スポットライト
出会い②
捨てられた寂しさだろうか、ポウはまるで僕が昔から飼い主だったかの様に僕にくっついて離れなかった。僕も今日の事、これからの事を考えなければならないのにどこに行くのも足元にからみついて離れない。もっとも6畳一間の狭いアパートだが、トイレまでついてこられたんではたまったもんじゃない。
「俺、これからどうするんだろ?」
仰向けに転がってつぶやいた。今まで10年以上野球だけの人生を送ってきた。そしてこれからもそれが続く予定だった。監督からは「最低2球団からのスカウトは間違えない」と言われていたし、事実そういった打診も少しづつ耳に入っていた。
全く、人生なんて何が起こるかわからない。
「雲行きも怪しいし、今のうちに少し体でも動かすか」と出かけたのが運のつきだった。狭い道で車が自転車に乗った老人と接触し、その老人を支えて僕も一緒に倒れこんだ。あっという間の出来事だった。これくらいの転倒は練習ではいつもの事なのに今日はかってが違った。ひどい痛みが右手首を襲った。
老人は僕の支えがあって、かすり傷ひとつなかった。
「お年寄りが転倒すると、非常にあぶないんですよ。かすり傷ひとつなかったのはあなたのお陰ですね。」
駆けつけた警察官が調書を取りながら僕に言った。本来ならば老人に怪我がなかった事を喜ぶべきなのかも知れない。でもその余裕が僕にはなかった。「助けなければ良かった」その後悔だけが僕には残った。
涙が僕のこめかみを伝ってボトボトと流れ落ちる。すると僕のそばにうずくまっていたポウが僕の涙をペロペロと舐めはじめた。
それから僕の右手に近づくと、ゆっくりと僕の手首を舐め始めた。
「僕のはいいよ。自分のを治せよ。」
自分の事しか考えられない僕と、自分の傷ではなく僕の傷を治そうとしてくれているポウの違いを考えて、今度は大声で泣いた。
その夜ポウは僕の布団の中にも入ってきた。もともと動物はあまり好きではなかったのに、どうだろう。ポウがゴロゴロと喉をならしてしつこく僕に体を寄せてくるのを、僕は心地よく感じていた。
「捨てやしないよ。安心しな。」
電気を消して真っ暗闇になった部屋で、僕はポウに言った。今までゴロゴロと喉をならしていたポウが一瞬だけそれを止めた。
それからの僕はポウの怪我を治すのに専念した。野球はやれない、この先の希望もない僕にとってポウの怪我が治るのが唯一の希望だったのかもしれない。そしてまだ、田舎の両親には怪我の事は言えずにいた。
僕はポウに手術を受けさせる事にした。
「まぁ、もしかしたら無理かもしれんがな。少しでも望みがあればと飼い主さんが希望されるのであれば、手術をしてみましょう。上手く歩ける様になればいいんだが。」
先生は言った。
ポウの手術が終わり、退院の為にポウを迎えに行った僕はポウを見て驚いた。傷口を舐めない様に大きなラッパみたいなプラスチックを首に巻かれていたからだ。ポウはそれが気になって仕方ないらしかった。
「先生、これ、外してやってくれませんか。この子は自分の傷口は舐めませんから。」
ケージから出されてプラスチックを外されたポウは上手にトコトコと僕の所に歩いて来た。そして真っ先に僕の手首を舐め始めた。
それから暫くして僕の手首の包帯が取れた。「日常生活には支障がない。」と先生が言った通り、重たいものを持たない限り、手首に痛みが走る事はなかった。
「俺、これからどうするんだろ?」
仰向けに転がってつぶやいた。今まで10年以上野球だけの人生を送ってきた。そしてこれからもそれが続く予定だった。監督からは「最低2球団からのスカウトは間違えない」と言われていたし、事実そういった打診も少しづつ耳に入っていた。
全く、人生なんて何が起こるかわからない。
「雲行きも怪しいし、今のうちに少し体でも動かすか」と出かけたのが運のつきだった。狭い道で車が自転車に乗った老人と接触し、その老人を支えて僕も一緒に倒れこんだ。あっという間の出来事だった。これくらいの転倒は練習ではいつもの事なのに今日はかってが違った。ひどい痛みが右手首を襲った。
老人は僕の支えがあって、かすり傷ひとつなかった。
「お年寄りが転倒すると、非常にあぶないんですよ。かすり傷ひとつなかったのはあなたのお陰ですね。」
駆けつけた警察官が調書を取りながら僕に言った。本来ならば老人に怪我がなかった事を喜ぶべきなのかも知れない。でもその余裕が僕にはなかった。「助けなければ良かった」その後悔だけが僕には残った。
涙が僕のこめかみを伝ってボトボトと流れ落ちる。すると僕のそばにうずくまっていたポウが僕の涙をペロペロと舐めはじめた。
それから僕の右手に近づくと、ゆっくりと僕の手首を舐め始めた。
「僕のはいいよ。自分のを治せよ。」
自分の事しか考えられない僕と、自分の傷ではなく僕の傷を治そうとしてくれているポウの違いを考えて、今度は大声で泣いた。
その夜ポウは僕の布団の中にも入ってきた。もともと動物はあまり好きではなかったのに、どうだろう。ポウがゴロゴロと喉をならしてしつこく僕に体を寄せてくるのを、僕は心地よく感じていた。
「捨てやしないよ。安心しな。」
電気を消して真っ暗闇になった部屋で、僕はポウに言った。今までゴロゴロと喉をならしていたポウが一瞬だけそれを止めた。
それからの僕はポウの怪我を治すのに専念した。野球はやれない、この先の希望もない僕にとってポウの怪我が治るのが唯一の希望だったのかもしれない。そしてまだ、田舎の両親には怪我の事は言えずにいた。
僕はポウに手術を受けさせる事にした。
「まぁ、もしかしたら無理かもしれんがな。少しでも望みがあればと飼い主さんが希望されるのであれば、手術をしてみましょう。上手く歩ける様になればいいんだが。」
先生は言った。
ポウの手術が終わり、退院の為にポウを迎えに行った僕はポウを見て驚いた。傷口を舐めない様に大きなラッパみたいなプラスチックを首に巻かれていたからだ。ポウはそれが気になって仕方ないらしかった。
「先生、これ、外してやってくれませんか。この子は自分の傷口は舐めませんから。」
ケージから出されてプラスチックを外されたポウは上手にトコトコと僕の所に歩いて来た。そして真っ先に僕の手首を舐め始めた。
それから暫くして僕の手首の包帯が取れた。「日常生活には支障がない。」と先生が言った通り、重たいものを持たない限り、手首に痛みが走る事はなかった。
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