(旧)こっそり守る苦労人
それぞれの対策 後編
あっという間に話は夕方だ。ちゃんと付いて来いよ?
グッタリしたまま学校を出た俺は、喫茶店『猫まんま』にやって来た。
店の前には『本日休業』を示す看板が掲げられているが、事情を知っているので迷うことなくその扉を開ける。
いつもの猫のお出迎えはない(恐らく散歩中)。カウンターの向かいで薄い髭を生やした『猫まんま』のマスターの柊幻蔵が立っていた。
「いらっしゃい」
「どうも」
笑顔でのお出迎え。喫茶店であるが、風貌と格好だけなら『バー』のマスターと呼んでも納得出来てしまう。実際好んでマスターと呼ぶ客さんもいる。俺を含めて。
「豆は、手に入ったようだね」
「そちらも、つまみは用意出来たんですか?」
「ふふふ、勿論だよ」
「ははは、それは良かった」
「「……」」
何だ、このやり取りは。
無音の空間で話すと恥ずかしさというか、頭痛に似た痛い気持ちになるんだが。
「止めませんか? 前回はお客が居たからノリでしましたけど、さすがに2人だけだと空気が保ちません」
「う、うん、そうだね」
な、なんか気まずい空気。コントが失敗に終わった芸人みないな気分だ。ああ、いつものことか。
 場の空気が落ち着くのを待ち(そんなに待たないが)、お互いテーブルに向かい合って座り、俺から話を進めることにした。
「今回の魔獣も無事に倒しました。とくに被害もありません」
昨日の件についての報告。報告書にすることもあるが、今回は口頭の方が早いとこうしてやって来た。
とくに被害はないと言ったが、実際は人質、捕獲されていた人達を放置する形になったが、そこは柊さんの深く追及しようとしない。
「最初から心配してないさ。君なら余裕だろ?」
「買い被り過ぎですよ」
本当に何も心配してないのか、笑みを浮かべている。
キッパリ否定するが、確信を得た笑みで小首を傾げていた。
「そうかな? 余程の相手でも無ければ、君は負けないと思うが」
「そうでしょうか? 俺でもヤバイと思う時ぐらいありますよ」
否定的に言い返してくる。買ってくれるところ悪いが、そうとは思えない。 
「それは君が単独での討伐経験が少ないからだよ」
「はぁ」
「いくら君でも単独での経験が全体で1年ちょっとでは、まだ厳しいだろう」
「……」
まともな経験が少ないと柊さんは言ってくるが、そこを指摘さても困る。
確かに大抵の魔獣なら問題ない。低ランクのが10体いたとしても倒せる自信がある。だが、中にはランクに関係なく厄介な奴も含まれる。柊さんが言っているのはその辺の話だ。経験が少ないと言ったってそもそも出会いが少ないからどうしようもない。
たとえば、3ヶ月程前に出て来た魔獣がそのタイプだった。
柊さんはアイツをDランクって言ってたが、絶対Cランクはあると戦ってみて思った。1ヶ月位前に出て来たCランクの奴に比べても圧倒的に手強かった。寧ろそっちの奴の方が狩りやすかった
寧ろアイツの方がDランクなのでは? なんて疑問を感じていると、察したのか柊さんが苦笑いで補足する。
「まぁ君も色々と思うところはあるだろうが、ランクについては仕方ない。正直アレは最低限の危険度でしかない」
「瘴気の濃度と量で調べてるからですね」
補足説明に俺が加えると頷く柊さん。
『瘴気の濃度』
魔獣のチカラである瘴気は、命の源でもある。俺達人間が持つ心力が歪んだチカラと説明されている。……実際それだけではないが、ここで言ってもしょうがない事実。
この濃度を調べることでランクを決めている。ある程度の評価をしてはいるが、正直アテにならないのがこのランク決めである。
確かに魔獣は濃度の濃いほど強い傾向があるが、それはあくまで戦闘力や生命力などの基準だと俺は思う。特殊な能力や厄介な知能の部分などは一切不明なのだ。
だから個人的には、ランク指定は取り止めるべきだと思うが、それを主張しても返って自分の活動や生活を危うくするだけなのが、この国の厄介な……全ての国共通の面倒な部分だ。
「はぁー、取り敢えず報告を続けますね」
「ああ、頼むよ」
柊さんも俺のどうしようもない苦悩を感じたのか、苦笑いして聞いてくれた。
******
一通りの話しを終えるのにそんなに時間は掛からなかったが、最後の問題は少し頭を悩ませた。
内容はもちろん、討伐後に発生したアレだった。
「成る程ね。異能者か」
この街に外部の異能者が現れたことに、柊さんは少し難しい顔をして考え込む。
以前柊さんから聞いた話では、街には異能関係の機関は存在しておらず、国からも派遣されるようなことはないらしい。昔は偶に外部の異能者が討伐や調査などで来たりしていたが、ここ最近は全くと言っていい程ないとのことだ。……根回ししたのかな?
まぁ最近は俺が魔獣を討伐してるからな。偶に知り合いにも応援を頼むが、基本俺がやっている。
柊さんは外部の機関かどうか考えてるようだが、野良の可能性もある。寧ろのその可能性があると、外部機関とのアレなことを熟知してる柊さんは考えているようだが。
「零は相手が外部の……機関の者だと、推理しているんだよね?」
「はい、証拠はないですが、俺の中では確信があります」
俺の答えにまた少し思案する柊さん。
普段ならそれを鵜呑みにするかもしれないが、面倒な外部が関係している以上、それは危険だと感じているんだ。思案顔のまま視線を俺に向けて訊いてくる。
「その根拠は、何かな」
「一言で言うなら、相手の対応です」
あの夜、近付いて来る気配に対して、どのような対処をすべきか考えた。その際、相手を探るように気配を感じたことで素人ではないと即決出来た。
闇の向こうから押し殺しつつも、迷うことなくこちらへ駆け付けようとする微かな足音。犯罪者の中にはいるかもしれないが、殺気が全くなかったのでそれは否定してその場から立ち去ることにした。
さらに遠くから探ると若そうな女性でありながら異能者で、しかも相当レベルの高い異能の使い手だと纏う気配から見えた。……ただ、そこまで考えた時、排除した方がいいかとも思ったが、さすがに強引過ぎる結論で違和感も感じたので様子見で済ませた。
「その異能者は女性で歳は恐らく俺と近いと思います」
「ほう、それで?」
「彼女は、女性とは言え俺と同い年くらいですが、とてもそうとは思えない動きで近付いて来ました。気配にしても素人とは思えません。機関で訓練された者の可能性が高いと判断しました」
「成る程。だが、それだけで外部の者と考えるのは、まだ証拠不足で難しいと思うが……」
「俺は離れたところから、ちょっと殺気を出したんです。彼女に向けて」
「本当にちょっとかい? 仕事中の君は容赦ないから不安なんだが」
なんて心配そうで珍しく面倒そうな顔で見てくる柊さん。余程外部とのトラブルが嫌なのか勘弁してほしそうな声音で言ってくるよ。……全く何を言い出すかと思えば。
「大丈夫ですよ、ホントに少しだけでしたから」
「だと良いけどね。仕事中の君は私から見ても怖いから」
まだ言いますか? さすがにちょっとショックですが。
「と・に・か・くですね? 殺気を彼女に向けたんですが、その瞬間、彼女は素早く俺の方に振り返って戦闘態勢に入ったんですよ。感じ取った殺気を視線で追うようにして」
ここまで言えば気付くでしょう。
そう、遠くから隠れて見ていた俺の存在に気付く気配がない彼女に、試しに殺気を放ったら見事に反応した。視線で追跡しようしたところも見事だったが、それよりも驚いた点があるんだ。
柊さんも俺の言いたいことが分かったのか、ハッとした感じで顔を上げた。
「反応したのかい? 君の殺気に。それも素早く?」
「はい、加減はしましたが、アレを耐えた時点で野良の線はほぼ消えました」
呆然とする柊さんの疑問に頷きながら返事をすると、今まで余り変化がなかった顔が驚愕の顔へと変貌する。
そりゃあ驚きますよねー。俺も驚きました、帰ってから。見ていた際は戦闘モードの名残で反応が薄かったが、帰宅最中にそういえばと思い返してようやく驚いたんだ。……最もその驚きも帰った際に、リビングのテーブルに置かれていた夜食とエプロン姿な妹を見て吹っ飛んだけどね!(涙目)
「君の殺気、異圧を耐えたと言うのか。しかも、その中で戦闘態勢に入れるとは」
「正直のところ気絶してもおかしくないレベルのを放ったんですが、耐えたどころか素早く動いたのでビックリしました」(*帰宅中)
異圧は、普通の殺気とは違う。一般の人なら少し浴びただけで気絶する。大半の異能者でも、余程の実力者や気の強い者でない限り、間違いなく気絶する。理性が狂っている魔獣では気絶することは少ないが、恐怖で動きを止めたり萎縮させるくらいは出来る。
とまぁー、こんな感じでたとえ異能者でも耐えるのは厳しい技だ。仮に気絶しなくてもしばらくは動けないと予想していたが……。
動きましたよ、彼女は。もう、ビックリです! あの時の俺は、「ほう、動けるのか」くらいにしか思っていませんでしたが。
って予想外に話混んでしまった!
一旦コーヒーを飲み、落ち着くことにします。……今回は甘めにしようかな。
「ふうー、俄かに信じ難いことだが、君がそこまで言うのなら事実なのだろう」
まだ思うところがあるが、とりあえず納得してくれた。まだ野良の可能性もない訳ではないが、しっかり訓練を受けていないとアレを耐えるのは厳しい。たとえチートな異能があっても精神面が鍛えられてなければ意味はない。
「はい。……ただ」
しかし、俺はある疑問を覚えていた。曖昧な為に口頭でも報告しなかったが。
あの時、近付いて来た彼女に対して違和感があった。なんの違和感と訊かれたら困る。それが何のか上手く言葉に出来なかった。
「ただ?」
「いえ、何でもありません」
この件は一旦保留にするしかなかった。
納得を得られた以上、残りは今後についての話だ。
「何者か分かりませんが、放置してもいいと思います」
「うん? そうかい? 厄介そうなら手を回すが」
「(手を回すって、適当な機関に抗議するってことですよね? 怖くて訊けないけど)……相手の目的が分からない以上、こちらからわざわざ動く必要もないでしょう」
 
ヘタしたら損するだけかもしれないし。
致命的な害がないなら無闇に突く必要なんて俺にはなかった。
「そうだね」
俺の言うことも一理あると、柊さんも反論しなかった。
抗議すれば後ろめたいことがある機関は引き払うかもしれないが、その代わり今後は外側からこちらマークする可能性がある。元々関係がないに等しい分、余計な接触が増えるか不協和音が生まれるかもしれない。
「まともな理由でこちらに用があれば、何かしらのアプローチをして来ますよ」
「確かね。ならこの件は君に任せるよ。……ただ念の為、こちらでも一応調べておくよ?」
「はい、宜しくお願いします」
 
それは普通に有難い。お願いしようか迷っていたが、やっぱ保険は必要だよな。
なんてお礼を言っていると既に2時間以上が経っていたことに気が付いた。あ、アカンっ!? 夜ご飯のフラグが……!
「おっ、といけない。そろそろ帰らないと葵ちゃんが心配するね。今日はここまでしようか」
柊さんも気付いたけど、予定の終了時間を結構過ぎて申し訳なさそうにしている。い、いや別に良いですよ? ただ、その夜ご飯がその大変なことになっちゃったかもと思って。(*なってます)
うん、急ぎましょう!!(汗)
「で、では! 俺はこれで……!」
「あ、待ってくれないか。あと一つだけ訊いておきたいことがあるんだが」
お、おう。帰ろうとした矢先、柊さん呼び止められました。
柊さんそれはないでしょう!? 家で可愛らしい魔女様がデカ窯でお料理をしてるんですよ!?(*お鍋です)
「何ですかっ? 早く帰って妹の調理に止めないといけないんですがっ?」
「凄い必死だね。魔術って」
「で、何ですか?」
流石に急がないとヤバイですよ(冷汗)。既に手遅れな気がするけど。(*正解)
そうして焦る中(焦って何が悪いですか!?)、苦笑いしていた顔を厳しいものへ変えた柊さんがやや感情を押し殺しつつ尋ねた。
「もし相手が君の敵ならどうする?」
「……」
俺は普段取りの雰囲気を保つ。
曖昧で苦笑したような笑みを浮かべたが。
「そんなの決まってるでしょう?」
けど、最後だけ……凍り付いたような無表情と冷たい口調で。
「敵なら消すだけさ」 
“嫌な出会い”前編へ続く。
おまけ───『とある教室での一幕その3(お昼時間)』
零一同は食堂に到着しました。(武もいます)(武は半泣きです)(武のライフは既にゼロです)
零「お前らは弁当か?」妹弁当(毒物・劇物指定で完全な密閉式)
楓「私は、弁当ですよ」マイ弁当(手作りで普通)
美希「ワシもじゃ」ワシ弁当(台に届くか怪しいが手作り)
桜井「ボクも弁当だよ」(デザートに牛乳寒天がある。……スレンダー)
零「へー、藤堂はともかく、美希と桜井は意外だなぁ」(安全の為に手袋を着用)
美希「む! それはどういう意味じゃ」(ハンバーグをムシャムシャ!)
桜井「チョット聞き捨てならないね」(牛乳をグイグイ!)
楓「えーと、ありがとうございます」(もぐもぐ)
 
零「だってよ、正直さ違和感しかないぞ? お2人さんは」(16桁の暗証番号付きの施錠を解いて、ゆっくりと蓋を開放。……毒ガスは出ず)
 
美希「そうかの? これでも毎日作って来てるぞ?」(うぃんなー)
桜井「ボクは毎日じゃないけど、割と作って来てるつもりだよ?」(だいず)
零「ほー?(ジト)」(銀の箸で卵焼きを。……箸が変色)
美希「なっなんじゃ!?」
桜井「な、何かな?」
零「いやぁ、何か女性らしいな。2人とも」
美希・桜井「「女性らしいって、じゃあ今まではなに!?」」
零「あー、飯食うか」(空いてる手で十字を切る。手慣れていた)
美希・桜井「「中途半端で終わるのはやめてよ(のじゃ)!?!?」」
零「まぁまぁ落ち着けって、時間もないから食おうぜ」(空気に触れて劣化が始まる卵焼き)
楓「あ、ははは……2人とも食べましょうか(汗)」(零の手元を見て青ざめる)
美希・桜井「「……そうだね(じゃな)」」(疲れたように食べる2人)
零「じゃ……食うか」(諦めた笑みでそれを口に入れ……)
武「俺を無視しないで〜!!」(空気を読まない男が残されていた)
とある教室での一幕 完。
武「って勝手に完結すんなぁ〜!!」
グッタリしたまま学校を出た俺は、喫茶店『猫まんま』にやって来た。
店の前には『本日休業』を示す看板が掲げられているが、事情を知っているので迷うことなくその扉を開ける。
いつもの猫のお出迎えはない(恐らく散歩中)。カウンターの向かいで薄い髭を生やした『猫まんま』のマスターの柊幻蔵が立っていた。
「いらっしゃい」
「どうも」
笑顔でのお出迎え。喫茶店であるが、風貌と格好だけなら『バー』のマスターと呼んでも納得出来てしまう。実際好んでマスターと呼ぶ客さんもいる。俺を含めて。
「豆は、手に入ったようだね」
「そちらも、つまみは用意出来たんですか?」
「ふふふ、勿論だよ」
「ははは、それは良かった」
「「……」」
何だ、このやり取りは。
無音の空間で話すと恥ずかしさというか、頭痛に似た痛い気持ちになるんだが。
「止めませんか? 前回はお客が居たからノリでしましたけど、さすがに2人だけだと空気が保ちません」
「う、うん、そうだね」
な、なんか気まずい空気。コントが失敗に終わった芸人みないな気分だ。ああ、いつものことか。
 場の空気が落ち着くのを待ち(そんなに待たないが)、お互いテーブルに向かい合って座り、俺から話を進めることにした。
「今回の魔獣も無事に倒しました。とくに被害もありません」
昨日の件についての報告。報告書にすることもあるが、今回は口頭の方が早いとこうしてやって来た。
とくに被害はないと言ったが、実際は人質、捕獲されていた人達を放置する形になったが、そこは柊さんの深く追及しようとしない。
「最初から心配してないさ。君なら余裕だろ?」
「買い被り過ぎですよ」
本当に何も心配してないのか、笑みを浮かべている。
キッパリ否定するが、確信を得た笑みで小首を傾げていた。
「そうかな? 余程の相手でも無ければ、君は負けないと思うが」
「そうでしょうか? 俺でもヤバイと思う時ぐらいありますよ」
否定的に言い返してくる。買ってくれるところ悪いが、そうとは思えない。 
「それは君が単独での討伐経験が少ないからだよ」
「はぁ」
「いくら君でも単独での経験が全体で1年ちょっとでは、まだ厳しいだろう」
「……」
まともな経験が少ないと柊さんは言ってくるが、そこを指摘さても困る。
確かに大抵の魔獣なら問題ない。低ランクのが10体いたとしても倒せる自信がある。だが、中にはランクに関係なく厄介な奴も含まれる。柊さんが言っているのはその辺の話だ。経験が少ないと言ったってそもそも出会いが少ないからどうしようもない。
たとえば、3ヶ月程前に出て来た魔獣がそのタイプだった。
柊さんはアイツをDランクって言ってたが、絶対Cランクはあると戦ってみて思った。1ヶ月位前に出て来たCランクの奴に比べても圧倒的に手強かった。寧ろそっちの奴の方が狩りやすかった
寧ろアイツの方がDランクなのでは? なんて疑問を感じていると、察したのか柊さんが苦笑いで補足する。
「まぁ君も色々と思うところはあるだろうが、ランクについては仕方ない。正直アレは最低限の危険度でしかない」
「瘴気の濃度と量で調べてるからですね」
補足説明に俺が加えると頷く柊さん。
『瘴気の濃度』
魔獣のチカラである瘴気は、命の源でもある。俺達人間が持つ心力が歪んだチカラと説明されている。……実際それだけではないが、ここで言ってもしょうがない事実。
この濃度を調べることでランクを決めている。ある程度の評価をしてはいるが、正直アテにならないのがこのランク決めである。
確かに魔獣は濃度の濃いほど強い傾向があるが、それはあくまで戦闘力や生命力などの基準だと俺は思う。特殊な能力や厄介な知能の部分などは一切不明なのだ。
だから個人的には、ランク指定は取り止めるべきだと思うが、それを主張しても返って自分の活動や生活を危うくするだけなのが、この国の厄介な……全ての国共通の面倒な部分だ。
「はぁー、取り敢えず報告を続けますね」
「ああ、頼むよ」
柊さんも俺のどうしようもない苦悩を感じたのか、苦笑いして聞いてくれた。
******
一通りの話しを終えるのにそんなに時間は掛からなかったが、最後の問題は少し頭を悩ませた。
内容はもちろん、討伐後に発生したアレだった。
「成る程ね。異能者か」
この街に外部の異能者が現れたことに、柊さんは少し難しい顔をして考え込む。
以前柊さんから聞いた話では、街には異能関係の機関は存在しておらず、国からも派遣されるようなことはないらしい。昔は偶に外部の異能者が討伐や調査などで来たりしていたが、ここ最近は全くと言っていい程ないとのことだ。……根回ししたのかな?
まぁ最近は俺が魔獣を討伐してるからな。偶に知り合いにも応援を頼むが、基本俺がやっている。
柊さんは外部の機関かどうか考えてるようだが、野良の可能性もある。寧ろのその可能性があると、外部機関とのアレなことを熟知してる柊さんは考えているようだが。
「零は相手が外部の……機関の者だと、推理しているんだよね?」
「はい、証拠はないですが、俺の中では確信があります」
俺の答えにまた少し思案する柊さん。
普段ならそれを鵜呑みにするかもしれないが、面倒な外部が関係している以上、それは危険だと感じているんだ。思案顔のまま視線を俺に向けて訊いてくる。
「その根拠は、何かな」
「一言で言うなら、相手の対応です」
あの夜、近付いて来る気配に対して、どのような対処をすべきか考えた。その際、相手を探るように気配を感じたことで素人ではないと即決出来た。
闇の向こうから押し殺しつつも、迷うことなくこちらへ駆け付けようとする微かな足音。犯罪者の中にはいるかもしれないが、殺気が全くなかったのでそれは否定してその場から立ち去ることにした。
さらに遠くから探ると若そうな女性でありながら異能者で、しかも相当レベルの高い異能の使い手だと纏う気配から見えた。……ただ、そこまで考えた時、排除した方がいいかとも思ったが、さすがに強引過ぎる結論で違和感も感じたので様子見で済ませた。
「その異能者は女性で歳は恐らく俺と近いと思います」
「ほう、それで?」
「彼女は、女性とは言え俺と同い年くらいですが、とてもそうとは思えない動きで近付いて来ました。気配にしても素人とは思えません。機関で訓練された者の可能性が高いと判断しました」
「成る程。だが、それだけで外部の者と考えるのは、まだ証拠不足で難しいと思うが……」
「俺は離れたところから、ちょっと殺気を出したんです。彼女に向けて」
「本当にちょっとかい? 仕事中の君は容赦ないから不安なんだが」
なんて心配そうで珍しく面倒そうな顔で見てくる柊さん。余程外部とのトラブルが嫌なのか勘弁してほしそうな声音で言ってくるよ。……全く何を言い出すかと思えば。
「大丈夫ですよ、ホントに少しだけでしたから」
「だと良いけどね。仕事中の君は私から見ても怖いから」
まだ言いますか? さすがにちょっとショックですが。
「と・に・か・くですね? 殺気を彼女に向けたんですが、その瞬間、彼女は素早く俺の方に振り返って戦闘態勢に入ったんですよ。感じ取った殺気を視線で追うようにして」
ここまで言えば気付くでしょう。
そう、遠くから隠れて見ていた俺の存在に気付く気配がない彼女に、試しに殺気を放ったら見事に反応した。視線で追跡しようしたところも見事だったが、それよりも驚いた点があるんだ。
柊さんも俺の言いたいことが分かったのか、ハッとした感じで顔を上げた。
「反応したのかい? 君の殺気に。それも素早く?」
「はい、加減はしましたが、アレを耐えた時点で野良の線はほぼ消えました」
呆然とする柊さんの疑問に頷きながら返事をすると、今まで余り変化がなかった顔が驚愕の顔へと変貌する。
そりゃあ驚きますよねー。俺も驚きました、帰ってから。見ていた際は戦闘モードの名残で反応が薄かったが、帰宅最中にそういえばと思い返してようやく驚いたんだ。……最もその驚きも帰った際に、リビングのテーブルに置かれていた夜食とエプロン姿な妹を見て吹っ飛んだけどね!(涙目)
「君の殺気、異圧を耐えたと言うのか。しかも、その中で戦闘態勢に入れるとは」
「正直のところ気絶してもおかしくないレベルのを放ったんですが、耐えたどころか素早く動いたのでビックリしました」(*帰宅中)
異圧は、普通の殺気とは違う。一般の人なら少し浴びただけで気絶する。大半の異能者でも、余程の実力者や気の強い者でない限り、間違いなく気絶する。理性が狂っている魔獣では気絶することは少ないが、恐怖で動きを止めたり萎縮させるくらいは出来る。
とまぁー、こんな感じでたとえ異能者でも耐えるのは厳しい技だ。仮に気絶しなくてもしばらくは動けないと予想していたが……。
動きましたよ、彼女は。もう、ビックリです! あの時の俺は、「ほう、動けるのか」くらいにしか思っていませんでしたが。
って予想外に話混んでしまった!
一旦コーヒーを飲み、落ち着くことにします。……今回は甘めにしようかな。
「ふうー、俄かに信じ難いことだが、君がそこまで言うのなら事実なのだろう」
まだ思うところがあるが、とりあえず納得してくれた。まだ野良の可能性もない訳ではないが、しっかり訓練を受けていないとアレを耐えるのは厳しい。たとえチートな異能があっても精神面が鍛えられてなければ意味はない。
「はい。……ただ」
しかし、俺はある疑問を覚えていた。曖昧な為に口頭でも報告しなかったが。
あの時、近付いて来た彼女に対して違和感があった。なんの違和感と訊かれたら困る。それが何のか上手く言葉に出来なかった。
「ただ?」
「いえ、何でもありません」
この件は一旦保留にするしかなかった。
納得を得られた以上、残りは今後についての話だ。
「何者か分かりませんが、放置してもいいと思います」
「うん? そうかい? 厄介そうなら手を回すが」
「(手を回すって、適当な機関に抗議するってことですよね? 怖くて訊けないけど)……相手の目的が分からない以上、こちらからわざわざ動く必要もないでしょう」
 
ヘタしたら損するだけかもしれないし。
致命的な害がないなら無闇に突く必要なんて俺にはなかった。
「そうだね」
俺の言うことも一理あると、柊さんも反論しなかった。
抗議すれば後ろめたいことがある機関は引き払うかもしれないが、その代わり今後は外側からこちらマークする可能性がある。元々関係がないに等しい分、余計な接触が増えるか不協和音が生まれるかもしれない。
「まともな理由でこちらに用があれば、何かしらのアプローチをして来ますよ」
「確かね。ならこの件は君に任せるよ。……ただ念の為、こちらでも一応調べておくよ?」
「はい、宜しくお願いします」
 
それは普通に有難い。お願いしようか迷っていたが、やっぱ保険は必要だよな。
なんてお礼を言っていると既に2時間以上が経っていたことに気が付いた。あ、アカンっ!? 夜ご飯のフラグが……!
「おっ、といけない。そろそろ帰らないと葵ちゃんが心配するね。今日はここまでしようか」
柊さんも気付いたけど、予定の終了時間を結構過ぎて申し訳なさそうにしている。い、いや別に良いですよ? ただ、その夜ご飯がその大変なことになっちゃったかもと思って。(*なってます)
うん、急ぎましょう!!(汗)
「で、では! 俺はこれで……!」
「あ、待ってくれないか。あと一つだけ訊いておきたいことがあるんだが」
お、おう。帰ろうとした矢先、柊さん呼び止められました。
柊さんそれはないでしょう!? 家で可愛らしい魔女様がデカ窯でお料理をしてるんですよ!?(*お鍋です)
「何ですかっ? 早く帰って妹の調理に止めないといけないんですがっ?」
「凄い必死だね。魔術って」
「で、何ですか?」
流石に急がないとヤバイですよ(冷汗)。既に手遅れな気がするけど。(*正解)
そうして焦る中(焦って何が悪いですか!?)、苦笑いしていた顔を厳しいものへ変えた柊さんがやや感情を押し殺しつつ尋ねた。
「もし相手が君の敵ならどうする?」
「……」
俺は普段取りの雰囲気を保つ。
曖昧で苦笑したような笑みを浮かべたが。
「そんなの決まってるでしょう?」
けど、最後だけ……凍り付いたような無表情と冷たい口調で。
「敵なら消すだけさ」 
“嫌な出会い”前編へ続く。
おまけ───『とある教室での一幕その3(お昼時間)』
零一同は食堂に到着しました。(武もいます)(武は半泣きです)(武のライフは既にゼロです)
零「お前らは弁当か?」妹弁当(毒物・劇物指定で完全な密閉式)
楓「私は、弁当ですよ」マイ弁当(手作りで普通)
美希「ワシもじゃ」ワシ弁当(台に届くか怪しいが手作り)
桜井「ボクも弁当だよ」(デザートに牛乳寒天がある。……スレンダー)
零「へー、藤堂はともかく、美希と桜井は意外だなぁ」(安全の為に手袋を着用)
美希「む! それはどういう意味じゃ」(ハンバーグをムシャムシャ!)
桜井「チョット聞き捨てならないね」(牛乳をグイグイ!)
楓「えーと、ありがとうございます」(もぐもぐ)
 
零「だってよ、正直さ違和感しかないぞ? お2人さんは」(16桁の暗証番号付きの施錠を解いて、ゆっくりと蓋を開放。……毒ガスは出ず)
 
美希「そうかの? これでも毎日作って来てるぞ?」(うぃんなー)
桜井「ボクは毎日じゃないけど、割と作って来てるつもりだよ?」(だいず)
零「ほー?(ジト)」(銀の箸で卵焼きを。……箸が変色)
美希「なっなんじゃ!?」
桜井「な、何かな?」
零「いやぁ、何か女性らしいな。2人とも」
美希・桜井「「女性らしいって、じゃあ今まではなに!?」」
零「あー、飯食うか」(空いてる手で十字を切る。手慣れていた)
美希・桜井「「中途半端で終わるのはやめてよ(のじゃ)!?!?」」
零「まぁまぁ落ち着けって、時間もないから食おうぜ」(空気に触れて劣化が始まる卵焼き)
楓「あ、ははは……2人とも食べましょうか(汗)」(零の手元を見て青ざめる)
美希・桜井「「……そうだね(じゃな)」」(疲れたように食べる2人)
零「じゃ……食うか」(諦めた笑みでそれを口に入れ……)
武「俺を無視しないで〜!!」(空気を読まない男が残されていた)
とある教室での一幕 完。
武「って勝手に完結すんなぁ〜!!」
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