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第17話 絶望の入り口。
(やられたか)
ギルドレットの一撃で頭部をやられて、ゆっくりと意識が刈り取られていく中。
痛みも消えて眠くなっていく意識で、ジークはぼんやりとした思考で呟いていた。
「ッ────!!」
しかし、浮かんだ端から思考もまた霧のように消えていく。
そして致命的な一撃を浴びて、体勢を立て直すこともできず、後ろへ崩れるように倒れていく。
無意識にでも体勢を戻そうとするが、あまりにも重い一撃に意識が消えていくと共に体から力が抜けていった。
さすがSSランクだと言うべきか。
今まで大抵の攻撃ももろに受けたとしても、倒れてこなかったジークであったが、今回ばかりは気合いや根性でもどうにもならない。
寧ろ、見事に打ち抜いてみせたギルドレットに、場違いにも賞賛の言葉を述べたくなった。
しかし、気合いや根性といっても果たして、今のジークにそれらの感情がどれほど残っているか、本人も怪しいところがあった。
これまでの戦いで対人戦も前向きになり、負けてもいいとは思わなくなってきた部分もある。だが、それでもかつての自分に比べれば、まだまだ勝利への執念、執着が弱々しい。
だから同じレベルの相手であっても、こうも一方的にやれてしまう。
仲間が居ようが居まいが、かつてのジーク───いや、シルバーなら負けなかった。
そもそも、自分自身の戦う理由があまりにも曖昧であった。
目的を達成させる為に勝利を欲するが、その願い自体も本当にジークの本心から望んでいるものだろうか。
叶うかどうかも分からないものに手を伸ばしてこれまで戦ってきたが、その気持ちももう弱かった。
それ以前に一度は諦めて平穏な学生生活を、のんびり過ごそうとしたこともあった。アイリスの一件で水の泡になったが、それでもジークは少なからず諦めていた。
やけに介入してくる教員から、原初を集う大会を聞かされるまでは。
失いかけた気持ちが再び蘇った気がしたのだ。
今までやり方を大きく変えて、目立つこと承知の上で大会に入る為、ジークは戦った。
慣れない加減に神経を使った。
魔力が暴走しないか、気が気じゃなかった。
周囲の奇異な視線が鬱陶しかった。
もう会わないと思っていた王女。そして彼女との再会した。
王女からは殺されると思ったが、そんなことはなく自分の目的について“やめてくれないか”、と諭された気がした。国を守るためなら斬ると口にしていたが、どこか辛そうにも見えた。
彼女とは会った時はもっと危険だと思った。
彼女はあらゆる意味で自分にとって爆弾である。それがどう周りに影響を及ぼすか分からない上、三ヶ月前の告白の際に起きた暴走もある。
取り敢えず当たり障りなく言って、その場は立ち去ることにしたが、後日から彼女が通い出したと聞いて、危険な筈なのに心の底から安堵したのを覚えていた。
魔導杯は確かに自分の望む物が存在していた。
それだけではない。まるで導かれたかのように残りの物もすべて、この地に集っていた。
あの女のことなど一切信用していない。
だが、ジークは予言とも聞こえる女の言葉に、不思議なほど説得力を感じさせられたのだ。
“目的の為に見捨てるか、それとも目的を棄てて護り抜くか。……生かすも殺すも選ぶのはあなたです”
自分になりにジークは戦い続けた。
予想外の敵も現れた。まさか剣豪の王女と手を組み、元SSランクのギルドマスターを倒すことになるとはまったく考えていなかった。
未だに自分の魔力で研究がされていると知った際は、憤慨しそうになるかと思ったが、それ以上に呆れてしまい救いようのない連中だと吐き捨てた。
そして今に至る。
王都にやって来てからずっと、周りに振り回され続けたジークはとうとうかつての仲間たちと、戦ってしまうところまで来てしまった。
アイリスの登場や師匠の参戦でジークは心身共に疲弊し切った状態で、ギルドレットたちと戦いこうしてボロボロになって負けた。
どうしても足りない。
ジークが戦っていく為には、明らかに最後の鍵が欠けていた。
そしてそれは、ジーク自身、自覚しているようで自覚していなかった。
その最後の鍵はずっと昔に取り零していることを。
◇◇◇
(なんだ……?)
いつの間にか視界が暗転している。
ぼんやりとした思考の中、ジークはぽつりと心の中で声を漏らした。
確か師匠たちと王城の地下で戦っていた筈だったが、気付けば荒れ果てた野外に出ている。
あまりの急な展開にギルドレットの攻撃で朦朧としていた意識が覚醒したが、いよいよ脳内がイカれておかしくなイメージが流れ出したかと心配になる。
(ん、待て。ここって確か……)
だが、違う。
自分が外に出たのではなく、視界が全て外の景色に切り替わったのだ。
まるで夢を見ているような感覚で、なによりそこは見覚えのある場所だった。
ただ荒れただけの土地に見えたが、そこには小さな街があった。
しかし、建物はすべて崩壊して畑らしき土地も粉々になっている。死体も転がっており、瓦礫からは生き絶えた人が多数埋もれて火も上げていた。
そこは戦場の爪痕である。
かつての忌まわしき記憶の中にあるイメージが、今、ジークの視界を覆い尽くしていたのだ。
(間違いない『トラキサム』だ。……ていうことは)
多くの血で満たされた戦場。
もう元の街の面影は残っていないが、ジークの記憶が正しければ────。
ハッとした顔でジークは辺りを見渡すと。
『アアァァアアアアァアアアアアアアアアア!!』
『カァアァアアアアアアァアアァアアアアア!!』
(こいつは!!)
重なる二つの雄叫びに引かれ、視界に移すとその先の光景にジークは驚愕する。
あり得ないと目を大きく開くが、固まってしまうジークをよそに眼前で行われている戦いは苛烈さを増していく。殺気がその場に充満して自然と目を奪われてしまっていた。
一人はよく知っている少年だ。
全身血塗れで着ている白のローブも赤く染まり、遠目から見れば赤髪の魔法剣士だった。
左右の剣。白き雷の剣と蒼炎の剣を振るい続けて迫っていく。
対してもう一人はよく居そうな傭兵の格好をした大男だが、放たれる殺気はただの傭兵を遥かに超えており、見ているジークは背筋に走る悪寒に肩を震わせる。
全身から闇属性よりも異質な黒きオーラの身体強化を発現して、迫る少年を歓迎するように立ち塞がった。
離れた場所で片翼のみの翼で男が立ち上がるが、二人の戦いに割り込めれるほどの余力は残されていない。腹部に大きな穴が空いて出血が酷かく、二人の高速戦闘に追ていける状態ではなかった。
(なんで、こんな時のことを)
その戦いを眺めてジークは嘆息する。
それは忘れる筈もない。いや、忘れたくても忘れられない記憶の一つだった。
かつては聖国の街の一つだった『トラキサム』で起きた悲劇。
最強クラスの三人のSSランク冒険者。
《大魔導を極めし者》シルバー・アイズと《天空界の掌握者》ギルドレット・ワーカス。
そして古傷が付いた獣のような風貌した男。武器を持たず両手を構えて戦う野獣の如き戦士。
《最凶の鬼神》、《破滅を呼ぶ不滅王》、《凶暴王の災厄》、《暗黒異形の最強生物》。
畏怖の念によって作られた数多の異名を持ち。
四つの大陸の中で帝国が最強と呼ばれた理由そのもの。
四人のSSランク冒険者。最強の男として恐れられた生物を超えた生物────デア・イグスだった。
◇◇◇
白雷と蒼炎の剣をシルバーはデア・イグスに挑む。
既に自身も限界であったが、瀕死の状態であるギルドレットでは無茶が過ぎる判断する。デアの懐まで迫ると左右の剣を横薙ぎで振るった。
『フンッ』
横薙ぎで振るわれた二刀をデアは正面から受け止める。
手のひらの不吉な黒きオーラで二つの属性も押し返して、シルバーの顔面めがけて拳を入れる。
『──!』
だが、彼の拳が届く寸前に『短距離移動』で逃れるシルバー。一瞬でデアの背後へ回るとすかさず二刀を盾のようにクロス。黒きオーラを乗せた横回転蹴りを止めてみせた。
上手く二刀の魔力と剣術で蹴りを反らして突きの構えを取るシルバー。蹴りを入れた状態のデアの胸元、──心臓を狙いを定め。
『届けっ!!』
神速の“蒼炎の突き”でデアを射抜いた────ように見えたが。寸前で僅かに横に動いたことで標準がズレてしまい、突きの刃はデアの脇を通り抜けるように過ぎてしまう。
『惜しかったな』
通り過ぎたところで“蒼炎の突き”の刃を腕と脇で挟み込むデア。通常なら“蒼炎”の接触部から炎が移り全身へ炎が巡って最後は焼失してしまうが、黒きオーラとデアの異常なほど頑丈な肉体が“蒼炎”の干渉を抑えて容易く掴ませたのだ。
『それはどう……』
しかし、シルバーの方もそれで終わることはない。片方の“蒼炎の剣”を封じられたが、まだもう片方の“白雷の剣”は残っている。
射抜くように構えて動きを止めたデアの心臓に再び狙いを定めた。“白雷の剣”もそれ合わせて変化して刃から先端を槍のように尖らせて準備を整え。
『……かなッ!!』
デアへの返しの言葉と共に鋭くなった“白雷の槍”を弾丸の如く発射した。
『甘いな』
だが、もう一刀の存在をデアは認知していない筈もなかった。確かに雷速へ迫る槍のような突きは脅威だが、デアの反応速度と察知能力が数段早い。シルバーがもう一刀で仕掛けようとした時には、既に対策できる準備が出来ていたのだ。
そして迫ってくる“白雷の槍”を横にはたき落として鋭い突きを返そうと────。
『させるか!!』
そこをギリギリまで気配を隠して接近したギルドレットの空中蹴りが入る。片翼の三枚羽だけで飛んだが、どうにか三枚分の推進力と重力を乗せた蹴りがデアの後頭部に直撃した。
『ッ!?  《天空……ッ!!』
後頭部に強い衝撃を受けたことで迎撃動作が中断してしまった。
一瞬、何が起きたか分からず呆然と衝撃で上体を揺らしたが、背後の気配に遅れて気づいきすぐに何が起きたか理解した。
後ろ目で睨み付けるように吐くが、そこで意識がシルバーが外れてしまったことで、彼の攻撃を回避する僅かな時間が消え去った。
『“帝天王の雷槍”!!!!』
『しまッ──!?』
“帝天”の魔力で凝縮された一槍────『帝天王の雷槍』がデアの胸の中心を貫通。大きな大穴を開けると内部から外へと“帝天”の雷が轟音と共に溢れ出して一斉に爆発する。
デアの体を白き雷がすべて染めて上げて余波で飛ばされたシルバーとギルドレットは、暫しその様子を眺める以外に何もできなかった。
ただ、シルバーの“白雷の剣”となった銀剣は刀身の半ばで折れており、残った刃先までが未だにデアの胸の中心で暴れ回っていた。
ギルドレットの一撃で頭部をやられて、ゆっくりと意識が刈り取られていく中。
痛みも消えて眠くなっていく意識で、ジークはぼんやりとした思考で呟いていた。
「ッ────!!」
しかし、浮かんだ端から思考もまた霧のように消えていく。
そして致命的な一撃を浴びて、体勢を立て直すこともできず、後ろへ崩れるように倒れていく。
無意識にでも体勢を戻そうとするが、あまりにも重い一撃に意識が消えていくと共に体から力が抜けていった。
さすがSSランクだと言うべきか。
今まで大抵の攻撃ももろに受けたとしても、倒れてこなかったジークであったが、今回ばかりは気合いや根性でもどうにもならない。
寧ろ、見事に打ち抜いてみせたギルドレットに、場違いにも賞賛の言葉を述べたくなった。
しかし、気合いや根性といっても果たして、今のジークにそれらの感情がどれほど残っているか、本人も怪しいところがあった。
これまでの戦いで対人戦も前向きになり、負けてもいいとは思わなくなってきた部分もある。だが、それでもかつての自分に比べれば、まだまだ勝利への執念、執着が弱々しい。
だから同じレベルの相手であっても、こうも一方的にやれてしまう。
仲間が居ようが居まいが、かつてのジーク───いや、シルバーなら負けなかった。
そもそも、自分自身の戦う理由があまりにも曖昧であった。
目的を達成させる為に勝利を欲するが、その願い自体も本当にジークの本心から望んでいるものだろうか。
叶うかどうかも分からないものに手を伸ばしてこれまで戦ってきたが、その気持ちももう弱かった。
それ以前に一度は諦めて平穏な学生生活を、のんびり過ごそうとしたこともあった。アイリスの一件で水の泡になったが、それでもジークは少なからず諦めていた。
やけに介入してくる教員から、原初を集う大会を聞かされるまでは。
失いかけた気持ちが再び蘇った気がしたのだ。
今までやり方を大きく変えて、目立つこと承知の上で大会に入る為、ジークは戦った。
慣れない加減に神経を使った。
魔力が暴走しないか、気が気じゃなかった。
周囲の奇異な視線が鬱陶しかった。
もう会わないと思っていた王女。そして彼女との再会した。
王女からは殺されると思ったが、そんなことはなく自分の目的について“やめてくれないか”、と諭された気がした。国を守るためなら斬ると口にしていたが、どこか辛そうにも見えた。
彼女とは会った時はもっと危険だと思った。
彼女はあらゆる意味で自分にとって爆弾である。それがどう周りに影響を及ぼすか分からない上、三ヶ月前の告白の際に起きた暴走もある。
取り敢えず当たり障りなく言って、その場は立ち去ることにしたが、後日から彼女が通い出したと聞いて、危険な筈なのに心の底から安堵したのを覚えていた。
魔導杯は確かに自分の望む物が存在していた。
それだけではない。まるで導かれたかのように残りの物もすべて、この地に集っていた。
あの女のことなど一切信用していない。
だが、ジークは予言とも聞こえる女の言葉に、不思議なほど説得力を感じさせられたのだ。
“目的の為に見捨てるか、それとも目的を棄てて護り抜くか。……生かすも殺すも選ぶのはあなたです”
自分になりにジークは戦い続けた。
予想外の敵も現れた。まさか剣豪の王女と手を組み、元SSランクのギルドマスターを倒すことになるとはまったく考えていなかった。
未だに自分の魔力で研究がされていると知った際は、憤慨しそうになるかと思ったが、それ以上に呆れてしまい救いようのない連中だと吐き捨てた。
そして今に至る。
王都にやって来てからずっと、周りに振り回され続けたジークはとうとうかつての仲間たちと、戦ってしまうところまで来てしまった。
アイリスの登場や師匠の参戦でジークは心身共に疲弊し切った状態で、ギルドレットたちと戦いこうしてボロボロになって負けた。
どうしても足りない。
ジークが戦っていく為には、明らかに最後の鍵が欠けていた。
そしてそれは、ジーク自身、自覚しているようで自覚していなかった。
その最後の鍵はずっと昔に取り零していることを。
◇◇◇
(なんだ……?)
いつの間にか視界が暗転している。
ぼんやりとした思考の中、ジークはぽつりと心の中で声を漏らした。
確か師匠たちと王城の地下で戦っていた筈だったが、気付けば荒れ果てた野外に出ている。
あまりの急な展開にギルドレットの攻撃で朦朧としていた意識が覚醒したが、いよいよ脳内がイカれておかしくなイメージが流れ出したかと心配になる。
(ん、待て。ここって確か……)
だが、違う。
自分が外に出たのではなく、視界が全て外の景色に切り替わったのだ。
まるで夢を見ているような感覚で、なによりそこは見覚えのある場所だった。
ただ荒れただけの土地に見えたが、そこには小さな街があった。
しかし、建物はすべて崩壊して畑らしき土地も粉々になっている。死体も転がっており、瓦礫からは生き絶えた人が多数埋もれて火も上げていた。
そこは戦場の爪痕である。
かつての忌まわしき記憶の中にあるイメージが、今、ジークの視界を覆い尽くしていたのだ。
(間違いない『トラキサム』だ。……ていうことは)
多くの血で満たされた戦場。
もう元の街の面影は残っていないが、ジークの記憶が正しければ────。
ハッとした顔でジークは辺りを見渡すと。
『アアァァアアアアァアアアアアアアアアア!!』
『カァアァアアアアアアァアアァアアアアア!!』
(こいつは!!)
重なる二つの雄叫びに引かれ、視界に移すとその先の光景にジークは驚愕する。
あり得ないと目を大きく開くが、固まってしまうジークをよそに眼前で行われている戦いは苛烈さを増していく。殺気がその場に充満して自然と目を奪われてしまっていた。
一人はよく知っている少年だ。
全身血塗れで着ている白のローブも赤く染まり、遠目から見れば赤髪の魔法剣士だった。
左右の剣。白き雷の剣と蒼炎の剣を振るい続けて迫っていく。
対してもう一人はよく居そうな傭兵の格好をした大男だが、放たれる殺気はただの傭兵を遥かに超えており、見ているジークは背筋に走る悪寒に肩を震わせる。
全身から闇属性よりも異質な黒きオーラの身体強化を発現して、迫る少年を歓迎するように立ち塞がった。
離れた場所で片翼のみの翼で男が立ち上がるが、二人の戦いに割り込めれるほどの余力は残されていない。腹部に大きな穴が空いて出血が酷かく、二人の高速戦闘に追ていける状態ではなかった。
(なんで、こんな時のことを)
その戦いを眺めてジークは嘆息する。
それは忘れる筈もない。いや、忘れたくても忘れられない記憶の一つだった。
かつては聖国の街の一つだった『トラキサム』で起きた悲劇。
最強クラスの三人のSSランク冒険者。
《大魔導を極めし者》シルバー・アイズと《天空界の掌握者》ギルドレット・ワーカス。
そして古傷が付いた獣のような風貌した男。武器を持たず両手を構えて戦う野獣の如き戦士。
《最凶の鬼神》、《破滅を呼ぶ不滅王》、《凶暴王の災厄》、《暗黒異形の最強生物》。
畏怖の念によって作られた数多の異名を持ち。
四つの大陸の中で帝国が最強と呼ばれた理由そのもの。
四人のSSランク冒険者。最強の男として恐れられた生物を超えた生物────デア・イグスだった。
◇◇◇
白雷と蒼炎の剣をシルバーはデア・イグスに挑む。
既に自身も限界であったが、瀕死の状態であるギルドレットでは無茶が過ぎる判断する。デアの懐まで迫ると左右の剣を横薙ぎで振るった。
『フンッ』
横薙ぎで振るわれた二刀をデアは正面から受け止める。
手のひらの不吉な黒きオーラで二つの属性も押し返して、シルバーの顔面めがけて拳を入れる。
『──!』
だが、彼の拳が届く寸前に『短距離移動』で逃れるシルバー。一瞬でデアの背後へ回るとすかさず二刀を盾のようにクロス。黒きオーラを乗せた横回転蹴りを止めてみせた。
上手く二刀の魔力と剣術で蹴りを反らして突きの構えを取るシルバー。蹴りを入れた状態のデアの胸元、──心臓を狙いを定め。
『届けっ!!』
神速の“蒼炎の突き”でデアを射抜いた────ように見えたが。寸前で僅かに横に動いたことで標準がズレてしまい、突きの刃はデアの脇を通り抜けるように過ぎてしまう。
『惜しかったな』
通り過ぎたところで“蒼炎の突き”の刃を腕と脇で挟み込むデア。通常なら“蒼炎”の接触部から炎が移り全身へ炎が巡って最後は焼失してしまうが、黒きオーラとデアの異常なほど頑丈な肉体が“蒼炎”の干渉を抑えて容易く掴ませたのだ。
『それはどう……』
しかし、シルバーの方もそれで終わることはない。片方の“蒼炎の剣”を封じられたが、まだもう片方の“白雷の剣”は残っている。
射抜くように構えて動きを止めたデアの心臓に再び狙いを定めた。“白雷の剣”もそれ合わせて変化して刃から先端を槍のように尖らせて準備を整え。
『……かなッ!!』
デアへの返しの言葉と共に鋭くなった“白雷の槍”を弾丸の如く発射した。
『甘いな』
だが、もう一刀の存在をデアは認知していない筈もなかった。確かに雷速へ迫る槍のような突きは脅威だが、デアの反応速度と察知能力が数段早い。シルバーがもう一刀で仕掛けようとした時には、既に対策できる準備が出来ていたのだ。
そして迫ってくる“白雷の槍”を横にはたき落として鋭い突きを返そうと────。
『させるか!!』
そこをギリギリまで気配を隠して接近したギルドレットの空中蹴りが入る。片翼の三枚羽だけで飛んだが、どうにか三枚分の推進力と重力を乗せた蹴りがデアの後頭部に直撃した。
『ッ!?  《天空……ッ!!』
後頭部に強い衝撃を受けたことで迎撃動作が中断してしまった。
一瞬、何が起きたか分からず呆然と衝撃で上体を揺らしたが、背後の気配に遅れて気づいきすぐに何が起きたか理解した。
後ろ目で睨み付けるように吐くが、そこで意識がシルバーが外れてしまったことで、彼の攻撃を回避する僅かな時間が消え去った。
『“帝天王の雷槍”!!!!』
『しまッ──!?』
“帝天”の魔力で凝縮された一槍────『帝天王の雷槍』がデアの胸の中心を貫通。大きな大穴を開けると内部から外へと“帝天”の雷が轟音と共に溢れ出して一斉に爆発する。
デアの体を白き雷がすべて染めて上げて余波で飛ばされたシルバーとギルドレットは、暫しその様子を眺める以外に何もできなかった。
ただ、シルバーの“白雷の剣”となった銀剣は刀身の半ばで折れており、残った刃先までが未だにデアの胸の中心で暴れ回っていた。
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