覗いた。


『私はしーくんと二人きりが良かったんだけどな…』


「別にいいだろ?ここからまた真也が増えるんだし」


「何言ってるの、しーくん?」


「何って…」


「先輩、まだ寝ぼけてるんじゃないですか?」


『変だな、今日の七宮先輩。にしても、加賀先輩が来るの!?やばい、ちょー嬉しい!』


 俺はビー玉をポケットに入れ、俺達は通学路を下った。


 なんなんだろう、俺からすればこいつらの方がおかしいと思うけど。
 それに二人きりがいいって…、どういうことだ?


「よー、如月さん、長門!あと、なんでお前はここにいる!?」


「それはこちらのセリフです!」


『ちょ、なんでここに睦月ちゃんが!?あぁもう可愛い!俺はただ、この子と仲良くなりたい一心で明日香ちゃんと関わりを持とうとしただけなのに、なんでこの子はトゲのあることばかり言ってくるんだろう?売り言葉に買い言葉で俺も言っちゃってるけど、仲良くしたい…』


『あぁ、今日もかっこいいなぁ、加賀先輩。その胸の中に飛び込みたい!昨日のだって、もしかしたら加賀先輩がいるかもって思って行ったんだから』


 やはり、自転車を運転している間は何も変なことは聞こえてこなかったのに、ビー玉を覗くと聞こえてくる。
 これは…もしかして?


「なぁ、これ持って覗き込んで見てくれ」


「なんだこれ、ビー玉か?」


「なんも聞こえないか?変な声とか」


「変な声?何言ってんだお前」


『このビー玉で足滑らせて、頭でも打ったのかな、長門のやつ』


 学校へやってきて、真也にこのビー玉を見詰めさせても何の成果も得られなかった。


 分かったのは普通のビー玉だってことか。
 でも、俺がビー玉を覗き込むと、また声が聞こえた。


「ビー玉で転んだのはきぃだよ」


「…なんでお前俺の言いたいことわかったんだ?」


「えっ?」


 今こいつ、なんて言った?
 言いたいことがわかった?


 昨日、明日香も『読心術に目覚めた』とか言ってたし、つまり…。


「俺、このビー玉を媒体として他人の心を読めるようになったかも…」


 真也はキョトンとして、それから五秒後くらいで笑い転げ始めた。
 信じてないな、こいつ。


「ウィザードの次は超能力者かよ、読心術なんてあるはずないって!」


「なら証拠見せてやる。なんか思い浮かべろ、なんでもいい」


「分かったよ、このクイズに正解出来たら読心術使えるって認めてやるよ。この紙に書くからな、証拠として」


「分かった」


 真也は紙に文字を書き込み、それを俺に見えないようにする。


「よし、準備出来たぞ」


 真也の合図で俺はビー玉を覗き込む。
 真也の考えていること(?)は…。


『バルサミコ酢』


「バルサミコ酢」


「なんでわかった!」


 俺が紙を受け取ると、そこにはバルサミコ酢と書いてあった。


「信じてもらえたか?」


「あぁ、信じるよ。こんなの、細工しようがない」


「じゃ、話変えるけどさ、なんでお前は告らないんだ?」


 真也は「誰にだよ」と言った。


「睦月にだ」


「はぁ!?あんなちんちくりんに?この俺が?お前、どうかしてるんじゃ…」


 どんどんと声が小さくなっていく。
 どうやら、心を見透かされていることを思い出したようだ。


「知ってるのか?」


「とっとと告れ。あいつの俺への異様な執着も、全部はお前と関わりを持つためなんだよ。お前のそれと同じようにな。花嫁候補とか言ってたのも、お前の気を引くためだろう。メアドの件もな」


「分かった、今度会ったらちゃんと伝える」


 あくまで考察だけど、個人的には理にかなってると思う。


 さて、問題は明日香だ。昨日は何やら明日香が変態発言を連呼していたように思えたが、あれが心の声だとするなら、俺の妹はとんでもなく変態なことになる。
 残り湯がどうとか言ってたんだぞ?添い寝したいとも。


「かーくん、しーくん、どうかしたの?」


「こいつすげーよ!読心術に使えるようになったんだってよ!」


「へ?何言ってんのかーくん」


『読心術なんてあるわけない』


 信じないのも当たり前か。
 さっきのだって、偶然で片付けられるしな。


「ねぇ、しーくん。ほんとに使えるなら証拠見せてよ」


「分かった、どうすればいい?」


「私の下着の色当ててよ」


「はぁ!?」


 なんなんだ、こいつ!?急に変態に目覚めたのか!?


「き、如月さん、何言ってんの!?」


「別にいいでしょ?どーせ分からないんだから」


『白と黒のチェック』


「白と黒のチェック」


 その瞬間、きぃの顔がどんどんと赤みを帯びているのを感じた。
 図星かよ。


「しーくん、その能力、悪用しないでね?」


「しねーよ!」


「あはは、こいつはそんな度胸あるやつじゃねぇって!」


「それもそうだね」


「納得するな!」


 でもなんで、俺にこんなチカラが?
 特にトリガーとなるような事はしてないけど…。


 あ、そうだ、結弦のやつに頼まれたんだった。


「なぁ、コイツ知ってるか?」


「んー、知らないなぁ…」


「結弦じゃねぇか、どうしたんだ、そんな写真?」


「いや、なんか昔お前に助けられたらしいんだが…」


 如月はしばらく考えたが、「やっぱり覚えてないや」と言った。
 まぁ、当たり前と言われればあたりまえか。
 ドンマイ、結弦。


「でさ、それがあったら嘘が見抜けるんだよね?」


「あ、あぁ」


「ダメだよ、このままじゃ、人の言ったこと信じ込んじゃうかもしれないよ?」


「そんなこと、ないと思うけどな…」


「だからさ、これから私が毎日一つだけ嘘をついたメールを送ってあげるよ」


「はぁ?何言ってんだ、きぃ」


 こいつの言っている意味がわからない。どうやら、覗き込まない限り心の声は聞こえないし、そもそもそれで人を疑うという行為自体を放棄することはないと思う。


「だからメアド教えて!」


「ちょ、ちょっと待て、お前の意図がわからない!」


 俺がビー玉を覗こうとすると、それを如月が止めた。


「そうやって、すぐにそれに頼ろうとする。ダメだよ?少しは自分で考えないと」


 続けて如月は、「何考えてるか分からないのも、人間の面白いところだからさ!」と言った。


 たしかに、さっき俺はこいつの気持ちを考えようともせず、ビー玉を覗き込もうとした。
 自ら思考することを放棄したのだ。


「分かった、どこぞの後輩みたいに何回も電話かけてくるとかはやめろよ?」


「電話番号も聞こうか?」


「別にいいけどさ」


 俺は如月のメアドと電話番号を手に入れた。
 別に大して嬉しくはないが、何だか満足感があった。


 如月と関わりを持てている、それだけで十分な気がした。


 さて、時は飛んで帰り道。
 俺の家の前に差し掛かると、そこには睦月が居た。


「先輩、お話良いですか?」


「何だよ」


「さっき、帰る途中に加賀先輩に謝られました。それで、付き合ってくれとも言われました。何だか、いきなりのことで…、その、『少し時間を下さい』とだけ言ったんですけど…」


 ほんとに加賀がそんなことを言ったのか?
 俺は自分のポケットをまさぐり、ビー玉を取り出そうとしたが、ふと手を止めた。


 ダメだ、ビー玉に依存してしまっては。自分で考えないと。


「付き合えばいいじゃないか。そのための布石だろ?」


「…やっぱり、バレてたんですね。加賀先輩から聞いたんですよ。『なんか長門のやつが読心術使えるようになった』って。半信半疑でしたが、ホントだったんですね」


 真也のやつ、こいつに話したのか。
 別にいいけどさ。


「本当に、すいませんでした…」


「なぜ謝るんだ?」


「だって、私は加賀先輩と付き合うためにあなたに近ずいたんですよ!?利用しようとしたんですよ!?」


「俺は別に気にしてない。でも、ストーキング行為だけはやめとけよ?人間誰でもそういうのは嫌いだから」


「はい、すみません…」


 睦月はしゅんとした顔で俯く。
 随分反省してるらしい。


「…あ、あの!」


 急に睦月が声を張り上げる。
 少しびっくりしたが、平常心を装い、睦月の方に向き直る。


「どうした?」


「えっと、七宮先輩!私と友達になってくれませんか!?」


「何言ってるんだ、お前」


「…そうですよね、自分を布石にしていた相手と友達になんて…」


「もう友達だろ?」


 それ以前にこいつは俺の後輩だけど、今はそうじゃない。
 俺は一個人として、こいつの友達である。


「先輩…」


「どうした?」


「心に決めた人がいなければ、私、さっき先輩のこと好きになってたかも知れません」


「それは残念だな、全く、こんなに可愛い彼女が出来るなんて、羨ましい限りだよ、真也のやつ」


 睦月は、「そんなこと思ってくれてたんですか!?」と笑った。


 少しメンヘラな所はあるが、それを含めて可愛いと思える。
 これはあれか、隣の芝生は青く見えるってやつか。


「分かりました、では『友達』から『親友』にクラスアップです!」


「ありがたいな」


「では、私はそろそろ帰ります。さよならです、七宮…じゃなくて、長門先輩!」


「おう、気をつけてな」


 俺は去って行く睦月を見送った。
 もう五時か、早く家に入ろう。


「おかえり、お兄ちゃん。今日は変じゃないよね」


「あ、あぁ、昨日は疲れていたみたいだ」


 昨日こいつの心の声を聞いて以来、俺のこいつへの認識は激変した。
『物静かな妹』から『とんでもなくブラコンな妹』へ。
 だって、残り湯がどうとか言ってたんだぞ?


「…どうかした?」


「いや、なんでもない!」


 俺は自分の部屋に戻った。
 なんか気まずい。そりゃそうだ、一気に俺の中の明日香の株価が世界恐慌に陥ったのだから。


 ふと携帯を見ると、メールが一通届いている。


 案の定、差出人は如月だった。
 内容は…。


『今日の夕食はカレーでした』


 ふざけんなよ!
 何?これってただただ今日のご飯はカレーじゃなかったって話!?
 俺は、メールに返信した。


『今日の夕食はカレーじゃなかったんだろ?』


 すると、数分後、返事が返ってきた。
 内容は…。


『まだ食べてない』


 …なんだろう、このしてやられた感。
 そして、立て続けに次のようなメールが。


『解答権は一回だけ』


『また明日も挑戦してねー☆』


「明日もあるのかよ…」


 まぁ、暇つぶしくらいにはなるか。
 携帯をビー玉で覗くと真実が聞こえるのかと気になるが、目が悪くなりそうなので辞めておく。


「これからはあまり使わないようにするか」


 他人の心が読めるなんて、つまらないことだ。
「何を考えてるか分からないのが面白い」的なことを如月も言ってたし、その通りだと思う。


「お兄ちゃん、ご飯できたよ」


「あぁ、そうか」


 昨日のことは忘れよう。
 こいつのことも…。ごめん、印象的すぎて忘れられそうにない!


「なぁ、お前さ、今俺がなんでも一つ願いを聞く言ったら、何させる?」


「え、いきなり何!?そうだな…メロンパン買ってきてもらう」


 というのは建前で、本音は『お兄ちゃんに抱っこしてもらいたい』とか、『お兄ちゃんに添い寝して欲しい』とか、その他過激なものエトセトラなんだろうな。


 いや、ダメだ。まだ本心がそうとは限らない。
 ほんとにメロンパンが食べたいだけかもしれない。


「とにかく、早く来てよ!」


 明日香は少し怒ったような表情をして去った。
 じゃ、俺も夕飯を食べに行くか。


 夕飯を食べ終わり、部屋に戻って宿題をしていると、睦月から電話がかかってきた。


「もしもし、なんか用か?」


『先輩、やりました!お付き合い成立です!先輩の家まで行って、お返事をしてきました!』


「良かったじゃないか」


『これから毎日会いに来てくれるそうです!』


 気合入ってるな、真也のやつ。
 まぁ、初めて恋人ができて舞い上がってるんだろう。


「ところで、住所知ってたのか」


『はい、真也先輩の生年月日からプロフィール、お風呂で体のどこから洗い始めるかまで把握してます!』


「なんでそんなこと知ってんだよ…」


『世の中、知らなくてもいいこともあるんですよ』


 こいつのストーカー癖は治せそうにないな、もう諦めるか。
 あとは真也に任せるとしよう。


「じゃ、もう切るぞ」


『あ、はい、おやすみなさいです!』


 俺は電話を切り、再度机に向かった。
 すると、今度は真也から電話がかかってきた。


『長門、聞いてくれ!俺ついに彼女ができたんだ!』


「知ってる、知ってる。今現在その彼女から連絡があった」


『なんでお前が連絡取れるんだ?』


「昨日交換したんだよ、メアドと電話番号」


『ふ、ふーん、そうなのかー』


 なんか、少し不機嫌になってる?


「いや、ただメアドと電話番号交換しただけだから。別に盗ろうとは思ってないから!」


『ホントか?睦月ちゃん可愛いから、つい手を出しちゃうのも仕方ないけどさ…』


「ノロケなら他所でやれ」


『ごめんごめん、少しからかっただけじゃないか、そう怒るな。男の嫉妬は醜いぞ?』


 ウザすぎだろ、ぶん殴りたいこいつ!
 今すぐあいつの家にドロップキックで窓かち割って突入したいが、その気持ちを何とか抑える。


『あ、それと…』


「なんだ?」


『来る途中、睦月ちゃんが結弦に会ったって言ってたぞ。なんでも、如月さんの家を探してるんだと。なんの真似だろうな』


「あいつは如月のことが好きなんだよ」


 しばしの沈黙。
 なんか昨日も同じような事があった気がするけど、やはりあいつら似てるな。


 きっと次とる行動は…。


『マジで!?お前まずいって!如月さんのこと取られちまうぞ!?』


「取られるかよ」


『女ってのはすぐコロッと変わっちまうものだぜ?』


「お前に言われても説得力がないよ」


 恋愛経験もない…、いや、告白されて一日も経ってないくせに。


「それで?教えたのか?」


『いや、「昨日の今日で知り合った人の家なんて知らない」って断ったらしい』


「そりゃそうか…」


『睦月ちゃんに感謝しろよ?本当は知ってたらしいから』


「あいつ土地勘はあるからな」


 さっき俺が肯定したのは、普通の人ならの話だ。
 あいつは、ストーカー癖もあるが、とんでもない土地勘の持ち主である。


 一時は、『迷子になれば睦月を探せ』なんて言われるほどだった。


「それだけか?」


『あぁ、お前も俺と同じように幸せになれよ?』


「誰とだよ」


『如月さんと!』


 プツンッと通話が途切れる。
 俺と如月が幸せに?イメージがわかないな。


「お兄ちゃん、風呂入った?」


「まだだけど?」


「早く入ってよ、私も入りたいんだから」


「だったら先に入れよ」


「暖かいうちに入って欲しいの、お兄ちゃん冷え性だから!」


 別に俺は冷え性じゃない。つまり、こいつは俺が入った後に入りたいから適当言ってるんだ。


 どーせ俺の入った残り湯を堪能する気なんだろう。自分で言うのもなんだけど。
 そもそも自分の体のことは自分が一番よく知っているはずだけど。


「分かった、入るよ」


「ゆっくり浸かってね?」


「ゆっくり出汁を取られてこいと」


「ち、違うから!」


 俺はまたもや明日香を怒らせてしまった。
「知らない方が幸せなこともある」とはよく言ったものだ。ほんとにその通りだ。


 知らなければ、妹の株価がこんなになることはなかった。


 でも、弁解できるのなら俺のおかげで一つの恋が実ったとも言える。
 言い訳にしか聞こえないか。


「どーするべきだろ、俺」


 俺はまたもや風呂場で頭を抱えていた。

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