スポットライト

三浦しがゑ

伴侶⑧

他愛のない話をしながら夕食が終わった頃洋子が席を立った。
「申し訳ありません。これから打ち合わせが入っていますので、一足先に帰らせていただきます。」
それから母に向かって
「お母様、お陰様でとても楽しい時間を過ごさせて頂きました。また次回お会いできる日を本当に楽しみにしています。」
と言って深々と頭を下げ店を後にした。

「いい人ね、菅ちゃん。」

 菅ちゃんが一瞬どきりとするのが見えた。
 「本当にいい人をつかまえたねぇ。」
 “何を言っているんだ?”と母を見つめる僕に、母はあきれた様に言った。
 「何ね、あんた何も気付かんやったとね?。
昔からにぶいにぶいとは思いよったばってん、こげんにぶかとはねぇ…。」
呆れた顔をして僕を見た母は、向き直って菅ちゃんを見た。
「それで、いつ結婚するとね?」
 
「結婚? 誰が? 誰と?」
 
僕は完全に拗ねていた。菅ちゃんが耳まで真っ赤にしてハンカチで汗を拭いている。
 「いや、何も先生に内緒にしていた訳ではありません。いやぁ、困ったなぁ。そのうちに必ずお話しようとは思っていたんですよ。本当です。」
 「当たり前だろ。菅ちゃん、俺達一体何年の付き合いだいよ。俺に言わないなんてあまりにも水臭い話じゃないか。」
 「いやぁ、ほんと、そんなつもりはなかったんです。お母さんも笑ってないで、助けて下さいよ。本当に人が悪いなぁ…。」

 「人が悪いのは管ちゃんの方じゃないか。それで、いつから二人の秘密の付き合いは始まったんだよ?」
 秘密という所に嫌味なアクセントをつけて聞いた。
 「もともと隠すつもりもなかったですから何でもお話しますよ。半年程前からです。先生にはすぐにでもお話ししようと思っていたんですが、先生とは毎日顔を合わせていましたから「明日は言おう、明日は言おう」と思っているうちに、逆にだんだん言い出せなくなってしまいまして…。もう、本当にすみません。」

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