転移兄妹の異世界日記(アザーワールド・ダイアリー)

Raito

第5話:軟弱兄妹と魔王の刺客

 1


 あれから、俺たち四人はパーティとしてギルドに認められ、宿は四人部屋に移動。正直、俺はもう別の部屋で眠りたいのだが、例のごとくミナミが喚いた為、仕方なく同じ部屋で眠ることに。


 ルキアにはなんとかもといた宿で過ごしてもらいたかったのだが、やはりここでもミナミが、「同じパーティなんですから、同じ部屋で過ごし親密度を高めるべきです!」という完全なる独自理論を見解していた。


「ゴメンな、こいつのわがままのせいで。俺も、なるべく外出するようにするから」


「いや、僕のことは気にしないでいいよ。僕も兄がいるし、異性には慣れてるから」


 いや、そういう問題ではない気がするのだが…。


「むぅ、角とられた…」


「ふっふっふっ…シュガーちゃんでも容赦しませんよ!」


 どうやら、この世界にもオセロはあるようで、ミナミとシュガーが遊んでいた。


「よし、形成逆転」


「最終奥義!『卓袱台返し』!」


 そう叫ぶと、ミナミはオセロ盤をひっくり返した!駒がバラバラとあたりに飛び散る。


「ミナミ、それ反則」


「アッハッハ!私の地元ではこれは秘術であり、最終奥義!言ったでしょう!容赦はしないと!って、あだぁ!?」


「相手は子供だぞ。ちゃんと勝負してやれ」


 大人気ない事をしているミナミに、俺が背後から手刀を入れる。


「私、子供じゃない」


「え、どういうこと?」


「あ、いや、なんでもない!シュガー、ちょっとこっち来い」


 俺は、シュガーを宿の廊下に呼び出した。


「いいか、お前は、仮にも元魔王だ。この世界の住民の前では、なるべく子供を演じろ。少なくとも、本名と年齢だけは言うな。分かったか?」


「うん、分かった。気をつける」


「よし、絶対だからな?」


 俺が念を押してもう一度シュガーに言い聞かせた。


「うん、絶対」


 本人も理解できた様なので、部屋に戻る。


「あ、二人とも、何話してたの?」


「い、いや…お前には関係ないことだよ」


 バレたら大騒動になるに決まってる。元魔王なんて、重罪人もいいところだ。


「そ、そっか。深く詮索はしないでおくね」


「お、おう、それなら助かる」


「お兄ちゃん、オセロやりましょうよ!」


「言っとくけど、卓袱台返しはなしだからな」


 案の定、その3分後、ミナミの卓袱台返しは炸裂した。


 俺はもうミナミとはオセロはしないと心に誓った。


 2


 その翌日、何やらギルドが騒がしかった。と言うのも、朝方、ギルドから緊急招集をかけられたからである。


 この様なことが日常茶飯事なのかは俺には分からないが、ざわついているところから、そうそう多くないことなのだろう。


「皆さま、お集まりいただき感謝致します!
先ほどの未来予知の結果、この村に災いがやってくれることが予知されました!」


「なあシュガー、あの未来予知ってのはあれか?未来が見えるのか?」


「まあ、術者の腕によるけど、緊急招集掛けるくらいだし、結構あてになるかも」


 たしかに、シュガーの言っている通りだ。


「災いは、魔王軍によるものだと思われます!皆さま、戦う手段がある方は村正門付近へ、ない方は即刻避難してください!」


「お、おい、俺たちはどうする?戦う手段なんてあるか?」


「残念ながら、私たちの力では魔王軍になんて敵うはずがありませんよ!?避難を急ぎましょう!」


「流石にそうだね、僕も避難に賛成するよ」


 俺たち三人の意見が一致したところで、シュガーが口を開いた。


「私は、迎え撃つ」


「何言ってるんだシュガー!敵いっこないって!」


「そうですよ!相手はあの魔王軍ですよ!?」


 たしかに、シュガーの言いたいことは分かる。恐らく、自分の仇の相手だ。


「止めないで。最低でも、みんなが避難しても、私だけは戦う」


 俺は、シュガーの言葉に、嘘を感じなかった。こいつ、本当に一人だけでも戦うつもりだ。全く、つくづく世話をかけさせるやつだ。 


「わかった、俺も戦うよ」 


「お、お兄ちゃん!?正気ですか?」


「ユウマ、無茶だよ!敵いっこないって言ってたじゃんか!」


「こいつ一人置いてくわけにもいかないだろう。それに…」


 俺は、正直今から言うことは、自分らしくないかもしれない。いつも嫌なことから逃げてきた俺だか、今回ばかりは格好を付けさせてもらう。


「俺たちパーティだ。仲間が一人でも残るって言うなら、俺は地獄にでも付き合うぞ」


「ゆ、ユウマ…」


 すると、ミナミがいきなり涙を流しながら、笑い出した。


「アッハッハ…お兄ちゃんらしくないですね!でも…」


 そう言うと、ミナミは、涙を拭き改めて話し出した。


「確かにそうです。お兄ちゃんの言う通りです。それに、私はお兄ちゃんに一生ついていくって決めてますから!付き合いますよ!」


「お前が言うと、なんか違う風に聞こえるんだけど…。まあいい、心強いよ」


 俺の言葉に、ミナミは頬を膨らませた。


「違う意味とはなんですか、違う意味とは!今回は疚しい気持ちはありませんよ!」


「今回以外はあったのかよ…」


 俺たちの会話を聞いていたルキアが、話しかけてきた。


「無論、君たちが残るなら、僕も残るよ。クエストにもまだ行ってないしね」


「じゃあ、これが私たちのパーティの初クエスト?」


「難易度高すぎだろ…まあいい。みんな、準備はいいか?」


 俺の言葉に、三人全員が答えた。


「いいよ」


「オッケーです!」


「いつでもいいよ!」


 こうして見ると、こいつらはかなり頼もしいものだ。


「じゃ、初クエスト、魔王軍撃退!張り切っていくぞ!」


 3


 俺たちは村の正門に集まった。


「お力添え、感謝致します!必ずや、魔王軍を撃退しましょう!」


 そう呼びかけられ、戦うメンツは、一斉に声をあげた。


「すごい気迫だな。シュガー…おい、シュガー、どうかしたか?」


 すると、シュガーは人差し指を立て、遥か彼方を指した。


「あれ」


 見ると、黒雲が村の方に迫ってきていた。


「みんな、攻撃に備えろ!」


 誰の声かはわからないが、皆が武器を構えた。すると、遥か上空の暗雲の中に、黒のタキシードに身を包んだ男が現れた。


「我が名はルーン!魔王軍幹部『八黒星』が一人、ガルア様の使い魔、ヴァンパイアのルーン!このチンケな村は、魔王様の素晴らしき計画の礎となる!さあ、手始めに全員八つ裂きにしてくれようぞ!」


「飛び道具、撃てぇ!」


 その叫び声が轟いた瞬間、無数の弓矢が上空に放たれた。


 だが…。


「ふん、このようなものが通じるとでも思っているのか!?低脳で愚かなる人間ども!」


「魔法攻撃、撃てぇ!」


 様々な魔法が飛び交い、何発かは当たった。


 …はずだった。


「効かんなぁ、そろそろこちらからもやらせてもらうぞ!『ダークネス・ブレード』!」


 手に持っていた剣を振るい、黒い波動のようなものがこちらに飛んでくる。


「みんな、下がって!」


 ルキアは、そう叫ぶと盾を構え、黒い波動を受け止めた。


「ほう、耐えたか」


「す、すごいです、ルキアさん!」


「鬼だから、腕っぷしだけは強くてね。でも、盾はあと一回耐えるのが限界かも…」


 どうする?あいつは相当やばい!チャンスはあと数秒だ!えっと…。


「なあミナミ、あいつ自分のことヴァンパイアって言ってたか?」


 俺がミナミに尋ねると、ミナミは答えた。 


「多分そう言ってましたけど、どうするんですか?」


「よし、ありがとう!皆さん、聞いてください!今からあのヴァンパイアを閉じ込めます!力を貸してくれますか?」


 俺が呼びかけると、一人の剣士風の男が俺に聞いてきた。


「力を貸すのはいいが、本当にうまくいくのか?」


「ええ、必ずうまく行きます。いや、うまく行かせます。まずは、次のやつの攻撃を待ちます。あと一回は耐えられますから、その次の合図で…」


「わかった、やってみよう。みんな、力を貸してくれるか?」


 そう剣士風の男が呼びかけると、全員が「オォー!」と声をあげた。


「何を企んでいるのかは知らんが、所詮人類!猿に何ができる!!」


「あんまり人類舐めるなよ、コウモリ野郎が!ルキア、なんとか耐えてくれ!」


「うん、でも今回で限界だよ!」


「大丈夫、今回で終わらせる。シュガー、超強力な風属性魔法持ってるか?雲まで届きそうなやつ!」


 俺の質問に、シュガーの予想どうりの答えが返ってきた。


「うん、持ってる」


「じゃ、演唱始めといてくれ。なるべく時間は稼ぐ!皆さん、準備はいいですか!?では、打ち合わせ通りに!」


 俺がそう言った瞬間、魔法使いの人たちが一斉に水属性魔法を放った。


「な、何!?出られないだと!?」


「おいルーン、お前は致命的なミスを犯した。自分の弱点を把握していなかったことだ。どこの世界でも、吸血鬼は、流水を超えられないって相場が決まってるんだよ!」


「ば、馬鹿め!これでは我を閉じ込めることはできても、殺すことはできんぞ!」


 確かにそうだ。だが、こちらには切り札がある。


「あともう一つ、教えてやるよ。お前は俺たちを舐めすぎている。せめて昼間ではなく夜に来るべきだったな」


「な、何を言っている!?」


「演唱終わった。いつでもいける」


 どうやら、シュガーの演唱が終わったらしいので、種明かしと行こう。


「いいぞ、やってくれ。おいルーン!お前にわかるようにもう一度言ってやるよ!」


 俺は、シュガーの魔法が発動したと同時に、口にした。


「チェックメイトだ」


「『ウィンド・エクスキャリバー』!」


 シュガーがそう言った瞬間、暗雲が真っ二つに割れ、太陽の光が差し込んだ。そう、二つめの弱点は…。


「太陽光だよ。大抵のヴァンパイアは、太陽光を浴びると灰になる」


「そんな馬鹿な!?このような強い魔力を持つものが、どうしてこんな村にいるのだ!?おの…れ…人…類…」


 そう言うと、案の定ルーンは灰となって消えた。


 その次の瞬間、歓声が上がった!どうやら、シュガーは魔力切れの状態で胴上げをされているようだった。


「あいつ、大丈夫かな?」


「大丈夫じゃないですか?これにて一件落着ですよ!」


「でも、すごいよね。シュガー、あんな大魔法使えるなんて、知らなかったよ」


「あ、あぁ、そうだな」


「皆さん、お疲れ様でした!報酬は、一万ルナですよ!」


 一万ルナ!?そんなにあったら何ができるだろう!宿屋四人で一泊百ルナだから…。ざっと百日分!?四人合わせて四百日分だ!


「あはは…あはははは…」


「お兄ちゃん、私でもさすがにいきなりそんな笑い方されたら引きますよ?」


「う、うるさいな!報酬受け取ったし、もうシュガー連れて帰るぞ。早く宿で休みたい」


「一万ルナで、新しい盾買わないと。装備もぼろぼろだしね」


「それはまた今度だな!あー、早く風呂入って寝たい」


「お兄ちゃんほぼ指示してただけじゃないですか。なのにあんなに偉そうに大口叩いて…」


「司令塔は必要だろ?あと、その言葉そっくりそのままお返しするぞ。それとあれは挑発だ」


「そんなことないですよ!裏で回復魔法皆さんにかけてたんですから!」


 ふふーんと自慢げに鼻を鳴らし、胸を張っているが、正直今は一秒でも早く宿で休みたい。


「あ、お前今回影薄いから、シュガー背負って宿まで運べよ」


「酷すぎません!?」


「それは酷いよ!?」


 ルキアとミナミの声が盛大に被った。


 4


「ねえ、アーズ。あなたの使い魔、死んじゃったみたいじゃない」


「それがどうしたの」


「たった一人の使い魔なのに、愛着とかないわけ?」


「使い魔なんて所詮道具に過ぎない」


「あら、ひっどーい」


「いちいち愛着なんて持ってられない。それに、今回油断しなければ確実に勝てたはず」


「…いや、案外そうも行かなかったみたいよ。あなたも気づいてたでしょ?」


「あれだけの高等魔術、いったい誰が?」


「元魔王様だったり?」


「…。」


「いやね、冗談よ…」


「でも、もしもそうならば…」


「まずは、私が下調べに行きましょうか?楽しめそうな奴がいるのは確定だし」


「ええ、そうね、お願いするわ」


「お願いされる筋合いはないけど、この世に魔王はあの方一人で十分。二人目以降は殺すまでよ。この『八黒星』が一人、マキュリ様がね!」

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