オリジナルマスター
第11話 剣技の格と史上最悪な乱入者。
事態が急展開を迎えたのは、新たに侵入した敵2人を倒した直後だった。
突如起きた異変に目を見開いて驚くまどかとヴィットだが、既に異変の理由を理解していた俺は、これ以上この場にいるメリットが無いと、時間切れで元の姿に戻るや退散の合図を出した。
「本当にいいんですか? 刃」
「ああ、結界を解いてくれ」
「しかし、この状況……これを放置するのは……」
若干戸惑っている様子で問いかけてくる。
ヴィットも同じようで訝しげな顔をしているが、こっちはそれ程ではない。何か察しているが、すべてを理解出来ている訳ではない顔だ。
「あのダンジョンの効果で出た『召喚されし虚像』なのは分かるが、どうやって塔を消した? 空間魔法なのはなんとなく分かったが、あの魔力は……」
一番の疑問はそこだと言いたそうな顔で言葉が止まる。
やはり魔力が原因か、かなり濃度は落ちているが、師匠の神の魔力に近いエネルギーの奔流だ。彼の……中にいるモノたちが警戒してもおかしくないか。
魔導化した際に、生み出された魔力が周囲にある、膨大な情報を俺に流してきた。
解けたことで絶大な力は失われたが、得られた情報はしっかりと頭の中に残っていた。
だから分かった。
倒した敵たちが溶けるように消えた秘密。
浮かんでいた塔の秘密と致命的な弱点。
ヴィットの中にいる『神格持ち』の精霊のことを。
とても人一人で収まり切れる筈がない、桁外れな精霊の力が宿っているが、当のヴィットは少しも気にした様子も見せていない。……普通に考えれば異常なことだ。
他にも人間なら扱えなくても、微かでも宿っている筈の魔力が全く無いこと。
まるで静かに燃える静炎のような気の根源。
異能らしき力や情報抽出が出来なかった謎の銀の武器。
気になることは沢山ある。
……だが。
「あの塔のことや消えたコイツらについては後で話す。外が騒がしくなってきたし移動しよう」
色々と伝えたいことはあるが、とりあえず後回しだ。
魔導化の際に結界の外のことも把握できた。……トオルさんには悪いが、勝手に仕出かした以上しばらくの間、囮になってもらおう。
「……分かりました。ですが、あの脳筋剣士はどうするんです? あの剣士のことですから、結界が解けたらすぐにここに来ますよ?」
「だから退くんだよ。今あの人と合流したら、面倒な親と妹を相手にすることになるぞ?」
「…………」
沈黙は理解と捉えよう。
どこか呆れた目をした様子のまどかが納得したと頷く。一帯を囲っている結界に手と意識を向けると、入って来る者を拒んでいた薄紫な膜は崩れるようにして消えていった。
*
「グッ……!」
「ほぉ、まだ保つか」
そして、すっかり刃達から厄介者として認定されたトオル。
一度は押されたトオルだったが、それも一瞬のうちに逆転。今では軽く振り下ろした彼の刃を、片膝を付きながら両手の青龍刀を使って、渾身の力で持ち堪える拳の姿があった。
「悪くはないが、オレと止めるには不足だったな」
さすがに周囲は荒れてしまったが、トオルの背後に立つ神社は無事である。若干焦げたような跡はあるが、それでもマシな方であった。
「いい加減退いてくれないか? これまでのやり取りでこっちが加減してるのは、もう十分理解した筈だ。アンタがどんな立場の人間か知らないが、力量差が分からない程の無能ではないだろう?」
「……断る。確かに君の言う通り私は立場を一番に考える人間だ。不要なら自分の息子さえも追い出す畜生だ。……だからこそ、退けん!」
投げ掛けれる言葉に対して、踏ん張りながら拳は強い眼力を飛ばす。
少しずつ魔力を高めていくと、両手の青龍刀が発光して雷を迸らせる。再び剣から出現した2体の雷龍が威嚇するようにトオルの刀に噛み付いてみせた。
「誓ったのだ。この立場を貫き続けるなら最後まで曲げんと!」
「……何処かで聞いたような話だが、覚悟は認めよう。けど、それでも足りない」
噛み付いた2体の雷龍が押し返そうとしてくる。
しかし、トオルから焦ったような雰囲気はなく、ただ振り下ろした刃で青龍刀ごと持ち主を押し潰そうと、更に力を込めたした。
ギチギチ……!
「っ……!!」
一体どこからこれほどの力が出てくるのか。両手の青龍刀でどうにか防いでいるが、そこからどうしても押し返すことが出来ない拳。これでもかと魔力を注いで雷龍で押し返そうと図るが、まったくと言っていいほど効いていない。
認めたくはないが、実力差があり過ぎる。
踏み込んでいる脚と膝が砂利にめり込んでしまう。魔力も大量に消費している為、どちらにしても時間の問題である。
(く、止むを得んっ! 一気に魔力が無くなるが、大出力で隙を作るしかないっ!)
危険な賭けだが、勝機を見出す為に1つの決断する拳。
体に流れている大量の魔力を、得意な雷属性にして一気に放出。踏み締める地面からも放電する程の強烈な雷で、周囲すべてを覆うとした。
「ヤケになったか? そんなコントロールもクソもない攻撃が、今更オレに効くと思ってるのか?」
気を極めたことで魔力耐性が異次元の領域に達した今のトオルには、ただ魔力量が多く無造作に放出されただけの雷など効くわけがない。……それこそ軽めの電気マッサージ程度のレベルだ。
呆れた口調と声音の通り、話にならなかった。
「ああ……! そうだろうな……!」
だが、それは拳も同じ考えだった。
魔力をこれでもかと注いだが、このような拡散攻撃でどうにかなるとは思っていない。
(『雷天の龍魔剣』は雷を喰らう強化する。それが私が放出させた雷であっても喰らうことで、数段に強化される!)
2体の雷龍が放出された雷を喰らうと、雷で出来た歪な姿がより輪郭も定まる。大きさも増して翼も生まれると、生き物と思える程の迫力を出して、蒼き輝きを見せる2体の龍が誕生した。
【ッッーーーー!!!!】
「……お!」
威圧感が溢れる2体の龍の咆哮が、トオルに圧となって掛かる。
さらに咆哮と共に荒れた雷の衝撃によって、不動の如くビクともせず立つトオルの躰を微かに震わせると……。
【ッッーーーー!!】
「っ……!」
雷の咆哮が増す毎に全身で浴びるトオルの躰が振動していき────吹き飛ばされた。
後方にある神社の入り口の引き戸を破って、中まで飛ばされてしまう。
そして、トオルの凶悪な振り下ろしから解放された拳は、もうはや龍と言っていい剣を振るい飛び掛かる。
「終わらせてもらう! ────“龍魔ノ太刀・二閃”ッッ!!」
本当に申し訳ないが、勝つ為に神社ごと斬り裂く龍の剣技を振り抜いた。
刃のように鋭い雷を帯びた2体の龍が鞭のように動くと、巨大な2つの顎門が神社を穿とうと……。
「浅知恵だな」
したが、顎門で噛み砕く寸前で、壊れた戸から神速で出たトオルの刃によって妨げられる。居合いのような早業で抜かれた刀が、迫っていた2体の龍の首を斬り落とした。
気が染み込むように纏われ、薄い魔力が包むように覆われた刃。
軽く振るうトオルは、落ちていく龍の首に目もくれず、刃を帯びたような瞳で拳を捉えると……。
一息のうちに拳の懐に入っていた。
師である《無双》アヤメ・サクラが得意とした風の移動の派生技だ。
「弱いと言わない。だが、オレの方がずっと強い」
「────っっ!?」
魔力を断つ特殊剣技────“魔斬”。
アヤメ・サクラが扱う剣技『魔斬術』の基礎でもある技だ。
逆転する切っ掛けとなった雷の砲弾を斬った剣で、青龍刀ごと拳の胴体を斜めから斬り裂いた。
(……斬られたか、────むっ!?)
途切れたように前から倒れる拳であったが、遅れて出血が一切ないことに気付く。
それどころか斬られた箇所には一切の傷がなく、服すら斬られていなかった。
「どういうことだ?」
「単純な話だ。オレが斬ったのは魔力のみ」
ただ動けない状態の中、疑問符が口に出ると聞こえていたトオルが答える。
「“魔斬”で魔力体を斬り裂いたことで、繋がっている肉体にもショックを与えた。普通なら気絶しておかしくないが、魔力が殆ど無くなった所為で……意識まで狩り取れなかったか」
律儀に答えたのは、気絶しなかった拳に少なからず驚いたからだ。これで終わりだと刀を鞘に納めると、神社を出ようと倒れる拳を通り過ぎようとしたが……。
「……まだ何か用か?」
ズボンの裾を掴まれた為、嫌そうに振り返る。
前のめりに倒れた姿勢のまま、手を伸ばしている拳を見下ろす。斬り飛ばすか蹴り飛ばすか考えかけたが、さすがに倒れた相手にそれはどうかと思い直す。
「安心しろ、もう捕らえれるとは考えてない。……ただ、最後に訊きたい」
魔力体がダメージを受けた影響で力が入らないが、余程訊きたいことあるのか、どうにか顔を上げて尋ねる。
そんな様子に僅かに逡巡するトオルだったが、いつの間にか解けている結界の方に目を向けると、短く溜息を吐いて拳へと視線を戻した。
「ま、良いだろう。何が訊きたい? オレの剣の極意でなければ、大抵のことは答えれるぞ?」
前半は冗談だが、特に隠し事もないのも事実。
軽いノリで促したトオルだったが……。
「君が使用した剣技や……魔斬だったか? 他にも魔力ではない別の力。私の息子が扱っている技に似ているんだが……何か心当たりはあるか?」
「………………」
軽ノリな顔のまま、石のように固まった。
同時にさっきまでのやり取りを脳裏を過る。
(……何やら聞き覚えがある話だと思ったが……え? もしかして、そういうことか?)
固まった頰が痙攣した気がした。
というか、酷い頭痛に襲われたように頭を押さえ出した。
この世界に来てから、出遅れて、仕出かして、意味なく斬ってばかりだったトオルだが……。
「これはさすがにやべぇじゃ済まねぇな。殴られるか、ボコボコに殴られるな絶対」
どっちにしても殴られる未来しか見えないが。
遂にやってしまった感で項垂れると、自分のポンコツ振りと不運さにいよいよ嫌気が差してきた。
「敢えて名は言わなかったが、その反応を見る限り知っているようだな」
「あ、いや……」
「どうした? 大抵のことは答えれるんじゃないのか?」
もう強引に引っこ抜いて逃げよう。
半ば無理矢理そう踏ん切ると、止まっていた脚を動かそうとした。
「私の父に何をしているんですか?」
「────は?」
前もって言うが、油断した覚えはない。
男との戦いが終わってもトオルは、一切警戒を怠ってなどいなかった。
会話をしながらも気の察知能力によって、周囲一帯。それこそ神社の外から向けられる視線にも気付ける自信があった。
(あ、ありえねぇ……オレの気配察知を掻い潜ったのか?)
冷たい殺気が込もった声が聞こえた時は、慣れていたので気にしなかったが、返ってそれが仇となったか。
「私も大変興味があります。父を通して見てましたが、その剣技は間違いなく兄さんと同じ物ですよね? ということは、貴方が兄さんに余計なことを教えて、危ない魔法の世界に戻した張本人ですか? 優しくて戦いを嫌った兄さんが、魔物の大群相手に1人で突っ込むような性格に変えたおかたですか? もしそうなら────」
突如視界に入ったガラスにも似た薄い刃が見えた時は、心臓が止まるような驚きを見せてしまったが……。
「斬り刻むだけでは済ませませんよ? 私の大事な兄さんをよくも戦場に戻してくれましたね、この害虫が」
(ウぉおおおおおおいィィィ、ジンッーー!?!? どういうことだどういうことだ、こりゃ!? お前の妹スゲェ病んでるぞ!? 超こえぇぇえええええ!? このポニテ娘がヒナって奴か!? 聞いた話と全然違うぞ!? お前のことを嫌ってるんじゃなかったのか!? お前のことを超大事にしてて、強くしたことをスッゴいキレているぞッ!? ていうか、害虫って……)
成長途中でまだ子供っぽさもある、黒髪ポニテをした可愛らしい娘から想像も付かない台詞と冷え込むような真っ黒な視線に、トオルの背筋が本人の意思とは関係なくガクガク震える。……かなり思考もパニックを起こしており、正直先程よりもピンチな状況となってしまった。
何もない場所から刃が出た瞬間、逆方向に飛んだが、一体何をしたのか分からないトオルは頭を抱えるしかなかった。
そして、隠れブラコンな刃の妹こと神崎緋奈が乱入したことで、トオルの到着はさらに遅れることとなったのだった。
突如起きた異変に目を見開いて驚くまどかとヴィットだが、既に異変の理由を理解していた俺は、これ以上この場にいるメリットが無いと、時間切れで元の姿に戻るや退散の合図を出した。
「本当にいいんですか? 刃」
「ああ、結界を解いてくれ」
「しかし、この状況……これを放置するのは……」
若干戸惑っている様子で問いかけてくる。
ヴィットも同じようで訝しげな顔をしているが、こっちはそれ程ではない。何か察しているが、すべてを理解出来ている訳ではない顔だ。
「あのダンジョンの効果で出た『召喚されし虚像』なのは分かるが、どうやって塔を消した? 空間魔法なのはなんとなく分かったが、あの魔力は……」
一番の疑問はそこだと言いたそうな顔で言葉が止まる。
やはり魔力が原因か、かなり濃度は落ちているが、師匠の神の魔力に近いエネルギーの奔流だ。彼の……中にいるモノたちが警戒してもおかしくないか。
魔導化した際に、生み出された魔力が周囲にある、膨大な情報を俺に流してきた。
解けたことで絶大な力は失われたが、得られた情報はしっかりと頭の中に残っていた。
だから分かった。
倒した敵たちが溶けるように消えた秘密。
浮かんでいた塔の秘密と致命的な弱点。
ヴィットの中にいる『神格持ち』の精霊のことを。
とても人一人で収まり切れる筈がない、桁外れな精霊の力が宿っているが、当のヴィットは少しも気にした様子も見せていない。……普通に考えれば異常なことだ。
他にも人間なら扱えなくても、微かでも宿っている筈の魔力が全く無いこと。
まるで静かに燃える静炎のような気の根源。
異能らしき力や情報抽出が出来なかった謎の銀の武器。
気になることは沢山ある。
……だが。
「あの塔のことや消えたコイツらについては後で話す。外が騒がしくなってきたし移動しよう」
色々と伝えたいことはあるが、とりあえず後回しだ。
魔導化の際に結界の外のことも把握できた。……トオルさんには悪いが、勝手に仕出かした以上しばらくの間、囮になってもらおう。
「……分かりました。ですが、あの脳筋剣士はどうするんです? あの剣士のことですから、結界が解けたらすぐにここに来ますよ?」
「だから退くんだよ。今あの人と合流したら、面倒な親と妹を相手にすることになるぞ?」
「…………」
沈黙は理解と捉えよう。
どこか呆れた目をした様子のまどかが納得したと頷く。一帯を囲っている結界に手と意識を向けると、入って来る者を拒んでいた薄紫な膜は崩れるようにして消えていった。
*
「グッ……!」
「ほぉ、まだ保つか」
そして、すっかり刃達から厄介者として認定されたトオル。
一度は押されたトオルだったが、それも一瞬のうちに逆転。今では軽く振り下ろした彼の刃を、片膝を付きながら両手の青龍刀を使って、渾身の力で持ち堪える拳の姿があった。
「悪くはないが、オレと止めるには不足だったな」
さすがに周囲は荒れてしまったが、トオルの背後に立つ神社は無事である。若干焦げたような跡はあるが、それでもマシな方であった。
「いい加減退いてくれないか? これまでのやり取りでこっちが加減してるのは、もう十分理解した筈だ。アンタがどんな立場の人間か知らないが、力量差が分からない程の無能ではないだろう?」
「……断る。確かに君の言う通り私は立場を一番に考える人間だ。不要なら自分の息子さえも追い出す畜生だ。……だからこそ、退けん!」
投げ掛けれる言葉に対して、踏ん張りながら拳は強い眼力を飛ばす。
少しずつ魔力を高めていくと、両手の青龍刀が発光して雷を迸らせる。再び剣から出現した2体の雷龍が威嚇するようにトオルの刀に噛み付いてみせた。
「誓ったのだ。この立場を貫き続けるなら最後まで曲げんと!」
「……何処かで聞いたような話だが、覚悟は認めよう。けど、それでも足りない」
噛み付いた2体の雷龍が押し返そうとしてくる。
しかし、トオルから焦ったような雰囲気はなく、ただ振り下ろした刃で青龍刀ごと持ち主を押し潰そうと、更に力を込めたした。
ギチギチ……!
「っ……!!」
一体どこからこれほどの力が出てくるのか。両手の青龍刀でどうにか防いでいるが、そこからどうしても押し返すことが出来ない拳。これでもかと魔力を注いで雷龍で押し返そうと図るが、まったくと言っていいほど効いていない。
認めたくはないが、実力差があり過ぎる。
踏み込んでいる脚と膝が砂利にめり込んでしまう。魔力も大量に消費している為、どちらにしても時間の問題である。
(く、止むを得んっ! 一気に魔力が無くなるが、大出力で隙を作るしかないっ!)
危険な賭けだが、勝機を見出す為に1つの決断する拳。
体に流れている大量の魔力を、得意な雷属性にして一気に放出。踏み締める地面からも放電する程の強烈な雷で、周囲すべてを覆うとした。
「ヤケになったか? そんなコントロールもクソもない攻撃が、今更オレに効くと思ってるのか?」
気を極めたことで魔力耐性が異次元の領域に達した今のトオルには、ただ魔力量が多く無造作に放出されただけの雷など効くわけがない。……それこそ軽めの電気マッサージ程度のレベルだ。
呆れた口調と声音の通り、話にならなかった。
「ああ……! そうだろうな……!」
だが、それは拳も同じ考えだった。
魔力をこれでもかと注いだが、このような拡散攻撃でどうにかなるとは思っていない。
(『雷天の龍魔剣』は雷を喰らう強化する。それが私が放出させた雷であっても喰らうことで、数段に強化される!)
2体の雷龍が放出された雷を喰らうと、雷で出来た歪な姿がより輪郭も定まる。大きさも増して翼も生まれると、生き物と思える程の迫力を出して、蒼き輝きを見せる2体の龍が誕生した。
【ッッーーーー!!!!】
「……お!」
威圧感が溢れる2体の龍の咆哮が、トオルに圧となって掛かる。
さらに咆哮と共に荒れた雷の衝撃によって、不動の如くビクともせず立つトオルの躰を微かに震わせると……。
【ッッーーーー!!】
「っ……!」
雷の咆哮が増す毎に全身で浴びるトオルの躰が振動していき────吹き飛ばされた。
後方にある神社の入り口の引き戸を破って、中まで飛ばされてしまう。
そして、トオルの凶悪な振り下ろしから解放された拳は、もうはや龍と言っていい剣を振るい飛び掛かる。
「終わらせてもらう! ────“龍魔ノ太刀・二閃”ッッ!!」
本当に申し訳ないが、勝つ為に神社ごと斬り裂く龍の剣技を振り抜いた。
刃のように鋭い雷を帯びた2体の龍が鞭のように動くと、巨大な2つの顎門が神社を穿とうと……。
「浅知恵だな」
したが、顎門で噛み砕く寸前で、壊れた戸から神速で出たトオルの刃によって妨げられる。居合いのような早業で抜かれた刀が、迫っていた2体の龍の首を斬り落とした。
気が染み込むように纏われ、薄い魔力が包むように覆われた刃。
軽く振るうトオルは、落ちていく龍の首に目もくれず、刃を帯びたような瞳で拳を捉えると……。
一息のうちに拳の懐に入っていた。
師である《無双》アヤメ・サクラが得意とした風の移動の派生技だ。
「弱いと言わない。だが、オレの方がずっと強い」
「────っっ!?」
魔力を断つ特殊剣技────“魔斬”。
アヤメ・サクラが扱う剣技『魔斬術』の基礎でもある技だ。
逆転する切っ掛けとなった雷の砲弾を斬った剣で、青龍刀ごと拳の胴体を斜めから斬り裂いた。
(……斬られたか、────むっ!?)
途切れたように前から倒れる拳であったが、遅れて出血が一切ないことに気付く。
それどころか斬られた箇所には一切の傷がなく、服すら斬られていなかった。
「どういうことだ?」
「単純な話だ。オレが斬ったのは魔力のみ」
ただ動けない状態の中、疑問符が口に出ると聞こえていたトオルが答える。
「“魔斬”で魔力体を斬り裂いたことで、繋がっている肉体にもショックを与えた。普通なら気絶しておかしくないが、魔力が殆ど無くなった所為で……意識まで狩り取れなかったか」
律儀に答えたのは、気絶しなかった拳に少なからず驚いたからだ。これで終わりだと刀を鞘に納めると、神社を出ようと倒れる拳を通り過ぎようとしたが……。
「……まだ何か用か?」
ズボンの裾を掴まれた為、嫌そうに振り返る。
前のめりに倒れた姿勢のまま、手を伸ばしている拳を見下ろす。斬り飛ばすか蹴り飛ばすか考えかけたが、さすがに倒れた相手にそれはどうかと思い直す。
「安心しろ、もう捕らえれるとは考えてない。……ただ、最後に訊きたい」
魔力体がダメージを受けた影響で力が入らないが、余程訊きたいことあるのか、どうにか顔を上げて尋ねる。
そんな様子に僅かに逡巡するトオルだったが、いつの間にか解けている結界の方に目を向けると、短く溜息を吐いて拳へと視線を戻した。
「ま、良いだろう。何が訊きたい? オレの剣の極意でなければ、大抵のことは答えれるぞ?」
前半は冗談だが、特に隠し事もないのも事実。
軽いノリで促したトオルだったが……。
「君が使用した剣技や……魔斬だったか? 他にも魔力ではない別の力。私の息子が扱っている技に似ているんだが……何か心当たりはあるか?」
「………………」
軽ノリな顔のまま、石のように固まった。
同時にさっきまでのやり取りを脳裏を過る。
(……何やら聞き覚えがある話だと思ったが……え? もしかして、そういうことか?)
固まった頰が痙攣した気がした。
というか、酷い頭痛に襲われたように頭を押さえ出した。
この世界に来てから、出遅れて、仕出かして、意味なく斬ってばかりだったトオルだが……。
「これはさすがにやべぇじゃ済まねぇな。殴られるか、ボコボコに殴られるな絶対」
どっちにしても殴られる未来しか見えないが。
遂にやってしまった感で項垂れると、自分のポンコツ振りと不運さにいよいよ嫌気が差してきた。
「敢えて名は言わなかったが、その反応を見る限り知っているようだな」
「あ、いや……」
「どうした? 大抵のことは答えれるんじゃないのか?」
もう強引に引っこ抜いて逃げよう。
半ば無理矢理そう踏ん切ると、止まっていた脚を動かそうとした。
「私の父に何をしているんですか?」
「────は?」
前もって言うが、油断した覚えはない。
男との戦いが終わってもトオルは、一切警戒を怠ってなどいなかった。
会話をしながらも気の察知能力によって、周囲一帯。それこそ神社の外から向けられる視線にも気付ける自信があった。
(あ、ありえねぇ……オレの気配察知を掻い潜ったのか?)
冷たい殺気が込もった声が聞こえた時は、慣れていたので気にしなかったが、返ってそれが仇となったか。
「私も大変興味があります。父を通して見てましたが、その剣技は間違いなく兄さんと同じ物ですよね? ということは、貴方が兄さんに余計なことを教えて、危ない魔法の世界に戻した張本人ですか? 優しくて戦いを嫌った兄さんが、魔物の大群相手に1人で突っ込むような性格に変えたおかたですか? もしそうなら────」
突如視界に入ったガラスにも似た薄い刃が見えた時は、心臓が止まるような驚きを見せてしまったが……。
「斬り刻むだけでは済ませませんよ? 私の大事な兄さんをよくも戦場に戻してくれましたね、この害虫が」
(ウぉおおおおおおいィィィ、ジンッーー!?!? どういうことだどういうことだ、こりゃ!? お前の妹スゲェ病んでるぞ!? 超こえぇぇえええええ!? このポニテ娘がヒナって奴か!? 聞いた話と全然違うぞ!? お前のことを嫌ってるんじゃなかったのか!? お前のことを超大事にしてて、強くしたことをスッゴいキレているぞッ!? ていうか、害虫って……)
成長途中でまだ子供っぽさもある、黒髪ポニテをした可愛らしい娘から想像も付かない台詞と冷え込むような真っ黒な視線に、トオルの背筋が本人の意思とは関係なくガクガク震える。……かなり思考もパニックを起こしており、正直先程よりもピンチな状況となってしまった。
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