オリジナルマスター
光と闇の衝突と再現された奇術師。
『“黒の千本刀”』
「っ、『短距離移動』!」
落ち着いた男の声と焦った男の声が響く。
囲うように飛んで来る黒い小刀ナイフに対し、ジークは空間移動の魔法で射程外に逃れる。
限界移動距離内に立つ男の背後に移動すると、握っていた銀剣の横薙ぎで仕掛けるが。
『“闇の壁”、“真影から捕縛鎖”、“駆け巡る影針”』
「げっ!?」
背後を取られた状況でも唱えた男の声に焦りはなかった。
相手は振り返らず背中を隠すように張った闇の障壁で剣撃を抑え、影から飛び出した捕縛系の鎖がジークの両脚に絡み付く。
そして、一時的に動きを封じた彼の足元の影から尖った針が剣山のように伸びた。
「“跳び兎”!」
しかし、寸前で跳躍力に特化した走法で、影の剣山が届かない上空へ逃げる。影の鎖が脚に絡み付いていたが、跳躍の際に込めた魔力の放出のみで振り解いてみせた。
「あ、あっぶないな!? この野郎が!」
ただ、自分とは逆にクールに攻めてくる男に対し、嫉妬かムカムカとした煮えるような苛立ちがあった。
「く・ら・えっ!」
イラっとした様子で真下の男を睨み付けると、結構な魔力が込めた右手からお返しの魔法を繰り出そうとし……。
『……』
男の方もまた、仕掛けようとした上空のジークを撃ち落そうと闇魔法を発動させていた。
「『閃耀の爆撃』!」
『“混沌の爆撃”』
ほぼ同じタイミングで放たれた爆発系魔法の激突。
相反する属性が影響し相殺し合う2種類の爆発は、煙となって消滅した時にはジークは地上に戻り、男も彼を捉えて両手から次なる魔法を整えていた。
「たく、いざやってみたらこんなに違うとはな。奇術師」
『……』
地上に降りたジークが呆れたように呟く。
精神面はともかく力量は互角の戦い。それでも当初は一方的な展開になると思ったが、こうなるとどう判断すべきか分からない。
「原初で作り出したコピーのようなものだが、魂を利用しているから性格は一緒な筈だけどな」
『……』
魔法で生み出したもう1人の自分は、依然としてクールな雰囲気を保っている。
絶対演技だと、化けの皮を剥いでやると攻めに行った筈だが、気付いたら逆に追い詰められるなんて展開が増え始めていた。
自然とため息が溢れるが、今回に限っては思いっきり自業自得。試しにやってみた結果、こんなことになってしまった。
*
「さてと、やってみるか?」
───もし自分自身と戦えたらどうする?
一度でもそう考えたことはないだろうか。切っ掛けは覚えて間もない原初魔法の1つ『奇術師の極意』をマスターしようと訓練していた頃であった。
暴走しても問題ない製作中のダンジョン内で、ジークは作り上げた闘技場のような広い空間の中央に立つ。戦闘服でもある白ローブの魔導服を見付けると、前に立つ相手に苦笑しながら構えを取った。
「《真赤の奇術師》───ジョド。改めて考えるとやり過ぎだな」
『……』
かつて魔法で偽っていた存在。
ウルキアに住んでいた頃、裏で動いていた冒険者の姿。
赤き瞳と髪をした整った顔の青年ジョドは、向けられた苦い視線に何とも言い難い表情ながらその言葉には同意だと頷く。会話が出来ない訳ではないが、相手が自分自身だからだろう。無言のままにジョドも構えていた。
「思い付きでやってみたことだが、やはりシュールな光景だな。自分自身と戦うなんて普通じゃありえないか」
姿を変えてもジーク・スカルスとジョドも同一人物。
しかし、彼の得意とする原初魔法によって、ありえない組み合わせでの戦いが実現された。
『奇術師の極意』の能力で魂を分けた分身体であるが、実験も兼ねて《奇術師》の技量もそのまま再現していた。
「シッ!」
『……!』
ジークは『身体強化・火の型』を無詠唱で発現させると、走法で一気にジョドに迫る。纏っている真っ赤な火のオーラが炎線を描いて、その先で拳を握り締めたジークがジョドを捉えようとしたが。
「っ、そう簡単にはいかないか!」
『“水の千本刀”』
火系統で強化したジークに対し『身体強化・水の型』を展開したジョド。水のオーラを纏った掌底で彼の拳を止めると、続けざまに水系統の刃を無数に配置する。
「く! 腕を……!」
さらに止めた拳の手首を掴んで回避しようとするジークを押し止める。すぐに解かれ1秒程度の隙であるが、ジョドは的確に空中に配置した水の刃を放つ。
「“属性転換”───『身体強化・土の型』」
結果、躱し切るのは難しいと直感したか、迫ってくる水の刃を前に回避を捨てるジーク。
属性の優劣で水に弱い火では勝機は薄いと判断し、即座に転換させて土系統の強化に移して防御の型を取る。四方から飛んできた刃を土のオーラのみで弾いた。
だが。
『“雷降ろし”』
「ガァっ!?」
防御の型を取って動きを止めていたジークの頭部へ、跳躍から重い踵落としを繰り出したジョド。纏っている属性も雷系統に変えており、黄色の雷オーラが帯びた踵がジークを地面へ叩き落としたが……。
「ん……てな?」
『……!』
風系統のAランク魔法『風の大円高壁』が狭い空間であるが、接近していたジョドを閉じ込める。
「カァァァァッ!」
いつの間にかジークが纏っていたのも風系統の身体強化に変わっており、瞬時に起き上がった顔にも目立った怪我はなく、発動速度が早い専用スキルの『翠風の斬鎌』の鎌で結界ごと彼を斬り裂いた。
───雷で出来た分身を。
「なっ!」
『“火の大円高壁”、“火炎王の極衣”、“真紅の業炎槍”』
ジークがやったように円状の結界で彼を閉じ込める。動揺する彼をよそに火系統最高位の身体強化を発現。手元に同じく最高位の炎槍を構えて、顔ごと振り返ったジークに向けて放った。
(結界を破るには……時間が足りないか!)
囲われた炎の結界を見て舌打ちをしたくなるジーク。
明らかにこちらを仕留めに来ている極悪なまでに魔力が注がれた炎槍。
制限をしていた訳ではないが、追い詰められて原初魔法を使わされてしまった。
*
“属性転換”を利用した技量合戦は、手札を切るのが早いジョドが優勢を維持した。
火系統の結界と槍の合わせ技を空間移動で回避して以降、属性の優劣では厳しいと判断したジークは、5つの基本属性ではなく特殊属性の光系統に絞って攻めに転じようとした。
だが、冷静に戦況を見極めるジョドも瞬時に系統を闇属性に絞った。
やはり《奇術師》としての技量がそのまま再現されている為か、手際良く魔法を発動させてジークの裏をかいてくる。
闇と光なら互角でやり合える筈が、ジークの方が後手に回り攻めに転じ難なっていた。
(ッ、『短距離移動』、『短距離移動』『短距離移動』ッ!)
使用回数ギリギリまで連続で空間移動するジーク。
何度も移動することで鋭い感知能力を持つジョドの察知を乱す。ジョドが闇のナイフや闇の球を撃ち牽制してくる中で……。
(ここ! ……に見せかけてこっちだ!)
背後を取って銀剣を構えたが、勘というべきか、駄目押しの空間移動でその場から移動したことで、ジョドの二刀の闇剣を躱してみせた。
『───っ』
「『白光の切断』っ!」
発動速度が早いスキルで光の刃を発現させる。───ほぼ同タイミングでジョドが無詠唱で魔法を発動する。
(間に合う……か!?)
光を帯びたジークの銀剣がジョドの胴体を上下に両断。───それよりも僅かに早く『短距離移動』が発動して、闇の分身体を残してジョドは剣撃を回避した。
(これでもダメか! 技量が強化されているのか、発動スピードが異常に早い!)
『“常闇王の絶対領域”、“真黒の闇幻槍”、“異次元の強襲撃”、“再起復活”』
一瞬にして闇の霧が周囲に立ち昇る。
視界が闇に染まる中で、闇の霧に紛れたジョドが最高位の闇の槍を発動させる。
侵食させる闇が光を弱める中で、ジーク目掛けて複製された侵食の闇槍が迫っていた。
「『揺光王の絶対領域』、『反鏡外套』!」
すかさずジークも光系統のフィールド魔法を発動。同時に光系統の『魔鏡のコート』を纏って『魔法反射』で降り注ぐ槍のすべてを弾く。そのまま相手に返すまでは出来ないが、射程外に出ると『光のフィールド魔法』で『闇のフィールド魔法』も相殺させるが。
『“術式重装”───“夜極・混沌の暴風”』
「───っ」
濃い闇霧が晴れた先で待っていたのは、“魔法倍加技法”を加えて何倍にも増幅された闇の暴風。
頑丈に出来た闘技場の地面を削るように破壊して、Sランク以上の戦闘にも耐えられる筈の建物自体にもダメージを与える程の出力に達していた。
「『白光の閃脚』! 『光極の槍投げ』!」
技法で増幅された一撃を纏った光の脚蹴りで弾くジーク。
蹴りの勢いのまま回転すると“術式重装”で増幅させた光の槍を放ち牽制しようとするが、ジョドの腹を射抜いた瞬間、闇化した腹部に飲まれて消失する。
「……マジか、そこまでやるか」
あれは闇系統の身体強化の最高位『常闇王の極衣』。
さらに『新闇の侵食』も発動させて2つ共に“術式重装”を重ね掛けして……。
『“融合”、“一体化”』
「いやいや、俺よ! 本当にそこまでする必要があるのか!?」
『常闇王の極衣』と『新闇の侵食』を融合させる。
そして“一体化”を使用して自身の肉体を闇と1つにさせることで、互角の光系統にも効く特化した形態が完成した。
見た目はもはや奇術師と呼べる者ではなく、『闇の道化師』か『暗黒の支配者』にしか見えなかった。
「っ、こうなったら火力でやるしかないだろうがっ!」
恐ろしいことに既にSSランクの《超越者》に近いレベルの魔力放出をして戦っている。元々闘技場の耐久テストも兼ねていた戦いであるが、これ以上やるのはさすがに闘技場どころかダンジョンそのものに影響を与えかねない。
間違いなく止めるなら今しかなかった。
「“融合”」
しかし、ここまでやったのなら最後までやらなくても一緒か。
寧ろ強力な一撃同士がぶつかり合った結果を知りたい。場合によっては今後のダンジョン製作も考え直す必要がある。などと言った強引な理由を付けて、半ばヤケクソ気味に融合技法を使用した。
光系統最高位の身体強化『揺光王の極衣』。
そして、光系統最高位の剣魔法『閃光両断』を融合させた。
「“術式重装”、“一体化”」
もちろん“術式重装”も重ね掛けして行う。
最後に“一体化”も発動させると、ジョドの目の前に『光の騎士』が誕生した。
『暗黒の覇者』と『光の勇者』。
奇妙な光景となったが、2人とも特に驚くことはなく、互いに濃い常闇のオーラの剣と神々しい光の剣を生み出す。
2人とも魔力の放出量が急激に高めたことで、闘技場の耐久値を超える。地面や壁、柱といった色々なところで亀裂が入り崩れ始めるが、何もない空間で鳴ってはならないヒビ割れの音も聞こえる。
しかし、不敵な笑みを浮かべる2人は一切気にもしない。
ここに来て闘いを求めるスイッチでも入ったか、ニヤリと笑みが深まった途端───。
『ガァアアアアアアアアッ!!』
オーラとなった光と闇の交差する。
瞬間、剣同士が激突した激しい衝撃音が響き、彼らを中心にして周囲の崩壊が増したが、2人は構わずその後30分以上激突し合った。
結局、ジョドを召喚させる原初魔法が途中で保たなくなり、層の崩壊寸前で決着前に戦いが終わった。
ちなみにその後、騒ぎに気付いた女性陣から鬼の形相で説教を受けることになる。
やはり自業自得だったのが重かったか、問答無用で正座させられたジーク。
罰として闘技場の修繕が終わるまで女性陣の手料理を食べさせて貰えず、疲れた様子で魔道具のトンカチで直すことになるが、何故か3日後には立派な城付きの闘技場が出来ており、見に来た誰もが突っ込もうとはしなかった。
ただ修繕の最中、ジークがボソボソと「アハハ……すっかり胃袋を掌握されてるなぁ、俺」、「これは堕落の始まりってやつかな?」、「……あれ? これってダメ人間の道、真っしぐらじゃねぇ? あれ、本気でヤバくない?」などと私生活の中で彼女らに依存している自分に対し、堕落か甘えかと微妙な気分で落ち込んだかと思えば、我に返った様子でトンカチに無駄な魔力を注いで振り回していたが、出来上がったそれを見ても本人は一切気にせず、城内で300人は泊まれるようにして満足したのだった。
その後、練習を続けた結果、本人以外にもある程度『情報記憶』が満たされていれば、第三者の再現も可能など分かり、何人か凄いヤバイ人を召喚して『ダンジョン滅び』へ近付く大変なことになったが、それは別の話となる。
「っ、『短距離移動』!」
落ち着いた男の声と焦った男の声が響く。
囲うように飛んで来る黒い小刀ナイフに対し、ジークは空間移動の魔法で射程外に逃れる。
限界移動距離内に立つ男の背後に移動すると、握っていた銀剣の横薙ぎで仕掛けるが。
『“闇の壁”、“真影から捕縛鎖”、“駆け巡る影針”』
「げっ!?」
背後を取られた状況でも唱えた男の声に焦りはなかった。
相手は振り返らず背中を隠すように張った闇の障壁で剣撃を抑え、影から飛び出した捕縛系の鎖がジークの両脚に絡み付く。
そして、一時的に動きを封じた彼の足元の影から尖った針が剣山のように伸びた。
「“跳び兎”!」
しかし、寸前で跳躍力に特化した走法で、影の剣山が届かない上空へ逃げる。影の鎖が脚に絡み付いていたが、跳躍の際に込めた魔力の放出のみで振り解いてみせた。
「あ、あっぶないな!? この野郎が!」
ただ、自分とは逆にクールに攻めてくる男に対し、嫉妬かムカムカとした煮えるような苛立ちがあった。
「く・ら・えっ!」
イラっとした様子で真下の男を睨み付けると、結構な魔力が込めた右手からお返しの魔法を繰り出そうとし……。
『……』
男の方もまた、仕掛けようとした上空のジークを撃ち落そうと闇魔法を発動させていた。
「『閃耀の爆撃』!」
『“混沌の爆撃”』
ほぼ同じタイミングで放たれた爆発系魔法の激突。
相反する属性が影響し相殺し合う2種類の爆発は、煙となって消滅した時にはジークは地上に戻り、男も彼を捉えて両手から次なる魔法を整えていた。
「たく、いざやってみたらこんなに違うとはな。奇術師」
『……』
地上に降りたジークが呆れたように呟く。
精神面はともかく力量は互角の戦い。それでも当初は一方的な展開になると思ったが、こうなるとどう判断すべきか分からない。
「原初で作り出したコピーのようなものだが、魂を利用しているから性格は一緒な筈だけどな」
『……』
魔法で生み出したもう1人の自分は、依然としてクールな雰囲気を保っている。
絶対演技だと、化けの皮を剥いでやると攻めに行った筈だが、気付いたら逆に追い詰められるなんて展開が増え始めていた。
自然とため息が溢れるが、今回に限っては思いっきり自業自得。試しにやってみた結果、こんなことになってしまった。
*
「さてと、やってみるか?」
───もし自分自身と戦えたらどうする?
一度でもそう考えたことはないだろうか。切っ掛けは覚えて間もない原初魔法の1つ『奇術師の極意』をマスターしようと訓練していた頃であった。
暴走しても問題ない製作中のダンジョン内で、ジークは作り上げた闘技場のような広い空間の中央に立つ。戦闘服でもある白ローブの魔導服を見付けると、前に立つ相手に苦笑しながら構えを取った。
「《真赤の奇術師》───ジョド。改めて考えるとやり過ぎだな」
『……』
かつて魔法で偽っていた存在。
ウルキアに住んでいた頃、裏で動いていた冒険者の姿。
赤き瞳と髪をした整った顔の青年ジョドは、向けられた苦い視線に何とも言い難い表情ながらその言葉には同意だと頷く。会話が出来ない訳ではないが、相手が自分自身だからだろう。無言のままにジョドも構えていた。
「思い付きでやってみたことだが、やはりシュールな光景だな。自分自身と戦うなんて普通じゃありえないか」
姿を変えてもジーク・スカルスとジョドも同一人物。
しかし、彼の得意とする原初魔法によって、ありえない組み合わせでの戦いが実現された。
『奇術師の極意』の能力で魂を分けた分身体であるが、実験も兼ねて《奇術師》の技量もそのまま再現していた。
「シッ!」
『……!』
ジークは『身体強化・火の型』を無詠唱で発現させると、走法で一気にジョドに迫る。纏っている真っ赤な火のオーラが炎線を描いて、その先で拳を握り締めたジークがジョドを捉えようとしたが。
「っ、そう簡単にはいかないか!」
『“水の千本刀”』
火系統で強化したジークに対し『身体強化・水の型』を展開したジョド。水のオーラを纏った掌底で彼の拳を止めると、続けざまに水系統の刃を無数に配置する。
「く! 腕を……!」
さらに止めた拳の手首を掴んで回避しようとするジークを押し止める。すぐに解かれ1秒程度の隙であるが、ジョドは的確に空中に配置した水の刃を放つ。
「“属性転換”───『身体強化・土の型』」
結果、躱し切るのは難しいと直感したか、迫ってくる水の刃を前に回避を捨てるジーク。
属性の優劣で水に弱い火では勝機は薄いと判断し、即座に転換させて土系統の強化に移して防御の型を取る。四方から飛んできた刃を土のオーラのみで弾いた。
だが。
『“雷降ろし”』
「ガァっ!?」
防御の型を取って動きを止めていたジークの頭部へ、跳躍から重い踵落としを繰り出したジョド。纏っている属性も雷系統に変えており、黄色の雷オーラが帯びた踵がジークを地面へ叩き落としたが……。
「ん……てな?」
『……!』
風系統のAランク魔法『風の大円高壁』が狭い空間であるが、接近していたジョドを閉じ込める。
「カァァァァッ!」
いつの間にかジークが纏っていたのも風系統の身体強化に変わっており、瞬時に起き上がった顔にも目立った怪我はなく、発動速度が早い専用スキルの『翠風の斬鎌』の鎌で結界ごと彼を斬り裂いた。
───雷で出来た分身を。
「なっ!」
『“火の大円高壁”、“火炎王の極衣”、“真紅の業炎槍”』
ジークがやったように円状の結界で彼を閉じ込める。動揺する彼をよそに火系統最高位の身体強化を発現。手元に同じく最高位の炎槍を構えて、顔ごと振り返ったジークに向けて放った。
(結界を破るには……時間が足りないか!)
囲われた炎の結界を見て舌打ちをしたくなるジーク。
明らかにこちらを仕留めに来ている極悪なまでに魔力が注がれた炎槍。
制限をしていた訳ではないが、追い詰められて原初魔法を使わされてしまった。
*
“属性転換”を利用した技量合戦は、手札を切るのが早いジョドが優勢を維持した。
火系統の結界と槍の合わせ技を空間移動で回避して以降、属性の優劣では厳しいと判断したジークは、5つの基本属性ではなく特殊属性の光系統に絞って攻めに転じようとした。
だが、冷静に戦況を見極めるジョドも瞬時に系統を闇属性に絞った。
やはり《奇術師》としての技量がそのまま再現されている為か、手際良く魔法を発動させてジークの裏をかいてくる。
闇と光なら互角でやり合える筈が、ジークの方が後手に回り攻めに転じ難なっていた。
(ッ、『短距離移動』、『短距離移動』『短距離移動』ッ!)
使用回数ギリギリまで連続で空間移動するジーク。
何度も移動することで鋭い感知能力を持つジョドの察知を乱す。ジョドが闇のナイフや闇の球を撃ち牽制してくる中で……。
(ここ! ……に見せかけてこっちだ!)
背後を取って銀剣を構えたが、勘というべきか、駄目押しの空間移動でその場から移動したことで、ジョドの二刀の闇剣を躱してみせた。
『───っ』
「『白光の切断』っ!」
発動速度が早いスキルで光の刃を発現させる。───ほぼ同タイミングでジョドが無詠唱で魔法を発動する。
(間に合う……か!?)
光を帯びたジークの銀剣がジョドの胴体を上下に両断。───それよりも僅かに早く『短距離移動』が発動して、闇の分身体を残してジョドは剣撃を回避した。
(これでもダメか! 技量が強化されているのか、発動スピードが異常に早い!)
『“常闇王の絶対領域”、“真黒の闇幻槍”、“異次元の強襲撃”、“再起復活”』
一瞬にして闇の霧が周囲に立ち昇る。
視界が闇に染まる中で、闇の霧に紛れたジョドが最高位の闇の槍を発動させる。
侵食させる闇が光を弱める中で、ジーク目掛けて複製された侵食の闇槍が迫っていた。
「『揺光王の絶対領域』、『反鏡外套』!」
すかさずジークも光系統のフィールド魔法を発動。同時に光系統の『魔鏡のコート』を纏って『魔法反射』で降り注ぐ槍のすべてを弾く。そのまま相手に返すまでは出来ないが、射程外に出ると『光のフィールド魔法』で『闇のフィールド魔法』も相殺させるが。
『“術式重装”───“夜極・混沌の暴風”』
「───っ」
濃い闇霧が晴れた先で待っていたのは、“魔法倍加技法”を加えて何倍にも増幅された闇の暴風。
頑丈に出来た闘技場の地面を削るように破壊して、Sランク以上の戦闘にも耐えられる筈の建物自体にもダメージを与える程の出力に達していた。
「『白光の閃脚』! 『光極の槍投げ』!」
技法で増幅された一撃を纏った光の脚蹴りで弾くジーク。
蹴りの勢いのまま回転すると“術式重装”で増幅させた光の槍を放ち牽制しようとするが、ジョドの腹を射抜いた瞬間、闇化した腹部に飲まれて消失する。
「……マジか、そこまでやるか」
あれは闇系統の身体強化の最高位『常闇王の極衣』。
さらに『新闇の侵食』も発動させて2つ共に“術式重装”を重ね掛けして……。
『“融合”、“一体化”』
「いやいや、俺よ! 本当にそこまでする必要があるのか!?」
『常闇王の極衣』と『新闇の侵食』を融合させる。
そして“一体化”を使用して自身の肉体を闇と1つにさせることで、互角の光系統にも効く特化した形態が完成した。
見た目はもはや奇術師と呼べる者ではなく、『闇の道化師』か『暗黒の支配者』にしか見えなかった。
「っ、こうなったら火力でやるしかないだろうがっ!」
恐ろしいことに既にSSランクの《超越者》に近いレベルの魔力放出をして戦っている。元々闘技場の耐久テストも兼ねていた戦いであるが、これ以上やるのはさすがに闘技場どころかダンジョンそのものに影響を与えかねない。
間違いなく止めるなら今しかなかった。
「“融合”」
しかし、ここまでやったのなら最後までやらなくても一緒か。
寧ろ強力な一撃同士がぶつかり合った結果を知りたい。場合によっては今後のダンジョン製作も考え直す必要がある。などと言った強引な理由を付けて、半ばヤケクソ気味に融合技法を使用した。
光系統最高位の身体強化『揺光王の極衣』。
そして、光系統最高位の剣魔法『閃光両断』を融合させた。
「“術式重装”、“一体化”」
もちろん“術式重装”も重ね掛けして行う。
最後に“一体化”も発動させると、ジョドの目の前に『光の騎士』が誕生した。
『暗黒の覇者』と『光の勇者』。
奇妙な光景となったが、2人とも特に驚くことはなく、互いに濃い常闇のオーラの剣と神々しい光の剣を生み出す。
2人とも魔力の放出量が急激に高めたことで、闘技場の耐久値を超える。地面や壁、柱といった色々なところで亀裂が入り崩れ始めるが、何もない空間で鳴ってはならないヒビ割れの音も聞こえる。
しかし、不敵な笑みを浮かべる2人は一切気にもしない。
ここに来て闘いを求めるスイッチでも入ったか、ニヤリと笑みが深まった途端───。
『ガァアアアアアアアアッ!!』
オーラとなった光と闇の交差する。
瞬間、剣同士が激突した激しい衝撃音が響き、彼らを中心にして周囲の崩壊が増したが、2人は構わずその後30分以上激突し合った。
結局、ジョドを召喚させる原初魔法が途中で保たなくなり、層の崩壊寸前で決着前に戦いが終わった。
ちなみにその後、騒ぎに気付いた女性陣から鬼の形相で説教を受けることになる。
やはり自業自得だったのが重かったか、問答無用で正座させられたジーク。
罰として闘技場の修繕が終わるまで女性陣の手料理を食べさせて貰えず、疲れた様子で魔道具のトンカチで直すことになるが、何故か3日後には立派な城付きの闘技場が出来ており、見に来た誰もが突っ込もうとはしなかった。
ただ修繕の最中、ジークがボソボソと「アハハ……すっかり胃袋を掌握されてるなぁ、俺」、「これは堕落の始まりってやつかな?」、「……あれ? これってダメ人間の道、真っしぐらじゃねぇ? あれ、本気でヤバくない?」などと私生活の中で彼女らに依存している自分に対し、堕落か甘えかと微妙な気分で落ち込んだかと思えば、我に返った様子でトンカチに無駄な魔力を注いで振り回していたが、出来上がったそれを見ても本人は一切気にせず、城内で300人は泊まれるようにして満足したのだった。
その後、練習を続けた結果、本人以外にもある程度『情報記憶』が満たされていれば、第三者の再現も可能など分かり、何人か凄いヤバイ人を召喚して『ダンジョン滅び』へ近付く大変なことになったが、それは別の話となる。
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