美少女は保護られる〜私の幼なじみはちょっと変〜【完】

邪神 白猫

君とハッピーバレンタイン パート1













「見て見てっ! このデコレーション、どうかな?!」


 我ながら上手く出来た仕上がりに、自信たっぷりに彩奈へ向けて手元のチョコを見せる。


「うんっ、可愛いね」


 そう言ってニッコリと微笑む彩奈の手元を見てみると、相変わらずの上手さで……。


 私の作ったチョコなんかよりも、よっぽど美味しそうに見える。


(あー……。今すぐ食べてしまいたい。どうせ毎年くれるんだから、一つくらい今貰ってもいいよね?)


 そんな事を考えていると、私の視線に気付いた彩奈が口を開いた。


「これはダメ」
「えっ……」


(ま、まさか……っ。今年からはもう、私にバレンタインのチョコ、くれないの……?)


 そんな事を考えながら、泣きそうな顔をして彩奈を見つめる。


 すると、突然プッと吹き出した彩奈が笑顔でチョコを差し出した。


「はい、これならいいよ」
「わーいっ! ありがとう、彩奈!」


 途端に笑顔になった私は、彩奈からチョコを受け取るとそのまま口の中へと入れる。


(んーっ! 美味しぃーっ! やっぱり、彩奈のチョコは毎年美味しいなぁ)


 口いっぱいに広がるチョコを堪能しながら、思わず顔がニヤけてしまう。


 毎年バレンタインの時期になると、彩奈と一緒にチョコ作りをしている私。
 こうして作りながらのつまみ食いも、私にとっては毎年の恒例なのだ。


(それにしても……。あれだけ何だかやたらと凝っている気がするのは、私の気のせい? ラッピングだって、他とは違って随分と豪華だよね……)


 彩奈がラッピングをしているチョコを眺めながら、そんな事を思う。


「ねぇ、彩奈。……そのチョコ、誰にあげるの?」


 気になった事をそのままストレートに質問してみる。


 毎年彩奈があげるのは、お兄ちゃんとひぃくんとお父さんと……私。
 それだけだったはず。


 数はあっているけど、何だか一つだけ特別感が凄い。
 それはまるで、私がひぃくんのだけ特別に豪華にしたのと同じような……。


 未だ無言の彩奈をチラリと見ると、何だか顔が……赤い?


(……え? ……えっ?! もしかして……っ!)


「彩奈っ! もしかして、好きな人にあげるの?!」
「……っ。……うん」


 顔を真っ赤に染めて、小な声でそう答えた彩奈。


(えっ?! 嘘っ! 彩奈……好きな人いたの?!! じゃあ……)


 チラリとラッピングされたチョコ達を見渡してみる。


(やっぱり……っ数が合わないわ。うっ……今年からは私のチョコはないのねっ?! 食べたいっ! ……食べたい、けどっ……私、我慢するっ! 彩奈の好きな人の為に、我慢するんだからぁっっ……!)


 一人心の中で大芝居を打った私は、気を取り直すと涙を堪えて彩奈を見た。


「……誰?! 彩奈の好きな人って?!」
「……。……翔、さん」
「へっ……? 」


 ポツリと小さな声で答えた彩奈の言葉に、間抜けな声を出してしまった私。


(えっとー……。えっ……?)


「……あのー。……それって、どちらの翔さん?」 


 そう問いかけた私は、痙攣った顔でヘラッと笑って見せる。


 そんな私を見た彩奈は少しむくれて、けれど真っ赤な顔のまま口を開いた。


「……っ。あんたのとこの翔さんよっ! もう……花音のバカっ」




 ーーー!!?




(ンなっ?! ……何ですとっ?! お兄ちゃん?! 私のお兄ちゃんなの?!)


 意外すぎる人物に驚きすぎて声が出ない。


 見開いた瞳で彩奈を凝視すると、呆然とその場に立ち尽くす。


(えっ?! だ、だって……だって、あのお兄ちゃん?! な、何でっ?! 何でお兄ちゃん?! 彩奈だって怖がって……あ、あれ? 怖がって……た……? 本当、に?)


 今まで見てきた数々の、不可解な彩奈の態度を振り返ってみる。


 今にして思えば、あれは怖がっていたのではなく照れていたのだ。


「……彩奈。ごめんね、気付いてあげられなくて」
「いいよ……だって花音だもん」


 未だに頬をほんのりと赤く染めたままの彩奈は、プッと小さく声を漏らすと照れ臭そうに笑った。


「いつから……? いつからお兄ちゃんの事が好きなの?」
「んー気付いた時には……。たぶん、中一の頃かな……。でも、翔さんいつも彼女がいたから……」
「そうなんだ……」


(私は知らなかったけど……。彩奈は知ってたんだね、お兄ちゃんに彼女がいた事。それでも好きって……きっと辛かっただろうな……)


 そんな彩奈の気持ちを思うと、何だか目頭が熱くなってくる。


「もう……やめてよ花音。私は大丈夫だからっ。それにね、今はフリーだって翔さん言ってたから。だから……告白ね、してみようと思うの」


 そう言って明るく振る舞う彩奈。


 私はそんな彩奈の両手を握ると、今にも泣き出しそうな顔のまま笑顔を向けた。


「っ……そっか。そうなんだねっ! 私、彩奈の事応援するからねっ!」
「うんっ……。ありがとう、花音」


 少しだけ照れたような表情を見せる彩奈は、そう言うと可愛らしく微笑む。


(そっか……。彩奈の好きな人は、お兄ちゃんなんだね。……うん、それなら私にも協力ができそう)


 目の前で可愛らしく微笑んでいる彩奈を見つめる私は、親友の為にもここはなんとしても協力しようと、そう固く心に決めたのだったーー。













コメント

コメントを書く

「恋愛」の人気作品

書籍化作品