白昼夢さんはそばに居たい

Raito

第十五話:初恋少女は夢を見る

 楽しかった。
 あんたと時間を過ごせて、あんたと遊べて。
 夢みたいに思えていた。


 あの日、あんたと再会した時から、今まで。
 本当に、楽しかった。


 だから、関係が変わるのが怖かった。
 打ち明けなければ、この気持ちを届けなければ、変わらない。
 そう信じてた。ずっと、あのままで居たかったのに。


 なのにさ…。


 なんで?
 なんで打ち明ける前に変わっちゃったの?


 …違う。
 変わっちゃったんじゃない。
 それが普通なんだ。
 変われなかっただけなんだ…。
 私が。


 今更、打ち明けたって遅かった。
 ただ虚しくなるだけ。
 そう思っていた。


 …でもさ。
 現実は、私が考えていたより優しかった。


 あんたが一日だけ恋人をしてくれた時、私はこの世で一番幸せだった。
 この世で一番、あんたのことを愛しく思ってた。
 他の誰が何と言おうと、その事実は変わらない。
 一番近くで、一番あんたの優しさを感じられたから。
 それだけで満足だよ。


 たった一日だけだとしても。
 たとえその優しさが嘘だとしても。
 私はあんたの恋人だったんだって、胸を張って言える。
 一日だけだって、恋人だったってことは変わらないでしょ?


 そして、これからだって。
 私はあんたを愛する。
 それがたとえ無駄だとしても。
 魚住さんに負けないくらいに、あんたを愛してやる。


 スキャンダル報道されたって、世間から馬鹿にされたっていい。
 だってさ…。


 私は、あんたの事が大好きだから。


 あの頃の夢を見た。
 めちゃくちゃな歌詞の歌を、素っ頓狂なメロディに乗せて歌ったあの頃。
 甘くて、甘酸っぱい私の初恋。
 そんな私が、遠くで幼い頃の奏多と居た。


 ゴメンね。
 あなたの願いは、叶えられなかった。
 私が、臆病で意地っ張りなばっかりに…。
 もう、何もかも遅かったんだ。
 気がついた時には。


 ゴメンね、ゴメンね…。
 あれ、何でかな?


 夢の中のはずなのに、涙が、止まらないや。


「あんた、何泣いてんのよ」


「泣いてない…」


 嘘だ。
 もう顔も膨れ上がって、声だって上手く出せない。


「みっともないわね」


「ほっといてよ」


「ほっとけないわよ、自分のことなんだから」


 私は、ハッとなって顔を上げる。
 そこには、小さい頃の私が立っていた。


「やっぱり泣いてるじゃない」


「…あんた、私を責めに来たわけ?」


 そうだ、きっとそうなんだ。
 自分の初恋が叶わなかったのは、私のせいだって、攻めに来たんだ。


「違うわよ」


「なら、なんで私の前に現れたのよ」


「それは…あんたを慰めるため」


 小さな私は、私を抱き寄せた。
 そして、まるで赤ん坊を慰める母親のように、優しく頭を撫でた。


「今まで、よく頑張ったわ、辛かったわね」


「なん…で…私…なんかに…」


 何故だろうか。
 さっきとあいつの腕の中で散々泣いたのに。
 まだ、止まらない。


「私はあんたを責めない。だって、こうなってしまったのは私の責任だから。私はあんた、あんたは私。つまり連帯責任ってことでしょ?」


「それって、つまり私にも非はあるって言いたいの?」


「当たり前じゃない。でも、それは自分のことだから責められない。だから、二人で背負いましょう?責任も、無力さも、全部」


 小さな私は妙に大人びていた。
 いや、違う。
 今の私が、子供っぽいだけなのかもしれない。


「でも、あんたは私の夢でしか会えない」


「大丈夫。あんたは私。あんたのことを、いつでも私は見守ってるわよ。あんたの中から」


 ふふ、変な理屈だ。
 つまり小さな私は私の記憶そのものというわけか。
 初恋の記憶。それがこれ。


「そろそろね、目を覚まさなくっちゃ」


「うん、ありがとう。私」


 そう言うと、小さな私は笑顔を見せた。
 私がいつの間にか忘れてしまっていた、純粋な笑顔。


「ありがとう…」


 小さく、そう呟いた頃には、もう目が覚めていたかもしれない。


 ゆっくりと状態を起こし、時計を見る。
 七時三分か。


 この夢も、いつか忘れる。
 それなら…。
 ノートに書き留めておこう。
 今の気持ちを、忘れないよう。
 私との出来事を、いつまでも覚えているように。



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