転移兄妹の異世界日記(アザーワールド・ダイアリー)
第29話:クラスアップと帰還
1
翌日の朝食過ぎ、俺達は謁見の間という場所に呼び出された。
目の前に王座に腰掛けたエリナ、その右隣にエギル、そして左隣にユニラとルニラ。俺達は片膝立ちで待機している。
最近知ったのだが、シュガーがかなり朝起きるのが遅いのだ。
ミナミは何やらやたら早起きしてるらしいし、ティナは起こせば起きる、そりゃもう直ぐに。
でもシュガーだけは起きない。今日も「もう眠れないー」だとか寝言を言っているところを病み上がりのルキアが担ぎ、ようやく目が覚めたのは食堂に着いた時だ。
「これより、報酬の進呈とクラスアップの儀を始める!」
何やら偉そうな髭を生やした中年男性が司会をする。
「まずは、報酬の進呈からだ。諸君らには計四千五百万ルナが送られる」
計算すると、一人五十万ルナか。さすがにメアリーには支払われないらしい。しょうがないよな、でもメアリーがいなかったら俺達は街に引き返していなかった。
俺達が戻らなくてもエギルやルニラ達がどうにかやってくれたかもしれないが、俺達が少し活躍したのは事実だ。代表として、俺が報奨金を受け取る。
「うぅ、私も欲しかったです…」
やはり、こいつも欲しかったらしいな。
「さて、次はクラスアップの儀だ。ここからは司会は私、第一王女エリナ・ナリヘルン・ツーベルクが預からせてもらう」
さて、俺は正直こちらの方がワクワクする。
クラスアップ、ゲームでもよくあるシステム。星がひとつ上がる進化とかと同じ部類と考えていいだろう。
「では、全員のギルドカードに予め記載しておいた。各々確認してくれ」
えらく他人任せだな。だがいいや、俺はギルドカードを確認すると、職業欄にはセイバーと書かれていた!
何この約束されたなんとヤラとか使いそうな職業!?
「うむ、では最後に主らに言っておきたいことがある。此度の偉業、ナリヘルン全都民を代表して深く深く感謝する。主らの偉業は永遠に語り継がれることだろう。この街を救った英雄として、そして妾の友としてな」
友…か。こいつと出会って一週間くらいしか経っていないのに、それを友と言えるのだろうか?俺にはよくわからない。
でも、本人がそうだと言うのならそうなのだろう。
「では、時期に馬車がくる。それまで、少ない余興を楽しんでくれ」
俺達は謁見の間から出てきた。
「さて、何をするかな…」
俺が暇つぶしを考えていると、後ろからなにやらとてとてと足音が聞こえてきた。
「お姉ちゃん!」
『ルニラちゃん、ユニラちゃん!』
うちのパーティの女性陣(ミナミ、リリス、シュガーを除く)が勢いよく振り返る。ロリコン陣とでも名付けようか。
「この度は本当にありがとうございました」
「ほんと、ありがとー!」
ユニラはブンブンと手と尻尾をバタバタさせて全身で喜びを表現している。うぅ、不覚にも可愛いと思ってしまった。
ルニラは手こそ振っていないが尻尾はブンブンと振っている。
堪えきれない喜びというものだろうか?
「いやいや、私は当然のことをしたまでよ」
ティナがすまし顔でそんなことを言っている。いや、お前そんなこと言うキャラじゃないだろ。
ロリコン陣がキャッキャウフフしていると、リリスが囁いてきた。
「よくあんなこと出来るわね、アリスとシュヴァ」
「ん?あいつらは子供が嫌いなのか?」
「いや、そうじゃなくってちょっとね…、その、あの子達の姉の件で…」
「捕虜にされたとかなんとか言ってたな」
「そう、その件。あの子達、誤解してるのよ」
ん、誤解?どういうことだろう?
「その件、詳しく」
「実はね、この王都、現魔王軍との戦闘の舞台になってしまったのよ。それで、流れ弾がたまたま王と女王に当たって、魔法防御ができる距離だったけれど、その時シュヴァに余裕がなくて、それで…」
「そういう事か…で、捕虜の件は?」
「何度も何度も『治って、治って…!』って言ってたわ。私はその間、シュヴァに残党が寄り付かないよう排除に徹してたけれど、もう手遅れだった…。王と女王が絶命したとはいえ、王都への被害はあまり無かった。シュヴァと私達が被害が少なくなるように立ち回ってたからね。それを見てた亜人の少女、あの二人の姉は自ら『私たちと一緒に戦いたい』と申し出たの。でも、心配させたくなかったのでしょうね、その真実を妹たちに話さなかったのが仇となったわね」
それからはだいたい想像がつく。あの二人からしたら、「姉が連れていかれた」という事実のみだ。それが紆余曲折を得て、最終的に「捕虜にされた」ということになったのだろう。
「それが真実よ」
「そうか…」
あいつの心中は複雑だろうな、自分が助けようとした人達の子供に恨まれ、自分から志願したので仲間にした奴の妹からも嫌われる。
でも、そいつらが悪いのかと言われれば、そういう訳でもない。
「今のこと、シュヴァには内緒よ」
「分かった」
俺はシュガーの過去を少し、ほんの少しだけ知った。あいつは、本当にお人好しの魔王様だったんだ。
2
俺は荷物をまとめ、部屋でくつろいでいた。ギルドカードのステータス欄を見ると、全体的に性能が上がっていた。その中でも、目を見張るのが…。
「MP、結構上がったな」
よくあるマジックポイント。魔法を使うと消費するのだが、それの上限が大分上がっていた。シュガーが言うところの「魔力量」だっけ?
これからは魔法を多用して戦うのもありかもな。
でも、剣士…じゃなくて、セイバーが使える魔法なんてあるのだろうか?あったとしても、たかが知れているだろう。
それと、どうもシュガーのことが気がかりだった。
あいつがあんな過去を持っていたなんて知らなかったからだ。でも、何故リリスは俺にあんな話をしたんだろう?
考えてもわからない。そのうち聞いてみよう。
すると、コンコンとドアがノックされた。
開けると、そこにはシュガーが立っていた。
「なんだ?」
「馬車、来た」
「結構早いな」
「ん」
シュガーは俺を先導し、王城の廊下を進む。どうしてもリリスの話が思い出される。でも、内緒だって言われたし…。
「ユウマ」
「なんだ?」
「私、ウィザードになった。魔力量も上がって、二発くらいは上級魔法打てるようになった」
「そりゃ、戦力が増えて助かるよ」
一発と二発では比べ物にならない。いちいち倒れたこいつを運ぶのも無くなりそうだ。それはルキアの仕事だけど。
「俺はセイバーだぞ」
「そう」
それからしばしの沈黙。カツンカツンという足音が響く。
…気まずい!リリスから聞いた話もそうだが、こいつの性格上俺からなにか話さないと話が進まない!
んー、そうだ!話しやすい家族の話とか…。俺はあまり思い出したくないが。
こいつにはお兄さんがいるんだったよな。それなら兄妹の話とか盛り上がるかも?
「なぁ、お前のお兄さんって、どんな人だったんだ?」
「なに、いきなり」
「気になったんだ」
シュガーは「うーん…」と考え込んだ。
「まず、私とにぃは血は繋がってない。身寄りがなくて、悲惨な運命を辿るはずだった私を、変えてくれた。それが私のにぃ」
これだけ聞くと、兄と言うよりかは命の恩人って感じだな。
「それで、普段はとても優しいけど怒る時は怒る。でも、それは私が何か仕出かした時」 
「そうか、いい人なんだな」
「ん、ユウマに似てる」
「俺はそんなに善人じゃねぇよ」
俺は誰かの運命を変えたことなんてないし、そこまで出来る度胸もない。
身寄りのない少女を引き取る余裕なんてないのだ。
「次、ユウマ」
「そうだな、お前も知っていると思うが、俺の妹はとにかくブラコンだ。自分で言ってもなんだが、暇さえあれば俺にじゃれつこうとする」
「ん、知ってる」
シュガーはすました顔で言ってのけた。しょうがない、こいつが知らない話をしよう。
「あいつはな、火を使わなければきちんと料理できるんだ。でも、味噌汁とか、パスタとか。とてもうまいんだぞ。カレーはダメだけど。それと、無駄にこって作ると逆に不味くなるんだよ。前なんて、カレーにタバスコ入れてたんだぜ?あと、あいつが好きなアニメのキャラ、大体は死んじまうんだ。その時のあいつの絶望の顔、結構面白いんだぜ?口半開きで、ポカーンって。あ、大体は女キャラだからな」
あいつの事は俺が一番知っている。あいつとの距離が一番近いのは俺である。
だからこそ、数珠繋ぎにぽんぽんとあいつに関するエピソードが出てくる。
「…と、ごめん。話しすぎたかな」
「ううん、いい。それと…」
シュガーが少し笑った気がした。
「好き、なんだ。ミナミのこと」
「妹として、な」
「ふーん、そっか」
こいつの笑顔なんて、初めて見た。てか、こいつあらぬ誤解とかしてないよな!?
「ふーん、そっか」って…、妹として好きなだけだからな!?
「か、勘違いするなよ!?」
「分かってる、ユウマ、ミナミのこと好き。今度言ってくる」
「あいつには内緒だ」
シュガーはコクリと頷き、王城の正面の扉を開く。俺とシュガーの距離が、少しだけ縮まった気がした。
3
城を出た所で、ミナミたちと合流した。
「あ、お兄ちゃん!おーい!」
「何だ、お前がいるなら自分から『呼びに行きます!』とか言い出しそうだけどな」
「少し距離を置きました。『押してダメなら引いてみな』です!」
「それ、せめて一日くらい様子見するものじゃないか?」
「そんなに離れたら死にます」
極めて真剣な顔でミナミがそう言い放つ。今度実験してみようか。
「イチャイチャしてないで、行くぞ二人とも」
「オルガ、勘違いするなよ、俺はこいつとイチャイチャしている気なんて毛頭ない!」
「じゃ、多数決をとるわよ。あほ面とミナミがイチャイチャしてると思う人ー」
サッと俺以外の全員の手が上がる!いや、エギルたちはまだいいとして、なんでミナミまで手を挙げてるんだ!?
「ほらね?」
「ほらねじゃねぇ…」
俺、傍から見ればこいつとイチャイチャしてるように見えてるのか…。
「さてユウマたち、この度のアーマーヒュドラ討伐の件、並びにポイズンダゴン、魔王軍幹部の撃退。感謝してもしきれないくらいだよ、本当にありがとう」
「どうってことない」
「いやいや、ユウマさんの起点がなかったらアーズ…でしたっけ?は撃退できませんでしたよ!」
「まぁ、悪知恵だけは働くみたいだからな」
「そうね、悪知恵だけは」
「そこを強調するんですか…」
三人の俺の評価の後、メアリーが「そこは否定しませんが…」と続けた。
「おい聞こえてるぞ」
「ひぇ!ごめんなさい!」
「別にいいけどさ」
俺だって気付いている。俺は所詮卑怯ものであると。
正攻法で挑んでくる敵の足をひっかけ、嘲笑うだけの敗北者であることを。
俺達は馬車乗り場にやってきた。もう準備は出来ているようだ。
荷台に荷物を上げ、馬車に乗り込む。
「なんだかんだ楽しかったですね、お兄ちゃん!」
「そうだな、でも疲れた…。帰ったらゆっくり寝るよ」
「添い寝希望ですか!?」
「誰が希望するか」
全く、こいつは相変わらずだな。その様子を見て、エギルが笑っている。
「お前達、本当に仲良いんだな」
「兄妹だからな、ある程度仲が良くないとやっていけないぞ」
「それもそうだ」
ちなみに、あいつらは行きと同じ組み合わせで乗っている。
「そう言えば、ここからイグラットの村までかなり近いんだな。森も深くないみたいだし」
「いやいや、ここからイグラットまで、普通に行けばまる二日はかかるぞ?」
…へ?
「いや、でも森は直ぐに出られたし…」
「あぁ、そこはユニラの魔法で森の入口と出口を繋いで、そこをワープで移動してきたんだ。大体の領地には直ぐに行けるようにしてるぞ。まぁ、距離に限度はあるけど。だいたいこの森くらいが限度」
「便利なものですね」
あ、よく見ると少し生えてる植物が違う気がする。
やがて、森を抜けて見慣れた街並みが見えてきた。
「この街、エリナが好きだったんだ」
「そうなのか?」
「母さんの故郷でな、何回か来たことがあるんだよ。エリナは、ナリヘルンよりもここみたいな田舎町の方が落ち着くのかもな」
「母親の故郷だからじゃないのか?」
でも、その気持ちもわかるような気がする。都会にばかり引きこもっていた俺も、たまには遠出したいと思ったことがあった。
「さて、着いたぞ」
「到ちゃーく!」
ミナミが子供のように馬車から飛び降りる。
「ありがとう」
「いえいえ、英雄様の力になれて、何よりです」
俺が運転手の騎士に礼を言うと、騎士は笑顔でそう言った。照れくさいな、英雄なんて言われるのは。
「そんな…大層なことは…」
コミュ障の再来。俺は人に褒められるのになれていない。
「ハハハ、ご謙遜を!」
「そうですよ、お兄ちゃんは活躍しました。MVPです」
「そんなもんかよ…」
すると、騎士がパンっと手網を叩いた。そして、馬が歩き出す。
「じゃあな、ユウマ!お幸せにな!」
エギルが馬車から身を乗り出し、手を振る。
「何がお幸せにだ!」
「ミナミ!ユウマに可愛がってもらえよ!」
「はーい、エギルさんもお元気で!」
ミナミも負けじと手を振り返す。
「お姉ちゃん達、またね!」
「またどこかで会いましょう」
『あぁぁぁぁぁ!行かないで天使ちゃんたちぃぃぃぃ!』
ロリコン陣は多大なダメージを受けてしまったらしい。
「さて、帰るか」
「はい!」
家に帰るも、ロリコン陣の気は下がりっぱなしだ。
『うぅ、獣耳ロス…』
嘘つけ、絶対ロリっ子ロスだろ。あ、でもこのパーティには屈指のロリっ子がいたよな。てことは本当に獣耳ロスなのか?
「ねぇ、ユウマ!このパーティに亜人募集しようよ!」
「お前だって亜人だろ」
「分かってないわね、時代はモフみよ!こんな耳がとんがってるだけのエルフと鬼の混血種なんかより、あのモフモフの耳を持った獣人種の亜人がいいの!」
「それ酷くない!?」
「二人とも落ち着いてください!」
メアリーが間に入って仲裁する。あぁ、なんか険悪ムードになってきたな。
尚、ロリコン陣はこの夜にあった今まで以上の大宴会で気を持ち直した。
4
「わあぁぁぁぁぁ!」
俺が城に戻ると、妹の泣き声がこだましていた。使用人もいるんだから、少しは迷惑も考えて欲しいのだけど…。
「一応行ってみるか」
泣き声がする方へ歩いていくと、そこはエリナの寝室だった。その前で、執事のシューゲイルが困り果てた様子で頭を抱えている。
「どうかしたのか?」
「あぁ、エギル様!あとは頼みましたぞ!」
それだけ言って足早に去っていった。丸投げか、せめて状況説明くらいはして欲しかった。
「何やってるんだ、エリナ?」
「…エギルぅ、何しに来たの?」
「エリナが泣いてるから心配で見に来たんだよ」
近所迷惑だし。よくこんな小さな体からあんな音量の音を出せるよな。
「ひぐ…」
「どうした?」
「友達がいなくなったぁぁぁぁぁ!」
「は?」
なんだろう、盛大に裏切られた気がする。あの泣き方だと、「誰か大切な人が死んだ」とかだと思ってたんだけど…。
「友達って?」
「リリスぅ…」
「お前、あいつのこと嫌いなんじゃないのか?」
元魔王幹部のことを友達と認識するのは如何なものか。
「だってぇ、あんな言い争いしたの生まれて初めてだもん…、友達だもん!」
「あと、リリスを国外へ追いやったのはエリナだって聞いたぞ」
「私はあの時はリリスをユウマに預けるって言っただけ!」
「ほとんど一緒じゃないか」
ワンワンと泣きわめく情けない妹。これをユウマたちに見せたらどんな反応をするだろうか?
「とにかく落ち着いて」
「リリスを…リリスを連れて来て!今すぐ!私の友達連れてきてぇぇぇ!」
「無茶言うな」
「だったら出てって!」
俺は『王女の命令』により、廊下に放り出され、壁に激突する!
「いっ!?」
背中に激痛が走り、視界がぐわんぐわんと歪む。
「だ、団長さん、大丈夫ですか!?」
「団長、でんぐり返りの練習でもしてたの?」
「俺がそんなことをする年齢に見えるか?」
「じゃあ、なんで転がってきたの?」
俺は二人に一部始終を説明した。
「はぁ、そういうこと…」
「団長さんも大変ですね」
「で、だ。俺達はエリナを泣き止ませなければならない。じゃないと安眠も出来ないぞ」
あんな爆音を聴きながら眠るなんて至難の業だろう。
「んー、そうだ!新しい友達を作ればいいよ!ユニラも、ルニラのプリン食べちゃった時、新しいプリン買ってあげたらもう怒ってないもん!」
「それとこれとは話が別…の気がするけど分からないね。やってみますか、団長?」
「いいけど、友達は誰がなるんだ?俺たちじゃダメだろ?」
「んー、あ!いいこと考えた!」
ユニラがぽんと手を打つ。
そして連れてきたのは…、
「なんなんだ、この声は…、耳がつんざけそうだぞ」
「おねーちゃん、この声何ー?」
「王女様の声だよ!あなたには王女様と友達になってもらうの!」
なかなかいい案だ。リーシャとエリナは面識がない。その分、俺たちよりは上手く友達としてやって行けるだろう。
「なんでこんなに泣いてるんだ?」
「実は…」
一部始終を話すと、キリエは呆れている様子だった。
「まさかこんなに子供っぽい方だったとは…」
「エリナは、今年で十歳だぞ?充分に子供だ」
「それもそうなのだが…」
キリエは煮え切らないようだ。一方、リーシャはあまり気にしていない様子。
「てなワケで、リーシャ。中にいる泣いている子と友達になってくれないか?」
「んー、いいよー。友達集め好きー」
「なら良かった、頼んだぞ」
「りょーかーい」
ほんとに大丈夫か!?
心配なので、俺達もドアの隙間から部屋を除く。
だが…、
「頑張って、リーシャちゃん!」
「ファイトです、リーシャちゃん!」
「上手くやれよ…」
「重い…」
俺の上にキリエ、その上にユニラ、ルニラが乗っている。さすがに重いだろ!?
「うわあぁぁぁぁぁ!」
「なんで泣いてるのー?」
「誰、あなた…じゃなくて、主!」
「ねぇ、友達が欲しいのー?」
「えっ?」
そんなにド直球でいいのか!?あいつも子供だしなぁ、しょうがないのか。 
「う、うん…」
「なら私が友達になるー!」
「いいのか?」
「その喋り方、堅苦しくてにがてー」
一瞬、キリエの体がぴくりと動く。
「私、普段あんな喋り方なんだけどな…、あんなふうに思っていたとは…」
「キリエ!?」
「元気だしてください、キリエさん!」
「そうだよ、きっとリーシャちゃんもキリエさんのこと好きだよ!」
「そ、そうだよな!?」
キリエは「自分は嫌われてない…」と連呼して自分に言い聞かせてるようだ。
「じゃ、じゃあ…、これで…、いい?」
「うん、そっちの方が好きー!」
「そっか…、私と友達になってくれる?」
「うん!」
お、なんかいい感じの雰囲気!それに、友達もできてエリナも嬉しそうだ!
「じゃあ、街で遊ぼ!」
「え、あ、ちょっと!?」
リーシャがエリナの手を引いて部屋から飛び出す。
「ぶっ!?」
俺はドアに顔面を強打した。キリエ達が俺を盾にしてドアにぶつかるのを防いだのだ。
「お、お前ら…」
「二人とも、楽しそーだね!」
「そうだね、お姉ちゃん」
「あぁ、妹に友達が出来て嬉しいぞ」
俺は、鼻血をダラダラと流しながら、駆ける二人を見送った。
不意に、視界が滲み始めた。これは多分、感動じゃなくて痛みの方なんだろうな…。
翌日の朝食過ぎ、俺達は謁見の間という場所に呼び出された。
目の前に王座に腰掛けたエリナ、その右隣にエギル、そして左隣にユニラとルニラ。俺達は片膝立ちで待機している。
最近知ったのだが、シュガーがかなり朝起きるのが遅いのだ。
ミナミは何やらやたら早起きしてるらしいし、ティナは起こせば起きる、そりゃもう直ぐに。
でもシュガーだけは起きない。今日も「もう眠れないー」だとか寝言を言っているところを病み上がりのルキアが担ぎ、ようやく目が覚めたのは食堂に着いた時だ。
「これより、報酬の進呈とクラスアップの儀を始める!」
何やら偉そうな髭を生やした中年男性が司会をする。
「まずは、報酬の進呈からだ。諸君らには計四千五百万ルナが送られる」
計算すると、一人五十万ルナか。さすがにメアリーには支払われないらしい。しょうがないよな、でもメアリーがいなかったら俺達は街に引き返していなかった。
俺達が戻らなくてもエギルやルニラ達がどうにかやってくれたかもしれないが、俺達が少し活躍したのは事実だ。代表として、俺が報奨金を受け取る。
「うぅ、私も欲しかったです…」
やはり、こいつも欲しかったらしいな。
「さて、次はクラスアップの儀だ。ここからは司会は私、第一王女エリナ・ナリヘルン・ツーベルクが預からせてもらう」
さて、俺は正直こちらの方がワクワクする。
クラスアップ、ゲームでもよくあるシステム。星がひとつ上がる進化とかと同じ部類と考えていいだろう。
「では、全員のギルドカードに予め記載しておいた。各々確認してくれ」
えらく他人任せだな。だがいいや、俺はギルドカードを確認すると、職業欄にはセイバーと書かれていた!
何この約束されたなんとヤラとか使いそうな職業!?
「うむ、では最後に主らに言っておきたいことがある。此度の偉業、ナリヘルン全都民を代表して深く深く感謝する。主らの偉業は永遠に語り継がれることだろう。この街を救った英雄として、そして妾の友としてな」
友…か。こいつと出会って一週間くらいしか経っていないのに、それを友と言えるのだろうか?俺にはよくわからない。
でも、本人がそうだと言うのならそうなのだろう。
「では、時期に馬車がくる。それまで、少ない余興を楽しんでくれ」
俺達は謁見の間から出てきた。
「さて、何をするかな…」
俺が暇つぶしを考えていると、後ろからなにやらとてとてと足音が聞こえてきた。
「お姉ちゃん!」
『ルニラちゃん、ユニラちゃん!』
うちのパーティの女性陣(ミナミ、リリス、シュガーを除く)が勢いよく振り返る。ロリコン陣とでも名付けようか。
「この度は本当にありがとうございました」
「ほんと、ありがとー!」
ユニラはブンブンと手と尻尾をバタバタさせて全身で喜びを表現している。うぅ、不覚にも可愛いと思ってしまった。
ルニラは手こそ振っていないが尻尾はブンブンと振っている。
堪えきれない喜びというものだろうか?
「いやいや、私は当然のことをしたまでよ」
ティナがすまし顔でそんなことを言っている。いや、お前そんなこと言うキャラじゃないだろ。
ロリコン陣がキャッキャウフフしていると、リリスが囁いてきた。
「よくあんなこと出来るわね、アリスとシュヴァ」
「ん?あいつらは子供が嫌いなのか?」
「いや、そうじゃなくってちょっとね…、その、あの子達の姉の件で…」
「捕虜にされたとかなんとか言ってたな」
「そう、その件。あの子達、誤解してるのよ」
ん、誤解?どういうことだろう?
「その件、詳しく」
「実はね、この王都、現魔王軍との戦闘の舞台になってしまったのよ。それで、流れ弾がたまたま王と女王に当たって、魔法防御ができる距離だったけれど、その時シュヴァに余裕がなくて、それで…」
「そういう事か…で、捕虜の件は?」
「何度も何度も『治って、治って…!』って言ってたわ。私はその間、シュヴァに残党が寄り付かないよう排除に徹してたけれど、もう手遅れだった…。王と女王が絶命したとはいえ、王都への被害はあまり無かった。シュヴァと私達が被害が少なくなるように立ち回ってたからね。それを見てた亜人の少女、あの二人の姉は自ら『私たちと一緒に戦いたい』と申し出たの。でも、心配させたくなかったのでしょうね、その真実を妹たちに話さなかったのが仇となったわね」
それからはだいたい想像がつく。あの二人からしたら、「姉が連れていかれた」という事実のみだ。それが紆余曲折を得て、最終的に「捕虜にされた」ということになったのだろう。
「それが真実よ」
「そうか…」
あいつの心中は複雑だろうな、自分が助けようとした人達の子供に恨まれ、自分から志願したので仲間にした奴の妹からも嫌われる。
でも、そいつらが悪いのかと言われれば、そういう訳でもない。
「今のこと、シュヴァには内緒よ」
「分かった」
俺はシュガーの過去を少し、ほんの少しだけ知った。あいつは、本当にお人好しの魔王様だったんだ。
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俺は荷物をまとめ、部屋でくつろいでいた。ギルドカードのステータス欄を見ると、全体的に性能が上がっていた。その中でも、目を見張るのが…。
「MP、結構上がったな」
よくあるマジックポイント。魔法を使うと消費するのだが、それの上限が大分上がっていた。シュガーが言うところの「魔力量」だっけ?
これからは魔法を多用して戦うのもありかもな。
でも、剣士…じゃなくて、セイバーが使える魔法なんてあるのだろうか?あったとしても、たかが知れているだろう。
それと、どうもシュガーのことが気がかりだった。
あいつがあんな過去を持っていたなんて知らなかったからだ。でも、何故リリスは俺にあんな話をしたんだろう?
考えてもわからない。そのうち聞いてみよう。
すると、コンコンとドアがノックされた。
開けると、そこにはシュガーが立っていた。
「なんだ?」
「馬車、来た」
「結構早いな」
「ん」
シュガーは俺を先導し、王城の廊下を進む。どうしてもリリスの話が思い出される。でも、内緒だって言われたし…。
「ユウマ」
「なんだ?」
「私、ウィザードになった。魔力量も上がって、二発くらいは上級魔法打てるようになった」
「そりゃ、戦力が増えて助かるよ」
一発と二発では比べ物にならない。いちいち倒れたこいつを運ぶのも無くなりそうだ。それはルキアの仕事だけど。
「俺はセイバーだぞ」
「そう」
それからしばしの沈黙。カツンカツンという足音が響く。
…気まずい!リリスから聞いた話もそうだが、こいつの性格上俺からなにか話さないと話が進まない!
んー、そうだ!話しやすい家族の話とか…。俺はあまり思い出したくないが。
こいつにはお兄さんがいるんだったよな。それなら兄妹の話とか盛り上がるかも?
「なぁ、お前のお兄さんって、どんな人だったんだ?」
「なに、いきなり」
「気になったんだ」
シュガーは「うーん…」と考え込んだ。
「まず、私とにぃは血は繋がってない。身寄りがなくて、悲惨な運命を辿るはずだった私を、変えてくれた。それが私のにぃ」
これだけ聞くと、兄と言うよりかは命の恩人って感じだな。
「それで、普段はとても優しいけど怒る時は怒る。でも、それは私が何か仕出かした時」 
「そうか、いい人なんだな」
「ん、ユウマに似てる」
「俺はそんなに善人じゃねぇよ」
俺は誰かの運命を変えたことなんてないし、そこまで出来る度胸もない。
身寄りのない少女を引き取る余裕なんてないのだ。
「次、ユウマ」
「そうだな、お前も知っていると思うが、俺の妹はとにかくブラコンだ。自分で言ってもなんだが、暇さえあれば俺にじゃれつこうとする」
「ん、知ってる」
シュガーはすました顔で言ってのけた。しょうがない、こいつが知らない話をしよう。
「あいつはな、火を使わなければきちんと料理できるんだ。でも、味噌汁とか、パスタとか。とてもうまいんだぞ。カレーはダメだけど。それと、無駄にこって作ると逆に不味くなるんだよ。前なんて、カレーにタバスコ入れてたんだぜ?あと、あいつが好きなアニメのキャラ、大体は死んじまうんだ。その時のあいつの絶望の顔、結構面白いんだぜ?口半開きで、ポカーンって。あ、大体は女キャラだからな」
あいつの事は俺が一番知っている。あいつとの距離が一番近いのは俺である。
だからこそ、数珠繋ぎにぽんぽんとあいつに関するエピソードが出てくる。
「…と、ごめん。話しすぎたかな」
「ううん、いい。それと…」
シュガーが少し笑った気がした。
「好き、なんだ。ミナミのこと」
「妹として、な」
「ふーん、そっか」
こいつの笑顔なんて、初めて見た。てか、こいつあらぬ誤解とかしてないよな!?
「ふーん、そっか」って…、妹として好きなだけだからな!?
「か、勘違いするなよ!?」
「分かってる、ユウマ、ミナミのこと好き。今度言ってくる」
「あいつには内緒だ」
シュガーはコクリと頷き、王城の正面の扉を開く。俺とシュガーの距離が、少しだけ縮まった気がした。
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城を出た所で、ミナミたちと合流した。
「あ、お兄ちゃん!おーい!」
「何だ、お前がいるなら自分から『呼びに行きます!』とか言い出しそうだけどな」
「少し距離を置きました。『押してダメなら引いてみな』です!」
「それ、せめて一日くらい様子見するものじゃないか?」
「そんなに離れたら死にます」
極めて真剣な顔でミナミがそう言い放つ。今度実験してみようか。
「イチャイチャしてないで、行くぞ二人とも」
「オルガ、勘違いするなよ、俺はこいつとイチャイチャしている気なんて毛頭ない!」
「じゃ、多数決をとるわよ。あほ面とミナミがイチャイチャしてると思う人ー」
サッと俺以外の全員の手が上がる!いや、エギルたちはまだいいとして、なんでミナミまで手を挙げてるんだ!?
「ほらね?」
「ほらねじゃねぇ…」
俺、傍から見ればこいつとイチャイチャしてるように見えてるのか…。
「さてユウマたち、この度のアーマーヒュドラ討伐の件、並びにポイズンダゴン、魔王軍幹部の撃退。感謝してもしきれないくらいだよ、本当にありがとう」
「どうってことない」
「いやいや、ユウマさんの起点がなかったらアーズ…でしたっけ?は撃退できませんでしたよ!」
「まぁ、悪知恵だけは働くみたいだからな」
「そうね、悪知恵だけは」
「そこを強調するんですか…」
三人の俺の評価の後、メアリーが「そこは否定しませんが…」と続けた。
「おい聞こえてるぞ」
「ひぇ!ごめんなさい!」
「別にいいけどさ」
俺だって気付いている。俺は所詮卑怯ものであると。
正攻法で挑んでくる敵の足をひっかけ、嘲笑うだけの敗北者であることを。
俺達は馬車乗り場にやってきた。もう準備は出来ているようだ。
荷台に荷物を上げ、馬車に乗り込む。
「なんだかんだ楽しかったですね、お兄ちゃん!」
「そうだな、でも疲れた…。帰ったらゆっくり寝るよ」
「添い寝希望ですか!?」
「誰が希望するか」
全く、こいつは相変わらずだな。その様子を見て、エギルが笑っている。
「お前達、本当に仲良いんだな」
「兄妹だからな、ある程度仲が良くないとやっていけないぞ」
「それもそうだ」
ちなみに、あいつらは行きと同じ組み合わせで乗っている。
「そう言えば、ここからイグラットの村までかなり近いんだな。森も深くないみたいだし」
「いやいや、ここからイグラットまで、普通に行けばまる二日はかかるぞ?」
…へ?
「いや、でも森は直ぐに出られたし…」
「あぁ、そこはユニラの魔法で森の入口と出口を繋いで、そこをワープで移動してきたんだ。大体の領地には直ぐに行けるようにしてるぞ。まぁ、距離に限度はあるけど。だいたいこの森くらいが限度」
「便利なものですね」
あ、よく見ると少し生えてる植物が違う気がする。
やがて、森を抜けて見慣れた街並みが見えてきた。
「この街、エリナが好きだったんだ」
「そうなのか?」
「母さんの故郷でな、何回か来たことがあるんだよ。エリナは、ナリヘルンよりもここみたいな田舎町の方が落ち着くのかもな」
「母親の故郷だからじゃないのか?」
でも、その気持ちもわかるような気がする。都会にばかり引きこもっていた俺も、たまには遠出したいと思ったことがあった。
「さて、着いたぞ」
「到ちゃーく!」
ミナミが子供のように馬車から飛び降りる。
「ありがとう」
「いえいえ、英雄様の力になれて、何よりです」
俺が運転手の騎士に礼を言うと、騎士は笑顔でそう言った。照れくさいな、英雄なんて言われるのは。
「そんな…大層なことは…」
コミュ障の再来。俺は人に褒められるのになれていない。
「ハハハ、ご謙遜を!」
「そうですよ、お兄ちゃんは活躍しました。MVPです」
「そんなもんかよ…」
すると、騎士がパンっと手網を叩いた。そして、馬が歩き出す。
「じゃあな、ユウマ!お幸せにな!」
エギルが馬車から身を乗り出し、手を振る。
「何がお幸せにだ!」
「ミナミ!ユウマに可愛がってもらえよ!」
「はーい、エギルさんもお元気で!」
ミナミも負けじと手を振り返す。
「お姉ちゃん達、またね!」
「またどこかで会いましょう」
『あぁぁぁぁぁ!行かないで天使ちゃんたちぃぃぃぃ!』
ロリコン陣は多大なダメージを受けてしまったらしい。
「さて、帰るか」
「はい!」
家に帰るも、ロリコン陣の気は下がりっぱなしだ。
『うぅ、獣耳ロス…』
嘘つけ、絶対ロリっ子ロスだろ。あ、でもこのパーティには屈指のロリっ子がいたよな。てことは本当に獣耳ロスなのか?
「ねぇ、ユウマ!このパーティに亜人募集しようよ!」
「お前だって亜人だろ」
「分かってないわね、時代はモフみよ!こんな耳がとんがってるだけのエルフと鬼の混血種なんかより、あのモフモフの耳を持った獣人種の亜人がいいの!」
「それ酷くない!?」
「二人とも落ち着いてください!」
メアリーが間に入って仲裁する。あぁ、なんか険悪ムードになってきたな。
尚、ロリコン陣はこの夜にあった今まで以上の大宴会で気を持ち直した。
4
「わあぁぁぁぁぁ!」
俺が城に戻ると、妹の泣き声がこだましていた。使用人もいるんだから、少しは迷惑も考えて欲しいのだけど…。
「一応行ってみるか」
泣き声がする方へ歩いていくと、そこはエリナの寝室だった。その前で、執事のシューゲイルが困り果てた様子で頭を抱えている。
「どうかしたのか?」
「あぁ、エギル様!あとは頼みましたぞ!」
それだけ言って足早に去っていった。丸投げか、せめて状況説明くらいはして欲しかった。
「何やってるんだ、エリナ?」
「…エギルぅ、何しに来たの?」
「エリナが泣いてるから心配で見に来たんだよ」
近所迷惑だし。よくこんな小さな体からあんな音量の音を出せるよな。
「ひぐ…」
「どうした?」
「友達がいなくなったぁぁぁぁぁ!」
「は?」
なんだろう、盛大に裏切られた気がする。あの泣き方だと、「誰か大切な人が死んだ」とかだと思ってたんだけど…。
「友達って?」
「リリスぅ…」
「お前、あいつのこと嫌いなんじゃないのか?」
元魔王幹部のことを友達と認識するのは如何なものか。
「だってぇ、あんな言い争いしたの生まれて初めてだもん…、友達だもん!」
「あと、リリスを国外へ追いやったのはエリナだって聞いたぞ」
「私はあの時はリリスをユウマに預けるって言っただけ!」
「ほとんど一緒じゃないか」
ワンワンと泣きわめく情けない妹。これをユウマたちに見せたらどんな反応をするだろうか?
「とにかく落ち着いて」
「リリスを…リリスを連れて来て!今すぐ!私の友達連れてきてぇぇぇ!」
「無茶言うな」
「だったら出てって!」
俺は『王女の命令』により、廊下に放り出され、壁に激突する!
「いっ!?」
背中に激痛が走り、視界がぐわんぐわんと歪む。
「だ、団長さん、大丈夫ですか!?」
「団長、でんぐり返りの練習でもしてたの?」
「俺がそんなことをする年齢に見えるか?」
「じゃあ、なんで転がってきたの?」
俺は二人に一部始終を説明した。
「はぁ、そういうこと…」
「団長さんも大変ですね」
「で、だ。俺達はエリナを泣き止ませなければならない。じゃないと安眠も出来ないぞ」
あんな爆音を聴きながら眠るなんて至難の業だろう。
「んー、そうだ!新しい友達を作ればいいよ!ユニラも、ルニラのプリン食べちゃった時、新しいプリン買ってあげたらもう怒ってないもん!」
「それとこれとは話が別…の気がするけど分からないね。やってみますか、団長?」
「いいけど、友達は誰がなるんだ?俺たちじゃダメだろ?」
「んー、あ!いいこと考えた!」
ユニラがぽんと手を打つ。
そして連れてきたのは…、
「なんなんだ、この声は…、耳がつんざけそうだぞ」
「おねーちゃん、この声何ー?」
「王女様の声だよ!あなたには王女様と友達になってもらうの!」
なかなかいい案だ。リーシャとエリナは面識がない。その分、俺たちよりは上手く友達としてやって行けるだろう。
「なんでこんなに泣いてるんだ?」
「実は…」
一部始終を話すと、キリエは呆れている様子だった。
「まさかこんなに子供っぽい方だったとは…」
「エリナは、今年で十歳だぞ?充分に子供だ」
「それもそうなのだが…」
キリエは煮え切らないようだ。一方、リーシャはあまり気にしていない様子。
「てなワケで、リーシャ。中にいる泣いている子と友達になってくれないか?」
「んー、いいよー。友達集め好きー」
「なら良かった、頼んだぞ」
「りょーかーい」
ほんとに大丈夫か!?
心配なので、俺達もドアの隙間から部屋を除く。
だが…、
「頑張って、リーシャちゃん!」
「ファイトです、リーシャちゃん!」
「上手くやれよ…」
「重い…」
俺の上にキリエ、その上にユニラ、ルニラが乗っている。さすがに重いだろ!?
「うわあぁぁぁぁぁ!」
「なんで泣いてるのー?」
「誰、あなた…じゃなくて、主!」
「ねぇ、友達が欲しいのー?」
「えっ?」
そんなにド直球でいいのか!?あいつも子供だしなぁ、しょうがないのか。 
「う、うん…」
「なら私が友達になるー!」
「いいのか?」
「その喋り方、堅苦しくてにがてー」
一瞬、キリエの体がぴくりと動く。
「私、普段あんな喋り方なんだけどな…、あんなふうに思っていたとは…」
「キリエ!?」
「元気だしてください、キリエさん!」
「そうだよ、きっとリーシャちゃんもキリエさんのこと好きだよ!」
「そ、そうだよな!?」
キリエは「自分は嫌われてない…」と連呼して自分に言い聞かせてるようだ。
「じゃ、じゃあ…、これで…、いい?」
「うん、そっちの方が好きー!」
「そっか…、私と友達になってくれる?」
「うん!」
お、なんかいい感じの雰囲気!それに、友達もできてエリナも嬉しそうだ!
「じゃあ、街で遊ぼ!」
「え、あ、ちょっと!?」
リーシャがエリナの手を引いて部屋から飛び出す。
「ぶっ!?」
俺はドアに顔面を強打した。キリエ達が俺を盾にしてドアにぶつかるのを防いだのだ。
「お、お前ら…」
「二人とも、楽しそーだね!」
「そうだね、お姉ちゃん」
「あぁ、妹に友達が出来て嬉しいぞ」
俺は、鼻血をダラダラと流しながら、駆ける二人を見送った。
不意に、視界が滲み始めた。これは多分、感動じゃなくて痛みの方なんだろうな…。
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