(旧)こっそり守る苦労人
プロローグ
これは、とある街の日常の影で起きている話。
誰にも気付かれない中で起きている異能の話。
「疲れたぁ〜」
「ん〜帰りに何か食べて帰らない?」
「あ、いいね!」
 
陽が沈み出す夕方頃。  
学校帰りに楽しくお喋りする学生達、早上がりで帰宅途中なサラリーマン、買い物帰りの主婦や子供達。
違和感のない何気ない日常の風景がそこにはあった。
『……』
しかし、そんな学生達の後ろに近付く黒い影。  
それは、明らかに人の形をしておらず、姿を何かに例えるなら……魔物。 
本来なら目にした途端悲鳴が上がり、大混乱に陥るだろうが、誰も一切反応を示さない。
 
『……』
 
否、認識出来ていないのだ。  
五感で感じ取る以前に、その存在そのものが認識の範囲外であった。
そして、楽しそうに喋っている人達の背後へ、徐々に近付いているモノは、その手のようなものを伸ばして捕まえようと……。  
したが、寸前で伸びた手に掴まれた。
認識以前に触れらると思わなかったモノは、がしっと掴んできた手を見て、動揺した
ように体を震わせた。
『!?』
「───え、……なに!?」
「な、なんですか!」
「……」
しかし、動揺したのはそいつだけではない。ほぼ背後近くで立った人物の存在に前を歩いていた女子学生達が反応して振り返る。すると間近で立っていた学生らしき男子学生を見て驚いた顔をした。
驚いた彼女達の声に反応して周囲の人達も立ち止まり、視線が不審者のような立ち位置にいる彼に集まっていくが……。
「……」
彼の視線が周囲を一瞥する。
その視線があった人達は、途端に怯えたようにブルッと震わせる。
最後に背後の女子学生達を一瞥すると、彼女達の顔色が恐怖で怯えて早々とその場から駆け足で消えた。
他の人達も男子学生を凶器でも持った危険人物のように見て、恐れた顔でその場から急ぎ足で立ち去っていた。
1分もしない内にその場から人気が消えた。
『ガァアアッ』
途端、いや我慢か緊張の糸が切れたか、黒い影の獣が牙を見せる。
そいつは阻んできた男子学生に向けて、「邪魔するなっ!」と言っているように吠え上げて威嚇する。すると周囲の鳥が一斉に飛んで逃げる。人には認識出来ないが、他の生き物は少なからず感じる何かがあったようだ。
しかし。
「……」
その威嚇を真正面から受けた彼は、表情を変化させることなく、黙ったまま掴んだ手を離さない。それこそ顔を撫でる程度の微風が吹いたような無表情で、黒い獣をつまらなそうに見上げていた。
「ガァァァァァァアアアア!!」
その反応が余計に獣の神経を逆撫でさせたか、掴んだまま離さない彼に対して先程以上に咆哮を上げた。
最初は警戒していたが、苛立ちから冷静を欠いた獣は怒りのまま、掴まれてない方の腕で襲い掛かろうとする。
凶器のような獣の手が彼に頭から下へ、勢いよく削るようにして振り下ろされた。
『!?』
しかし、間近の攻撃にも動揺を見せない彼は、軽い動作でその攻撃を簡単に躱す。さらに掴んでいた手に力が入れて、熊くらいの巨体を片手だけで持ち上げて投げ飛ばした。
呻き声に出し倒れてしまう獣をボールのように地面に転がる。そこから何とか立ち上がるが、投げ飛ばした対象を睨もうと振り向いたが見失ってしまう。
『?』
いち早く周りを警戒するように気配を探るが見付からない。
ひと気がなくなった分、見つけ易くなっていたが、対象を捉えることが出来ず左右に首を振るだけで終わった。
『ガァ……』
いよいよ逃げたのかと違和感はあるが納得すると、改めて獲物を襲おうと動き出したが……。
「アウトだ」
背後から聞こえた声によって、またもや妨げられてしまう。
反射的に振り返ろうとしたが、その瞬間、体が動かなくなり行動不能に陥ってしまった。
一体どういうことか、呆然とした表情をしていると、腹の辺りに違和感が感じ取る。自然と視線が下を向く、違和感の正体は腹に突き刺さった黒ノ槍を見て悟ってしまう。
『……』
認識して少しすると意識が薄れていく。これで終わりなのだと無意識の中で理解する中、それの視線が最後に捉えたのは……。
闇よりも黒い何かだった。
「あー、やっと終わった。気配が薄過ぎたから、探すのが大変だった」
倒し終えたところで彼の雰囲気が変わる。先程までの静かで冷たい雰囲気が無くなり、ひと仕事を終えた人のような猫背姿勢であった。
「帰りに何か買って帰るか」
沈んでいく夕陽を恨めしそうに見ながら、ため息を吐く。時間が掛かり過ぎたことで予定が狂ったからだ。
「妹にも買わないとグレちゃうか」
ただでさえ遅くなったのだ。これで何もなしであったら、ぷいっとそっぽ向かれてその仕草に彼が悶えてしまう。……少しだけそんな妹も見てみたいなと思ったが、そこは紳士なシスコン。余計な煩悩は振り払って歩き出す。
「コンビニでケーキでも買うか」
近くで置いていた鞄を拾い、近場のコンビニを目指す。騒ぎに気付かず人も少しずつ戻って来た道のりを歩いて行くと、ふと夕陽の空を見上げた。
「明日は晴れるか?」 
雨じゃないならいいか、と思いながら彼は人混みの中へ溶け込む。
短い死闘が行われていた一角であったが、そこには戦闘の痕は一切なく、あの獣の形も綺麗に消えていた。
誰にも気付かれない中で起きている異能の話。
「疲れたぁ〜」
「ん〜帰りに何か食べて帰らない?」
「あ、いいね!」
 
陽が沈み出す夕方頃。  
学校帰りに楽しくお喋りする学生達、早上がりで帰宅途中なサラリーマン、買い物帰りの主婦や子供達。
違和感のない何気ない日常の風景がそこにはあった。
『……』
しかし、そんな学生達の後ろに近付く黒い影。  
それは、明らかに人の形をしておらず、姿を何かに例えるなら……魔物。 
本来なら目にした途端悲鳴が上がり、大混乱に陥るだろうが、誰も一切反応を示さない。
 
『……』
 
否、認識出来ていないのだ。  
五感で感じ取る以前に、その存在そのものが認識の範囲外であった。
そして、楽しそうに喋っている人達の背後へ、徐々に近付いているモノは、その手のようなものを伸ばして捕まえようと……。  
したが、寸前で伸びた手に掴まれた。
認識以前に触れらると思わなかったモノは、がしっと掴んできた手を見て、動揺した
ように体を震わせた。
『!?』
「───え、……なに!?」
「な、なんですか!」
「……」
しかし、動揺したのはそいつだけではない。ほぼ背後近くで立った人物の存在に前を歩いていた女子学生達が反応して振り返る。すると間近で立っていた学生らしき男子学生を見て驚いた顔をした。
驚いた彼女達の声に反応して周囲の人達も立ち止まり、視線が不審者のような立ち位置にいる彼に集まっていくが……。
「……」
彼の視線が周囲を一瞥する。
その視線があった人達は、途端に怯えたようにブルッと震わせる。
最後に背後の女子学生達を一瞥すると、彼女達の顔色が恐怖で怯えて早々とその場から駆け足で消えた。
他の人達も男子学生を凶器でも持った危険人物のように見て、恐れた顔でその場から急ぎ足で立ち去っていた。
1分もしない内にその場から人気が消えた。
『ガァアアッ』
途端、いや我慢か緊張の糸が切れたか、黒い影の獣が牙を見せる。
そいつは阻んできた男子学生に向けて、「邪魔するなっ!」と言っているように吠え上げて威嚇する。すると周囲の鳥が一斉に飛んで逃げる。人には認識出来ないが、他の生き物は少なからず感じる何かがあったようだ。
しかし。
「……」
その威嚇を真正面から受けた彼は、表情を変化させることなく、黙ったまま掴んだ手を離さない。それこそ顔を撫でる程度の微風が吹いたような無表情で、黒い獣をつまらなそうに見上げていた。
「ガァァァァァァアアアア!!」
その反応が余計に獣の神経を逆撫でさせたか、掴んだまま離さない彼に対して先程以上に咆哮を上げた。
最初は警戒していたが、苛立ちから冷静を欠いた獣は怒りのまま、掴まれてない方の腕で襲い掛かろうとする。
凶器のような獣の手が彼に頭から下へ、勢いよく削るようにして振り下ろされた。
『!?』
しかし、間近の攻撃にも動揺を見せない彼は、軽い動作でその攻撃を簡単に躱す。さらに掴んでいた手に力が入れて、熊くらいの巨体を片手だけで持ち上げて投げ飛ばした。
呻き声に出し倒れてしまう獣をボールのように地面に転がる。そこから何とか立ち上がるが、投げ飛ばした対象を睨もうと振り向いたが見失ってしまう。
『?』
いち早く周りを警戒するように気配を探るが見付からない。
ひと気がなくなった分、見つけ易くなっていたが、対象を捉えることが出来ず左右に首を振るだけで終わった。
『ガァ……』
いよいよ逃げたのかと違和感はあるが納得すると、改めて獲物を襲おうと動き出したが……。
「アウトだ」
背後から聞こえた声によって、またもや妨げられてしまう。
反射的に振り返ろうとしたが、その瞬間、体が動かなくなり行動不能に陥ってしまった。
一体どういうことか、呆然とした表情をしていると、腹の辺りに違和感が感じ取る。自然と視線が下を向く、違和感の正体は腹に突き刺さった黒ノ槍を見て悟ってしまう。
『……』
認識して少しすると意識が薄れていく。これで終わりなのだと無意識の中で理解する中、それの視線が最後に捉えたのは……。
闇よりも黒い何かだった。
「あー、やっと終わった。気配が薄過ぎたから、探すのが大変だった」
倒し終えたところで彼の雰囲気が変わる。先程までの静かで冷たい雰囲気が無くなり、ひと仕事を終えた人のような猫背姿勢であった。
「帰りに何か買って帰るか」
沈んでいく夕陽を恨めしそうに見ながら、ため息を吐く。時間が掛かり過ぎたことで予定が狂ったからだ。
「妹にも買わないとグレちゃうか」
ただでさえ遅くなったのだ。これで何もなしであったら、ぷいっとそっぽ向かれてその仕草に彼が悶えてしまう。……少しだけそんな妹も見てみたいなと思ったが、そこは紳士なシスコン。余計な煩悩は振り払って歩き出す。
「コンビニでケーキでも買うか」
近くで置いていた鞄を拾い、近場のコンビニを目指す。騒ぎに気付かず人も少しずつ戻って来た道のりを歩いて行くと、ふと夕陽の空を見上げた。
「明日は晴れるか?」 
雨じゃないならいいか、と思いながら彼は人混みの中へ溶け込む。
短い死闘が行われていた一角であったが、そこには戦闘の痕は一切なく、あの獣の形も綺麗に消えていた。
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