スポットライト

三浦しがゑ

仲人⑧

会長は一瞬怪訝そうな顔を真奈美に向けたらしいが、ニヤリと笑うと、「それもそうだな」と大声で笑ったそうだ。それからは、真奈美と会長の会話が弾み、真奈美によると、会長は笑顔を絶やす事なく、真奈美との会話を楽しんでいたらしい。
 色々な話をしているうちに、会長から「明日が結婚記念日」だと聞いたそうだ。そして、「久々に家内と旅行に出かける事になっている」と会長は話したと言う。
その日会ったばかりの真奈美に、会長がかなりプライベートな話をした事にも驚いたが、この驚きは、その先の真奈美の話に比べれば、大した事はなかった。

翌日結婚記念日の旅行に出かけるという話を聞いた真奈美は「それはとても楽しみですね」と話したそうだが、会長は「それがそうでもないんだな。」と肩をすくめてみせた。「いや、じつは僕は大変な雨男でね。僕が関わるもの全てが雨。明日は家内と思い出の地に行くだが、家内からは“明日もきっと雨でしょうから、又一日、ホテルで過す事になるのでしょうね。”とチクリと嫌味を言われたよ。」
 そういえば、昨日も天気予報では晴れマークだったのに、にわかに降り出した大粒の雨に慌てて、コンビニで傘を買ったのを思い出した。

「てるてる坊主を信じますか?」
真奈美が聞くと会長は「昔々の子供の頃はそれを信じてよく作ったものだが、今そう聞かれると、うーん。どうかな?」と考え込んだらしい。そして、「それで明日が晴れるのなら、今からでもてるてる坊主を信じてみようかな。」とおっしゃったそうだ。真奈美に言わせると、会長の為に何とかてるてる坊主を作って差し上げたかったが、残念な事にそこにそれを作る材料がなかった。そして、ふと、名案を思い付いたそうだ。
「いいものが、ありますわ!。」
 真奈美はたまたまオフィスから持ってきていた黒い油性のマジックがバックに入っているのを思い出し(撮影には欠かせない物で、スタッフは常に持ち歩いている物ではあるが… )、それを取り出した。そして会長のほっぺたに、それでてるてる坊主を描きはじめた。
「これで明日はきっと晴れますわ。会長、素敵な旅行を楽しんでいらして下さい。」

コメント

コメントを書く

「文学」の人気作品

書籍化作品