オリジナルマスター

ルド@

第2話 決闘前のそれぞれの会話。

「どうしても戦うのか? アヤメ姉さん」
「ええ、それだけはどうしても譲れないんです」
「アヤメ……やめよう?」
「シオンもごめんなさい。これは私の意地でもあるから」

王都にある医療施設の一室。
特別治療を受けていたトオルの面会に来たアヤメは、彼とそしてベットで寝ている彼の傍らに座るシオンの二人に決闘をやめて欲しいと言われ、辛そうにして首を横に振っていた。

だが、それは頼まれていることに対し、困っているわけではない。

彼らの父親である友が亡くなって以来、彼らとの接触はせず四年近く音沙汰もなかった筈が、こうして二人とも彼女のことを覚えていたからだ。

夜の騒動が終息を迎えてシオンを呼び出したアヤメだが、まさか出会い頭に抱き付かれるとは夢にも思ってなかったのだ。

「オレたちが言えた義理じゃないけど、もう昔のことだ。今回の件でそれを思い知らされたんだ」

そう言うとトオルは嘆息して思い返す。
ボロボロの記憶で覚えていることも少ないが、それでも覚えていることもある。

憎しみに呑まれて敵の言いなりとなったが、流れ込む悪意の塊である敵の魔力が暴走を起こした際、意識も沈む切っている彼の精神を焼き尽くすかのように、敵の魔力を通して別の感情憎しみが流れて込んできた。

あまりに桁が違う、まるで世界そのものへ殺意を抱いているかのような。
それを無意識の中で身に浴びたトオルは、意識こそ目覚めなかったが、業火に身を焼かれているような錯覚に襲われて夢の中で苦しんでいた気がした。

しかし、自分が抱いていたモノの以上のモノを体感したことで、トオルの中で何かが変わり燃え尽きたような気持ちとなった。
気付けばかつて抱いていたあの男への殺意・・・・・・・も少なからず薄れていたのだ。

「憎しみは人を狂わして利用される。周りを巻き込んで関係ない人を傷付けた。アヤメ姉さんのことも」
「貴方は巻き込まれただけです、この国の騒動に。憎しみだって人間である以上、抱いて当たり前のこと」
「だけど、いつまで抱いてもしょうがない。詳しく聞いてないから分からないけど、私もその方がいいと思う」

トオルの言葉にアヤメは否定するが、シオンもアヤメに促すように口にする。
夜の騒動について聞かされてないシオンだったが、何処か覚めた様子のトオルを見て彼女自身の考えも少し変わったようだ。

「アヤメ、やめよう。戦っても結局虚しいだけだと思う。トオルがやめるなら私ももう終わりにする」

トオル程ではなかったが、彼女も過去のことを清算したい常々思っていた。
恨み辛みがないことはない。けれどもアヤメと同じように決着を付けたい気持ちが強かった。

が、それもトオルの憎しみに感化されたことが大きい。
過去のことでショックもあったが、トオルがもうやめようと言うのなら、彼女ももう過去のことで剣を振るうのをやめる。いや、やめたいのだ。

「だけど、決着を付けないと収まらないこともある。そして今その決着を付けることできるかもしれない…………だからごめん」

そんな二人にアヤメは辛くなるが、彼女も退けない。
時間も近いからと逃げるように病室を出る。

「辛いですね。あの二人にまで言われてしまうと……」

しばらく歩くと背後から近付いてくる気配に気付くが振り返れらない。
超越者である彼女なら足音、気配などで知り合いかどういう人物なのか分かってしまう。

「何だ?」
「お師匠様……」

悪意のある者なら無の型ノーモーションで戦闘体勢に入ったであろうが、近付いて横に来たのは彼女の弟子であるシズク。
横目で視線を送るとそのまま步を進める。

「何故、お師匠様が試合することになったんですか? 友人の子供たちの救出だけで終わりだった筈。何のになんで……しかも話じゃ同じSSランクの───」
「予定が変わった。情報を貰えれば良いと思ったが、奴を見つけた」
「奴? ──っ!? ……って、いうことは、まさかお師匠様が戦う相手って……!?」

ビクッとした顔で師を見上げるシズク。
奴とだけ言われたが、弟子である彼女はアヤメの宿敵の存在が脳裏に浮かぶ。てっきり王都の超越者と戦うのだと勝手に予想を立てていたが、アヤメの言葉に驚きの様子で目を見開いていた。

「あ、あの人、なんですか……!?」
「ええ、そう」

それでも目立たないようにと思ったか、どうにか声を潜めて尋ねることができたが。


「《魔導王》シルバー・アイズ────あの男と決着を付ける」


師から放たれる鋭い殺気は周囲の人間を遠ざけてしまい、嫌というほどに目立ってしまった。


◇◇◇


(じょ、冗談だろ? なんだこりゃ)

その光景を見たジークは頰をヒクつかせる。
嘘だろうといった表情で何度も見ても、景色は変わらず軽く絶望してしまう。
思わずといった感じで近くにいたサナに尋ねていた。

「な、なぁサナ? お前はシルバーってどう思う?」
「は? なに唐突に? シルバーってあの“大英雄”のシルバー?」
「だい────? いいや、それだ。そのシルバーだ。たぶん」

言っていくうちに自信を無くしてきた。自分のことなのに。
一時間前で既に満席となっている闘技場の観戦席を見た途端、震えたような声音になってしまい、側にいるアイリスから『……?』といった不思議そうな目で見られていた。

「急にどうしたの?」
「あ、ああー……もしだ? もし今日戦う超越者の一人がそのシルバーだったら…………どうなると思います?」
「なんで最後敬語?」

「……」

公開された情報ではシルバーという名は出ていない。
なのについ敬語口調になった自分に内心メンタル治ってないのか、と動揺して目が泳いでしまい、隣で見ていたアイリスからさらに『……??』といった不思議そうな視線を浴びてしまう。

「けどそうね……」

だが、その光景は考えるサナには見えていない。
ジークの挙動に不審に思いつつも振られた質問にパッと、思い付いたことを素直に答える。

「魔導杯なんて比じゃないわね。間違いなく国中──いえ、世界中を震撼させるんじゃない?」

その言葉に魂が抜けたような顔をするジークと、その様子を見て『──ッ!?』とギョギョ!? と目を見張るアイリス。
焦ったようにジークの目元に手を振るが、固まったように動かなくなりアイリスは一層慌て出す。

「なにせ、あの“大英雄”は最近の歴史書にも載ってる超越者だから。四年前の大戦も彼のことを語らないと伝わらないし、学園の教科書にも載ってたわ」

さらに続くサナの解説にいよいよ口から、何か魂めいたモノを零し出すジークとそれを見ていよいよ『あわあわあわっ!?』と混乱し、何とかその魂らしきモノを掴もうと口に押し戻そうとするアイリスだが、滑りでもあるのか手から溢れるように空へ舞って──。

「特に王都エイオン、フルタル、トルネアで起きた帝国と妖精国の奇襲撃から第二王女を救出して追い返した話は凄かったわね。アレで三名のギルドマスターに認められてSSランク昇格が確定したって話よ、って……え?」

と、言い終えたところでようやくサナも視線をジークたちへ向けたが、その瞬間言葉を失いしばし黙り込み。

「あれ? ジー……ク?」

観察するように、とうとう顔も髪も真っ白になったジークと、『あうあう〜〜!?』と涙目で彼の肩を揺すってバタバタするアイリスの二人を見つめて……疲れたように溜息を吐いた。

「……ちょっとごめんなさい? 私の説明中に何があったの?」

呆れと疲労の半々といった顔で問い掛けるが、サナの質問に答える者は誰もいない。

「というか、どうしたらそうなるの?」

遂には一切反応を示さないジークの胸を、手のひらで『あああ〜〜!? ジーくんーー!?』と何度も叩く涙目のアイリスという絵面となって、サナでも近寄り難い状況となった。

結局、涙目のアイリスに悪いと思いながらも距離を取ったサナの所為で、ジークが正気に戻るまで少々の時間を要した。

「あー……悪い。ちょっと眠たくなってなぁ。まだ疲れが残ってるかねぇ?」

因みに何で気絶したように固まっていたのかと、サナとアイリスに問い掛けられるジークだったが、まさか自分の想像よりも英雄視され歴史書にまで載っていたという現実に、半ば本気で逃避していたとも言えず返答に困ってしまう。

(授業サボってたから知らなかった。教科書に載ってるとか……悪夢だ)

この四年間、特に歴史書を読まず授業もよくサボっていたジークには、サナの言葉一つ一つが不意打ち以上の重い一撃であった。

(はぁ、動くか)

そして疲れたように色々とあってな、と呟いて誤魔化すと二人にバレないように姿を消す準備に入る。

(あとは頼むぞ〜)

合流予定だった人物の視線を背後から感じながら、ジークは自分そっくりの姿を見てニヤリと笑みを浮かべた。

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