居候人は冒険者で店員さん
【警備開始その2】
「なかなか大変な様子だな」
「実際大変ですよ、特に相手が女性だと」
「へぇ、意外だ。君はもっと柔軟性が高いと思ったが」
「おれの私生活の何処に柔軟性が?」
「…………すまん」
「謝るなら最初から言わないでください」
おれは見回りの途中、同じように街を見ていた憲兵の隊長のアーバンさんと話をしている。
急に外れることになったからミオ辺りがすぐ何か言おうとしてきたが、マリアさんが遮ってくれたおかげで時間を取れた。
一時的に別行動になれたところでおれはアーバンさんと立ち話をしつつ、今回の祭りでの危険について聞いてみた。
そしてついでに昨日の視線についても心当たりがないか尋ねてみる。
「憲兵隊の方からは何か掴んでる情報とかありませんかね?」
「ほぅ、なるほど君がそこまで警戒する相手か」
おれの話を聞いて何かあったかと考えるアーバンさん。
しかし、こちらの情報が少なく時期的に怪しい人物が多い所為もあって、情報が絞れないようだった。
しばし記憶を探っていたが、思い当たる人物が浮かばず首を横に振った。
「やっぱり難しいですか」
「すまない、一応ちょっとこっちでも探ってみるから」
「いえ、おれも話だけじゃ無理があるのは分かってましたし」
いくらなんでも殺気がとんでもなく鋭く、腕の立つ殺し屋かもしれない人物という情報だけでは、特殊な立場で情報が集めているアーバンさんでも厳しいらしい。
「でも気になるな、君が逃してしまう程の相手なようだし」
「いや、それは邪魔された所為ですから」
「ああ、ミオの奴か。あいつは冒険者としてなりたての頃もよく問題を起こしていたからな。その度に男が崩れ落ちていた…………潰されて」
「もしアイツの二つ名ができそうになったら“男狩り”って付けたらどうですかね?  似合いますよ絶対」
「賞金稼ぎみたいな二つ名だな」
懐かしそうにそして苦手そうな笑みで口にするアーバンさん。
まさか成り立ての頃からあんな感じだったのかと、頬を引きつるおれはいつか付くかもしれないピッタリな二つ名を提案してみた。
「───ああ、そういうば賞金稼ぎで思い出した。ヴィット君、“魔弾の瞳”って知ってるか?」
*
ミオとの関係など無視すればいいと思ったが、それは大きな間違いだった
仕事の支障なんて最初から出てしまっていた。
アーバンさんとの話の後、マリアさんと合流することになったおれだが、
「どこ行くの!  勝手に動くなっ!」
「子どもか、おれは……」
合流してからまだ30分程度しか経ってないのに、早くもミオががみがみと噛み付いている。
任された区間での怪しい者の監視と警備であったが、ミオの視線はさっきからおれの方ばかりを見ていた。
「よそ見しない、ちゃんと警戒しなさい!  こっちは遊びに来たんじゃないの!」
何か動こうとすればすぐに文句を言ってくる。
これではもうミオだけおれの監視である。というか仕事をしてないのはどっちだよ。
っ、集中できないな……!
なるべくストレスにならないように能力で注意を張っているが、コイツの意識が多過ぎて集中できない。
「こらっミオ!」
「っ、ま、マリアさん……!」
「よそ見しないのはあなたです、ミオさん……!」
「り、リアナまでっ」
そんなおれたちに見かねて、いないカインに代わりにマリアさんとリアナちゃんがフォローに入ってくれた。
「さっきからヴィット君ばかり見て、子供じゃないんだから集中すべきはあなたでしょう!」
「まだ入ったばかりなんで口出しするのは控えてきましたが、ミオさんはヴィットさんにヒド過ぎます!」
「うっ、そんな2人して……」
結構本気で叱責するマリアさんとおれを庇うようにミオの前に立つリアナちゃん。
2人共、普段は温厚だから怒っているとちょっと怖いな。
「ミオさん……」
「ひっ!?」
「……」
特にリアナちゃんの顔は見れない。
いつもは天使のような彼女だが、怒ると鉄槌フライパンなアリサさんより恐ろしい絶対零度な暗き瞳を浴びせるから。
アレを見たら日なんか夢にまで出そうだしな。
だからそれを直視したミオには同情を禁じ得ないが、あの状態のリアナちゃんの前に立ちたくないのでスルーして周りに視線を送った。
*
「位置は問題なし……」
既にロサナは屋上へ移動して狙撃地点を確認していた。
まだ標的が行う試合まで時間はあるが、ロサナは時間までここで待機することに決めたのだ。
理由として地上で移動して偶然にもヴィットとの遭遇を恐れたこともあるが、一番の理由は屋上であれば地上とも距離があり、彼の察知能力外で待機できるかもしれないと考えたからである。
「ま、それも確証はないけど、最低でも100メートル以上は離れたほうがいいわね」
だが、それならこちらとしてもやれる手は多い。
暗殺専門であることから隠蔽も得意で、狙撃可能なまま待機をするのも慣れていた。
「この位置からなら見つかる可能性も低い」
現状もっとも確実な手だとロサナは自身に隠蔽魔法をかけつつ、フードを深くかぶって狙撃体勢に入る。
場所はカインが試合を行う舞台上から600メートル以上離れた建物の屋上。
十分な距離であるのは間違いないと彼女は気を引き締めて覚悟を決める。
そしてアイテムボックスの袋からライフル銃を取り出してセットすると、射線を合わせつつその時がくるまでひっそりと待つのだった。
*
おれはその事実を知ったのは何気なく催しなどが行われている、別の舞台上に着いた時であった。
「あ、あれは……!」
その光景に思わず立ち尽くす。
衝撃のあまり仕事中であったことも忘れてしまう。
それだけ衝撃のことであった。
この光景を見られるのであれば、明日から1ヶ月仕事詰めでも構わないとすら思うだろう。
しかし、それよりも許せない。
これを知っていたのならおれは絶対を仕事を断って、応援グッズを身に付けて来ていた筈だ。
それは当然、カインも予想していた筈。
アイツもおれが彼女たちのファンであるのはよく知っていたことだった。
「そうか、そういうことか…………あのカイン」
おれは気づいたのだ。
あの男が何故相談中に言葉を濁して後ろめたそうにしていたかを……!!
「カインの奴、知ってたなああああああああ!!」
怒りのまま空に向かって叫ぶ。
周囲が騒めくが知ったことかっ!
この光景に叫ばずにいられるか!
そう、舞台上でキラキラと輝く彼女たち。
身に付けているのは戦闘服であり、こうした場所でも着る可愛らしいスカート姿の騎士のような格好で舞台上に立つ。
『『みんな〜〜!  集まってくれてありがとう〜〜!!』』
「「「おおおおおおおおおおおーー!!!!」」」
この国でも有名な歌手チームで冒険者として有名なチーム名【ヴァルキリー】。
そんな彼女たちの呼びかけに集まっていたファンの衆は一斉に雄叫びを上げる。
かく言うおれも釣られて興奮状態に入りそうになるが、既に舞台上付近が人で埋め尽くされて入り込めず、がくりとその場で崩れ落ちる。
うう、ショックがデカ過ぎる。
こんなことって……!
「ヴィ、ヴィットさん!?」
「アンタなに騒いでるのよ?」
そんなおれの様子に近くにいたリアナちゃんが驚き、ミオの方は呆れた様子で見ている。
しかし、おれはそんな2人に見られても立ち直ることができず、しばしうな垂れた状態で見回りをするのだった。
そしておれが本気で落ち込んでいると思ったのか、不思議なことにミオからの注意は今回だけはなかった。
ただ変質者でも見るような瞳で見られ続けたが。
「実際大変ですよ、特に相手が女性だと」
「へぇ、意外だ。君はもっと柔軟性が高いと思ったが」
「おれの私生活の何処に柔軟性が?」
「…………すまん」
「謝るなら最初から言わないでください」
おれは見回りの途中、同じように街を見ていた憲兵の隊長のアーバンさんと話をしている。
急に外れることになったからミオ辺りがすぐ何か言おうとしてきたが、マリアさんが遮ってくれたおかげで時間を取れた。
一時的に別行動になれたところでおれはアーバンさんと立ち話をしつつ、今回の祭りでの危険について聞いてみた。
そしてついでに昨日の視線についても心当たりがないか尋ねてみる。
「憲兵隊の方からは何か掴んでる情報とかありませんかね?」
「ほぅ、なるほど君がそこまで警戒する相手か」
おれの話を聞いて何かあったかと考えるアーバンさん。
しかし、こちらの情報が少なく時期的に怪しい人物が多い所為もあって、情報が絞れないようだった。
しばし記憶を探っていたが、思い当たる人物が浮かばず首を横に振った。
「やっぱり難しいですか」
「すまない、一応ちょっとこっちでも探ってみるから」
「いえ、おれも話だけじゃ無理があるのは分かってましたし」
いくらなんでも殺気がとんでもなく鋭く、腕の立つ殺し屋かもしれない人物という情報だけでは、特殊な立場で情報が集めているアーバンさんでも厳しいらしい。
「でも気になるな、君が逃してしまう程の相手なようだし」
「いや、それは邪魔された所為ですから」
「ああ、ミオの奴か。あいつは冒険者としてなりたての頃もよく問題を起こしていたからな。その度に男が崩れ落ちていた…………潰されて」
「もしアイツの二つ名ができそうになったら“男狩り”って付けたらどうですかね?  似合いますよ絶対」
「賞金稼ぎみたいな二つ名だな」
懐かしそうにそして苦手そうな笑みで口にするアーバンさん。
まさか成り立ての頃からあんな感じだったのかと、頬を引きつるおれはいつか付くかもしれないピッタリな二つ名を提案してみた。
「───ああ、そういうば賞金稼ぎで思い出した。ヴィット君、“魔弾の瞳”って知ってるか?」
*
ミオとの関係など無視すればいいと思ったが、それは大きな間違いだった
仕事の支障なんて最初から出てしまっていた。
アーバンさんとの話の後、マリアさんと合流することになったおれだが、
「どこ行くの!  勝手に動くなっ!」
「子どもか、おれは……」
合流してからまだ30分程度しか経ってないのに、早くもミオががみがみと噛み付いている。
任された区間での怪しい者の監視と警備であったが、ミオの視線はさっきからおれの方ばかりを見ていた。
「よそ見しない、ちゃんと警戒しなさい!  こっちは遊びに来たんじゃないの!」
何か動こうとすればすぐに文句を言ってくる。
これではもうミオだけおれの監視である。というか仕事をしてないのはどっちだよ。
っ、集中できないな……!
なるべくストレスにならないように能力で注意を張っているが、コイツの意識が多過ぎて集中できない。
「こらっミオ!」
「っ、ま、マリアさん……!」
「よそ見しないのはあなたです、ミオさん……!」
「り、リアナまでっ」
そんなおれたちに見かねて、いないカインに代わりにマリアさんとリアナちゃんがフォローに入ってくれた。
「さっきからヴィット君ばかり見て、子供じゃないんだから集中すべきはあなたでしょう!」
「まだ入ったばかりなんで口出しするのは控えてきましたが、ミオさんはヴィットさんにヒド過ぎます!」
「うっ、そんな2人して……」
結構本気で叱責するマリアさんとおれを庇うようにミオの前に立つリアナちゃん。
2人共、普段は温厚だから怒っているとちょっと怖いな。
「ミオさん……」
「ひっ!?」
「……」
特にリアナちゃんの顔は見れない。
いつもは天使のような彼女だが、怒ると鉄槌フライパンなアリサさんより恐ろしい絶対零度な暗き瞳を浴びせるから。
アレを見たら日なんか夢にまで出そうだしな。
だからそれを直視したミオには同情を禁じ得ないが、あの状態のリアナちゃんの前に立ちたくないのでスルーして周りに視線を送った。
*
「位置は問題なし……」
既にロサナは屋上へ移動して狙撃地点を確認していた。
まだ標的が行う試合まで時間はあるが、ロサナは時間までここで待機することに決めたのだ。
理由として地上で移動して偶然にもヴィットとの遭遇を恐れたこともあるが、一番の理由は屋上であれば地上とも距離があり、彼の察知能力外で待機できるかもしれないと考えたからである。
「ま、それも確証はないけど、最低でも100メートル以上は離れたほうがいいわね」
だが、それならこちらとしてもやれる手は多い。
暗殺専門であることから隠蔽も得意で、狙撃可能なまま待機をするのも慣れていた。
「この位置からなら見つかる可能性も低い」
現状もっとも確実な手だとロサナは自身に隠蔽魔法をかけつつ、フードを深くかぶって狙撃体勢に入る。
場所はカインが試合を行う舞台上から600メートル以上離れた建物の屋上。
十分な距離であるのは間違いないと彼女は気を引き締めて覚悟を決める。
そしてアイテムボックスの袋からライフル銃を取り出してセットすると、射線を合わせつつその時がくるまでひっそりと待つのだった。
*
おれはその事実を知ったのは何気なく催しなどが行われている、別の舞台上に着いた時であった。
「あ、あれは……!」
その光景に思わず立ち尽くす。
衝撃のあまり仕事中であったことも忘れてしまう。
それだけ衝撃のことであった。
この光景を見られるのであれば、明日から1ヶ月仕事詰めでも構わないとすら思うだろう。
しかし、それよりも許せない。
これを知っていたのならおれは絶対を仕事を断って、応援グッズを身に付けて来ていた筈だ。
それは当然、カインも予想していた筈。
アイツもおれが彼女たちのファンであるのはよく知っていたことだった。
「そうか、そういうことか…………あのカイン」
おれは気づいたのだ。
あの男が何故相談中に言葉を濁して後ろめたそうにしていたかを……!!
「カインの奴、知ってたなああああああああ!!」
怒りのまま空に向かって叫ぶ。
周囲が騒めくが知ったことかっ!
この光景に叫ばずにいられるか!
そう、舞台上でキラキラと輝く彼女たち。
身に付けているのは戦闘服であり、こうした場所でも着る可愛らしいスカート姿の騎士のような格好で舞台上に立つ。
『『みんな〜〜!  集まってくれてありがとう〜〜!!』』
「「「おおおおおおおおおおおーー!!!!」」」
この国でも有名な歌手チームで冒険者として有名なチーム名【ヴァルキリー】。
そんな彼女たちの呼びかけに集まっていたファンの衆は一斉に雄叫びを上げる。
かく言うおれも釣られて興奮状態に入りそうになるが、既に舞台上付近が人で埋め尽くされて入り込めず、がくりとその場で崩れ落ちる。
うう、ショックがデカ過ぎる。
こんなことって……!
「ヴィ、ヴィットさん!?」
「アンタなに騒いでるのよ?」
そんなおれの様子に近くにいたリアナちゃんが驚き、ミオの方は呆れた様子で見ている。
しかし、おれはそんな2人に見られても立ち直ることができず、しばしうな垂れた状態で見回りをするのだった。
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