居候人は冒険者で店員さん

ルド@

【警備開始その5】

「ホントなんなのあんたは!?」 


憤慨した様子でミオがそう切り出してきた。 
ようやく周りの仕出かしそうな気配が消えたが、そこでとうとうミオに捕まってしまった。周囲の目もあるので暴力的ではないが、強引に隅に連れられて尋もn───否、質問を受けていた。


にしても眼力が強いな。それだけ戸惑っているってことか?  こりゃ騒ぎ過ぎたかもしれない。


内心大人しくせず後先考えないで動いたことに少し後悔するが、今はそれよりもミオの対応が先だと目の前の彼女に意識を向ける。


といってもその質問に対しておれはどう答えるかは、ほとんど決まっていた。


「何って言われてもな……」


余計なことは言わずとぼけておくことにした。やはり実力うんぬんを話すにしてもミオとはまだ知り合って間もないしほぼ他人である。(ヘタすれば一歩的な敵扱いだ)


なのでこうしてやり過ごすことにしたのだが、やはり二度目な所為か今度はミオも簡単には逃がしてくれなかった。


「あたしたちを置いて次から次へと仕出かそうとした連中を捕まえて!!」
「だから勘がいいって───」
「勘がいいにも程があるっ!  それに遠目から見えたけどほぼ一撃だったし、ただのDランクがそこまでできるわけあるか!!」


うん、どうやら本当にやり過ぎたらしい。立場考えず、割とガチで。


でも治安の方も悪過ぎる気がする。祭りごとで人が増えた所為で揉め事が増えるのも分かっていたが、まさかここまで酷いとは。


もっともどれも祭り以外の時でもあることで、それよりも厄介そうなことは今のところ起きている様子はないが、


少しばかり仕事熱心になり過ぎた。
おかげでミオから消えかけていた疑念が再燃焼してしまった。


「やっぱり何か隠している。間違いなく」
「ま、まぁミオさん、その、今はまだ仕事中ですし、そういった話はまった落ち着いた時にでも……っ」
「リアナ、あんたも何か知ってるの?  カインの妹でこいつとも連んでるんでしょ?  知らないってことはないはず」
「っ、そ、それは……」
「それに駆け出した時のあの動き!  昨日もそうだったけど体術も相当できるみたいね。しかも相当なレベルで魔法の強化なしなのに。ただ鍛えただけじゃありえない」
「……っ」


あちゃー、今度はフォローに入ったリアナちゃんの方に矛先を向けたか。リアナちゃんも矛先が自分に向いてしまい動揺している。口にしないように気をつけているようだが、ミオの女性とは思えない眼力に押されて引き腰であった。


───というかそれが仲間にする態度か?


ミオの態度を見ていたおれは少なからず苛立ちを覚えた。


おれの行動に目をつぶってずっと影に徹してフォローまでしてくれたのに、これはさすがに申し訳ない。適当に躱そうと思ったが、リアナちゃんを困らされては黙っていらない。カインの女で面倒な相手だが、少しばかり反抗することに決めた。


「ねぇ、どうなの?  知ってるなら教えなさいよ」
「あ、え、その「そこまでにしてもらえるか?」……ヴィットさん」


すかさずおれはリアナちゃんとミオの間に入る。そして急に近付かれて身を引いて警戒するミオにおれはリアナちゃんをかばうように彼女の体を背中で隠して話すことにした。


「ランクが低くてもおれだって一応は冒険者だ。そりゃ武器の1つ2つ隠しててもおかしくないだろ?」
「へぇ?  それでいったい何をしたわけ?」
「答える気はない」
「…………なんで?  仮にチーム組んでいるのよ?  そんな反論なんて認めないんだけど?」
「───最初に聞くが、お前は何様だ?」
「っ?」


余計な亀裂を入れたくなかったが、ここの辺りでしっかりライン・・・を決めた方がよさそうだ。今後のことを考えても本気で信頼関係は築こうとするなら。


だからおれは能力を付与した声・・・・・・・・で口にする。


魂に語りかけて繋げるスキル───“コンタクト・ソウル”


おれはそのスキルを語りかけることのみにして、刃ではなく相手の魂に響かせる圧へと変えて。


「おれも一応は冒険者だと言ったはずだ。冒険者にとって自分の技術がどれだけ需要なのか、それがまさか分からないことはないだろ?  確かにパーティーは組んでいるが、それはあくまで一時的なものでおれたちは本来は冒険者でも他人に近い関係だ。少なくとも無警戒に自分の武器を教えるような仲ではないし、カインやリアナちゃん以外はおれのことなんか信頼どころか最低限の仲間意識もない。いや寧ろ敵意すら向けてきているような連中になんでおれの情報を晒さないといけない?  しかもお前のその訳の分からん権限でなんでおれが情報を晒さないといけない?  信用できないからか?  男だからか?  いい加減うっとうしいからその理由をハッキリ聞かせろ」


少しばかり口が回り過ぎたが、おれは今までの理不尽な鬱憤を晴らす気持ちでミオに言っている。背後でリアナちゃんが止めようと服を引っ張ってきたのを感じたが、おれは声にはしないが、大丈夫だとミオにバレないように後ろに手をひらひらと見せておれが冷静なのだと安心させる。


多少イラついたように話しているが、これは今後の行動を考えての作戦である。
別に必要ないと思ってやらなかったが、先ほどの働き過ぎた件やおれやリアナちゃんへの追及を見て彼女には少し大人しくしてもらうことにした。


「な、なによ、急に……」


「急にか?  寧ろ当然じゃないか?  遅かったくらいだ。カインの頼みで散々我慢して付き合っているのに、次から次へとこっちがちょっと動いただけですぐ騒いで来る奴だ。キレて当然だが、なんでおれが今まで反論しなかったこと思う?  単純だ面倒だったからだ、お前みたいな女とはいくら話したって理解し合えないのは分かっているからな」


突如態度が一変したおれに動揺するミオ。おれの口数が一気に増えたせいで勢いが落ちて口を開こうとした口元が震えていた。


「おれはお前みたいな女は嫌いだ。ハッキリ言うがカインがどうしてもと頼まなきゃ絶対お前たちがいるようなパーティーになんて臨時であっても入らなかった。男なんてカイン以外いらない?  男なんて信用できないって?  それならこっちから願い下げなんだよ」


怒鳴り散らすようには言わない。けど声に圧をかけるようにミオに当てる。攻めるというよりものし付けるようなものだ。


「もういっそやめようか?  正直、命令口調でこの後もワガママばっか言うならおれももうこれ以上は仕事はできない」


言うとミオの目が大きく見開いた。
動揺の色がさらに濃くになりおれが消えるかもと嬉しそうな顔をするかと思ったが、動揺と一緒に焦りの色が出てきた。まるで踏むなと言われていた地雷を思いっきり踏み抜いてしまったような凍りついた顔をしていた。


ミオ自身はただチームのことを考えておれのことを探ろうとしたのかもしれない。カインやリアナちゃんが大丈夫だと何度言っても相手は自分が嫌う男で噂もロクなのがない奴だから余計に警戒して今のうちに把握しておきたいと言ったところかもしれないが、それでもこちらからしたらいい迷惑行為に他ならない。


最初の時からずっと敵意は止まない。信頼もない。何かすればすぐに牙を向けて仕事をすれば何者だ答えろなどと命令口調で言う。


ならおれも覚悟を決めることにする。
カインたちには申し訳がないが、ミオがこのままなら本当に依頼を取りやめることしよう。


「で、どうする?  帰った方がいいか?  おれとしてはもうその方がお互いのためだと思うが」
「…………っあ───」
「まぁいいか、どうせもうすぐあっちのチームとも合流だ。話はその後みんなで決めれば問題ないな」


その方が手取り早いと何か口にしかけたミオに言って、置いていくように歩き始める。
何を言うとしたが大体予想はつくが、おれもここで優しくするつもりはない。もしかしたら本当にここがチームとしての引き際なのかもしれないんだ。


おれはミオが言い訳か先延ばしにするような反応を見せる限りこれ以上この場で会話をするのをやめた。可能性は引くかもしれないが、無神経にも入り込んできたこととリアナちゃんへの態度に対して謝らない限りおれの態度も変わらない。


そうして少し早歩きで置いてかないようにリアナちゃんの手を繋いで歩き。(その際、俯いて嬉しげな顔したリアナちゃんが可愛かった)


「ちょっ!  ちょっと待ってよっ!」
「……」


後ろから声がかかるが無視する。
これの声だけで何を言うとしているのかわかってしまう。振り返ることも止まることもなくただ歩いていく。


「待ちなさいよっ!」
「……」
「っ───待てっ!!」


そこでようやくおれも足を止める。
振り返りはしないが、その声には覚悟が含まれているのをしっかり感じていた。


おれが止まったことで、ふぅと息をついたミオは振り返らないおれにいつもように激昂はせず感情を押し殺した声で言った。


「わかった。そっちのことはもう聞かない。カインもリアナも信用しているのなら最低限こっちも譲歩する」


「そうか」


それが今彼女ができる最大の譲歩にもみえるが、おれはそれで十分だと振り返り彼女の顔を見て頷いた。それを見ていたリアナちゃんから安堵の息が溢れる中、ミオは真剣な表情でおれと同じようにこちらの顔を見ている。


誤魔化しなどない視線の交差。
そんな馴れ合いなど一切ない含まれない視線をお互い合わせると、


「2人は知っているの?」
「ああ」
「そう、ならいい。けどもし、何かしたら……」
「その場合は即刻帰るさ。カインからはお前が言っておいてくれ」
「そこまでいってあたしに頼るんだ。……ホント自由過ぎて腹が立つ」


軽口を交わしながらおれは苦笑してミオは苦虫を噛み潰した顔をする。仲はやはり最初とほとんど変わらないが、お互いある程度の境界線は作れたようだ。


そしてどうやらまだ仕事は続き、まだまだ面倒は続くということだ。
だがこれで少しは歩み寄れた気もしないでもなかった。




「…………うらやましい」


そんな俺たちを見て安心しつつもぼそりと何か呟くリアナちゃん。
意識をミオに向けていたので正確には聞こえなかったが、どこか嫉妬の色が彼女から薄っすら浮き出ているのは見えて、どういうことかとおれは内心首を傾げるのだった。

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