スポットライト

三浦しがゑ

別れ⑨

その後、先生が写真家として大成功された事を私はどんなに神様に感謝したかしれません。幾度となく監督のお宅におじゃまさせて頂くうちに、いつしか事故の事というよりも私の個人的なお付き合いになり、あれ以来両親のいなかった私にとっては実の両親の様におつきあいをさせて頂いております。祖母は4年前になくなりましたが、お陰さまでとても幸せな最後だったと思っています。私は2年前に結婚をしました。奥様と監督にはお仲人もお願いし、不思議なご縁でここにいさせて頂いています。監督と奥様とのご縁を含めて、先生には感謝の気持ちをお伝えしたいと常々思っておりました。今日、監督を送り出すこの日にこうしてお会いできて本当に幸せです。」
 そう言うと改めて深々と頭を下げた。
 僕は、彼女のその姿を見ながら、しばらく声も出なかった。
「そうですか。そうでしたか…。」
 空いているドアの隙間から見える監督の遺影を見ながら、僕は、今まで何を見て生きてきたのだろうと思った。僕の知らない所で、僕がいかにたくさんの人たちに支えられていたのか。目に見える事実より、目に見えない
真実がいかに多い事か。大切な事なのか…。

 「僕はこの10年、あの事故に、僕の心に蓋をしてきました。あの事故の後に「助けなければ良かった」と思った僕の心の醜さが怖くて、僕はこの10年間一度もその事実に目を向けた事はありませんでした。
斉藤さん、こちらこそありがとうございました。僕にとっても今日はある意味出発の日だと思います。僕の事を忘れずに、10年間も忘れずにいて下さってありがとうございました。監督も、そして奥様も有難うございました。まさか10年たってこんな出会いがあるとは…。こんな感謝が待っていようとは、僕は夢にも思いませんでした…。」

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