オリジナルマスター

ルド@

第20話 終わり出す戦いと浮かび出す疑問と始まる仕組まれたボス戦。

『クソ、クソクソクソクソォォォオッッ!』

想定外な事態の連続と迫り来る異質な恐怖に、シャドウは頭を抱えていた。

『クソガァアアアアッ!!』

力任せに近くの柱を殴り壊す。
零に削られた拳は既に回復していたが、幻痛か傷はないが鈍く痛みがした。

場所は【不可解な迷宮塔ミスティック・タワー】──最上階。

教会の中のような作りで、聖櫃や祭壇が設置されている。いろんな世界から盗んで来た物などは、すべて聖櫃の中に納められていた。

とある儀式を行う為に必要な物がほぼすべてあるが、肝心な物がまだない。刃、零、ヴィットなど予想外の襲撃の数々によって、儀式の計画そのものが崩壊寸前であった。

『このままでは……!』

計画遂行どころか全滅してしまう。
スモアは呆気なく倒され、エラも負けそうになって、ツファームは戦意喪失していた。

『部下達はアテにならない! なら、私が自ら……!』

侵入者達は手を組んで一気に駆け上がっており、まもなくこの最上階の階層に到着する。
ダンジョンの防犯セキュリティーも零にやられて、もう止める術もない。
濁った黄金のオーラを身体から出して、シャドウは侵入者の排除に向けて集中させる。

しかし。

『……私だけで奴らを倒せるか?』

零との対決も避けていたシャドウだが、実力はSランクに匹敵するレベル、つまり普通の刃よりは間違いなく強い。封印を解除した彼でも勝てるかどうかギリギリの相手だ。彼だけならシャドウもこんなに慌てなかっただろう。

しかし、侵入者は刃だけはない。
一緒にいるまどかもそうだが、シャドウが一番避けていた死神……零までもいつの間にか侵入していた。

否、やらねばならない。
これ以上の損害は絶対に避けねばならない。

──だが、本当に勝てるのか。

『……ぐ、なぜだ? なぜ、こうなってしまったんだ!?』

想定外なことも原因だが、1番の要因はあの刃の存在だ。
映像の魔道具越しにあの男が植え付けた恐怖。
徐々にではあるが、シャドウを苦しめていた。


──コンッ

その時、悩む彼の背後で足音がした。





【行って! ヴィット!】
【行ってください! ヴィットさん!】

全方位から繰り出された薔薇の嵐。
武装化した四神の精霊“朱雀のコロ”と“青龍のルナ”が押し止める。さらに炎流と水流のなぎ払いの斬撃を撃ち、入り組んでいる蔓の先にいるダークエルフまでの道を作った。

「これで決める!」
『っ──舐めるな!』

そして、2人が切り開いたエラへの道をヴィットは突っ込んだ。

『魔の薔薇に飲まれなさいっ! 『魔精の薔薇喰いデモンズ・ローズウッド』!!』

立ち塞がるのは、薔薇で出来た蔓の怪物。
周囲のトレントとは大きさも雰囲気も違う。エラの切り札である魔精霊が棲んだ、毒々しい薔薇を咲かせる木の怪物だった。

「オオオオオォォォォッ!!」

体から煌気を放出するヴィットは止まらない。
太陽のような燃える煌気が駆けるヴィットの動きに重なると一気に膨張。さらに強化した脚力を活かして加速すると、激しく発光して雷のように走り抜く。


煌く1発の弾丸の如く、一直線にして巨大な薔薇の怪物に突撃した。


『ァァァァアアア!!』

立ち塞がる薔薇の魔精霊も声にならない雄叫びで受けて立つ。
そのまま飲み込んでやろうと大きな口を開けた。

───が。


「────ッッ!!!!」

『ァァァアア? ────ッッ!?!?』


激突する直前。
ヴィットと視線が合った魔精霊は、突然に体が……いや、魂が硬直したような錯覚に襲われた。

睨むような彼の眼力。魔力も含まれないただの視線だ。
そんな視線など精霊には一切意味をなさない筈だが、彼が放つ眼光はしっかりと精霊の心身まで萎縮させていた。


ヴィットの異能───【心王の絆コンタクト


この世の万物、すべての魂に干渉するソウルの力。
人々の魂だけではない、自然の動物や魔物や精霊、さらには物質にも干渉が出来る。

泉零の【黒夜】が心を闇に消し去るチカラなら、ヴィットの【心王の絆コンタクト】は魂を活かすチカラ。対称的な能力であった。

そして、魂に干渉する彼の視線は、その気になれば先の対象の魂にも干渉が可能だ。
つまり、自身の力ある眼光を威圧にして、無防備な魔精霊の魂にダメージを与えて金縛り状態にした。


その結果、完全に棒立ちとなった薔薇の魔精霊に、彼の弾丸にような拳が打ち貫いた。

大きな風穴を空いてヴィットはエラに迫る。

『そ、そんなバカな!? 強度も強くしてあるのに!』

いとも簡単に切り札の精霊が破られ、愕然と目の前の光景に固まるエラ。
迫って来るヴィットの拳にも反応出来ない程……。

『───っ、ダメ……!』
「ハッ!!!!」

そして、固まっているエラに向かって、彼の拳は……。




『なぜ……トドメを刺さないの?』
「言っただろう? おれは女性と戦うのは苦手だ。それに戦意喪失した相手を殴り飛ばす趣味はない。女性は特に無理だ! 揉むなら喜んでやるがな!」
『ただのヘタレな変態でしょう? いいの? ここで倒さないと寝首を狩られるかもしれないわよ?』

戦闘が終わると魔精霊の影響で荒れた森が元に戻った。

脱力感から地べたに腰を下ろしたエラが見下ろしているヴィットを見上げる。寸前で攻撃をやめた彼に尋ねるが、本気か冗談か分からない言葉しか返ってこない。
どこまでもふざけた男だと、呆れながらお返しばかりに挑発するが。

【言っとくけど、余計な真似をしたら】
【私たちが先に狩りますよ?】

彼女の後ろに立つコロとルナから、冷たい声音が刃と共に首元に添えられた。

背後からの威圧に息が詰まりそうになる。流石は神クラスの精霊というべきか、使役している残った精霊が怯えているのを感じながら、彼女は後ろの彼女達を一瞥すると小さく息を吐いた。

『……別にそれでもいいわ。仮にここで生き延びても、私にはもう未来はないのよ』

諦めたように彼女は口にする。今回の敗北も理由の1つだが、そもそも目の前の『四神使い』がやって来たのは、自分のミスが原因なのだ。

(見逃してくれるわけがないわね)

失敗続きの彼女は分かっていた。もう自分に後がないことを。
脳裏で仕えていた、金色の姿をした主人を思い出す。今よりも美しく輝いていたかつての主人。今はもう闇に魅了されて、自分達を道具としか見ていないが、以前は違って名もシャドウではなかった。

ある世界で光の守護戦士だった。
それがあの者と出会ったことで大きく変わった。

『奴に出会ってからあの方は変わったわ、もう私達の知っているあの方はいないのよ』

「? ……奴? 誰のことだ?」

疲れたように口にするエラを見て、ヴィットは首を傾げる。
2人の女神も首を傾げて、3人とも何の話か理解できてなかった。





「どういうことだ? オレと転移させたのはあの金ピカだろう」
『ちがっ、違います! シャドウ様にそのような能力はありませんっ!』

零とツファームの戦いは、早々に決着が付いていた。

工場内の魔物はすべて倒されて、残っているのは従わせていたツファームだけ。
そして、肝心のツファームは両手を上げて降参ポーズ。
突き付けられた浮かぶ無数の黒ナイフと零が握る黒槍の先端が首元にある中、怯えながら必死の形相で説明をしていた。

『た、確かに、一時的に貴方を拘束したのは私ですっ! 最後の塔による光はダンジョンの効果の1つですが、主人の転移と塔の時空間移動だけで、貴方を転移させる能力はありませんっ!』
「……」

魂に干渉できるヴィットとは違うが、相手の思考を感覚的に読み取れる零は、ツファームの言葉に嘘がない分かると思わず黙り込む。

(確かにおかしいとは思った。ダンジョンの効果頼りで、オレの異能を対抗し切れてなかった相手だ。そんな奴が……いや、この際ダンジョンとやらの仕業で異能でも魔法だとしても、オレが全く抵抗出来ず転移させられるか?)

『わ、我々は本当に貴方と対立するつもりはなかったんです! 貴方の世界に行った時も、貴方を刺激しないように離れた街にある物が必要かどうか、調べに行っただけなんです!』
「なに?」

早口で告げるツファームの説明。最初はどうでもいい言い訳だと流していたが、疑問が浮かんだか何かに反応する。

(オレから離れた街だと? 妙だな確かにオレの街ではなかったが、隣の街だったぞ? アレだけの大きな気配を放つ奴だ、気付くなというのが無理だぞ)

説明に違和感がある。嘘はないが、疑問が浮上してくる。

『あ、あの……』

怯えるツファームはとりあえず無視だ。
切り替えた零は思考を加速させて、これまでの情報を整理する。
知っている情報は限られるが、トオルから聞き出した情報と、最下層の魔物生産部屋で遭遇した巨大な魔石との意思疎通で得た情報。

そして、ツファームが告げた説明を組み合わせる。

(『時空を移動する塔のダンジョン』、『他世界に侵入して盗みをする』、『シャドウと呼ぶ金ピカには空間を操るチカラは無し』、『部下にも転移させれる能力者は無し』、『一番下の地下には盗まれたと思われる石がある』、『何かの儀式を行おうとしている』、『部下も知らない最上階の祭壇に置かれた“聖櫃”』、…………何か大掛かりな儀式の為の塔ということか? にしては引っ掛かる。それぞれの能力と持っているアイテムと計画の規模が合ってない気がする。)

まるで素人に近い資格持ちが、エキスパート級の物を扱っているような違和感だ。ややこしい例えかもしれないが、素質なしのシャドウの存在と塔の高い能力が全く合ってないと零は感じた。

短かな時間で組み合わせたが、どうにもピースが足りない。

(もし仮にこの男を含む関係者の仕業でないのなら、誰がオレを塔に飛ばした? 場合によってはそっちの方が問題が大きいぞ)

槍を突き付けた姿勢のまま無表情の零は、まだ何か引き出せれるかとガクガク震えるツファームに視線を送った。

「そもそもこのダンジョンとやらどうやって作った? 生憎とそちらの知識は乏しいが、オレにも分かるような説明は出来るか?」
『い、いえ、創り上げるにはダンジョンの核が必要ですが、我々にはそんな物を手に入れるどころか創り上げるのも不可能です。この塔はシャドウ様のご友人の方から頂いた物です』

「友人だと?」
『──ヒっ!?』

思わず訊き返したが、余計に怯えられて返答が遅れる。
何か嫌な予感がする零は、早々に切り上げて最上階へと目指すことにした。





最上階を目指す刃達は、とうとう最上階に続く階段を上っていた。

「いよいよだ、準備はいいか? まどか、トオルさん」
「はい、こちらはいつでも……ところで脳筋剣士ミヤモトさん、遅れに遅れて参戦するのはいいですが、お願いですから余計なことだけはしないでくださいね? また無駄に斬っても責任は取りませんよ?」
「呼び方に悪意を感じるが、……分かってるちゃんと助っ人らしくやるさ。ガキ魔女マドカ、お前も魔力が大丈夫か? 随分と消耗しているようだ、なんならここでお留守番しててもいいぞ?」
「お気遣いどうも、ですが、問題ありません。散々遅れた貴方よりはまだ全然出来ますよ?」

「「……(ギロンッ!)」」
「……」

最上階の扉が近いと感じ2人に呼び掛けた刃が、肝心の2人は何かやっている。
2人の性格を知っているので、止めるという意味のないことはしない。立ち塞がる魔物らを半殺しにして、適度に闇魔法で魔力を吸収する。吸収出来るの魔力量が微妙ではあるが、これでもう少しマシに戦える。

「着いたか」

そして、階段を上ってしばらくすると。
上り切った先にボスステージらしい大きな扉が見えた。どうやら最上階に着いたようだ。

「ここがゴールか」

番人らしき魔物はいない。
意地の悪い罠もなく、扉も簡単に開けれそうだと感じ取った。

「問題無さそうですね、吹き飛ばしますか?」
「なんなら斬っていくか?」

しばらく、門の前で警戒した後。
やや不穏だが2人からも安全を確認してもらった刃は、ゆっくりと大きな門に手を伸ばした。

「……!」

刃が触れた瞬間、ゆっくりと開き出す最上階の門。
それぞれ臨戦態勢に入って、開かれた門の奥へと視線を送った。








翼を広げた黄金の龍が居た。







「は? 何あれ? アレがラスボスか?」
「龍……ですね。てっきり魔族か何かが控えてると思いましたが」
「──っ! いや、待てジン、ロリっ! こいつから魔神の・・・───」


『ギィィギギィィギィギギィィィィアアァアアァァアアァアアアアアアアアァアーー!!!!』


龍の雄叫びと共に最終戦が始まった。

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