転移兄妹の異世界日記(アザーワールド・ダイアリー)

Raito

第23話:討伐対象と作戦実行

 1


 俺達は城の中庭にやってきた。中庭と言っても、なかなかの広さで、普通の家が五十軒くらいは入るだろうか?


 そのくらいにデカかった。尚、俺達は何故かエリナやエギルと共にバルコニーの上からの高みの見物となった。


「さて、全員集まったな!まずはお主らに言っておきたいことがある!」


 ザワザワと騎士や冒険者たちがどよめき始める。


「静まれ!お主らに言っておきたいことがある!ここにおるこやつ等は傍から見れば貧弱なように見えるかもしれん…」


 と、唐突に何俺たちのことディスってんの、この王女様!?


「しかしな!こやつらには覚悟がある!お主らにも引けを取らぬ覚悟が!その覚悟の賜が、魔王軍幹部を二人も倒したという結果を生んだのだ!妾はその覚悟に賭ける!さぁ、妾と共にこやつらに命をかけるものよ!剣を取れ!杖を握れ!武器を構えろ!そして我らが同胞の死を糧に、新たな同法とともに敵の首を祖国に持ち帰るのだ!これより、アーマーヒュドラ討伐を開始する!!」


 その瞬間、歓声が沸き上がった。空気がビリビリと震え、耳が痛くなる。これがカリスマ性ってやつか…。


 それと、さっきの演説でこいつの印象も大分変わった。


「これでいいか?もう喉が潰れそうなんだが…」


「ああ、お疲れ王女様」


「凄かったですね…!とっても格好よかったです!」


 ミナミはキラキラと目を輝かせ、エリナに憧れの視線を送った。でも、本当格好よかったな。


「おい、なんで俺達が嫌な視線送られてたの知ってたんだ?」


「大体は予想が着くであろう。なぁに礼には及ばんさ、敵の首を持ち帰ってくれたらそれで良い」


 なるほど、礼は結果で返せってことか。ならばこちらも本気でやるしかないようだな。


 騎士達からの印象は少しは良くなっただろうが、痕跡を上げて呆気にとらせてやるのだ。


 礼には及ばないとか言っておきながら敵の首を持って帰ってこいと要求してくるのはさておき。


「ユウマ達、そんな装備で大丈夫?なかなかの強敵だよ。装備は貸そう?」


「じゃあ借りさせてもらうか。ところで、移動手段ってなんなんだ?まさか徒歩?」


「騎龍って言われる竜にまたがって戦うんだよ。騎乗スキルって持ってる?」


 騎乗スキル…?そんなもの聞いたことも無いのだが…、俺達の家にやってきた騎士達も騎乗スキルを使っていたのか?


「私とエルマス、そしてアイリスはもう習得してる」


「僕も持ってるよ。隠れ里からイグラットに来るまで馬で移動してたからね」


「じゃあユウマ達四人だけで良さそうだな、ギルドカードを出してくれ」


「ああ、ほら…て、何これ!?」


「ギルドカードが…光ってる!?」


 全員分のギルドカードを机に置き、エギルが手をかざすとギルドカードが光り始めた!こんなこと今までなかったのに!?


「スキル解放は初めて?…と、どうやらもう時間はないらしいね。とにかく騎龍小屋へ急ごう!」


「そ、そうだね、急ごう!」


 俺達は駆け足で外の騎龍小屋と言われる場所に向かった。そこは…。


『デカっ!?』


 城には劣るが、それでも屋敷と同じ位の大きさが同じくらいだ。


 そんなことより、もう俺たちの他の冒険者や騎士達はもう討伐に行ってしまったらしい。


 俺たちの出番がないまま終わってくれればいいのだが、まぁそうはならないんだろうな…。


「よし、この中から好きな騎龍を選んで。あ、飛行種は上級者向けだから、地龍種の方が乗りやすいよ」


「ところで、これって二人乗りとか出来ないんですか?」


「ああ、初めのうちは二人一組で乗るんだよ。一人は戦闘、もう一人は騎龍操作って感じだね」


「エルマスは騎龍に詳しいんだな」


「え、ああ俺の事か、このくらい普通でしょ」


 よし、早速ペアを選ばねば…。え?その時俺が見た光景とは…。


 オルガとティナが同じ騎龍に乗った姿だった。そしてその奥には一人で騎龍に乗るルキアの姿、その横にそれぞれ一人ずつ飛行種に乗った四人の姿。


 そして一人だけニヤニヤとどちらを見つめ、二人乗り用の騎龍に跨るミナミの姿があった。


「お兄ちゃん、はやくはやく!私と一緒に乗りましょう!」


「お前としか組めないらしいな、しょうがない。ほら詰めてくれ、お前操作できるか?」


「お兄ちゃんのためなら!振り落とされないようにちゃんとしがみついてくださいね?」


「ああ、頼んだぞミナミ」


「はい、頼まれました!」


 うーん、こいつも騎龍操作は初めてなはずだが…。大丈夫だろうか?


「ふぁー、ここに居たのねあなた達」


「あ、リリス起きたんだ」


「お前、朝食食ったのか?」


「ええ、ちゃんと食べたわよ。面会の間の机にあったフレンチトーストを食べたわよ」


「おーい、みんなもう出発するぞ」


 俺達が外に出ると、今日もまた不機嫌な様子のエリナがいた。


 そして騎龍に乗っているあたり、こいつも前線で戦うのか?


「エギル、私の朝食を知らないか?フレンチトーストを用意していたが、まだ食っていなかったのだ。面会の間に置いておいたはずなのだが…」


「し、知らないさ、他の誰かに食べられたとか?ユウマ達、知らない?」


『シ、シラナイケド?』


「主ら、なぜカタコトなのだ」


 俺達は察した。『あ、これリリスが食ったのがエリナの朝食だったんだ』と。


「さ、あなたたち行くわよ…って、なんでこのロリがいるのよ!?」


「この大たわけが!主を解放されているのは妾の寛大な心あってこそなのだからな!」


「ハイハイ、分かったわよ…それより、本当に急いだ方がいいわよ。そろそろ先行部隊がキャンプ地についてる頃でしょ?」


 キャンプ地とは、この作戦における仮拠点のようなものである。


 そこに医療班を控えさせ、少しでも戦線を防衛できるようにするのだ。


「ていうかお主、その口の周りについているパンの耳のクズはなんだ?」


「ああ、これは面会の間にあったから食べただけよ?あんたとは関係ないでしょう?」


「それは妾の朝食だ!この盗人が!」


「なに、あんたのものなんて書いてなかったわよ!そんなのならパンに名前書いておくのね!」


「はぁ!?パンに名前など書けるか!大たわけが!」


 また始まった…。いや、今回は一方的にリリスが悪い。うん、リリスが悪い。


「早く行くよ、リリス!」


「もうまずいですよ、早く行きましょう。私たちが遅れて全員死亡なんてことあったら笑えませんからね」


「頼もしいな、よろしく頼むぞ。私もなるべく役に立つようにする」


「あんたなんてほとんど役に立たないでしょうね」


「何を!?」


 またまた二人は騒ぎ出した。役に立つようにすると言っているあたり、こいつもやはりこちらにやってくるようだ。


 ちなみにリリスは飛行種に乗っている。


「さぁ、出発だ!」


「はい!行きましょう!」


「うん、私たちは先に行ってる。あとから追いついてきて」


「ミルク、地龍種班のことは僕に任せてよ!」


「よし、やっと出発だな!」


「いや、操作するの私なんだけど…」


 あれ?そういえばまだ防具貸してもらってなくないか!?


 本当にこんな装備で大丈夫なのか?大丈夫だ、問題ない?ふざけるな、問題だらけじゃないか!


 2


 騎龍というのは本当に速いもので、馬の数倍は速いらしい。


 ルキアも大分興奮していた。「うわぁぁ!速い!凄い!」とか言ってめっちゃ飛ばしてた。


「ミナミ、よくお前そんなに上手く騎龍操作できるな」


「うーん、なんて言うかまるで自分の体のように操れるんですよね。不思議です」


「やっぱり魔法関連のことっていうのはよく分からないものなんだな」


 そんな会話を交わしていると、テントのようなものが何個も乱立している平野が見えてきた。


「あ、あそこですか?」


「多分な、とりあえず一旦止まるか」


 降りてみると、やはりそこには騎士や冒険者たちが沢山集まっていた。


 その中に一際目立つ少女が二人、俺たちに向かって手を振っている。


「おーい、お姉ちゃん達!こっちこっち!」


「あ、ユニラちゃんにルニラちゃんです!おーい…って、うわぁ!?」


 ミナミが二人に手をふろうとすると、上空から何かが落ちてきた。


「お、お姉ちゃん!?」


「ユニラちゃん、ルニラちゃん!会いたかったです!寂しくなかったですか?」


「ちょっとアイリス、何急降下してるのよ!あと私にももふもふさせて!」


「僕にも触らせて!」


 あの君たち、ここ公共の場なんだけど…?あとさ、騎士の人とか冒険者さん達がこっちのことすっごい目で見てる!


 うわコイツら副団長様になにやってんの的な目で見てるから!いいから気づいてくれ!空気的に声が出せないんだよ!っていうかなんか恥ずかしいから話したくない。


「ぬ、主ら、何をやっておるのだ…いいからユニラ、こやつらに防具を渡してやれ、頼んでおいただろう?」


「あ、王女様!うんあるよ!ちょっとまっててね…」


 そう言うと、ユニラは地面に魔法陣の描かれたシートのようなものを敷き、それに手を翳した。


 すると、魔法陣が光り輝き、光の中に何人分かの防具が現れた。


「これは着た者の体に合わせて大きさが変化する鎧だからな、サイズに関しては問題ないだろう。どうだ?動きやすいか?」


「おお、結構軽いんだな。だけど防御力はかなり高いみたいだ」


「これ騎士の防具と同じでしょう?さすが騎士団の防具ですね!」


 ギルドカードには、ステータス欄があるのだが、その魔術防御力と物理防御力がずば抜けている。


 今までは初期装備毛が生えた程度だったのに、これが騎士の防具か…。


「て、お前らも早く着ろよ」


「うるさいわね、もっとモフモフしてたいのよ、文句ある?」


「もう放っておきましょう。私達はモフモフをモフモフしていればいいんですよ!ねー、ユニラちゃん!」


「でも、もう行かないといけないよ?」


「またまたー、そんなこと言ってもここは素直ですよ?」


 そう言うと、アリスはユニラの耳の内側をクリクリと指で撫でた。


 その度、ユニラの耳がピクピクと動いている。さっきのセリフ、なんか誤解を生みそうで怖いのだが…。


「ふぁ、お、お姉ちゃん、そ、そこは…!」


「知ってますよ、獣人種は聴覚や視覚、嗅覚が極めて高いんです。つまり、そこには感覚神経が過剰に集まっている…。まさに性感帯と言ってもいい所!ほら、我慢しなくていいんですよ?」


「ほ、本当?我慢しなくていいの?」


「はい、いいですよ」


「な、なら…本当は気持ちいい…お姉ちゃん、もっと、もっとしてぇ…?」


「は、犯罪的な可愛さです…!」


 そんなことを言いながら、ユニラはアリスによがっていた。いや、犯罪的なのはアリスなんだが…。


「こ、こうかしら?ルニラちゃん、気持ちいい?」


「は、はい…ティナさん…。ふにゃ、気持ちいいです…」


「ぼ、僕にも触らせて!」


「り、両方なんて…刺激が強いですよ…!」


 何これ、犯罪集団かな?俺は今のところ唯一近くにいるまともな人間であるミナミに話しかけた。


 いや、いつもならアリスやシュガー、ルキア辺りがまともなのだが、シュガーは何やら防具を着るのに手間取っており、エルマとリリスがそれを手伝っている。


 なんか、二歳児の子供に服を着させる夫婦のように見えてくる。


「なぁ、もう行かないか?」


「あ、はいそうですね。もう行きましょう。もうあれはまともじゃないですよ…」


 俺達はエギルにもう行こうと話しかけた。エギルも状況を察したらしく、出発を許可した。


「さて、それを着込んで出発だ。早く行って蹴りをつけよう」


「そう簡単に行けばいいけどな」


 俺は少々皮肉っぽく言ってみた。いや、簡単には行かないことは分かっている。


「じゃあ手筈通り行くぞ、一時退散!」


 俺がそう叫ぶと、騎士や冒険者たちはアーマーヒュドラの潜む森の方向に騎龍を走らせた。今朝の演説のおかげで、なんとか騎士達は俺の作戦を信じてくれたようだ。


「俺達も向かう、ミナミ行くぞ!」


「はい、仰せのままに!」


 少し遅れ、俺達も禁忌の森と呼ばれるアーマーヒュドラが潜む森に向かった。


 だが、俺達はまだ知らなかった。この周辺は、魔物の生息地だったことに…。


 3


 俺達が異変に気が付いたのは、森に入ってしばらくした時だった。


「なぁ、なんかモンスター少なくないか?」


「ですね、コボルトもゴブリンも、全然見当たりません。こういう深い森では、出会わない方が珍しい言って言われてるくらいなのに…」


「不気味なくらいまでに静まり返っているわね、動物も何も居ないなんて」


「お前、さっきまで何してたんだよ、傍から見れば犯罪者だったぞ?」


「う、うるさいわよ!」


 いや、それは俺も思った。だが、そんなことを嘴ればとんでもない目に合いそうなので黙っておこう。


 すると、俺の前を走っていたティナ達の騎龍が急に止まった。


「あ、危ないな!」


「ちょっと、これ見て!」


「こ、これは…血溜まり!?」


「なぜこんな所に…」


 俺達が戸惑っていると、上空からシュガー達が降りてきた。


「皆、この森やっぱり変。モンスターが居ないし、その血溜まり、死体がない」


「捕食…でしょうか?魔物は魔力を得るために、睡眠と捕食の2つの手段を取るんです」


「恐らく、モンスターの大半は食い殺されたんだろうね、ここから大分危険度が増すよ。この血痕、まだ新しい…」


「はぁ、面倒なことになってないといいけど…」


 面倒なこと?もう充分面倒なことにはなっていると思うのだが?


「面倒なことってなんだ?リリス」


「捕食を繰り返し、一定量魔力を蓄えると成長することがあるのよ。運が悪ければ進化…なんてこともあるかしら?」


「考えたくもないですよ、そんなこと…」


 それより、俺はあることに気がついた。草むらの向こうに、俺たちの数十倍大きな足跡があったのだ。


 そして、その周りには無数の三本指の足跡…。なんだこれ?


 …ん?待てよ、ヒュドラって巨大な九つの頭のあるウミヘビじゃなかったか?この世界のアーマーヒュドラって奴には足があるのか?


「なあ、もう一つ聞くがアーマーヒュドラって奴には足があるのか?あとこれを見てくれ」


「いや、ないはずですけど…って、これはもしかして…!」


「ああ、今回の件、もっと厄介なものが係わっているらしいね」


「ええ、この特徴的な足跡…。間違いないわ、『深きものども』ね」


 深きものども?深きものってあれか?顔が魚で全身が鱗に覆われてる人型の奴。確か神話上の怪物だったか?


「でも、この一際大きい足跡も?」


「いや、違う。この大きさ、多分…深きものどもの王にして、有一種『ポイズンダゴン』。聞いたことはあるけれど、まさかここまで来てたなんて…」


「そんな危険なもの、なんで討伐対象じゃなかったんだ?でかいだけじゃないんだろ?『ついでに一緒に倒しといて』とか言われそうだけどな、あの王女様なら」


「オルガ、ポイズンダゴンは争いを好まない。ただ湖の底に眠り、その湖を汚染する。その住処を探している時に出来た足跡」


 ダゴンと言われればヒュドラと同等に扱われる存在。ダゴンが雄で、ヒュドラが雌だった気がする。


 無駄な争いを好まないのならば関わらない方がマシ、そういう事だろう。


「ここ一帯で湖があるのは一箇所だけ、アーマーヒュドラの活動領域も湖のほとり、なにがいいたいかわかる?」


「そいつら二体とも相手をしなきゃならないかもってことか…」


「それと深きものどもってやつもな」


 ああ、確かにこいつらの言う通り、一層面倒な事態になってしまったようだな。


 すると、背後からガサガサという音が聞こえてきた!俺達は慌てて騎龍に跨り、戦闘態勢に入る。


「た、助けて…くれ…」


「ど、どうしたんですか!?騎士さん…ですよね?」


「ああ、お前達は…確か、冒険者だよな…。早く…騎士団長たちを…助けてやってくれ…」


「ミナミ、回復魔法!」


 俺はミナミに藪からでてきた騎士に回復魔法をかけるように叫んだ。ミナミは慌てて回復魔法をかける。


「あんた、プリーストだったのか…助かったよ。あんた達、昨日は済まなかったな」


「いや、いいんですよ。動けますか?」


「ああ、大丈夫だ」


「それより、どうしたんだ?そんなボロボロでやって来て」


 騎士は相も変わらず真剣な口調で、そして少し慌てて早口になって俺たちに話した。


「深きものどもだ。ここを真っ直ぐに行ったら、平原があるんだ。そこに大量の深きものが居る。その奥に、アーマーヒュドラの身を潜めている神殿の湖があんだ。だから、俺達はそれを切り開こうとしていたんだが…」


「倒しても倒してもキリがない…でしょう?」


「そうだ、何故わかった?」


「これを見てください。この足跡、ポイズンダゴンのものです。ヒュドラだけでは深きものどもは操れないでしょう?召喚することも出来ないなら、もう一体なにか絡んでいると考えるのが普通だと思うのですが?」


 いや、でもちょっと待て、一昨日読んだ資料の中に深きものどもなんてあったか?


「今日が初めてだったんだ、深きものが現れたのは。だから対処しきれず、俺は恥ずかしながら…」


「そういう事か…分かった、今から平原に行ってくる。あんたはどうする?」


「俺もついて行くさ…というか、もうすぐそこだ。騎龍を使わなくても、一分もかからないだろう」


「ああ、ゆっくりでいいからな」


 俺達は騎士を置いていき、平原へ向かった。人の足で一分ならば、騎龍に乗れば数十秒だろう。


「見てください、森を抜け…ま…す…」


「お、おい、なんなんだよこれ…」


 俺が見た光景は地獄のような場所だった。


 4


 倒れる骸、おびただしい量の血、血なまぐさい匂いが鼻腔を刺激し、むせ返りそうになる。


「なんなのよ…これ!」


「まじかに見ると酷いものだな…」


「こんなの…見てられないよ…」


 その時、俺は妙なことに気がついた。騎龍の死体がない。そして、倒れた騎士達も何やら地面に埋もれていっている。そして、俺たちの乗っていた騎龍も沈んでいっていた!


「どうなっているんだ、これ!?」


「と、とりあえず降りましょう!このままでは飲み込まれてしまいます!」


「そうだな、騎士達の死体はまだ沈んでいないみたいだし、降りても大丈夫だろう!」


 俺達は騎龍を降りて、一旦元来た方向へ向かわせた。


「これは沼か!だから重いものから下に沈んでいくんだ!」


「見てください、あれ!何かがこちらにやってきます!」


「なにあの気持ち悪い生物…見たこともないんだけど」


「あの魚と人を足して二で割ったようなのが深きものどもだ。アイツらを倒すぞ!」


 その時、ドゴンッ!という音とともに、泥が辺りに飛び散った。何かと思って前を見ると、そこには金髪の長髪をポニーテールで結んだ少女、リリスの姿があった。


「お前、なぜ降りてきたんだ!飛んでいる方が安全だろ!?」


「私の魔法、ほとんどが近距離戦闘用なのよ。でも最大の武器を封じられるのは痛いけどね」


「何だ、最大の武器って、ラスト・チャームの事か?」


「ええ、そうね。でもアイツら理性なんてないから、欲情することも無いし、言いなりにも出来ないのよ」


 そう言いながら、リリスはどこから持ってきたのか、鎌を構え、「来るわよ!」と叫んだ。いや、狙って言っているんじゃないんだが…。


「オルガとミナミは後衛!それ以外の奴らは前衛固めろ!ティナ、お前武器は?」


「私の武器はね、これよ」


 そう言うと、ティナは米粒のようなものを取り出した。なんだこれ?ぶつけて使うのか?


「なぁ、ふざけてるのか?」
「いや、単機で使うものじゃないわよ!これはこうやって使うの」


 そう言うと、何やら虫のようなものがティナの身体中から出てきた!キモッ!?


「マジでなんだよこれ…」


「マイクロマシンの一種ね、脳内に埋め込まれたチップで自動で動くのよ」


 本当、集団恐怖症の人が見れば発狂するんじゃなかろうか。でも、これかなり使えるな。


「あと…ちょっとは後方注意しておいた方がいいんじゃないかしら?」


「え?」


 その時俺は気がついていなかった。背後からやってきた深きものどもの存在を。


 襲いかかろうとしたその瞬間、ティナのマイクロマシンが深きものどもを貫いた。


「全く、余裕そうだなユウマ」


「ちょっとは周りに気を配った方がいいわよ」


「こんなに大量なのに、どこをどう気をつければいいんだ?」


「やってきたものを落とす、それだけでいいのよ。そう、こんなふうにね」


 リリスはそう言うと、飛びかかってくる無数の深きものどもに向かって鎌を振った。


 すると、深きものどもは真っ二つになり、地面に落ちていく。いや、こんなの無理だろ!?


「ふぅ、ここらの奴らは今ので全部みたいね、とりあえず苦戦してるところに加勢しに行きましょうか」


「そうだな、急ぐぞ!」


「なんであんたが牛耳ってるのよ!」


「お兄ちゃん、私はどこまでもついて行きますよ!」


 俺はいつも思う、ミナミの俺に対する愛情が重い。いつか拉致監禁溶かされないよな!?


「あはは、相変わらずだね」


「本当にそうだな、ここで命が尽きるかもしれないのに」


「物騒なこと言うなよ、必ず生きて帰るぞ!」


『おー』


 俺がミナミたちに呼びかけると、少し気の抜けた返事が返ってきた。いや、なんか締まらないな!こんなので大丈夫なのか?

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