オリジナルマスター

ルド@

第4話 ミッションの案内と空の異変。

「ん? ……あれ?」

ジィちゃんに言われてスマホを手に取ったが、画面を見て思わず二度見してしまう。
てっきり着信かと思ったが、メッセージが入っていたからだ。

「誰だ?」

どうやら登録されたものではないらしい。
首を傾げながらスマホの画面を開くと……。

ーーーーー
【大規模ミッションのお知らせ】
・敵の拠点『異空の塔』
・達成条件『敵勢力の全滅及び時空塔の完全破壊』
・達成報酬『────』

最近、各世界で貴重品とされるアーティファクトが強奪される事件が何度も起きている。強奪の言葉通り、好き放題暴れて奪い去るらしい。

確認出来たアーティファクトの大半が使用すれば、甚大な効果を発揮する物だ。絶対に阻止すべき事案だが、……分かっている通り、こちらの直接対応は避けたい。

そして、ここからが本題だが、次の標的は君の世界だ。
情報が確かなら君の活動拠点から近い箇所で出現予定だ。異空の塔を破壊して、盗まれたアーティファクトの回収及び首謀者たちを確保か……無理なら始末しろ。

念のために伝えるが、可能な範囲で構わない。手に負えないと判断したら、すぐに報告しろ。

では、健闘を祈る。






PS:トオルがそっちに行ったからヤバくない程度に頼りなさい。

完全無欠全知全能の師より(笑笑)
ーーーーー

「……」

どこから突っ込めばいいか?
胡散臭い目で最後の文面を見つつ頭を掻く。……どうにも、ややこしい予感をしたからだ。

「男の匂いがしますね」
「そこは普通、女の匂いじゃないか?」

背中から覗き込むまどか。俺とは全く異なる予感のようだが、興味がカキ氷から俺のメッセージ画面に移ったらしい。
男のなのは当っているけど、この文面を見て第一声がそれなのか?
非常識かつ胡散臭い文面なのは間違いないが……。

「波乱の予感しかしないな」
「休日気分はお預けですね」
「来なくていいんだぞ?」

性格上まどかが暴れ回る可能性は低いが、彼女のタイプ的に連携が取りにくい。……血筋の問題かもしれないが。

「ご冗談を。貴方を放置するほど、私は薄情な保護者ではありませんよ」

退くつもりは全くなさそうだ。いつの間にか居候から保護者にランクアップしているし。

「あなたのサポートこそが私の務めです」
「サポートはいいけど、なぜ保護者になの? ホームステイじゃなかったか?」
「普段はホームステイですが、ある時はサポート役、またある時は保護者ですから。掃除も料理も魔法もお任せあれです」
「もうホームステイ関係ないね」

確かに魔法だけでなく、炊事洗濯掃除なども任せてばかりだけども。

「こちらの準備は出来てますが、刃の方は大丈夫なんですか?」
「準備がいいかどうかと言われたら……まぁ、いつでもオーケーだけど」

すっかり付いて行く気になってる。残して置くのは無理か。
内心ため息を漏らしながら、まどかの使いどころも計算に入れ今後の展開を予想してみることにしたが……。


ゾワ……!


「───!!」
「刃?」

気配に気付いた俺は慌てて外に出る。外で遊んでいた子供や付き合っていた大人たちが呆然と見てくる中、視線を空へと向けて思わず睨み付けた。……この世界とは異なる異物の気配を感じたからだ。

「あれは……」

遅れて外に出て来たまどかもまた、俺の視線を追って空を見上げて気付く。俺たちの様子を見て、子供も大人たちも視線を空へと上げると……。

『ッ!?』

大半の大人が青ざめた表情をして、大半の子供が理解できない様子で固まってしまった。

「時空系の魔道具ですか……この大きさのタイプは初めて見ました」
「うむ……」

デフォルトで無表情なまどかも驚いているのか、眉間にシワを寄せて睨み付けている。さらに遅れて来たジィちゃんだけは、サングラスの為に表情は分からなかったが、ジッとした様子で空を見上げていた。

「いきなりか」

ガラスのようにヒビ割れた空。時空系の効果だろうか、あそこまで大規模だとは流石に予想していなかった。
その隙間から出てきた巨大なビルのような建造物。
つい脳裏にラ○○タのイメージが浮かんだが、あれより無機物に見える。

「刃」
「ああ、行くぞ」

運動着の格好のまま駆け出す。走りにくいワンピースであるが、まどかも後ろから付いて来る。お互いに魔法で脚力を強化すると、森と茂みで囲われた寺から疾走し……。

「掴まれ」

まどかを抱えて飛んだ。
初級魔法の一つ『火炎弾ファイア』を両足の裏から放出させて跳躍。爆発力を生かし機動力を得て空を飛ぶ。

「自分で飛べますよ?」
を出すつもりか? そっち系のファンタジーはこの世界に無いんだから控えてくれ」

本来なら初心者向けの初級魔法で、こんな芸当など出来る筈がない。
だが、俺が扱う特異な属性と魔力を合わせることで、初級魔法を上級クラスまで引き上げることが可能だった。

「一気に行く。ちゃんと掴まれよ?」

本来ならゆっくりだが、速度を上げるために足下で噴き出す炎を調整操作する。それを間近で見ていたまどかは、無表情のまま感心した様子で呟いた。

「見事な共鳴とコントロール。流石です」
「どうも」
「咄嗟にお姫様抱っこにしたのもプラスポイントです」
「……ちなみにそのポイントが溜まるとどうなる?」

急ぎの現状で訊くような内容じゃないと思うが、無意識にふと尋ねてしまうと、まどかもなんでもない風にして……。

「この容姿にあった妹プレイでも堪能させましょうか?」
「一生しないでくれ」

とんでもないことを言いやがったから即答で返した。妹がいるのに妹プレイとか拷問か!? トラウマ的なスイッチがオンになるわ!

「喜ぶと思ったんですが……好みじゃないと?」
「とりあえず俺の性癖について、あらぬ誤解があるようだから今度じっくり───」
「数学、英語、化学。カバーで隠されていたジャンルの1つに『妹モノ』があったと記憶してましたが……気のせいでしたか?」
「……アレについても一生訊くな」

多分、学校の知り合いから無理やり渡されたヤツのことだろう。慰めのつもりかもしれないが、俺にその趣味はないから封印するしかなかった。すぐ処分も考えたが、ジィちゃんにバレるのが嫌で隠していた。

「はぁ、完全に忘れてた」

そして、しばらく飛び続けると浮かんでいる塔付近まで近付けた。と言っても目立つと面倒になるので、低空飛行かつ建物の影に隠れながらだが、浮かぶ塔を間近で見られる分、離れているよりはマシな距離まで近寄れた。

「っ! 刃」
「ああ、落ちたな」

すると普段よりも鋭いまどかの声が耳に届く。目を向けず返しながら、俺も視線の先で浮いていた塔の異変を目撃する。

「見えたか?」
「いえ、光っていたので……」

浮いている塔自体に異変はない。
だが、何かが落ちた。光って分からなかったが、嫌な気配と魔力を感じたことから生き物であるのは間違いない。

ゆっくりと地上へ落ちて行き、遠目からは小さな隕石でも落ちたように見えた。

「あそこか……向かうぞ!」
「はい、早くしないと警務隊が来ます」

その通り、厄介な連中が来る前に処理しておかないと。
あの部隊には戦闘派な桜香おうかが居る。あいつが介入して来たら面倒過ぎて泣ける。親父か妹が来たらもっと嫌だけどな!

「多少の目撃されるのも仕方ないか」

噴射の威力を上げて速度アップ。その分、空気の抵抗も大きくなるが、飛行専用の障壁補強をしているので問題はない。
途中すれ違ったいくつの建物から視線を感じる中、俺たち2人は何かが落ちた地点に降って行った。





「おっとイカンな。せっかく先に到着したが、出遅れてしまった」

空間を割って現れた浮かぶ塔を男性は、困った顔で見ながら頰をかく。
黒スーツに黒ネクタイでサラリーマンのような格好だが、その腰には刀が差してある。さらに顔付きも厳しいそうな強面な為、外見は完全に殺し屋のように・・・・・・・見えていた。

「悪いな。遊んでいる暇はないんだ」
「……うっ、ふざけるなぁ……!」

パンパンと埃でも払うように両手を叩いて、空から視線を移して転がっている者たちへ目を向ける。
先ほどいきなり斬り掛かって来た女性たち。片方は気絶しているようだが、もう片方の斬り掛かった茶髪の女性は地面に伏したが、顔だけ上げて睨み付けていた。

「まだ、勝負はついてない……!」
「威勢はいいが、立てないなら無視するぞ。というか遊びは終わりだからさっさと行くぞ?」
「……ッ、キサマァ!!」

だが、それだけで起き上がることはできない。
怪我自体はないが、重い掌底を受けてしまい体が動かなくなっていた。
すぐさま魔法を使おうともしたが、掌底の影響か魔力自体が練れず芋虫のようにもがくしかなかった。

(いきなり襲われたとはいえ、ちょっとやり過ぎたか? 一応臓器を潰さないようにしたが)

その様子を見て、少々気まずそうな顔で男性は考える。
想定してなかった訳ではないが、着いて早々いきなり襲われて少し動揺はあった。

(加減をミスったつもりはなかったが、これがこの世界のレベルか? 才能なしと言われていたジンの方がまだ堪えてたぞ?)

傷付かない程度にはしっかり手加減したが、手刀や掌底を受けて起き上がれない女性たちを見ると、まだ加減が足りなかったかと思ってしまう。

「けど、なかなか良かったぞ。まだ筋が粗いがオレ好みの豪剣だった」
「何者なんだお前は!? いったい何が目的でこの街に……!」
「見ての通り剣士さ。ま、使ってないが」

鞘に収まったままの刀の柄を撫でると、睨み付けていた女の表情が悔しげなものに変わる。

「っ……余裕のつもりか!?」
「ま、経験の差だ。そう悔しがるな」

剣士使いとしてやはり屈辱だったか、剣すら抜かせられなかったことに激情した様子で、無駄と分かっても必死に起き上がろうともがくが……。

「じゃ、もう行くわ。あっちも動いてるようだしな」
「な!? ま、待てーーっ!」

本当に用はないといった様子であっさりと背を向ける男性。微かに足に魔力を巡らせて、その場から跳躍しようとする。
まさか本当に立ち去るとは思わなかったのか、慌てて男に向かって声を荒げたが。

「悪いな。こっちも仕事なんだ」

そう言い残して男は飛び立つように姿を消した。
結局女性───桜香は大した情報を掴むこともできず、屈辱の敗北と共にただただ地べたに転がっているしかなかった。

空の異変に気付いたのは、そのしばらく後だった。

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