オリジナルマスター

ルド@

第18話 戦力の差と現れたのは死神なシスコン。

時は少し前に遡る。
徘徊する魔物の数が少ない『24層目』の長い通路だ。
罠らしい罠もなく俺たちは、上に続く階段にある奥へと進む。

「刃」
「ああ、分かってる。上がザワザワするなぁ」

隣で視線を天井に向けるまどかの声に、俺は首肯して時間切れタイプアップまで時間を稼いでいた“融合魔力”を操作。循環速度が抑えられていた魔力が一気に駆け巡る。

服越しに肌がざわつく。この感じは経験から来るものだ。あのダンジョンで何度も経験したことで身に付いた虫の知らせの1つ。

他にもビクッとするほどの背筋の悪寒。
チクチクとする鈍い頭痛。
自然と出てくる手汗。

あと、俺と中のヤツの勘。勘の時は色々とあるが、一番多いのは「ここに立っていると死ぬなぁ」という感じで、酷い時はさらっと未来が見えた気がしたが。

その時は全力で逃げた。ダンジョンに仕掛けられた罠の時とか、王クラスの魔物と対峙した時とか、……殺す気満々な《魔王》が迫ってきた時とか。……《魔王》との対峙の際が一番未来視が多かったなぁ。
もう勘とかいうレベルじゃない。絶対アレは走馬灯だったと俺は強く言いたい。

が、それも後であった。
上の階の魔力は感知し難いが、精霊使いのまどかは感じ取った。
俺の勘も危険だと告げている。もう階段もすぐ前にあるが、上るなと警報が鳴っていた。


「“仙沈センジン”」


再び『身体強化』を発動させると、“羅刹”や“風魔”に並ぶ“仙沈センジン”の状態となる。超感覚シックスセンスに特化された身体強化版だ。

強化されたのは基本である五感だけではない。第六感と言われる感覚スキルも強化される。

その代わり“羅刹ラセツ”どころか、普通の『身体強化』よりもパワーが劣る。
風魔フウマ”よりはパワーはあるが、スピードは普通の『身体強化』よりも劣る。

要するにまぁまぁな状態ということだ。良くもなく悪くもない微妙な強化である。

しかし、五感は2つのスタイルよりも数段強化された。
視界はほぼ360度見ることが出来るし、遠くのモノを視認出来て捕捉が可能。夜目も効くので銃撃戦には非常に強い。パワーが劣るので接近戦に不向きなタイプだから遠距離からの攻撃が多い。

しかし、踏み込んだ場所が大量の敵の密集地であるのなら、また話は変わってくる。

死角がほぼゼロなこの形態なら背後からの攻撃や、不意を突こうとした攻撃にも対処が出来るから。

他にも視界を強化すれば、鋼鉄であっても斬れ易い面を見抜くことが出来る。多少の剣の技量は必要ではあるが、トオルやその師の人の指導もあってそのぐらいの技量は身に付いていた。……ただし、視野の調整をミスると混乱するので注意が必要になる。

耳も強化しているので遠くの小さな音も聴き分ける。犬笛の音も容易く絶対聴こえないレベルの超音波も聴くことが可能だ。……調整をミスるとノイズで頭が痛くなるが。

他の鼻も肌の感覚も普段とは全く違う。敏感と言うとあれだが、とにかく感覚神経が特化されて普段感じ取れない精霊の気配も感知が出来た。


これが自然と一体となる仙人の極意を参考にした──“仙沈センジン”のスタイル。

狙ってやったか知らないが、体術を教えてきた男は恐怖の1つだと笑って、特注の拷問層修業場で味合わせてきた。


視界を殺せばどうなるか、耳が聞こえなくなればどうなるか。
あらゆる戦闘方式を組み込んで俺を殺しに来た。……ああ、本当に容赦なかったよアンタは!

「どうしましたか? 刃」
「……コホ、いや、なんか理不尽な大人のことを思い出してな」
「はい?」
「いえ、なんでもありません」

不思議そうにするまどかが見てくるので、視線を逸らし咳払いして誤魔化す。
ちょ、ちょっと今はあの純真無垢な瞳が辛いので、適当に誤魔化すと天井の方へ目を凝らす。

ダンジョンの内部は一層ごとに空間が違う。
出来上がっているダンジョンのレベルにもよるが、別の魔力や気配も感じれないことが多い。
しかし、まどかのように何かしら感知能力の高いものなら別かもしれない。


例えば探知と視界を強化して次の階層に潜んでいる、魔物の大群を捕捉した俺とか。

「いますか?」

います。沢山いらっしゃいます。
サーモグラフィーみたいに視界に映る魔力の熱が魔物の形をしている。
目視出来ただけでも100以上いる。……これは。

「結構厳しいなぁ」

作戦を変えるしかなかった。
まどかを危険にさせてしまうかもしれないが、彼女は了承すると彼女の魔力を目印にして天井を破る準備に入った。





天井を破って次の階に入るには、空間の繋ぎを見極める必要があった。

まどかの闇魔法はただ敵を混乱させる為のものではない。四方に飛ばして俺に正確な位置を教えてくれた。“仙沈”だけだと不安だったが、なんとか突破することが出来たわけだが……。


上手く奇襲が成功したと思ったが、すぐに流れを奪われそうになっていた。


『……!』

ブンッ!

「っ──!!」
「刃……!」

振り上げられた棍棒を咄嗟にトンファーの剣を盾にして防いだが、威力を殺し切れず反動でトンファーを失い飛ばされる。そのまま魔物の群れの中まで飛ばされてしまうと。

『ッ……!』
『ギャアア!!』
「っ! ……ちっ」

一瞬だけ飛ばされて来た俺に呆然としていたが、すぐに飛びかかって来る四方の魔物たちに思わず舌打ちする。

「っ」

循環する魔力速度を利用して即座に形態を切り替える。
仙沈センジン”からスピード特化の“風魔フウマ”のスタイルになった。

軽くなった脚力で高くジャンプする。
体が風になったように、全身で風を感じながら包囲していた魔物の群れから逃れると。

「“すべてを飲み込め”──『新闇の侵食ダーク・インベイジョン』っ!」

妖精の黒い羽を生やしたまどかが上空から魔法を発現。知っているが俺では使用できない異世界の魔法だ。

取り囲んでいた魔物たちの中心に闇の渦を生み出す。まどかが操作すると渦が大きくなり囲っていた群れを飲み込んで消してみせた。

「っ『闇色に穢れた弾丸ダーク・スナイプ』!」

さらに詠唱破棄で闇系統の『一級位魔法』を使用する。
指先から放たれた闇の弾丸が群れている魔物に襲う。貫通力もある弾丸な為、急所を狙えば確実に倒せる一撃ではあるが……。

「『微風刃ウィンド』! “風蹴りカゼゲリ”!」

俺も続こうと風を纏った回し蹴りで集まる魔物をいっぺんに蹴り飛ばす。風の斬撃も加わって切れる魔物もいる。パワーは弱いが間違いなく通じているのだが……。


数が多過ぎる。
とにかく多い。
倒してすぐに包囲して迫って来る。


『まだまだ、ハッ!』
「っ」

しかも、あの真っ赤な年寄り魔法使いもいる。
空間を歪める魔法の応用か、落ちてる剣や槍の武器に溶けて流れる金属を浮かせて飛ばし来る。俺に迫って来る配下の魔物のことなどお構いなし、滝のように迫って来る真っ赤な川を見て顔が引き攣った。

『大人しく溶けてなさいっ!』
「お断りだ、『火炎弾ファイア』!」

しかし、俺も大人しくやられるばかりではない。
跳ね上がった反応速度で避け切ると手から火魔法を発動。【天地】の操作でレーザーのように細くし、控えてる老魔法使いに向かって撃つ。

『フッ』

だが、迫って来る火のレーザーに老人は動揺しない。
手のひらを前にして目の前の空間を歪めてきた。

「っ!」

すると直線に放たれていたレーザーが同じように歪む。クルクルと回って老人から離れた位置で着弾した。

「っ、なら──っお」

他の手を、と思ったところでクルクルと回って斧が飛んで来た。
しゃがんで躱せたが、そんな俺を突き刺そうと無数の剣や槍が飛来してきた為、横に跳んでどうにか回避する。

『フッ、ハッ!』
「刃! そっちは駄目です!」
「なっ!?」

しかし、それも奴の狙いだったか、先回りした真っ赤な川が蛇のようにうねり口を開けて待っていた。

「このっ」

それでも“風魔”の反応速度ならまだ回避出来る距離と時間もある。
避ける為に跳んでいたが、空中で体をコマのように回転。風も纏わせてやや強引ではあるが、大きな顎門から逃れることができた。

着地位置で数体の騎士ゴーレムが張っていたが、圧を加えた風の蹴り飛ばし降り注いできたワイバーンとリザードマンのブレスを瞬足のステップで躱し切る。

「『微風刃ウィンド』『閃光灯フラッシュ』──『精密形態武具テクニカル・ウエポン』」

流れている【天地】を利用して、融合技法の要領で2つの『属性魔法』を掛け合わせる。
“魔力融合”の状態でのみ使用が出来るスキルの1つだ。

「『閃風の手裏剣センプウ・シュリケン』!」

生み出された大剣サイズの十字の手裏剣を振るい投げる。風の膜に閉じ込めれた光の手裏剣だ。
老人は再び空間を歪めて障壁のように張るが、この手裏剣はさっきまでのとは一味違う。

『なに!?』

ぶつかり合った瞬間、キーッという金属が削れる音が響く。火系統は簡単に防がれたが、今度は断ち切る風で光も加わっている。

次第に回転速度は上がっていき、徐々に生み出されている空間の歪みを断とうとした。

『ぬ、させんっ!』

これには想定外だったか老人は動揺した声を漏らして魔力を注ぐ。空間がさらに歪んで渦のようなもの出て削っている手裏剣に対抗しようとするが。

「──“刻み込むは黒印の一射”」
『っ……貴女は!?』

寧ろそれがこちらの狙いだった。
常に周囲の空間を操作出来るあの老人に全力を出させる。
そうすることで他の操作に対する余裕を無くさせた。

現にさっきまで飛ばしてた武器や超熱の川に対する操作を止めている。
僅かな合間であろうが、それだけの時間があれば、まどかなら狙える

「『闇色に穢れた弾丸ダーク・スナイプ』」

銃の形をした手の指先から闇の弾丸が放たれた。

後方上から撃たれた弾丸は、老人が発生させる渦の隙間を抜けると、老人の左肩に貫通して直撃。撃たれた衝撃と吹き出す激痛が老人の魔力操作を確実に止めた。

『ガッ……!?』
「……」

つまり『閃風の手裏剣センプウ・シュリケン』を止めていた歪みの障壁も消えたということ。そのまま回転速度が上がると一気に詰めて、老人の胴体に回転しながら切り突いた。

──行けるか?

完全に空間の歪みが消えたのを確認した後、“風魔フウマ”の爆発的な加速力を活かして駆け出す。

『うっ!』

その際、突き刺していた手裏剣を操作して手元に引き寄せる。

「まどか、退がってろ!」

フラついた老人に向かって跳躍。
照準を合わせていたまどかにも忠告して前に回転。
手元の手裏剣を伸ばした片足の足首へと装着。

「“風蹴りカゼゲリ”」

回転を加えた踵落としを繰り出す。
装着した手裏剣も回転し、風も加わったことで強力な斬撃となった。

『……ッ!』

フラついた老人に一気に迫る。まどかが放った闇の弾丸は、間違いなく影響を与えていた。
避けるタイミングはもうないと俺もまどかも確信した。

…………。
……。
どういうことだ?

「──!? 刃っ!?」
『危うかった……! なんとか間に合った……!』

焦ったようなまどかと安堵する老人の声が聴こえる。いや、まどかの方は見えないが、老人は弱っているが眼前に立っていた。

そう、目の間にいる。おかしな話だが健在だった。
踵落としを繰り出そうとした姿勢で、宙に浮いた俺は理解出来ず呆然と老人を見ていた。

『私の……力量を侮ったな。“空間歪曲”と“空間固定”……私は2つのスキル持ちだ!』

そして、寸前で動けなくなった俺を見て、安堵の息を吐いていた老人が何か言った。

空間歪曲と……空間固定?
なるほど、よく調べると体が杭か何かで空間に挟まっている感じがする。

空間を歪めて物を操ったり、歪めて攻撃を逸らしたり、破壊に使ったりなどする特殊なスキルか魔法だと思ったが、固定を可能だったのか。

『身動きは取れまい、この距離なら各自に仕留めてみせ──』
「“羅刹ラセツ”」

納得したところで魔力を操作。
スキルも魔法を連発し過ぎた為、さすがに残り時間も少ない。

「オォォォォッ!」

風魔フウマ”から“羅刹ラセツ”に切り替えて、パワーで拘束を振り解いた。

『なんだと!? ──ッ『原形崩壊ゲシュタルト・ダウン』!!』

力技で拘束を解いて突っ込む俺に老人は目を見張る。
すぐに切り替えると破壊の空間を作り出して、突っ込む俺に浴びせようとする。

「っ! 潰すッ!」
『小賢しいッ! これで終わりだッ!』

しかし、繰り出される空間破壊の攻撃に対し、回避行動どころか俺は止まらない。
遠目でまどかも狙っているようだが、間に合うか分からない。

なら“羅刹ラセツ”のパワーを活かした一撃で、発生させている空間もろとも奴を仕留める。


















「【黒夜コクヤ】────」


──つもりだった。
目の前で破壊の塊だった空間を黒い何かが・・・・・消滅させるまでは。

「…………は?」
『……今、何が』

何かというのは、それには魔力や気も感じなかったからだ。絶対に精霊とも違う、異能だとしてもあの感覚は……。

予想外の光景に突っ込む姿勢のまま立ち尽くしてしまったが、相手も予想外だったようで構えたまま固まっていた。

「──そうか、貴様か」

ん? なんかまた聞き慣れない声がした。
声がしたフロアの奥へと視線を送ると、老人も俺を無視して背後の方へと振り返ったところ。

「よ? 邪魔するぞ」
『む? ……? ……っ!?』

発言がなんかチンピラぽい。
ラフな白のシャツ姿をした同年代くらいの黒髪の男が立っていた。……日本人か? 急に出て来たけどこっちの世界の人か? ……俺の勘としては多分違うと言っているが。

「塔ごと潰してやろうかとも思ったが、そうするとオレが帰れない可能性が高いからなぁ。しばらく様子を見させてもらった」

なんとも場違いな格好である。思わず自分の目を疑うが、俺も似たような格好だと思い出して男の登場にどうしたものかと悩み始めていたが。

「思わぬ再会もあったが、お陰で色々と分かった」
『────っっ!?!?』

まるで息が止まったかのような引き攣った声を漏らしてる老人がいた。

表情は窺えないが、非常に取り乱している様子だ。気のせいか赤い顔が青くなっているようにも見える。様子を見ていたまどかも俺も不思議そうにするが。

「あの金野郎は後にすると決めていた。探していたの貴様の方だ」
『あ、ば、馬鹿な……主は』
「貴様だろう? ──あの時、オレの邪魔をしたのは」

なんか……次第にガクガク震え出してないか?
言い知れない恐怖からか、素人みたいに魔力も乱れていた。

「……?」

さらにおかしなことは続いている。手を焼くほど荒れて迫っていた魔物達が、いつの間にか凍り付いたように動かなくなっていた。

別に本当に凍結している訳ではない。
だが、本当に凍り付いたように飛んでいたワイバーンは地上に伏せて、ゴーレムまでも直立不動で止まっていた。

一番表情が分かりやすかったリザードマンなどは全身から汗をかいてる。
それが暑さからくるものでないのは、その表情は恐怖で染まり切っていた。

「覚悟はいいか? オレを怒らせた罪は重いぞ」

幹部の1体を倒した俺の時は違う。不思議と殺気など一切感じない。
その代わりに何かで──無の何かで全ての魔物を圧倒していた。

それが俺といずみれいさんとの最初の出会いだった。
この時の俺は彼が何に怒っているのか、さっぱり分からなかったが、彼が重度のド・シスコンだと知ってからは、心底扱いに困る死神さんだと感じた。

あと予期せぬ形で彼を怒らせた敵にも同情した。
不憫というか可哀想というか、あの無の瞳に謎の重圧は心臓に悪過ぎた。

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