居候人は冒険者で店員さん

ルド@

【突然の依頼その3】

「最終確認だ。いいか?」


街中にある酒場で、飲んでいる者達をよそに1人の男がバレないように、酒を煽るフリをしつつ、耳元に取り付けた通信機で連絡を取っていた。


『ああ、場所は例のパーティー会場、夜の19時以降に狙う。タイムリミットは今晩まで。Aプランで手土産を提供して、失敗の場合はBプランで掃除だ。馬車まで延びる場合は花束を渡してお別れだ』
「よし、別れの花束は?」
『馬車に積んでおく、手土産も用意済みだ。配置はそちらに任せるぞ』
「安全なルートは確保しているから、そこに入れといてくれ。仕上げもこちらで行う」


通信機から聞こえてくる男と対話を進めていき、問題ないことを確認し終えると、ふと男の方から別の話を振り出した。


「にしても今回の相手はホントにバカだな。正直拍子抜けだ」
『そうだな。事前にパーティー開催の情報は聞いていたが、まさか貴族問わず招待状を持つ者なら誰でも参加できるときたんだ』
「呆れるよな。ま、だからスポンサーにとっては邪魔なんだろうな。ああいう人間は」
『こちらも同感だ。あのような奴がいては、今後の楽しみが減ってしまう可能性があるからな』
「ははははっ、お前とっても邪魔でしかないか」


そうして笑うと懐から紙を1枚取り出す男性。


【───パーティーへの参加・不参加】


それは今夜とある貴族の館で行われるパーティーの招待状であった。
招待状は街中で堂々と配られていたものを入手していた男だが、まさか簡単に接近できる方法を見つかるとは思ってなかったので、呆れた表情で紙を扇ぎつつ通信先の男と話していた。









「───っ、ここか!」


指定された貴族の館とその庭の敷地内では既にパーティーが行われていた。


遅れてしまったがこれは仕方ない。
スザクの街はかなり広く、街の端から端に行こうとすれば、走っても40分以上はかかる。馬か移動型のマジックアイテムでもあれば話は別であるが、それは金銭面と周りに対する迷惑などで現実的ではなかった。
おれでも到着までに10分程かかってしまった。……まぁ、おれの場合はご機嫌取りに手こずったのが大きいが。アリサさんホント恐ろしや。


「お、来たかヴィット」
「アーバンさん!」


到着した時には既に日も暮れて、月と街灯の光のみが照らされている夜の街だ。
外で受付らしき燕尾服の男性に冒険者カードを見せた後、おれは周囲を見渡して呼び出した男性であるアーバンさんと合流することできた。


ちなみにおれの格好はスーツみたいなジャケットにズボンで、懐と腰に武器であるサバイバルナイフ、太ももホルスターに特殊ダーツを差している。
剣も使えるんだが、場所も考慮しての武器選びでもある。……一応他に愛用も備えてきたが。


ズボンのベルトに付いているアクセサリーの銀鎖に、一瞬だけ触れて離すとアーバンさんと話をする。


「急にすまない、どうしても保険をかけておきたくてな」
「もういいですよ、それよりこの人数は……」
「ああ……これか」


おれが周囲を見ながら問いかけると、見た目30代後半で無精髭衛兵のような、分厚いスーツの格好をしたアーバンさんは、苦い顔をして告げてくる。


やはり簡単ではないようだが、これは少々厄介ごとだったみたいだ。


「ここの主人は差別的な意識が嫌いなお方でなぁ……無料で招待券を街に配ってたそうだ」
「その姿勢は素晴らしいですけど、狙われてるんですよね?  正気ですか?」


こればかりはおれも想定外であった。
おれの想像では平民も受け入れているといっても、大半が貴族の者達ばかりだと思っていたのだが、視界に映っている光景には庭内で平民ばかりが集まっていた。楽しそうに用意された料理を口にしながら、周りとお喋りをして中には子供もいる。……冗談でしょう?


「これじゃ殺しに来てくれと、言ってるようなもんでしょう。何考えてんですか」


おれの知っている貴族の殆どは、平民との交流を深めようなどと考える人種ではない。……差別的な考えの者も少なくない。


おれからしたらハッキリ言って胡散臭うさんくさい。
何か裏があるのかと勘ぐりたくなるが、今回はそんなに考えもなくても、単純に面倒なことをしてくれたと文句を言いたくなってしまった。
視線を向けてみたが、どうやら建物の中も出入りが自由になっているようで、余計に嫌そうな顔になってしまう。人多過ぎ……。


「だから頼む!  この家の主がいつも雇っている警備と、街の衛兵俺たちだけじゃ厳しい過ぎるんだ。安全の為にも君の力が必要だ」
「……まぁ受けると決めて来たんで。じゃあ、いつも通りに行かせてもらいます」
「ああ、何か見つけたら捕獲するか呼んでくれ。……可能なら騒ぎにならないように捕まえてくれ」
「なるべく頑張ります」


可能なら何も起きるなと願いたい。
おれはアーバンさんに返事したあと、まず庭内を回って見て建物内に入ることにした。









「ふぅーー」


パーティーが行われている庭の中心辺りで、皆が楽しんでいる中、一旦立ち止まる。
落ち着かせるように小さく息をつくと、意識を集中させて───────能力を発動させた。


「……」


眼に映る人や物、景色が様々に色へと輝き出して、霧のように彼に集まってく──────これは心の光であり、その存在の情報であった。


おれはそれを目や耳、肌など五感で受け入れることで、その場の情報を手に入れることが可能だ。
それも人だけに留まらない、生きている動物や物を含めて、全ての存在の心を読み取ることができる。


周囲の感情を情報として読み取る力。
おれの持つ異能の基本スキルである。


「見た限りだな街の連中ばかりだな」


記憶を元に人相や物を識別するスキル───“メモリー・パス”


───貴族区の住人は外には殆どいない、記憶にある住民ばかりだった。
顔と声は記憶に残っている、判別は難しくなかった。


そうして必要な情報が頭の中で整理されて仕舞われていく。
おれはさらに視覚と聴覚で視える心の光と、聞こえてくる音に意識を集中していく。


実は感情によって見えてくる光の色や、その者が発している音は異なる。
それを利用しおれはこの場にいる者の中に悪意の色や音などをまとわせている者がいないかチェックしていく。


悪意にも色々とあるが、殺意に近く殺しを専門にしている者の場合、より近寄り難い光の色と音を発しているので、それを出している暗殺者がいないか、探りを入れることができるんだが────


……予想はしていたが、色々いるな。


暗殺者こそ見当たらないが、別の悪意を持ってこのパーティーに参加している貴族、平民の人達が混じっている。種類は様々、嫉妬や嫌悪感などが基準にチラホラ窺える。……妬みとか怖いわ。


────ん?


『────』


聞き耳しているとその中に一つ、気になる気配が混じっていた。
パーティー内でしている話声で、殺意はそれほどではなかったが、どこか怪しい感じが混じっている。
周りで出ている悪意と比べても、少しばかり張り詰めたような違和感があった。


おれはそう思い、チラリと顔を向けてよく見てみる。
相手は20代前半の若い男のようで、一目見ただけではただ周りの者達と会話をしているようにしか見えない。


「───!」


おれは目を凝らしてその男を全体的に見てみると、また別のスキルを発動させた。


生物や物を解析するスキル────“アナライズ”
おれは視界に入る対象の状態や身に付けている物などの情報を集めていく。


「やれやれ……」


そして男の懐に隠してあるナイフを見つけてため息をついた。
纏っている心の光の色雰囲気からして、どうやら主催者相手にでも揉め事を起こそうとしているチンピラのようだった。


「仕方ない……か」


しかし邪魔なのは事実であった。
普段であれば無視してしまうところだが、今は仕事中で相手はその仕事場でバカを仕出かそうとしている以上、放置はできない。


『────』


おれは他の男達と会話をしている男に、ゆっくりと近付いて背後に回り込む。
ふと会話を終えて酒を煽る男が完全に油断しているのを理解して、おれはさらに近付いて背後に忍び寄った。


片方の手に魔力ではない、別の力を込める。


そして本人を含め、誰にも気付かれないように背後に着いたおれは、その無防備な背中に向けて掌底打ちを加えた。


煌気術───“震撃”
気の一種である煌気を込めた、おれの掌底は男性の背中から全体を通した。


「っごお!?」
「おやすみ」


衝撃で男はビクンと上半身を大きく跳ねかけるが、おれは肩を掴み衝撃を押さえる。
気絶したのを確認し、目立たないように男を支えたおれは、近場に設置している椅子に座らせ、酔っ払って寝ているように介抱してその場から離れた。


ちゃんとナイフは没収しておいた。
そのまま貰ってもよかったが、そこら辺の草陰に捨てて置いた。


「……外にはいないようだな」


とりあえず庭内には怪しい者がいないことを確認し終えて、おれは護衛対象がいる建物内に入ることにした。



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