完璧会長と無関心な毒舌読書家

スリーユウ

33

放課後になり、神崎はいつも空いている部活に行くのではなくそそくさと早めに学校を出た。櫻井を置いて。
「神崎、どこに行ったの~」


神崎が30分歩いてついたのは、昼に話題になったバイト先だった。
「こんにちは」
「いらっしゃいませ~、って神崎か」
「そんなこと言わないくだいよ、大介さん」
「マスターと呼べっていつも言ってるだろ」
そんなたわいもない話をしながら、着替える為にカウンターの奥に入っていった。


5分後、ウェイトレス姿の神崎がカウンターに出てきた。いつも髪で隠してる顔を出して。
「いつ見てもイケメンだな」
「はは」
自分のイケメンぶりに気づいている神崎は特に否定する事もなく、笑って誤魔化した。
「それにしても、俺が来る前はいつもがらがらですね」
「うるせー、どうせ、お前を目当ての客ばっかだよ」
「それは残念、ここのコーヒーは俺の知る中で一番おいしいのに」
「味に厳しい、お前が、そう言ってくれるだけで嬉しいもんだ」
二人が話している内に一人目の客が入店した。
入店するときに鳴る鈴の音に神崎が振り返るとそこには私服姿の桐野が立っていた。


「いらっしゃいませ」
神崎が驚いて固まる姿はなかなか見られないのだが口を開けた神崎の姿がそこには在った。


「おい、神崎、どうしたんだ。珍しく固まって?」


「神崎?あなた神崎君なのね」
そこでやってしまったと神崎は気づいた。いつも道理の反応をしてれば大介さんが自分の名前を呼ぶことも無かったと。
「いや、俺は神崎じゃないですよ」
なんとか、誤魔化せるかもしれないと苦し紛れの嘘を神崎はついたが思わぬ所から嘘はすぐばれてしまった。


「何言ってんだ。お前の名前は神崎だろう」
何も事情を知らない大介は神崎の嘘に普通に反応してしまった。
神崎はまた、しまったと言うように頭を手で抱えた。
「大介さん、察し下さい。もう遅いですけど」
「なんだ、お客さんに何か、ばれちゃいけないけとでも有るのか」
「この人は俺の学校の生徒会長なんです」
「それは、、、まずいな」
「そうです」
神崎の事情を知っている大介は、やっちまったと言う顔をしながら、明後日の方向を見て口笛を吹き始めた。


「大丈夫よ」
「何がですか?会長」
「私、ここのことを他に言い振らすつもりは無いもの」
「よかった、じゃねぇか、神崎」
「何も良くありません、大介さん」
言い振らすつもりがないということは、他に目的があるということだ。


「何が目的だ」
「別に今度、料理を教えてくれればいいわ」
ここで今度デートでもしましょうと言われたら神崎は昔のこともあるので即、断っていただろう。例え、自分のことが学校にばれるたとしても。


「わかった。いいだろう」
「めずらしいな。お前が折れるなんて」
「特に俺に問題ないと思っただけですよ」
心では心底めんどくさいと思いながらもそれぐらいなら問題ないと判断した神崎だがあとで断ればよかったと後悔する羽目になる。


そうこうしている内に他の客が入店し始めた。
「悪いな。お前の相手はしていられない」
そう言い残して、神崎は他の客の所に向かった。


「残念だが、ここにいる時はあいつはあんたの相手ができんよ」
「確かにそうですね」
桐野が周りを見渡し見ると神崎目当ての客がひっきりなしに神崎に話しかけている。これでは神崎が1人だけに相手をするなどできる状況ではない。


「おごりだ。まぁ、これでも食べていきな」
出されたのはシンプルなクッキーとコーヒーだった。桐野は言われるがままにクッキーとコーヒーを食べて見た。
「美味しい」
「だろ。それがあいつがここでバイトしてる理由だ」
「なるほど」
「また、いつでも来るといい。神崎がいないときにな。面白い話をしてやろう」
「ふふ、それは楽しみですね」
神崎にまたも悪寒が走ったが接客中の為、原因であるはずの2人の所で戻れずにいた。
こっそりバイト代からマスターが勝手におごった料金が引かれたのを神崎が知るのは1か月後であった。



コメント

コメントを書く

「恋愛」の人気作品

書籍化作品