スポットライト

三浦しがゑ

伴侶⑥

「どうね?あの人も菅ちゃんも一緒に4人で食事ばしようよ。あんたと二人やと、いっちょんしゃべる事もなかしね。」

母が言うのも一理ある。そしてそれは僕にとっても好都合だった。
最近の母はどうも愚痴っぽく、今日も又延々と彼女の愚痴につきあわなければならないかと思うと少々辟易していたからだ。それに洋子とは長い付き合いだとはいえ、ゆっくりと食事を取る事など数える程しかない。
「そうだな、そうしよう。」
菅ちゃんを呼びとめ4人での食事が決まった。

食事はオフィスから程近いイタリアンレストラン「ラチェーナ」を予約した。木材を中心にしたシンプルな造りで、それぞれのテーブルは、薄いオーガンジー風の布で仕切られている。半個室的な雰囲気が好きで僕達がちょくちょく利用している店だ。
洋子がいる事で随分と場が華やぎ、母も楽しそうに洋子と話をしている。見ていていつも思うが、洋子は決して押し付けがましくなく細やかな気配りをする。

彼女が初めて僕の作品を担当する事になって、彼女にはアマチュアからプロへの大きなハードルが待っていた。当たり前の事ながら、関わってもらう以上、甘えは一切許されなかった。技術的な甘さから、彼女のデザインに対してNGが出る事も多くその為に全体的なスケジュールがかなり押してしまっていた。結果として彼女のデザイン待ちで多くのスタッフが数日間徹夜をするはめになった。通常であれば、この時点で各セクションからかなりのクレームが入るはずなのだが、誰一人として文句の一つも言わず、皆彼女の為に数日間の徹夜に付き合った。それはひとえに彼女の情熱と性格によるものだと思う。
よく「スポンジが水を吸い込む様に物事を吸収する」と例えられるが、彼女の場合スポンジが吸い込みきれずに水を滴らせても、彼女は吸い込む事をやめようとしなかった。そして、その彼女の作品制作に対するひたむきさは、「作品作り」というある程度決められた日常に満足し始めている僕を含めたスタッフ全員に、物創りの原点を考えさせる事になり、忘れかけていた何かをそれぞれに思い出させてくれたに違いない。

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