オリジナルマスター

ルド@

エピローグ。

俺の学園は魔法科を組み込んだ3番目の学園だったことから、『第三龍門学園』と呼ばれている。
引退したが創設者兼学園長だったジィちゃんが居たからか、学園名には龍が付けられて他の魔法学園の中でも上位の学校なのだ。

「はぁ」

……なんで、そんな話を急に始めたかというと。
その学園までの道のりを、重い足取りで向かっていたからだ。
学園は山に創設された為、道はやがて上り坂になる。

別に運動嫌いとかではない、異世界での影響もあるが、よく体は鍛えていた。
だから本格的な山登りもやろうと思えば出来るし、このぐらいの坂道も問題ない。……筈なんだが。

おかしい、気付けばもう休日が終わってた!?

「まどか先生、なんか俺休んだ気がしないんですが」
「そうでしょうね。全身の筋肉がズタズタになった上、丸2日間も寝込んでましたから」

隣で一緒に歩いてくれるまどか……先生らしいスーツ姿の彼女に呆れられてしまう。

まぁ、そうなのだ。
気付けば家にも戻っていて、2日も寝込んで昨日までまどかに看病されてた。
キズ自体はすぐ治してもらったが、反動で身体中痛くてしょうがなかった。弱い時でも筋肉痛より上で、ほぼ常に足がつった時の痛みが全身を駆け巡っていた。

「自業自得です。最後の最後で無茶して暴走したんですから」

無表情で言っているが、絶賛お冠なのは俺には分かる。
目覚めた時に散々説教をくらった。ジィちゃんがフォローしてくれなかったらもっと厳しかっただろう。

ただ、お粥や体拭きは嬉しかった。
献身的に看病してくれて結構甘やかされた。……添い寝は流石に断ったが。

「先に行っても良かったんだぞ? 教員なんだあんまり遅れると不味いだろう」
「ご心配なく事前に連絡済みです。生徒のサポートも立派な教員の仕事ですよ」

うっすい胸元に手を添えて心なしか得げに言う。
……けど、何故か嫌な予感がしたのは、きっと気のせいだと思いたい。

「ちなみにどう伝えたの?」
「……? Eクラスの龍崎君が危険物を食して倒れたので……」
「あ、もういいわ」

前言撤回、予感が当たりだったよ!
というか危険物って!?
間違ってないが、俺がなんか危ない物に手を出したみたいじゃないか!

「どうしたんですか? そんな無実の罪を着せられて痴漢扱いにされた人のような顔は」
「それって、どんな顔?」

学園で待っている暗黒な未来に現実逃避していただけなんだが。
寧ろ死んでいる目だと思うが、まどか先生からは危険なギラついた目になっていたらしい。





結局のところ塔自体は半壊したそうだ。
機能もほぼ崩壊しており、辛うじて重要な部分は残ったが、それも奇跡に近かった。

「本当に奇跡ですよ。アレだけのエネルギーが無差別に周囲を襲い掛かったのに、被害があの程度で済んだんですから」

隣のまどかも言っているがその通りだ。
逃避しなくないが、全部俺の所為だった。
原因は龍と黒幕である『魔神』だが、暴走した俺が放った斬撃の大波が塔全体を破壊して、大変なことになったらしい。

「大変の一言で済むものでしょうか?」

何故曖昧なのかというと、俺の意識は最後の攻撃を受けていた最中からほぼ欠けて、なんかやらかしたなぁって辺りからバッタリ記憶がなくなっていた。

「酷い話ですね。まるで酔っぱらいの言い訳です」

うん、酷い話だよ。
酒も飲んでないのに、気付いたらベットの中だ。
白のナース服で座ってたまどかが居たが、無表情でもむっとした口元が見えたので、説教の予感は起きて早々に感じていた。

「けど萌えたでしょう?」

萌えました、注射器を取り出すまでは夢のようだったよ。

ああ、ちなみに奇跡は他にもあった。
散々ズタボロにした龍……ホーリーなんだが、実は生存していた。
『魔神』のチカラを出すだけ出して、最後は俺の斬撃の波に散ったと思ったが、トオルさんがなんとかしてくれた。

「不覚です。あの脳筋剣士に借りを作ることになりました」

動けないまどかも助けて、後始末をしてくれたらしい。どんな方法を使ったか知らないが、塔は師匠の世界に回収して行った。

あと正気に戻ったホーリーとその部下も2人も連行したらしい。やはり『魔神』のチカラが影響していたか、正気に戻ったホーリーは激しい後悔の念から精神的に危うい状態だった。

自分でも信じられない様子でこれまで仕出かしたこと、部下達にしてきたことに対し、何度も頭を下げて殺してくれとも言ったそうだが、最終的にはトオルさんに素直に従ったそうだ。

「我々は処刑人ではありません。最終判断は《魔導神》や神々が務めるでしょう」
「そうだな。師匠からの依頼には含まれてないし」

あとヴィットが探していた物は、最上階に置かれてた聖櫃の中にあった。
何を探していたか訊いてないが、他の物については一緒に師匠のところに送られた。

その後、泉さんと一緒に元の世界に帰ったそうだ。
泉さんは師匠の知り合いらしく、元の世界の座標も把握していたので問題なく済んだ。

「あの泉さんという方は、最後まで謎の多い人でした」
「トオルさんが弱腰だったしな。前に何かあったんだろうけど」

貴重な連休が最後は思わぬ形で潰えた。
まぁ俺もやると決めたことだし後悔はないが……。

「『魔神』は姿を見せず……か」

トオルさんが警戒していた黒幕の『魔神』が出て来なかった・・・・・・・
他の2人もギリギリまで探してくれたらしいが、結局影も形もなかった。
ホーリー達に聞き取りもしたが、部下2人は必要な以上の情報は与えられておらず、肝心のホーリーもその辺の記憶は曖昧で、どちらかというと操られていた節があった。

「その辺りも《魔導神》がどうにかするでしょう。神々の問題ですから、神である彼らの仕事です」
「まぁ、分かってはいるけど」

どうにも煮え切らない。歯痒い感じもする中、俺達は登り坂を登り切るとバカデカい校舎と眼前の門に到着した。

門の前に見知った警備員が居るが無視して、俺はこちらに見上げているまどかに顔を向けた。

「では、私は教員室に行きます。龍崎君も時間に遅れないように気を付けてください」
「はいはい、態々付き添いありがとうございました」

教員のようの入り口へ向かうまどかに対し、若干大袈裟気味な態度でお辞儀する。

他の生徒達の視線がこちらに集まっているからだ。
教師との不純異性交遊疑惑とかされると面倒だから、あえて堂々と振舞うことにしている。

……既に影でロリコン疑惑が浮上しているが、そこは少ない代償だと受け入れるしかないか?
何度も違うと言って、誰も信じてくれないんだよ!?

「いや、それだけのことを普段から何気なくしている証拠かな」

密かにいるまどかファンクラブの奴らもなんて、話すら聞いてくれない。
学園で俺が起こす騒動の3分の1は、連中との衝突が原因だったりする。

ちなみに起こしている騒動の3分の1は、魔法が不得意で省かれた普通科の立場で、魔法科連中のプライドを傷付けるようなことを、入学から僅か3ヶ月で散々してしまったからだ。

いくつか俺自身の所為もあるが、ダンジョンの問題だけは恨まれても困ると言いたい。

入学目的の8割以上が学園内にあるダンジョンだ。俺の封印は魔物と戦っていく中で解けていき、激戦を超えることで解放が出来る。
それに塔での1件でまた経験を積めた。優等生な彼らには悪いが、もうしばらくダンジョン内を入り浸る予定だ。

そして、騒動の原因と呼べるもう1つの要因は……。

「刃」

背後から俺を呼び掛ける女の声。
よく知っている声だ。
振り返ると硬い表情をした彼女がじっとこちらを見ていた。
そう、彼女こそがもう1つの要因。
ある意味魔法科の生徒とのトラブルも、彼女が関わっていることが多かった。

「話があるんだけど、いい?」
「桜香」

白坂桜香。
かつて婚約者で彼女だった俺の幼馴染だ。
明るい茶髪、凛とした表情と目付き、割りと身長が高くスラっとした長い脚、衣替えの時期なので夏の制服に変わっており、正直目に毒過ぎた。

生地が薄い夏服な所為で柔らかそうな胸元に視線が行きそうだ。
しかも、下はたぶんスパッツを履いている。
スカートの端から微かに見える黒い物の所為で、視線を下げるのも危険だった。

ようやく苦難を乗り越えた矢先、校門の前でフラれた元カノとの対面。
視線の先に困り居心地も悪くなる中、俺は────。





「うむ、予想通り面白くなりそうな展開じゃないか」
「話したのはオレですけど、全然面白くないと思いますよ?」

一通り当時のことを話した零は、ニヤニヤしているジークに呆れた感じで述べる。
それもその筈、何せ黒幕は未だに捕まっていないのだ。

「ほっといていいですか? 魔法関係は専門外ですが、トオルの奴が言ってたけど、あの塔や龍が暴れた所為で次元に障害が起きたって」
「今のところは大丈夫だ。影響はゼロとは言わないが、そこは上手く調整できる範囲だから、労働力も居るしな」
「あの連中ですか? そんなこと出来るんですか?」

ジークの発言に零は思い付いたのは連行された騒動の原因達だ。
処刑されてはいないらしいが、何かしら重い罰を受けていたと後日聞いていた。

「いや、ただのゴミ掃除だ。管理は向こうの神に任して、次元の隙間から紛れ込んだゴミを処理をさせてる」

それはきっとゴミ掃除とは言わないだろう。
そこまで興味はなかったので、口にはしない零は、思い出したもう1つの問題を告げた。

「無事だった『聖櫃』と『祭壇』が使われた形跡がある・・・・・・・・・って話は?」
「……」

浮かべていた笑みが消える。
飲み物を口にしながらジークは口を開いた。

「恐らく成功して持ち出されてる。回収する前に魔神側に先を越された」

厳しい表情でジークは言うと、疲れたような息を吐いた。





そこは暗闇の中。
地面に描かれた魔法陣がドス黒く、そして真っ赤に輝く。
2色の濁った光が魔法陣を包むと、光が消失すると描かれた陣の上に影あった。

『……』

微かに闇が晴れる。
すると、そこには真っ黒なローブを身に付けた、1人の男性が立っていた。
真っ黒な髪に赤い瞳、整った顔立ちをしているが、感情のない表情と瞳をしていた。

人形と言ってもいいが、もしこの場にジークや仲間達が目撃すれば間違いなく驚愕しただろう。
髪や瞳の色こそ違うが、その顔や格好を見ればすぐにとある男の名が浮かんだ筈だ。


────その男の名は、シルバー・アイズ。


消し去る者イレイザー》。
銀眼の殲滅者ジェノサイダー》。
大魔導を極めし者マギステル》。

そして、《魔導王》や《原初の極めし者オリジナルマスター 》と呼ばれた最強の魔法使い。

シルバー・アイズの姿をしていた。

「オリジナルマスター 」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く