スポットライト
絶望
その日僕は土砂降りの雨の中、傘もささずにうなだれて歩いていた。この雨に打たれてこのまま消えてしまえたら…。そんな事を本気で考えながら。
「一言で言えば、右手首の複雑骨折です。」
監督がゴクリと唾を飲み込む音が診察室に響いた。
「それで、僕の手は大丈夫なんでしょか?僕は今まで通り野球を続けられますか?来週にはスカウトが僕の投球を見に来るんです。それには何としても間に合わせないと。」
主治医の先生は言いにくそうに、監督と僕の顔を交互に見ながら話し始めた。
「工藤君、僕は長い間君の主治医をしてきた。君がどんな性格か、それから君と監督が来週に向けてこの6年間、どんな思いで練習を重ねてきたかは良く知っているつもりだ。」
それから大きく息を吸って続けた。
「医学はそれこそ日進月歩で進化をとげている。ただ、手首には多くの神経が複雑に絡み合っていてそれを元通りに修復するのは難しい。ましてや君の様に投球を仕事にしたい人にとって、今回の骨折は…。はっきり言おう、君の手首の骨折は現代の医学の力では元通りにはならない。日常生活は普通に送れるが、以前と全く同じ様に投球する事はまず不可能と思っておいた方がいい。工藤君、私も本当に残念だ。」
僕は黙って席を立つと先生に一礼した。監督が涙をためた目で僕を見つめて肩をがっしりとつかんだが、僕はそれを振りほどく様にして外に出た。「18」という監督の見慣れた背番号がチラリと見えたが、それもすぐに、涙で滲んで見えなくなった。
外は大雨で、それからどこをどうやって歩いたのかは覚えていない。僕を野球選手にする為に田畑を売ってまで東京の学校に進学させてくれた田舎の両親がこの事実を知ったらどうなってしまうのか…。それを考えただけでも恐ろしくて、さらに強くうなだれた。
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