完璧会長と無関心な毒舌読書家

スリーユウ

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神崎がしたことはたった一つ、SNSで琴吹の嘘の情報を載せることだった。元々、SNSによって情報が広がりこのような事態になっているのだ、神崎はそれを逆手に取った。結果、たった一つの投稿だけで情報が錯綜し、遊園地の出口に居た集団はいなくなった。


止めに琴吹自身のやっているSNSで遊園地を遊んだことを報告してもらえば、2つの情報からファンはおとなしく帰る選択ししかなかった。


最近、SNSに翻弄されっぱなしだった神崎だが、今回は逆に利用したと言っていいだろう。


パレードも終わり、残り一つしか乗れなくなったときに琴吹が神崎の腕の裾を少し強く引っ張った。


「あれに乗ってくれませんか、神崎さん」
琴吹が指した先には観覧車があった。
「いいですよ」
特に神崎にここで断る理由もないので頷いて足を進める。


さっきまで喋っていた2人だが観覧車に乗ると緊張しているのか、全然、喋らなくなった。


2人の様子はどっちかと言ったら琴吹がそわそわしている。


「私、神崎君のことが――――」
丁度その時、花火が上がり、琴吹の言葉を遮ってしまう。琴吹はせっかく勇気を出して告白したのにも関わらず、神崎にその言葉は聞こえなかった。恥ずかしさの余りに琴吹は顔を下に向けてしまう。


「顔を上げて、琴吹さん、ちゃんと聞こえてたよ」
「えっ」
完全に自分の声は花火の音にかき消されたはずなのに神崎は何故か聞こえたと言ったのだ。理由は簡単、琴吹の口元を見て神崎は言葉を読み取ったのだ。


「気持ちは嬉しんだけど――」
その言葉の先を創造した琴吹はぎゅーと胸がしたくなりそうになったが神崎の解答は琴吹の予想とは異なった。


「俺は、まだ、気持ちの整理が出来ていないんだ」


「何のことですか?」
そこで自分の境遇と過去に不幸な事故で死んでしまった幼馴染のことを神崎は話し始めた。幼馴染の桜が死んだことを喋り始めると琴吹の顔が一瞬だけ悲しそうな顔をしたがそのまま神崎は話し続ける。


「とまぁ、そんなことがあって、女性に対しての感情が複雑なんだ」
「じゃあ、桐野さんとは付き合ってないんですか?」
琴吹が一番懸念していたことだが、神崎の発言を聞いて、もしやと思ったのですぐに琴吹は神崎に質問した。
「そうだな」
「よかった」
琴吹は安堵の表情を見せる。
(私にもまだチャンスが残ってるんだ)


「琴吹さんの返事をするにもう少し時間をくれないか」
「そんなの全然後でいいです、むしろ、今は返事をしなくていいです」
琴吹としては時間がある以上なるべく、神崎のことを知りたいと思った。


「最後の一つだけ、お願いをしていいでしょうか」
「出来る事なら」
「私に敬語はやめてもらえませんか」
「いきなり言葉がきつくなるかもしれませんがいいんですか」
「構いません」
「わかった」


「それにしても花火綺麗ですね」
「そうだな」
琴吹の言葉につられ、神崎は外を見るが不意にほほに柔らかな感触が伝わった。琴吹の顔は火を噴きそうなくらい赤くなっている。


ここで何か言うのは違うのかなと思った神崎はそのまま外を見た。観覧車の終わりが来るまで2人は見える景色を楽しんだ。

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