転移兄妹の異世界日記(アザーワールド・ダイアリー)
第47話:逆転の杯と子供達
1
ただの推測である。
そう言い聞かせて、俺はマーリンの話に耳を傾けた。
「その後、大五天使の一人、ルシフィルは堕天した。理由は人間に魔力を与えることに反対したからとされているね。まぁ、僕もその気持ちは分からないでもない。膨大な力を手に入れれば、その分被害も多くなるからね。それで他の天使たちと争って敗北し、追放されたのさ」
力を得ることで被害が増す。しかし、それで文明が発展するのも事実。
難しい話だ。俺には到底決められない。
「でも、ルシフィルの行動は無駄じゃなかった。彼女の意思は、ヘイラが引き継いだのさ。そして、彼女の周りに神たちが集まった。実に、オリュンポス十二神の半数」
「オリュンポス十二神…?」
「人類最古の神々。神の中の神と言うべき存在。主神ゼウスに仕える、ヘラ、アテナ、アポロン、アフロディーテ、アレス、アルテミス、デメテル、ヘファイストス、ヘルメス、ポセイドン、ヘスティア、ディオニソス。これが構成メンバーだね」
「よくそこまで知ってるな」
「そりゃ、花畑ばかり見続けていたら飽きるからね。僕の目は千里を写す。それでずっと見てたのさ」
にしても、ひとつ聞きたいことがある。今までなぜヘラと名乗るべきなのにヘイラと名乗っていたのか。神の妻という時点で少し察しはついていたが、マーリンはヘラと呼んでいた。
「なぜヘラはヘイラと名乗っているんだ?」
「言わば、洗脳だよ。ただ、自分と他神の名前を思い出せないくらいの浅いものだけどね」
「意味はあるのか?」
「思い出すのは簡単さ。本当の名前で呼ばれたのなら、トリガーとしてそれが作動し、すぐに思い出すだろう。でもね、思い出す機会がなかったらとことん思い出さないんだよ」
「お前がヘイラのことをヘラと呼べばいいんじゃないか?」
現に、こいつはヘイラの本当の名前を知っている。
ならそれで万事解決だろう。
「いや、ヘイラは監視されているんだ。ある人物に。君たちの反乱は楽しめる異常事態として放って置いているかもしれないけれど、そのような事があれば相手にとって深手となる。すぐに殺されるよ」
下手に動けば殺されるのか…。
「と、ここら辺でお開きとしようか。これ以上は君の目で確かめるべきだ。探究心はいつも人を成長させるからね」
「あぁ、十分だ。ありがとう」
「それともうひとつ」
「なんだ?」
マーリンは先程までの柔らかい表情から、影を落とし、真剣な表情を作った。
「君の妹、彼女から目を話さない方がいい。目的のためなら手段なんて選ばない連中だからね」
「…分かった」
イグラットでの一件。あれは天使の仕業だ。あんな奴らに、ミナミを渡したら何をされるかわからない。
それに、周りへの被害だって未知数だ。
…そのためには、逆転の杯を手に入れ、天使たちの所に殴り込まなきゃ行けない。
ミナミは絶対に守る。俺の、妹なのだから。
2
「平和ですねー」
「わふっ」
ユウマさん達がどこかに行ってしまって数時間。最初はおろおろと慌てていたが、何やら無事そうなのでこうものほほんとしている。
ナナクサ兄妹ちゃんたちも同様だ。それに、あの人たちが簡単にやられるはずがない。
今は畑作業をしている。庭を耕し、一部を畑にするのだ。
「頑張りましょうね、ゴギョウくん!」
「うん、メアリーさん」
最初の作業は、雑草の処理。
一本一本、根元まで抜いていく。
よいしょ…っと。うん、人手が集まるとすぐに終わりそうだな。
「あ、そう言えば肥料どうするんだー?」
「なら私が買ってきますよ、皆さんはこの街あまり詳しくないでしょう?」
「ぼ、僕も行く!」
ゴギョウくんが名乗りを上げた。
「ありがとうございます、心強いです、ゴギョウくん!」
「えへへ…」
「おう、なら二人ともよろしくなー。あと種も買ってきてくれー。できるだけ多い種類のやつなー」
「わかりました、行ってきます!」
というわけで、私たち二人は雑草の処理から離脱。ナイトには雑草抜きの方が向いているから、そのまま作業をさせた。
「ねぇ、メアリーさん」
「何ですか?ゴギョウくん」
「メアリーさんって好きな人いるの?」
好きな人…好きな人…。
「私はメイド…使用人なので、ユウマさん達に心は預けています」
「そ、そうなんだ…」
明らかにガッカリされた。何故だろう?
「でも、何故いきなりそんなことを聞いてきたんですか?」
「ぼ、僕はメアリーさんが好きだから」
ほうほう、そうなのか。ゴギョウくんは私のことが好き…。スキ…、好き!?
あ、でもこの前告白された。
「だから、もう好きな人がいるなら残念だなって…」
「私も、ゴギョウくんのことは好きです。お手玉だって、優しく教えてくれました。そういうところ、好きです」
「そ、そう!?嬉しいよ!」
ゴギョウくんは少し恥ずかしそうに笑った。
「さぁ、買い物しないとみんなに迷惑かけちゃいますよ?」
「うん、行こう!」
私とゴギョウくんは手早く買い物を済ませ、屋敷に帰ってきた。
さて、これからは家庭菜園を頑張っていこう!
3
「朝だよ!ユウマくん!」
「うぅ…」
朝からキンキンと耳が痛い…。
シャーッと窓を開け、眩しい朝日が差し込む。それを背景に、真っ白な衣服を身に纏う青髪の青年が一人。マーリンだ。
「朝強いのな…」
「毎朝ランニングしてるんだよ。それで朝に強いのさ。塔の周りを約千周。体力が尽きる前に目が回っちゃうんだよ」
「ならもう少しコースを変えて見ればどうなんだ?」
「そうしてみようか。でも本体に記憶を送るには、一度幻惑を解除しなければならないんだ。そこまでして知らせることじゃないだろう?」
まぁ、確かにな。
というか、こういう魔法使い系統のやつって、体力ないのが常識じゃないのか?
「とにかく、ここを出よう。とっととやること済ませてね」
やることか。
逆転の杯の回収。それが俺たちの目的。言わば犯罪だ。
「まずは朝食か。行こうぜ」
「あぁ、お供させてもらうよ」
とまぁそんなこんなで、宿屋のレストランまでやってきた。
「こちら、モーニングでございます」
トーストにレタス、そしてバターが添えられた皿が置かれる。
これで十一枚目だ。
「お兄ちゃん、サクサクです!」
「そうか」
もぐもぐとミナミは口を動かす。
「さて、これからの作戦を立てようか」
コンっと、マーリンが杖で床を叩いた。
すると、机の上に写真のようなものが何枚も展開された。
「これが君たちが入手しようとしている逆転の杯だ」
写真のひとつを指さす。金色の杯。
「その他のものは…、この村の真相を描写したものだよ」
男を虐める女、ミイラのような体だが、平然と熊を持ち上げる老人。そして…。
若い女性にかぶりつく、赤ん坊の姿だった。
血に染め上げられた、赤い口。そうか、オルガが嗚咽を漏らしていたのは…。
「力関係の逆転…か」
ここにいる全員が、その意味を理解した。
「それを、回収するに至って驚異となるのが、子供達だ」
シュッと、写真が切り替わる。そこにあったのは、鎧を着た子供たち。そうか、力関係の逆転とは、つまり大人より子供の方が強いということ。
それに、女子が目立つ。女子より男子の方が強いのだ。
「こいつらをどうするか…」
「その点も抜かりない!何せこの状況で最強なのは…紛れもない僕だからさ!」
「それは…」
「つまり…」
俺たちは察した。あ、こいつはこの中では最弱なんだ…、と。
「そ、そんな可哀想なものを見る目で見ないでくれないかな!?分身は身体能力がガタ落ちするんだよ!」
「そうなのか…?」
「まぁ、チルドレンの相手は僕がする。あと気をつけるべきは…」
また違う写真を指さす。そこには壁画のようなものが映し出されていた。
「ヘルメスだ。あそこは神域、神の領域だ。土足で上がれば殺されるし、物を盗もうものなら因果を操作し、一生死に続けさせられるなんてこともある」
ぶ、物騒な神様だな…。
すると、グラたんが俺の肩から降り、人間状態になった。そして、思いっきり胸を張る。
「だいじょーぶ、ごしゅじんはグラたんが守るー!」
「そうだよ、それに、ここでは力が逆転してるんでしょ?なら、弱い私たちの方が有利のはず!」
「あれは元々神々の産物だ。自分たちに不利益なものを作ると思うかい?あれは神や神の血を引く者には効果がないんだよ。でも幸いいいニュースがある。ヘルメスは失踪しているんだ」
おぉ、つまりヘルメスとは会わない可能性もあるってことか!
「若干運の要素も絡んでくるけど…行くかい?」
俺は、みんなの顔を見る。確認を取っているのだ。
すると、察したのかそれぞれ首を縦に降る。全会一致だな。
「あぁ、行こう!」
俺たちは、逆転の杯を目指し歩き出した。
4
さて、場所は変わり村の中心の宮殿のような場所に来た。
「気づかれないか?」
「幻惑で姿は隠してるから、大丈夫だよ」
「それなら、そのまま逆転の杯のとこまで行けばいいんじゃないか?」
それなら、そのチルドレンとかいう連中との戦闘も避けられる。
「いや、あそこには幻惑封じの結界が張られてる。僕らと同じ考えの者が姿を消して侵入できないようにね」
「そうなのか…」
って、幻惑封じ…?
「マーリン、お前中に入れないじゃないか!」
「うん、だから足止めしとくのさ。それに、あそこではテレポートさえも使えない。出入口はここひとつ。つまり、ここで誰かがチルドレンたちを全員倒さなきゃいけないわけだ。さぁ行くよ、準備はいいかい?」
俺たちは、いつでも行けるように構える。
そして、マーリンが杖の先から光の玉を出した!これが合図!
これと同時にマーリンは自身の幻惑を解き、子供たちの前に飛び出す。そしてその脇を俺たちが走り抜けた!
「健闘を祈るよ」
マーリンが俺とすれ違う時、小声で告げた。
「お前もな」
と、俺も小声でマーリンに告げる。
こくりと頷き、杖で床を軽く叩く。
すると、マーリンの足元から花弁が舞い上がった。
そして、杖を回すとその花弁も舞いながらその方向に曲がる。マーリンの姿はさながら海賊が舵を取っているようだ。
そして、花弁で巨大な壁ができた。
これなら、足止めも楽そうだな。
俺たちは宮殿の中に走る。
まるでもぬけの殻だな。チルドレンって奴らもいやしない。
「誰もいないな…」
「そうねー、拍子抜けってやつかしらー?」
キクハとタマテは周りを見渡しながらフラグじみたことを言い出した。
「そういうこと言うなよ…」
とは言ってみたものの、ほんとに何も無かったな。もしかしたら、このまま何事もなく回収できたりするかも…。
俺の気持ちが少し緩んだ、その時だった。
「…!?」
カンっと、金属音が響いた。
タマテの足元に、ダガーが転がっている。こんなの、誰が持ってきた?落としたのか?
それに、タマテが抜刀している。
「みんなー、少し伏せててねー?」
タマテは目を閉じ、意識を集中させるように居合の構えに構え直し、そして剣を振るった!
すると、三本のダガーが空中から現れた。いや、刀で弾いたのか?
「なんでわかった?」
「さーて?言わば直感?」
更に、四本五本六本…どんどんとダガーは増えていく。話しながらも、着実に増える。
「ここはお姉さんに任せなさーい?」
「…わかった、頼んだぞ!」
この状況では、タマテに任せるのが最善策だろう。
何せ、相手の位置すらも分からないのだ。俺たちが残ったとて、被害が拡大するだけだ。
グラたんは対応できるかもしれないが、俺から離れようとしない。こうなったグラたんは頑なに俺の体にへばりつく。戦闘力は恐らく本人の意思にも左右されるだろうし、無理強いは出来ない。
俺たちは、宮殿の中心に向かい走る。タマテを置き去りにして。
ただ、走った。振り向いた瞬間、肉塊があるかもしれない。そんなネガティブな考えを起こさないうちに、タマテの姿がみえないほどの距離になるまで。
5
さて…。
少し面倒な相手だ。姿が見えないために、みんなの協力も得られない。
しかも天井の辺りに張り付いているため、刀も届かない。
壁を歩くなんてできやしないし…。
位置はわかるのに…、何か撃ち落とす方法は…。
あっ…、一つある!
腰にかけた瓢箪に手をかけた。
戦いの中でも携帯しているのだ。それが、こんな形で役に立つなんて!
「あなたー、もう終わりよー?」
「…!?」
蟒蛇殺し…、普通の人間なら匂いを嗅いだだけで一瞬で泥酔する。それを相手に投げつける。
蟒蛇殺しを警戒したのか、相手がクナイを投げてきた。
よし!これで終わりだ!
見事にクナイは瓢箪を貫いた。その中から蟒蛇殺しが流れ出す。
さて、この酒の酒気に耐えられるかな?
「うぅ…うぇ…」
突如、空中から男が出てきた。そのまま、無抵抗に頭から落ちる。
それを、間一髪で捕まえた。どうやら、眠っているようだ。
「あらー、結構な美男子ねぇ…」
顔だけはいいみたい。もう一度目を覚めたとき、襲われたら厄介だからクナイみたいなのを預かって、拘束しておこう。
さて、みんなは上手くやってるのかな?
とりあえず、後を追うか…?でも、この子を置いておくのは危険かな。
みんなが戻ってくるまで待っておくか…。
時間かかるかなぁ…。
ただの推測である。
そう言い聞かせて、俺はマーリンの話に耳を傾けた。
「その後、大五天使の一人、ルシフィルは堕天した。理由は人間に魔力を与えることに反対したからとされているね。まぁ、僕もその気持ちは分からないでもない。膨大な力を手に入れれば、その分被害も多くなるからね。それで他の天使たちと争って敗北し、追放されたのさ」
力を得ることで被害が増す。しかし、それで文明が発展するのも事実。
難しい話だ。俺には到底決められない。
「でも、ルシフィルの行動は無駄じゃなかった。彼女の意思は、ヘイラが引き継いだのさ。そして、彼女の周りに神たちが集まった。実に、オリュンポス十二神の半数」
「オリュンポス十二神…?」
「人類最古の神々。神の中の神と言うべき存在。主神ゼウスに仕える、ヘラ、アテナ、アポロン、アフロディーテ、アレス、アルテミス、デメテル、ヘファイストス、ヘルメス、ポセイドン、ヘスティア、ディオニソス。これが構成メンバーだね」
「よくそこまで知ってるな」
「そりゃ、花畑ばかり見続けていたら飽きるからね。僕の目は千里を写す。それでずっと見てたのさ」
にしても、ひとつ聞きたいことがある。今までなぜヘラと名乗るべきなのにヘイラと名乗っていたのか。神の妻という時点で少し察しはついていたが、マーリンはヘラと呼んでいた。
「なぜヘラはヘイラと名乗っているんだ?」
「言わば、洗脳だよ。ただ、自分と他神の名前を思い出せないくらいの浅いものだけどね」
「意味はあるのか?」
「思い出すのは簡単さ。本当の名前で呼ばれたのなら、トリガーとしてそれが作動し、すぐに思い出すだろう。でもね、思い出す機会がなかったらとことん思い出さないんだよ」
「お前がヘイラのことをヘラと呼べばいいんじゃないか?」
現に、こいつはヘイラの本当の名前を知っている。
ならそれで万事解決だろう。
「いや、ヘイラは監視されているんだ。ある人物に。君たちの反乱は楽しめる異常事態として放って置いているかもしれないけれど、そのような事があれば相手にとって深手となる。すぐに殺されるよ」
下手に動けば殺されるのか…。
「と、ここら辺でお開きとしようか。これ以上は君の目で確かめるべきだ。探究心はいつも人を成長させるからね」
「あぁ、十分だ。ありがとう」
「それともうひとつ」
「なんだ?」
マーリンは先程までの柔らかい表情から、影を落とし、真剣な表情を作った。
「君の妹、彼女から目を話さない方がいい。目的のためなら手段なんて選ばない連中だからね」
「…分かった」
イグラットでの一件。あれは天使の仕業だ。あんな奴らに、ミナミを渡したら何をされるかわからない。
それに、周りへの被害だって未知数だ。
…そのためには、逆転の杯を手に入れ、天使たちの所に殴り込まなきゃ行けない。
ミナミは絶対に守る。俺の、妹なのだから。
2
「平和ですねー」
「わふっ」
ユウマさん達がどこかに行ってしまって数時間。最初はおろおろと慌てていたが、何やら無事そうなのでこうものほほんとしている。
ナナクサ兄妹ちゃんたちも同様だ。それに、あの人たちが簡単にやられるはずがない。
今は畑作業をしている。庭を耕し、一部を畑にするのだ。
「頑張りましょうね、ゴギョウくん!」
「うん、メアリーさん」
最初の作業は、雑草の処理。
一本一本、根元まで抜いていく。
よいしょ…っと。うん、人手が集まるとすぐに終わりそうだな。
「あ、そう言えば肥料どうするんだー?」
「なら私が買ってきますよ、皆さんはこの街あまり詳しくないでしょう?」
「ぼ、僕も行く!」
ゴギョウくんが名乗りを上げた。
「ありがとうございます、心強いです、ゴギョウくん!」
「えへへ…」
「おう、なら二人ともよろしくなー。あと種も買ってきてくれー。できるだけ多い種類のやつなー」
「わかりました、行ってきます!」
というわけで、私たち二人は雑草の処理から離脱。ナイトには雑草抜きの方が向いているから、そのまま作業をさせた。
「ねぇ、メアリーさん」
「何ですか?ゴギョウくん」
「メアリーさんって好きな人いるの?」
好きな人…好きな人…。
「私はメイド…使用人なので、ユウマさん達に心は預けています」
「そ、そうなんだ…」
明らかにガッカリされた。何故だろう?
「でも、何故いきなりそんなことを聞いてきたんですか?」
「ぼ、僕はメアリーさんが好きだから」
ほうほう、そうなのか。ゴギョウくんは私のことが好き…。スキ…、好き!?
あ、でもこの前告白された。
「だから、もう好きな人がいるなら残念だなって…」
「私も、ゴギョウくんのことは好きです。お手玉だって、優しく教えてくれました。そういうところ、好きです」
「そ、そう!?嬉しいよ!」
ゴギョウくんは少し恥ずかしそうに笑った。
「さぁ、買い物しないとみんなに迷惑かけちゃいますよ?」
「うん、行こう!」
私とゴギョウくんは手早く買い物を済ませ、屋敷に帰ってきた。
さて、これからは家庭菜園を頑張っていこう!
3
「朝だよ!ユウマくん!」
「うぅ…」
朝からキンキンと耳が痛い…。
シャーッと窓を開け、眩しい朝日が差し込む。それを背景に、真っ白な衣服を身に纏う青髪の青年が一人。マーリンだ。
「朝強いのな…」
「毎朝ランニングしてるんだよ。それで朝に強いのさ。塔の周りを約千周。体力が尽きる前に目が回っちゃうんだよ」
「ならもう少しコースを変えて見ればどうなんだ?」
「そうしてみようか。でも本体に記憶を送るには、一度幻惑を解除しなければならないんだ。そこまでして知らせることじゃないだろう?」
まぁ、確かにな。
というか、こういう魔法使い系統のやつって、体力ないのが常識じゃないのか?
「とにかく、ここを出よう。とっととやること済ませてね」
やることか。
逆転の杯の回収。それが俺たちの目的。言わば犯罪だ。
「まずは朝食か。行こうぜ」
「あぁ、お供させてもらうよ」
とまぁそんなこんなで、宿屋のレストランまでやってきた。
「こちら、モーニングでございます」
トーストにレタス、そしてバターが添えられた皿が置かれる。
これで十一枚目だ。
「お兄ちゃん、サクサクです!」
「そうか」
もぐもぐとミナミは口を動かす。
「さて、これからの作戦を立てようか」
コンっと、マーリンが杖で床を叩いた。
すると、机の上に写真のようなものが何枚も展開された。
「これが君たちが入手しようとしている逆転の杯だ」
写真のひとつを指さす。金色の杯。
「その他のものは…、この村の真相を描写したものだよ」
男を虐める女、ミイラのような体だが、平然と熊を持ち上げる老人。そして…。
若い女性にかぶりつく、赤ん坊の姿だった。
血に染め上げられた、赤い口。そうか、オルガが嗚咽を漏らしていたのは…。
「力関係の逆転…か」
ここにいる全員が、その意味を理解した。
「それを、回収するに至って驚異となるのが、子供達だ」
シュッと、写真が切り替わる。そこにあったのは、鎧を着た子供たち。そうか、力関係の逆転とは、つまり大人より子供の方が強いということ。
それに、女子が目立つ。女子より男子の方が強いのだ。
「こいつらをどうするか…」
「その点も抜かりない!何せこの状況で最強なのは…紛れもない僕だからさ!」
「それは…」
「つまり…」
俺たちは察した。あ、こいつはこの中では最弱なんだ…、と。
「そ、そんな可哀想なものを見る目で見ないでくれないかな!?分身は身体能力がガタ落ちするんだよ!」
「そうなのか…?」
「まぁ、チルドレンの相手は僕がする。あと気をつけるべきは…」
また違う写真を指さす。そこには壁画のようなものが映し出されていた。
「ヘルメスだ。あそこは神域、神の領域だ。土足で上がれば殺されるし、物を盗もうものなら因果を操作し、一生死に続けさせられるなんてこともある」
ぶ、物騒な神様だな…。
すると、グラたんが俺の肩から降り、人間状態になった。そして、思いっきり胸を張る。
「だいじょーぶ、ごしゅじんはグラたんが守るー!」
「そうだよ、それに、ここでは力が逆転してるんでしょ?なら、弱い私たちの方が有利のはず!」
「あれは元々神々の産物だ。自分たちに不利益なものを作ると思うかい?あれは神や神の血を引く者には効果がないんだよ。でも幸いいいニュースがある。ヘルメスは失踪しているんだ」
おぉ、つまりヘルメスとは会わない可能性もあるってことか!
「若干運の要素も絡んでくるけど…行くかい?」
俺は、みんなの顔を見る。確認を取っているのだ。
すると、察したのかそれぞれ首を縦に降る。全会一致だな。
「あぁ、行こう!」
俺たちは、逆転の杯を目指し歩き出した。
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さて、場所は変わり村の中心の宮殿のような場所に来た。
「気づかれないか?」
「幻惑で姿は隠してるから、大丈夫だよ」
「それなら、そのまま逆転の杯のとこまで行けばいいんじゃないか?」
それなら、そのチルドレンとかいう連中との戦闘も避けられる。
「いや、あそこには幻惑封じの結界が張られてる。僕らと同じ考えの者が姿を消して侵入できないようにね」
「そうなのか…」
って、幻惑封じ…?
「マーリン、お前中に入れないじゃないか!」
「うん、だから足止めしとくのさ。それに、あそこではテレポートさえも使えない。出入口はここひとつ。つまり、ここで誰かがチルドレンたちを全員倒さなきゃいけないわけだ。さぁ行くよ、準備はいいかい?」
俺たちは、いつでも行けるように構える。
そして、マーリンが杖の先から光の玉を出した!これが合図!
これと同時にマーリンは自身の幻惑を解き、子供たちの前に飛び出す。そしてその脇を俺たちが走り抜けた!
「健闘を祈るよ」
マーリンが俺とすれ違う時、小声で告げた。
「お前もな」
と、俺も小声でマーリンに告げる。
こくりと頷き、杖で床を軽く叩く。
すると、マーリンの足元から花弁が舞い上がった。
そして、杖を回すとその花弁も舞いながらその方向に曲がる。マーリンの姿はさながら海賊が舵を取っているようだ。
そして、花弁で巨大な壁ができた。
これなら、足止めも楽そうだな。
俺たちは宮殿の中に走る。
まるでもぬけの殻だな。チルドレンって奴らもいやしない。
「誰もいないな…」
「そうねー、拍子抜けってやつかしらー?」
キクハとタマテは周りを見渡しながらフラグじみたことを言い出した。
「そういうこと言うなよ…」
とは言ってみたものの、ほんとに何も無かったな。もしかしたら、このまま何事もなく回収できたりするかも…。
俺の気持ちが少し緩んだ、その時だった。
「…!?」
カンっと、金属音が響いた。
タマテの足元に、ダガーが転がっている。こんなの、誰が持ってきた?落としたのか?
それに、タマテが抜刀している。
「みんなー、少し伏せててねー?」
タマテは目を閉じ、意識を集中させるように居合の構えに構え直し、そして剣を振るった!
すると、三本のダガーが空中から現れた。いや、刀で弾いたのか?
「なんでわかった?」
「さーて?言わば直感?」
更に、四本五本六本…どんどんとダガーは増えていく。話しながらも、着実に増える。
「ここはお姉さんに任せなさーい?」
「…わかった、頼んだぞ!」
この状況では、タマテに任せるのが最善策だろう。
何せ、相手の位置すらも分からないのだ。俺たちが残ったとて、被害が拡大するだけだ。
グラたんは対応できるかもしれないが、俺から離れようとしない。こうなったグラたんは頑なに俺の体にへばりつく。戦闘力は恐らく本人の意思にも左右されるだろうし、無理強いは出来ない。
俺たちは、宮殿の中心に向かい走る。タマテを置き去りにして。
ただ、走った。振り向いた瞬間、肉塊があるかもしれない。そんなネガティブな考えを起こさないうちに、タマテの姿がみえないほどの距離になるまで。
5
さて…。
少し面倒な相手だ。姿が見えないために、みんなの協力も得られない。
しかも天井の辺りに張り付いているため、刀も届かない。
壁を歩くなんてできやしないし…。
位置はわかるのに…、何か撃ち落とす方法は…。
あっ…、一つある!
腰にかけた瓢箪に手をかけた。
戦いの中でも携帯しているのだ。それが、こんな形で役に立つなんて!
「あなたー、もう終わりよー?」
「…!?」
蟒蛇殺し…、普通の人間なら匂いを嗅いだだけで一瞬で泥酔する。それを相手に投げつける。
蟒蛇殺しを警戒したのか、相手がクナイを投げてきた。
よし!これで終わりだ!
見事にクナイは瓢箪を貫いた。その中から蟒蛇殺しが流れ出す。
さて、この酒の酒気に耐えられるかな?
「うぅ…うぇ…」
突如、空中から男が出てきた。そのまま、無抵抗に頭から落ちる。
それを、間一髪で捕まえた。どうやら、眠っているようだ。
「あらー、結構な美男子ねぇ…」
顔だけはいいみたい。もう一度目を覚めたとき、襲われたら厄介だからクナイみたいなのを預かって、拘束しておこう。
さて、みんなは上手くやってるのかな?
とりあえず、後を追うか…?でも、この子を置いておくのは危険かな。
みんなが戻ってくるまで待っておくか…。
時間かかるかなぁ…。
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