転移兄妹の異世界日記(アザーワールド・ダイアリー)
第3話:駆け出し兄妹の初クエスト
1
この小さな町の名は、イグラット。なんの変哲も無い、のどかな町。
俺たちはこの町、いや、この世界に来てもう一週間が経とうとしていた。
季節は夏真っ盛り、この世界にも蝉は存在するようで、本日も望んでもいない大コーラスを早朝から繰り広げていた。かく言う俺たちは…。
「あ〜つ〜い〜」
「う〜る〜さ〜い〜」
やはり、san値が削られていた!
「妹よ、どうして夏はこんなに暑いのか、考えたことがあるか」
「お兄ちゃん、今そんなことどーでもいいですから、ちょっとクエストにでも行って、金稼いで来てくれませんか?」
「俺はお前の兄だ、パシリじゃない」
俺たちは、カーテンを締め切り、絨毯の上にて、『第23回:夏はどうして暑いのか会議』を、最短記録である約15秒で終わらせた。第一回、二回くらいまでは、それなり盛り上がりを見せていたこの会議。
最長記録3分。元の世界では、カップラーメンができるまでの暇つぶし程度の需要があったこの会議も、そろそろ潮時なのかもしれない。
ついこの間までは、「クエスト楽しみだな」とか思っていた俺たちイリヤ兄妹だが、もうそんな事どうでもいい。とにかく楽に過ごしたい。
「ねぇ、二人とも。ちょっと困ったことがあるんだけど」
ドアを開き、シュガーが入って来た。
「どうしたんだ、自由研究の内容が決まらないのか?」
「違いますよ、読書感想文が終わらないんですよーきっと」
俺とミナミがそんなことを言っていると、
「ううん」と、首を横に振った。
「私は夏休みの宿題が終わらない小学生じゃない。そんなことより、きちんと聞いて」
ゴクッと、俺たち二人は唾を飲んだ。
「ついに貯金が尽きて、もう宿に払える金がなくなって来てる。このままだと、野宿」
…。
『いやダァァァァァァァァぁぁぁ!!』
俺たちのsan値は、その言葉で一気に0寸前まで削られた。絨毯の上を叫びながら転げ回る。冗談じゃない!こんな炎天下の中、野宿なんてごめんだ!
「もっと引きこもる!俺はこの世界で、異世界スローライフを満喫するんだー!!」
「私だって、お兄ちゃんと一緒に愛のある家庭を築くんですよー!」
俺たち兄妹の意思は、そう簡単に揺らがない。そのことはシュガーも知っている筈だ。こんな炎天下の中、外に出るなんて阿呆がすることだ。
「ねえ、ミナミ」
シュガーは、なぜかミナミに声をかけた。何のつもりだろうか?ミナミは、転がり回るのをやめ、寝転がったまま、シュガーに視線を向ける。
「何ですか」
「いま、この季節ってとっても暑いよね?」
本当に、あの質問になんの意味があるのだろう。ミナミも、意図がわかっていないようでハテナを浮かべていた。
「どういうことですか」
「運動したら汗をかくよね?」
「まあ、かきますね」
なんだろう、少し嫌な予感がする。本能がそう囁いている。
「毎日、ユウマの洗う前の下着とか、匂い嗅いでるよね?」
…。
嫌な予感は的中した。
その次の瞬間、ミナミが血相を変えて俺の肩を揺さぶってきた!
「お、お兄ちゃん!行きましょう!クエスト、早く行きましょう!こんな不健康的な引きこもり生活なんて、体に良くありませんよ!」
「お前、不健康以前に不健全だろ!下心丸出しじゃねぇか!なんだよ!俺の下着の匂いを嗅ぐって!」
だから、こいつ前からずっと「洗濯物は私が洗います!」とかいってたのか!
こいつがブラコンなのは自覚していた。だが、ここまで悪化していたとは…。
そんなことを考えていると、シュガーが口を開いた。
「ユウマ、この世界にも多数決はあるんだよ?諦めてクエストに行こう」
「せめて、俺の下着は守ってくれ…」
俺は、初めて妹に身の危険を感じた。
2
さて、この世界の魔法について少し話をしよう。
この世界には魔法屋と言われる人物が存在する。
それらの人物は大体は属性によって別れている。例えるなら、『火の魔法屋』とか、『水の魔法屋』とか。
それらの人物から魔法を教えてもらったり、魔導書を購入したりする。
魔導書とは、いくつかの魔法の使い方を記された書物だ。その分値は張る。
ちなみに、俺の腰に携えた剣とミナミの杖はシュガーの過去に使っていたものらしい。
刃こぼれとかはしてない。新品と言われても疑わないような感じだ。素人目の俺が言うのもなんだが。というか、昨日はビビった。この二つを同時に出した瞬間、倒れるんだから。よっぽど眠かったのか?
ちなみに、魔法は魔鉱石と言われるものを媒体に発動させる。大体は剣や杖などに仕込まれている。
こんな炎天下の中、初クエストに旅立つ俺たちを、蝉の鳴き声のファンファーレが祝福する。道中、なんども帰りたい衝動に駆られていたが、なんとかギルドに到着。
「うーんどれがいいかな?」
「あ、これならどうですか?『炎のスライム討伐クエスト、報酬5000ルナ』ってやつ」
「なかなか割りにいい報酬。うん、これにし…」
「却下」
俺は即答した。確かに、スライムは雑魚敵だ。だが、そんな近寄るだけでも暑苦しいようなモンスター、冬になるまでごめんだ。
「じゃ、お兄ちゃんが決めてください!」
「そうさせてもらおうか。お、このクエスト良くないか?『ゴブリン10体討伐クエスト、報酬2000ルナ』よし、これにしよう」
「お兄ちゃんがそれでいいならいいですけど…」
「私もそれでいい」
「じゃこれにするか」
取りあえず、スライムに続く雑魚敵、ゴブリン討伐クエストを選んだ。
張り紙を剥がし、ミナミに託す。ミナミは不思議そうに尋ねて来た。 
「あの、なんで私に渡すんですか?」
「い、いや、こう言う接客業は、お前に適任だなって」
「いや、これ私たちが接客されるんですが…」
「もういいから、早く行って、おねがいだから、な?」
「わ、分かりました…」
半分強引に、ミナミに受付まで向かわせた。
「ユウマ、悪党」
「う、うるさいな、俺ああいうの苦手なんだよ」
しばらくすると、ミナミが帰って来た。
「これ、貸しですから、いつか体で返してくださいよ」
「体では返さないけど、後日なんか奢ってやる」
「なら、バジルシードドリンク!バジルシードドリンクを所望します!」
「それはやめとけ、お前のためだ」
「ユウマ、以外といいやつ」
「お前の人の見方って、コロコロ変わんのな」
ミナミは、少し落ち込んでいたが、あとで後悔するよりかはいい。
3
「なんで見つかるまで徒歩で移動なんだよ。これって、見つかるポイントの近くくらいまでワープするのが普通じゃないのか?」
「しょうがないですよ。事実、こうして歩いて向かってるんですから」
俺たちはゴブリンを探すべく、森にやってきた。にしても、なかなか見つからない。本当にこの森にいるのか?
すると、河原のほとりでミナミは声を上げた。
「…っあぁ、お兄ちゃん、シュガーちゃん、あれ!」
「どうした?」
ミナミの指差した方向には、小柄な体型、緑の肌、手には剣やら、弓やら、槍やらをもっている、典型的なゴブリンの姿があった。
「でかしたぞミナミ!」
取り敢えず、茂みに隠れて様子を見る。
「どうする、奇襲かけるか?向こうは気づいてないみたいだが」
「私が魔法で奇襲をかける。ユウマは、残ったゴブリンを切っていって。ミナミは、離れた場所で後方支援」
「了解」
「はいです!」
おお、なんだかゲームっぽい!あんだけイヤイヤ言ってても、いざとなれば楽しいものだ。
「じゃ、私から…、アクアウェーブ!」
シュガーがそう叫んだ瞬間、大量の水が、ゴブリンたちを襲った。次々と倒れていくゴブリンたち、もう俺たちの出る幕は無さそうだ。
「終わったな」
「終わりましたね」
全てのゴブリンを倒し終え、クエスト達成。
っと、同時にシュガーがふらっと倒れてしまった。地面の寸前のところで、受け止める。
「お、おい、大丈夫か?なんで倒れるんだ?」
「大丈夫、ちょっとした魔力切れ。魔王の時の魔法は使えるけど、魔力量が少ないから、毎回倒れちゃうの。ごめんね、世話かけて。ちなみに、魔力量はいわばMPみたいなもので、尽きると動けなくなるくらいの脱力感に襲われる」
「いや、いいよ、休んでろ。ミナミ、手かしてくれるか?こいつは俺がおぶって帰る」
「はい、分かりました!」
ミナミがシュガーを俺の背中に乗せ、そのまま、歩き出す。
「軽いな、シュガー」
「そりゃ、見た目は小さな女の子ですから」
ほんと、ちょっと大きな荷物を背負ったくらいの感覚だった。
体育の成績オール2だった俺がいうのだから間違いない。
ミナミはそこそこ体重があるため、持ち上げることすらできない。俺の力がないからなのだから仕方ないのだが、にしても、本当に…。
「ミナミとは大違いグハァ!」
俺の心の声が漏れていたのか、ミナミから腹パンが飛んで来た。
「お兄ちゃん、もう少しはデリカシーというものを考えましょうね…?」
「はい、すいませんでした…」
こいつ、後ろに人背負ってるの知ってて、本気で腹パンしやがった!
4
なんとか宿までたどり着き、シュガーを寝かせる。どうやら、いつの間にやら、眠ってしまったらしい。
「なあミナミ、今って結構夕食まで時間あるよな」
「まあ、そうですね。なら、今から町をぶらつきませんか?ほら、奢ってももらってませんし!」
「うーん、シュガーひとりで大丈夫か?」
「大丈夫ですって!だって元魔王ですよ?」
この前と全く逆のことを言っているが、あえて言わないでおこう。
「わかった、なんか奢ってやるからついてこい。おれは、約束は破らない主義だからな」
「そんなこといって、小学生の時、私のプリン勝手に食べたじゃないですか」
「お前まだそんなこと覚えてたのか」
「プリンの恨みは怖いんですよ!」
ミナミは「にししっ」と、笑いながら言った。宿屋を開けると、少々暮れ出した空に、ヒグラシのような鳴き声が聞こえる。少し湿った風が頬を撫で、深呼吸する。
「よし、行くか」
「はい!」
結局、奢らさせたのは、小さなネックレスだった。それ以来、ミナミは外出の際そのネックレスを身から外すことはなかったという。
この小さな町の名は、イグラット。なんの変哲も無い、のどかな町。
俺たちはこの町、いや、この世界に来てもう一週間が経とうとしていた。
季節は夏真っ盛り、この世界にも蝉は存在するようで、本日も望んでもいない大コーラスを早朝から繰り広げていた。かく言う俺たちは…。
「あ〜つ〜い〜」
「う〜る〜さ〜い〜」
やはり、san値が削られていた!
「妹よ、どうして夏はこんなに暑いのか、考えたことがあるか」
「お兄ちゃん、今そんなことどーでもいいですから、ちょっとクエストにでも行って、金稼いで来てくれませんか?」
「俺はお前の兄だ、パシリじゃない」
俺たちは、カーテンを締め切り、絨毯の上にて、『第23回:夏はどうして暑いのか会議』を、最短記録である約15秒で終わらせた。第一回、二回くらいまでは、それなり盛り上がりを見せていたこの会議。
最長記録3分。元の世界では、カップラーメンができるまでの暇つぶし程度の需要があったこの会議も、そろそろ潮時なのかもしれない。
ついこの間までは、「クエスト楽しみだな」とか思っていた俺たちイリヤ兄妹だが、もうそんな事どうでもいい。とにかく楽に過ごしたい。
「ねぇ、二人とも。ちょっと困ったことがあるんだけど」
ドアを開き、シュガーが入って来た。
「どうしたんだ、自由研究の内容が決まらないのか?」
「違いますよ、読書感想文が終わらないんですよーきっと」
俺とミナミがそんなことを言っていると、
「ううん」と、首を横に振った。
「私は夏休みの宿題が終わらない小学生じゃない。そんなことより、きちんと聞いて」
ゴクッと、俺たち二人は唾を飲んだ。
「ついに貯金が尽きて、もう宿に払える金がなくなって来てる。このままだと、野宿」
…。
『いやダァァァァァァァァぁぁぁ!!』
俺たちのsan値は、その言葉で一気に0寸前まで削られた。絨毯の上を叫びながら転げ回る。冗談じゃない!こんな炎天下の中、野宿なんてごめんだ!
「もっと引きこもる!俺はこの世界で、異世界スローライフを満喫するんだー!!」
「私だって、お兄ちゃんと一緒に愛のある家庭を築くんですよー!」
俺たち兄妹の意思は、そう簡単に揺らがない。そのことはシュガーも知っている筈だ。こんな炎天下の中、外に出るなんて阿呆がすることだ。
「ねえ、ミナミ」
シュガーは、なぜかミナミに声をかけた。何のつもりだろうか?ミナミは、転がり回るのをやめ、寝転がったまま、シュガーに視線を向ける。
「何ですか」
「いま、この季節ってとっても暑いよね?」
本当に、あの質問になんの意味があるのだろう。ミナミも、意図がわかっていないようでハテナを浮かべていた。
「どういうことですか」
「運動したら汗をかくよね?」
「まあ、かきますね」
なんだろう、少し嫌な予感がする。本能がそう囁いている。
「毎日、ユウマの洗う前の下着とか、匂い嗅いでるよね?」
…。
嫌な予感は的中した。
その次の瞬間、ミナミが血相を変えて俺の肩を揺さぶってきた!
「お、お兄ちゃん!行きましょう!クエスト、早く行きましょう!こんな不健康的な引きこもり生活なんて、体に良くありませんよ!」
「お前、不健康以前に不健全だろ!下心丸出しじゃねぇか!なんだよ!俺の下着の匂いを嗅ぐって!」
だから、こいつ前からずっと「洗濯物は私が洗います!」とかいってたのか!
こいつがブラコンなのは自覚していた。だが、ここまで悪化していたとは…。
そんなことを考えていると、シュガーが口を開いた。
「ユウマ、この世界にも多数決はあるんだよ?諦めてクエストに行こう」
「せめて、俺の下着は守ってくれ…」
俺は、初めて妹に身の危険を感じた。
2
さて、この世界の魔法について少し話をしよう。
この世界には魔法屋と言われる人物が存在する。
それらの人物は大体は属性によって別れている。例えるなら、『火の魔法屋』とか、『水の魔法屋』とか。
それらの人物から魔法を教えてもらったり、魔導書を購入したりする。
魔導書とは、いくつかの魔法の使い方を記された書物だ。その分値は張る。
ちなみに、俺の腰に携えた剣とミナミの杖はシュガーの過去に使っていたものらしい。
刃こぼれとかはしてない。新品と言われても疑わないような感じだ。素人目の俺が言うのもなんだが。というか、昨日はビビった。この二つを同時に出した瞬間、倒れるんだから。よっぽど眠かったのか?
ちなみに、魔法は魔鉱石と言われるものを媒体に発動させる。大体は剣や杖などに仕込まれている。
こんな炎天下の中、初クエストに旅立つ俺たちを、蝉の鳴き声のファンファーレが祝福する。道中、なんども帰りたい衝動に駆られていたが、なんとかギルドに到着。
「うーんどれがいいかな?」
「あ、これならどうですか?『炎のスライム討伐クエスト、報酬5000ルナ』ってやつ」
「なかなか割りにいい報酬。うん、これにし…」
「却下」
俺は即答した。確かに、スライムは雑魚敵だ。だが、そんな近寄るだけでも暑苦しいようなモンスター、冬になるまでごめんだ。
「じゃ、お兄ちゃんが決めてください!」
「そうさせてもらおうか。お、このクエスト良くないか?『ゴブリン10体討伐クエスト、報酬2000ルナ』よし、これにしよう」
「お兄ちゃんがそれでいいならいいですけど…」
「私もそれでいい」
「じゃこれにするか」
取りあえず、スライムに続く雑魚敵、ゴブリン討伐クエストを選んだ。
張り紙を剥がし、ミナミに託す。ミナミは不思議そうに尋ねて来た。 
「あの、なんで私に渡すんですか?」
「い、いや、こう言う接客業は、お前に適任だなって」
「いや、これ私たちが接客されるんですが…」
「もういいから、早く行って、おねがいだから、な?」
「わ、分かりました…」
半分強引に、ミナミに受付まで向かわせた。
「ユウマ、悪党」
「う、うるさいな、俺ああいうの苦手なんだよ」
しばらくすると、ミナミが帰って来た。
「これ、貸しですから、いつか体で返してくださいよ」
「体では返さないけど、後日なんか奢ってやる」
「なら、バジルシードドリンク!バジルシードドリンクを所望します!」
「それはやめとけ、お前のためだ」
「ユウマ、以外といいやつ」
「お前の人の見方って、コロコロ変わんのな」
ミナミは、少し落ち込んでいたが、あとで後悔するよりかはいい。
3
「なんで見つかるまで徒歩で移動なんだよ。これって、見つかるポイントの近くくらいまでワープするのが普通じゃないのか?」
「しょうがないですよ。事実、こうして歩いて向かってるんですから」
俺たちはゴブリンを探すべく、森にやってきた。にしても、なかなか見つからない。本当にこの森にいるのか?
すると、河原のほとりでミナミは声を上げた。
「…っあぁ、お兄ちゃん、シュガーちゃん、あれ!」
「どうした?」
ミナミの指差した方向には、小柄な体型、緑の肌、手には剣やら、弓やら、槍やらをもっている、典型的なゴブリンの姿があった。
「でかしたぞミナミ!」
取り敢えず、茂みに隠れて様子を見る。
「どうする、奇襲かけるか?向こうは気づいてないみたいだが」
「私が魔法で奇襲をかける。ユウマは、残ったゴブリンを切っていって。ミナミは、離れた場所で後方支援」
「了解」
「はいです!」
おお、なんだかゲームっぽい!あんだけイヤイヤ言ってても、いざとなれば楽しいものだ。
「じゃ、私から…、アクアウェーブ!」
シュガーがそう叫んだ瞬間、大量の水が、ゴブリンたちを襲った。次々と倒れていくゴブリンたち、もう俺たちの出る幕は無さそうだ。
「終わったな」
「終わりましたね」
全てのゴブリンを倒し終え、クエスト達成。
っと、同時にシュガーがふらっと倒れてしまった。地面の寸前のところで、受け止める。
「お、おい、大丈夫か?なんで倒れるんだ?」
「大丈夫、ちょっとした魔力切れ。魔王の時の魔法は使えるけど、魔力量が少ないから、毎回倒れちゃうの。ごめんね、世話かけて。ちなみに、魔力量はいわばMPみたいなもので、尽きると動けなくなるくらいの脱力感に襲われる」
「いや、いいよ、休んでろ。ミナミ、手かしてくれるか?こいつは俺がおぶって帰る」
「はい、分かりました!」
ミナミがシュガーを俺の背中に乗せ、そのまま、歩き出す。
「軽いな、シュガー」
「そりゃ、見た目は小さな女の子ですから」
ほんと、ちょっと大きな荷物を背負ったくらいの感覚だった。
体育の成績オール2だった俺がいうのだから間違いない。
ミナミはそこそこ体重があるため、持ち上げることすらできない。俺の力がないからなのだから仕方ないのだが、にしても、本当に…。
「ミナミとは大違いグハァ!」
俺の心の声が漏れていたのか、ミナミから腹パンが飛んで来た。
「お兄ちゃん、もう少しはデリカシーというものを考えましょうね…?」
「はい、すいませんでした…」
こいつ、後ろに人背負ってるの知ってて、本気で腹パンしやがった!
4
なんとか宿までたどり着き、シュガーを寝かせる。どうやら、いつの間にやら、眠ってしまったらしい。
「なあミナミ、今って結構夕食まで時間あるよな」
「まあ、そうですね。なら、今から町をぶらつきませんか?ほら、奢ってももらってませんし!」
「うーん、シュガーひとりで大丈夫か?」
「大丈夫ですって!だって元魔王ですよ?」
この前と全く逆のことを言っているが、あえて言わないでおこう。
「わかった、なんか奢ってやるからついてこい。おれは、約束は破らない主義だからな」
「そんなこといって、小学生の時、私のプリン勝手に食べたじゃないですか」
「お前まだそんなこと覚えてたのか」
「プリンの恨みは怖いんですよ!」
ミナミは「にししっ」と、笑いながら言った。宿屋を開けると、少々暮れ出した空に、ヒグラシのような鳴き声が聞こえる。少し湿った風が頬を撫で、深呼吸する。
「よし、行くか」
「はい!」
結局、奢らさせたのは、小さなネックレスだった。それ以来、ミナミは外出の際そのネックレスを身から外すことはなかったという。
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