居候人は冒険者で店員さん

ルド@

【仕事準備その3】

ロサナは対象が立つと言う舞台を見てみようと、街の広場にやって来ていた。


「へぇ、あそこでやるのね」


舞台上は簡単に見つかった。
まだ飾り付けなどが終わっていないが、目立つように建てられている。


あそこで行われる試合、そして自分が狙う者が立つのである。
ロサナは賞金稼ぎの中でも有名な“魔弾の瞳”と呼ばれた暗殺者であったのだ。


得物の魔銃を使い多くの魔物を狩ってきたが、同じくらい人も狩ってきたロサナ。


普段はフリーの傭兵として活躍しているが、依頼がくればたとえ相手が善人であろうと抹殺するのが彼女のルールである。


そして狙った相手は確実に仕留てきた。
非公式であるが実力はAAランク相当だと言われている。


そんな彼女が今日下見に来ていたのは、暗殺し易いポジションのチェックである。
舞台上を視線を送った後、彼女は視野の広い眼・・・・・・を使い、人混みを無視して的確な場所を探して見つけていた。


「あの辺りからならいけそうね」


目に入ったのはちょっとした建物の屋上。
そもそも祭り事のために多くの警備の者が張られている以上、地上から狙うのは厳しい。


だが、屋上から狙うというなら話は別である。


いくら人数を増やして警備の者に警戒させても、地上には常にそれ以上の者たちが盛り上がって回っている。
もちろん屋上も警戒するかもしれないが、必然的に地上よりも暗殺ができる可能性は高かった。


「あら?  あの子って」


さらに場所を確かめていたところで気になる人物が現れる。
人が多くて本来は見えにくい位置であるが、視野の良い彼女の瞳にはその者が誰なのかすぐに分かった。




そして思わぬところでの出会いに口元に笑みが生まれていた。


「あの子がカイン君か」


彼女が目撃したのは今回のターゲットであったカインである。
パーティーメンバーと思われる女性たちを引き連れて、建てられている舞台上を眺めていた。


(情報通りみんな可愛いわね。……それとあの隣の金髪の子がクローズ卿の娘さんね)


試合前に様子を見に来たというところであろうと予想しつつ、念の為パーティーメンバーの顔も見ておくことにするロサナ。


もちろん他のパーティーメンバーの情報も入っているが、ロサナは特に街でも力を持つ貴族のマリアに注意を向けている。


今回の標的はあくまでカインであるが、予期せぬ事態で他の面々と戦う可能性もなくはない。これまでも仕事上でそういう展開に遭遇したこともあり、ロサナも可能な限り標的以外を狙わないようにしているが、厳しい局面では狩り取る選択も用意しないといけない。


だが、立ちはだかる相手を誰でも狩っていては、いつか自ら自分の首を締めてしまう結末が必ずやってくる。


なのでロサナは狙うと不味い厄介な相手を避けるために、こうして特徴を改めて確認したのである。
他の面々も可能なら狙いたくはないが、彼女が一番避けたかったのは貴族の中でも相手にすると面倒なマリアであったのだ。




「え?  ちょっ……なんで?」


しかし、彼女が目に入ったのは彼女たちだけではなかった。
他の女性陣も確認しているとふいに意識から外していた人物に意識を向ける。
カインの側に立つ彼の姿を見て記憶が刺激されるを感じて、首を傾げそうになった直後、


昨日の今日であったこともあり、記憶を探ってすぐに思い出す。


前日にたまたま彼女が立ち寄った店の店員もまた、彼と共に舞台上を眺めていたのだ。


「まさか、あの子も冒険者なの?」


まさかの再会に戸惑うロサナ。
視線を送りつつあの面々に混じるように立つ彼が何者なのか考えるが、店員であって冒険者。……普通に考えればそれはありえないが。


目利きも中々良いと思ったので店員に化けて、こちらを監視していたという線はなさそうだったが。


しかし、ロサナは立ち寄ったあの店がターゲットである彼と関係があることまでしか知らない。
得ていた情報はランクのことと学生であること、そのパーティーメンバーとその中にいるという貴族クローズの娘と標的の妹のこと、そして試合の件のみであったのだ。


「知り合いということかしら?」


とりあえず落ち着いて状況を整理する。
あの青年がいたことには驚いたが、これはチャンスかもしれない。


(この距離なら───いける!)


今なら警備の者も少ない手持ちの魔銃を使えば十分狙える距離であった。
集まっている人は多いが、自身の銃の腕と視野があれば可能である。


(不安があるとすれば周りの察知能力ね。情報ではカイン以外はそれほど通常の察知能力は高くないはず。魔法を使用されてない今であれば、あるいは……!)


しかし、リスクも考えるべきだ。
相手も最近とはいえAAランク同じくらいの実力に至った相手だ。


気付く可能性も視野に入れて慎重に、ロサナは懐に隠していたリボルバー式の魔銃を握り、そのハンマーを、




親指で起こした。次の瞬間───




「───ッ!」
「───え」


あの店員の青年が勢いよくこちら側を振り返った。


そして鋭い眼光でこちら側を睨み、何かを探しているように目を追い始めた。


「……?  ……っ!!」


そう認識したところで呆然としていたロサナは、ハッと慌てたようにして人混みに隠れる。


「っ!?  な、なんで……!?」


思わず叫びそうになるのを堪えるも、小声で叫んでしまうロサナ。
彼女がしたことは単に銃のハンマーを起こしただけだ。


「ち、違う。そんなはずないっ」


彼が振り返ったのはただの偶然。
そう自分に言い聞かせて落ち着こうとした。


「えっ!?」


しかし、チラリと人混みから彼の方を覗いた瞬間、それは大きな間違いであったことに気づく。


「う、ウソでしょう!?  こっちに来る!?」


青年は仲間の呼びかけも無視してこちらに駆け出していたのだ。
周りにいる人たちのことなどもお構いなし、掻き分けるようにこちらに迫っていた。


「ま、不味いわ……!」


もう勘違いなどするはずもない。
彼は間違いなく魔銃を持つ自分を探しているのだ。
どうやって察知したか謎であるが、今はとにかく彼から隠れることが重要であった。


(ダメっ!  顔を見られたら明日の仕事に支障が出かねないっ!)


仮に見つかってしまった場合、あちらが覚えていれば一旦は解放されるかもしれないが、明日の祭りの日に見張られる可能性がある。


なぜなら───


(あの子は私が売りに持っていた魔物を見て仕留め方をすぐに気付いてた……!)


彼には魔銃で仕留めた魔物を買い取って貰ったばかりだ。


目利きはまず間違いなく本物だった。
ならその技量から警戒される可能性が極めて高い。


そう思い必死に隠れる場所を探すロサナ。
人混み紛れてやり過ごすか、徐々に離れるかも考えたが、あの異常な察知能力は侮れない。


(っ、こうなると人の多さも考えものね!)


人混みでは万が一の場合逃げ切れない。
そう感じてロサナは広場に設置してある、出し物の店の裏に隠れることにした。


(とにかく気配を消さないとっ!  こんなところで見つかったら危険っ!)


近くにいる者から不審に思われないように、気配をなるべく殺して溶け込むように身を隠す。


(闇よ欺け……!)


そして闇の魔法隠蔽スキルの“ダークカーテン”を使い、さらに気配を消していくロサナ。


そうして逃げれるルートを確保しつつ、いつでも離れるように彼の動きに注意を向けた。


「っ、来た……!」


そして僅か数秒で彼は先程まで彼女がいた場所に到着する。
しかし、対象である彼女が見付からず、イラついた様子で周囲を目を向けると静かに息をついて何かし出した。


(?  何をしてるの?)


ただ、立ち尽くしているようにも見えるが、彼女は違うと首を振る。
魔法ではないのは眼で見て感じ取っているので分かる。


だが、今の彼は間違いなく何かをしている。
魔力の気配は全くしないが、こちらからでも感じ取れるほどの異常な集中している姿に、ロサナは嫌な予感から少しずつ足を後退させていた。


「───ッ!」
(っ、な……!?)


すると、彼の方にも変化があった。
なんと彼女が動こうとしたところで、こちらの方へ顔を向けたのだ。


そしてニヤリと口元を緩めて視線を、一直線にこちらへ合わせていた。


(そ、そんなどうして……!?)


信じられないといった表情で彼女は狼狽する。
まさか自分の微かな足の音で気付かれたのだとは夢にも思わず、こっち射抜くような彼の眼光に恐怖してしまい、逃げることも忘れてしまった。


このままでは捕まってしまうのは明らかだった。


そうしてこちらに向かって駆け出そうとしたが、ここで彼女に思わぬ奇跡が起こる。


彼が彼女が隠れる店舗の方へ駆け出そうとする前に、背後からターゲットの仲間の女性が彼を押さえつけたのである。


「何しているのアンタ!」
「ぐっ!?」


これには青年もロサナも唖然としたが、その女性の妨害の間がチャンスだと直感してロサナは彼に勘付かれることを覚悟で駆け出してその場を離れた。


そして一度建物の陰に隠れて追ってこないか警戒しつつ、宿の部屋に無事に着いたところで逃げ切れたのだと、安堵のあまり全身から汗が出て腰を落とした。


全神経を研ぎ澄ませたこともあり、この日はもう外出しようとはせずシャワーを浴びた後、ロサナは気付けの酒に手をつけて眠ることにした


だがこの時、初めて自分がとんでもない仕事を引き受けてしまったのだと、久しぶりに激しく後悔した。


しかし、後悔の中にあの青年との出会いは不思議と含まれていなかった。











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