オリジナルマスター
おまけ編 過去の記憶 最凶の鬼神 下。
(こ、このままだと、殺れる!!)
あと数ミリも圧迫されれば、潰れてしまう。
(がァァァァ!? クソ動けねぇ!? いったいどう─────っむ!?)
飛びかけた状態の意識の中、ギルドレットはそう直感した。
魔眼の視界でデアを飲み込むように、巨大な雷光が爆発するのを見るまでは。
『ラァアアアアアアアア!!』
『おお!?』
咄嗟に抑えている腕とは反対の腕でガードするデア。
次の瞬間、ガードに使った腕に激しい痺れと衝撃が走る。普通なら痺れ程度で済む筈もなく、衝撃と共に全身が高エネルギーの雷で打ちのめされて、最悪死んでもおかしくない一撃だが、彼は難なく弾くと撃ってきた方へ視線を向けた。
『こいつは驚いたァ。もう動けるのかァ小僧?』
『やめてもらおうかッ! 《鬼神》ッ!!』
感心した声音で呟くデアに雷光を放った主。──シルバーが声を張り上げて疾走して来た。
(危なかった!! あと少し起きるのが遅かったらギルさんは……! ちっ!!)
受けたダメージから復帰して閃光の如く駆けると、余波で地面を抉りながらデアへ迫っていく。
『ハハッ! やけに復活が早いなァ? オレの属性はもろに受けた筈だが?』
『魔力全般に耐性が付いてんだ!! ラッ!!』
身体中から白き雷を迸らせて、『絶対切断』を掛けた二刀で斬り付ける。
『なるほど! 便利な能力だァ!』
やはりと言うべきかデアの反応は早い。
頭を掴んでいた手を離すと上体を逸らすだけで二刀を躱した。
『何度もくらったら自慢になんねぇよ!!』
しかし、シルバーの狙いは別にある。
掴んでいた頭から手を離し二刀を躱したことで、ギルドレットから引き離せた。
『“神羅へ轟く龍雷”!!』
『オオ!? なんだそれは!』
そこから銀剣に白き雷を集めて魔法を展開。
剣に束ねていた雷が形を生み、白き龍の姿へ。
『これなら────どうだ!!』
鞭のように変化した剣をシルバーは振るう。先端の白雷龍は顎門を開けてデアに飛び掛かりその躰に巻き付き首元に噛み付く。噛み付いた先から激しい白雷が放出されてデアへと流れ込んでいく。
『ハッ! まるで生きた蛇だなァ!?』
『“沼縛り”、“毒水地獄”!!』
さらに土系統の拘束魔法で彼の足下を沼に変えて動きを封じ、その沼を毒系統の沼に変化させる。
『ガハハハハハハッ!! 今度はドク沼かァ!?』
少しずつ沈んでいく脚に毒が満たされていく。
派生属性の『毒』は得意な系統でない為強力な毒魔法は使用できないが、原初魔法の『毒水地獄』は魔力を注げば注ぐほど強力な毒が生成させる。
(使う場所を考えないといけない魔法だが、この場所なら問題ないだろうガイ!? あとでどうなんても責任取らんからな!!)
『沼縛り』はBランク魔法であり、デアであれば容易く逃れることが可能な拘束魔法だが、僅かにでも毒が浸透すれば十分だとシルバーは狙ったのだ。
だが──。
『クククククッ……龍の雷に毒かァ……。オレの弱点でも調べようとしてるのか?』
『───ッ!?』
流れ込んでいくる雷も浸透していく毒の影響を見せることなく、淡々とした動作で巻き付く龍を剥ぎ取り、猛毒の沼からあっさり出ると。
『少しがっかりだ』
この程度の実力しかない者たちに、失望した色を含ませて告げるデア。
同列が相手ということもあり、期待も強かった為、その失望は大きかった。
故にこの時だけは、本気でこの戦いを終わらせようかと、デアは少しだけ考える。
その僅かな終わりへの思考が彼の動きを大きく変えた。
『消えっ!? ──っ』
集中警戒していたシルバーの視界からデアが姿を消した。
再び瞬足走法を使用したのだろう。シルバーは瞬時に判断すると魔眼の視野と走法術で追い付こうとする。
デアと同じようにその場から姿が消える。
瞬間、周囲に突風が巡り回って絡み合い。
その場に嵐が発生して暴れ回っているようだった。
が──。
『どこ見てる? こっちだ』
『──ッ!!』
余裕の表情でシルバーよりも速く、待ち構えるように雷速で移動する彼の前に立つデア。
一体どんな肉体構造をしていれば、生身で雷に追いつけるのか。
内心、意味も分からずそう疑問視する彼の前に立ち──。
『速いだけじゃ矢と大して変わらん』
そして容易くシルバーの背後に回り込んでいた。
それも彼の前に立ちながら、彼の警戒をすり抜けるように。
『!?』
完全にデアを見失ってしまったシルバーは不覚にも硬直してしまう。
そして背後に迫った巨大な気配に背筋を凍らすしかなかったが。
『あの王子が命懸けで足止めしたってのに、そんなもんか? あぁ? 《魔導王》』
『──!!』
その挑発的な声音が、硬直した彼の肉体を沸点まで引き上げた。
『今、なんて言った?』
目つきを鋭くして後ろ向きで睨んだシルバー。
視界に入ったデアはまた能力を使っているのか、構えた手刀に薄い刃の黒いオーラが纏っている。
『悪いが弱い奴に────興味はない』
オーラが触れている空間が歪んで、まるで黒き刃を拒絶するように空間が逸れていた。
『消えろ』
『……』
本当に興味を無くしたような表情で、デアは空間すら拒絶させる異質な手刀の刃を滑らせる。
軽い要領でシルバーの首元にトンと叩くように。
手刀を入れ──。
『────!!』
──た。ように見えたが、デアの手刀が切り裂いたのは、彼の残像のみ。
『ん! 躱すか!!』
首に届く寸前に上体を横へ下げるようにして躱したシルバー。
超光速移動からの横への回避。かなり無理のある動きだったが、デアの手刀は彼の上を通過する。
『どうなってんだ? それは?』
『うっ……!! がああああああああああ!!』
手刀は空を切るだけに終わったが、シルバーの体から先程よりもさらに荒れた白き雷が迸っていた。
その状態から手刀を繰り出したデアの腹部に、電光の如き速さから鋭い肘打ちを入れる。
腹部に衝撃が走り半歩後退するデアだが、それよりも明らかに変化しているシルバーの動きに目を細める。
『今のもどうやった? さっきの躱し方といい、明らかに反射で出せる動作じゃなかったぞ』
なにより、とても安定しているようには見えない。
現に纏っている雷が迸っているのに対し、本人は辛そうに顔を歪めて耐えているようだ。
『っーー!!』
『……そうか、おかしな動きだとは思ったが、その雷で反射神経と運動機能を限界まで弄ったな?』
本来ならあり得ない動きだ。避けられたデアは驚きの顔を見せず、まずそう感じていた。
一体何をしたかと訝しげに見ていたが、すぐに得心した笑みを浮かべると、黒き刃を帯びた手刀に変えた両手を広げて。
『落胆しかけたが、まだ上があるか。────なら……もう少し動けるな?』
『──っっ!!』
さっきまでの戦闘が遊びだった。
そう感じさせるほどの鋭い動きでシルバーの懐に入るデア。
その踏み込みにシルバーは不覚にも恐れを抱いた。
速いとか見えないとかそういう次元ではない。
まるで目の前に巨大な獣が見下ろしているような、強烈なプレッシャーにシルバーは恐怖を感じたのだ。
『ッ────、っああああああああああああ!!』
だが、返ってそれが彼を命を救ったとも言える。
プレッシャーと共にデアから繰り出される手刀の嵐。
それに対応するには恐怖を抱き、警戒最大にしていたほうが都合が良かった。
白き雷を迸らせて身体機能から感覚器官までの、神経機能を限界まで引き上げる。
無理な身体強化で軋み壊れそうになるが、シルバーは強化された肉体を動かしてデアを迎え撃つ。
僅か数秒にも満たない攻防中、繰り出されていくのは数百回以上の剣撃と手刀。
甲高い金属音が鳴り響き彼らの中心で光と闇と激突していく。
『もっと……もっと速く動け!!』
余計な魔法も不要。
白き雷に魔力を集中させ一点突破を狙う。
体が壊れる前にデアの命を狩り取る。
『殺る!! 殺ってやる!!』
『クククッその意気だァ!! 良いぞォ!!』
両手の剣で手刀を落とし、時には躱してデアを斬り裂こうとする。
肉体を無理に操作しているような状態な為、常に筋肉が悲鳴を上げている。無茶が過ぎると内部の肉が裂けて、ところどころで血が噴き出てしまう。
まだ内臓までは損傷しないようだが、時間かければそれも起こり得るのは明らかだった。
『ハハッ!! いいぞ! いいぞ! もっとだッ!』
対してデアも普通なら両断されるシルバーの原初魔法を帯びた剣を叩き、払い落とすと軽い動作で、しかし、異常なほど速く蹴りや手刀で迫り、シルバーの腕や肉を掻き爪の手で削り取ろうする。
『オォ……!!』
『ハハッ!! ハハハハハッ!!』
そうして暫しの閃光のような激闘が続く。
限界を超えて一方的に血塗れになっていくシルバーだが、懸命に食い付いてデアの命を取りに行くが。
『グ……アッ!!』
デアの攻撃を躱し切れず、顎門のような掻き爪を受けて体の肉が削れてしまう。体の各部位が削げて血が噴き出ているが、どうにか掠った程度に済んでいた。
傷が増えていく。ギリギリだった攻防は確実に加速していく。
『はぁはぁ……! はぁはぁ……!』
そして激闘が長引くに連れて、シルバーの疲労も溜まって動きが鈍くなっていった。
打ち出してきた拳を躱して右側から回り込もうとしたが、寸前のところで足下をフラつき────。
『オラァァッ!』
僅かに避けるのが遅れて顔を蹴りを入れられてしまう。
反動で勢いが止まってしまったシルバーを流れるようにデアは、首元のローブを掴んで軽々と投げ飛ばした。
『ぐうっ、まだ……!!』
地面に大きなクレーターを作り転がるシルバー。
すぐさま起き上がろうとしたが、顔めがけて蹴りを入れられそうになり、咄嗟に腕でガードしたところで逆に背中から蹴りを加えられてしまう。
『カァッ!!』
その衝撃で上体が上がったところを、鋭いデアの肘打ちが頭部から落とされた。
『ッ!?』
『ラァアアアアアアアアアアアアアアアア!!』
もろに攻撃を受けたことで崩れ落ちるシルバーへ。デアは追い討ちを掛けて左右の拳を何度も打ち出していく。
何度も。
何度も。
顔、腹部、脇、背中。
手刀や掻き爪は使用せず、拳を握り締めて堪えるシルバーを追い詰め────。
『ガァアアアアア!!』
『ンッ!』
数え切れないほど打撃を浴びていたシルバーだったが、次の瞬間、纏っている魔力を爆発させると、雷の弾丸と化してデアを殴りつけた。
『ぬ! ──く!!』
さらに上空から落雷が命中。
溜め込んでいた白雷の一撃を天から落とした。
『おおおおおおおおっ!! か──っ!』
『ぬう……!!』
その思わぬ反撃連続にデアは動きが止める。
すぐにでも追撃すべき場面だったが、殴り飛ばして距離を置くとそのまま膝をついてしまうシルバー。
改めて見るが、彼の体は既にボロボロの重傷だ。白のローブも赤く染まるほど血が満たされ、銀髪だった髪も顔も血塗れだった。これまでのダメージが蓄積して既に限界を超えていた。
特に頭部へのダメージが大きい。
どうにか押し返したが、まだ脳震盪が続いて足下がおぼつかない状態であった。
『ハハハハ……。楽しいなァ、こんなに楽しいと思ったのは久しぶりだァ』
膝をついて動けなくなったシルバーに対し攻めようとはしない。どうやら気が乗ったのかデアは立ち止まって楽しげに語り出し始めた。
『六王じゃ“幻王”だった。アイツの【滅】はオレの【死】と相性が良くて面白かった。他にもお前らのところにいる“剣聖”に“大賢者”、“巨沈王”のジジイたちだな。昔はまだ弱かったからよく深手を負わされた。ま、最後はしっかり引導をくれてやったがな。あの“巨沈王”がほぼ引退したのもオレと戦ったのが原因だ』
『だったら殺してくれれば良かったがな。あのクソジジイにはオレも困らされてるんだ』
田舎育ちのシルバーでも知っているような異名が次々と並べられている。
呆然と彼の話にシルバーは耳を傾けていたが、その常識外な内容に呆れて思わず口が開いてしまった。
『ハハッ、そうか────やっぱ面白なお前も』
ところが彼の返答が面白かったらしく、デアは心底楽しそうに笑うと、シルバーに対し思わぬ提案を持ちかけた。
『本当に気に入ったぞシルバー・アイズ。あり得ない魔力と異常な種類の魔法もそうだが、その限界に挑戦し続ける姿勢が特に気に入ったァ!』
まるで王のような振る舞いに見える。
そんな彼を注意しながら、少しでも消耗を抑えようと雷の出力を下げるシルバー。
暴走状態に近い分、肉体的にも精神的にも消耗が激しい融合属性の出力アップ。
危険は承知の上での決断であったが、やはり複数融合でもある“帝天”は中でも反動が大きく、数分の出力アップだけでシルバーの体を重傷まで追い詰めていた。
『どうせならこのまま楽しでいたいくらいだが、それは──もう無理みたいだ』
残念そうにして肩をすくめるデア。
胸の奥が疼きを抑えるように胸元を握り締めて、それでも嬉しげな顔を見せていた。
『オレの中の鬼が“さっさと殺せ”と騒いでしょうがないんだ。本当に参るが、どうやら早くお前の命を喰い尽くしたいらしい』
まるで別の誰かのことを言っているように聞こえる。
その言葉は本当かそれとも冗談か。シルバーに判断するほどの余裕もなく、あったとしても分からなかっただろうが。
『だからここからは本気でやってやる』
それが嘘でないことだけは彼にも理解できてしまう。
告げた途端、デアが発している気配が大きく変化しシルバーを、そしてどうにか起き上がっているギルドレットに重く乗し掛かってきた。
あまりにも絶望的な流れであるが、不思議とシルバーの顔に絶望の色はない。
『やっぱり本気じゃなかったか。反則過ぎるだろ……』
しかし、嬉しそうな声音でもなく常識外れなデアに、いよいよ驚くのをやめて諦めているようにも見えたが。
次のデアの言葉を耳にしてその表情は一変する。
『だが、ここまで楽しめた礼だ。最悪お前が死んでもさっきの小娘だけは見逃してやる』
一体何を言っているのか。シルバーが初めに助けた際には空間移動で逃げようしたところを瞬足で止めに入った男が、どういう気まぐれか。
同じ人物のセリフとは思えなかった為シルバーの驚きも大きく、予想外のデアの言葉に目を剥いていた。
これこそ嘘ではないかとつい疑いの眼差しを向けてしまう。
しかし、デアはそんなシルバーの視線など気にした様子もなく、次々とこちらに良い好条件を提示してくる。
『それにお前も《天空王》もそうだ。もしトドメを刺す前に動けなくなったのなら仕方ない。特別に見逃してやる』
『そこまでいくと気前が良過ぎて返って怪し過ぎる。お前はオレたちを殺しに来たんじゃないのか?』
『そもそも戦争そのものにも興味が薄い。もう何年もやっているんだ。いい加減飽きてんだよ。だから偶に出てくるお前らみたいなタイプがいた時だけ、オレも参加して暴れてるのさ』
まさかオレの所為でこの街がこうなってしまったのか。
苦笑混じりに言うデアの言葉に思わずそう感じてしまうシルバーだったが、だからといってもうどうにもならないこともまた事実。
信用できるかどうか分からないが、どちらにせよ。
『本当に守ってくれるのか?』
『オレは嘘は言わん主義だ。ま、わざと手を抜いたら殺すが』
キッパリとそう返すデアを見てシルバーも迷うのやめて選択する。
といっても彼が取れる選択は一つのみ。
勝算など殆ど残されていないが、この絶望的な戦いにケリを付ける為、決心する。
『オレのことは……いい。ただ彼女だけは──どうか頼む』
『そこまで大事なら──それだけのオレの期待に応えろ。言ったろう? ここから本気だってよ』
ニヤリと笑みを浮かべ────否、鬼神の笑みで。
『楽しむのは、もう終わりだ』
“身体強化”──。
だが、デアが放出された派生属性の黒きオーラは、とてもそんなレベルではなかった。
少し前に異常なほど跳ね上がった殺気が、また何段も飛ばして周囲を呑み込む。シルバーは見えていなかったが、真の鬼神の形相へ変貌を遂げた瞬間。
放たれた殺気を浴びる前に周囲で見ていた精霊たちが一斉に逃げ出していた。
僅かに残っていた鳥や動物もどこからともなく駆け抜ける殺気に恐怖して、慌てたように四方へ逃げ回っていく。
そしてその殺気をダイレクトに浴びるシルバーは、傷口が刺激されているのを感じながら、怯むことなく前を向き睨み返していた。
『くたばる前に、倒すだけだ』
『倒せると? お前程度でオレを?』
『やるしかないだろう。最強を超えてオレたちは帰る』
やるしかない。
やらなければ確実に死ぬのはこちらであり、彼女にもその死が降り注いでしまう。
心の中で噛み締めると治ってきた脳の揺れから立ち上がってシルバーは──。
『“魔力解放”』
一息を吐くと両手の剣に纏わせた魔法を解除。
デアの皮膚が斬れない以上、纏わせてもしょうがない。
『っ!』
一気に魔力を制御可能な限界値まで引き上げる。
両手の剣にギリギリまで注ぎ、二つの超絶滅魔法を展開させる。
『──散らし迸れ“帝天王の罰雷”!! ──終焉を呼べ寄せ“竜蒼の息吹”!!』
片方の銀剣には先程と同じ白き雷を。
銀剣と融合し合い白銀の大剣へと変貌した。
もう片方のクリスタルの魔法剣には“青き蒼炎を”。
水色のクリスタルと融合すると原型を変えて“蒼炎の剣へ”。
魔力を凝縮された高密度の二本の剣を構えて、重傷のシルバーは立つ。
『ほう、まぁまぁだ』
その様に拍手でも送ろうしたデアだが、作り出された二刀と共に鋭い殺気を放つ彼を見て、冗談もここまでにする。
『……』
『……』
互いに意識を相手のみに注ぎ切る。
纏っている魔力のオーラが次第に形を変えて、まるで獣のような風貌が姿を見せ合い。
互いの中にある何かが雄叫びを上げた。
『アアアアアアアアアアアアアアアアァァァ!!!!』
『カァァアアアアアアアアアアアアアァァァ!!!!』
そしてシルバーは大地を蹴る。
この世で最も危険な男に────。
“最凶の鬼”に最後の戦いを仕掛けた。
あと数ミリも圧迫されれば、潰れてしまう。
(がァァァァ!? クソ動けねぇ!? いったいどう─────っむ!?)
飛びかけた状態の意識の中、ギルドレットはそう直感した。
魔眼の視界でデアを飲み込むように、巨大な雷光が爆発するのを見るまでは。
『ラァアアアアアアアア!!』
『おお!?』
咄嗟に抑えている腕とは反対の腕でガードするデア。
次の瞬間、ガードに使った腕に激しい痺れと衝撃が走る。普通なら痺れ程度で済む筈もなく、衝撃と共に全身が高エネルギーの雷で打ちのめされて、最悪死んでもおかしくない一撃だが、彼は難なく弾くと撃ってきた方へ視線を向けた。
『こいつは驚いたァ。もう動けるのかァ小僧?』
『やめてもらおうかッ! 《鬼神》ッ!!』
感心した声音で呟くデアに雷光を放った主。──シルバーが声を張り上げて疾走して来た。
(危なかった!! あと少し起きるのが遅かったらギルさんは……! ちっ!!)
受けたダメージから復帰して閃光の如く駆けると、余波で地面を抉りながらデアへ迫っていく。
『ハハッ! やけに復活が早いなァ? オレの属性はもろに受けた筈だが?』
『魔力全般に耐性が付いてんだ!! ラッ!!』
身体中から白き雷を迸らせて、『絶対切断』を掛けた二刀で斬り付ける。
『なるほど! 便利な能力だァ!』
やはりと言うべきかデアの反応は早い。
頭を掴んでいた手を離すと上体を逸らすだけで二刀を躱した。
『何度もくらったら自慢になんねぇよ!!』
しかし、シルバーの狙いは別にある。
掴んでいた頭から手を離し二刀を躱したことで、ギルドレットから引き離せた。
『“神羅へ轟く龍雷”!!』
『オオ!? なんだそれは!』
そこから銀剣に白き雷を集めて魔法を展開。
剣に束ねていた雷が形を生み、白き龍の姿へ。
『これなら────どうだ!!』
鞭のように変化した剣をシルバーは振るう。先端の白雷龍は顎門を開けてデアに飛び掛かりその躰に巻き付き首元に噛み付く。噛み付いた先から激しい白雷が放出されてデアへと流れ込んでいく。
『ハッ! まるで生きた蛇だなァ!?』
『“沼縛り”、“毒水地獄”!!』
さらに土系統の拘束魔法で彼の足下を沼に変えて動きを封じ、その沼を毒系統の沼に変化させる。
『ガハハハハハハッ!! 今度はドク沼かァ!?』
少しずつ沈んでいく脚に毒が満たされていく。
派生属性の『毒』は得意な系統でない為強力な毒魔法は使用できないが、原初魔法の『毒水地獄』は魔力を注げば注ぐほど強力な毒が生成させる。
(使う場所を考えないといけない魔法だが、この場所なら問題ないだろうガイ!? あとでどうなんても責任取らんからな!!)
『沼縛り』はBランク魔法であり、デアであれば容易く逃れることが可能な拘束魔法だが、僅かにでも毒が浸透すれば十分だとシルバーは狙ったのだ。
だが──。
『クククククッ……龍の雷に毒かァ……。オレの弱点でも調べようとしてるのか?』
『───ッ!?』
流れ込んでいくる雷も浸透していく毒の影響を見せることなく、淡々とした動作で巻き付く龍を剥ぎ取り、猛毒の沼からあっさり出ると。
『少しがっかりだ』
この程度の実力しかない者たちに、失望した色を含ませて告げるデア。
同列が相手ということもあり、期待も強かった為、その失望は大きかった。
故にこの時だけは、本気でこの戦いを終わらせようかと、デアは少しだけ考える。
その僅かな終わりへの思考が彼の動きを大きく変えた。
『消えっ!? ──っ』
集中警戒していたシルバーの視界からデアが姿を消した。
再び瞬足走法を使用したのだろう。シルバーは瞬時に判断すると魔眼の視野と走法術で追い付こうとする。
デアと同じようにその場から姿が消える。
瞬間、周囲に突風が巡り回って絡み合い。
その場に嵐が発生して暴れ回っているようだった。
が──。
『どこ見てる? こっちだ』
『──ッ!!』
余裕の表情でシルバーよりも速く、待ち構えるように雷速で移動する彼の前に立つデア。
一体どんな肉体構造をしていれば、生身で雷に追いつけるのか。
内心、意味も分からずそう疑問視する彼の前に立ち──。
『速いだけじゃ矢と大して変わらん』
そして容易くシルバーの背後に回り込んでいた。
それも彼の前に立ちながら、彼の警戒をすり抜けるように。
『!?』
完全にデアを見失ってしまったシルバーは不覚にも硬直してしまう。
そして背後に迫った巨大な気配に背筋を凍らすしかなかったが。
『あの王子が命懸けで足止めしたってのに、そんなもんか? あぁ? 《魔導王》』
『──!!』
その挑発的な声音が、硬直した彼の肉体を沸点まで引き上げた。
『今、なんて言った?』
目つきを鋭くして後ろ向きで睨んだシルバー。
視界に入ったデアはまた能力を使っているのか、構えた手刀に薄い刃の黒いオーラが纏っている。
『悪いが弱い奴に────興味はない』
オーラが触れている空間が歪んで、まるで黒き刃を拒絶するように空間が逸れていた。
『消えろ』
『……』
本当に興味を無くしたような表情で、デアは空間すら拒絶させる異質な手刀の刃を滑らせる。
軽い要領でシルバーの首元にトンと叩くように。
手刀を入れ──。
『────!!』
──た。ように見えたが、デアの手刀が切り裂いたのは、彼の残像のみ。
『ん! 躱すか!!』
首に届く寸前に上体を横へ下げるようにして躱したシルバー。
超光速移動からの横への回避。かなり無理のある動きだったが、デアの手刀は彼の上を通過する。
『どうなってんだ? それは?』
『うっ……!! がああああああああああ!!』
手刀は空を切るだけに終わったが、シルバーの体から先程よりもさらに荒れた白き雷が迸っていた。
その状態から手刀を繰り出したデアの腹部に、電光の如き速さから鋭い肘打ちを入れる。
腹部に衝撃が走り半歩後退するデアだが、それよりも明らかに変化しているシルバーの動きに目を細める。
『今のもどうやった? さっきの躱し方といい、明らかに反射で出せる動作じゃなかったぞ』
なにより、とても安定しているようには見えない。
現に纏っている雷が迸っているのに対し、本人は辛そうに顔を歪めて耐えているようだ。
『っーー!!』
『……そうか、おかしな動きだとは思ったが、その雷で反射神経と運動機能を限界まで弄ったな?』
本来ならあり得ない動きだ。避けられたデアは驚きの顔を見せず、まずそう感じていた。
一体何をしたかと訝しげに見ていたが、すぐに得心した笑みを浮かべると、黒き刃を帯びた手刀に変えた両手を広げて。
『落胆しかけたが、まだ上があるか。────なら……もう少し動けるな?』
『──っっ!!』
さっきまでの戦闘が遊びだった。
そう感じさせるほどの鋭い動きでシルバーの懐に入るデア。
その踏み込みにシルバーは不覚にも恐れを抱いた。
速いとか見えないとかそういう次元ではない。
まるで目の前に巨大な獣が見下ろしているような、強烈なプレッシャーにシルバーは恐怖を感じたのだ。
『ッ────、っああああああああああああ!!』
だが、返ってそれが彼を命を救ったとも言える。
プレッシャーと共にデアから繰り出される手刀の嵐。
それに対応するには恐怖を抱き、警戒最大にしていたほうが都合が良かった。
白き雷を迸らせて身体機能から感覚器官までの、神経機能を限界まで引き上げる。
無理な身体強化で軋み壊れそうになるが、シルバーは強化された肉体を動かしてデアを迎え撃つ。
僅か数秒にも満たない攻防中、繰り出されていくのは数百回以上の剣撃と手刀。
甲高い金属音が鳴り響き彼らの中心で光と闇と激突していく。
『もっと……もっと速く動け!!』
余計な魔法も不要。
白き雷に魔力を集中させ一点突破を狙う。
体が壊れる前にデアの命を狩り取る。
『殺る!! 殺ってやる!!』
『クククッその意気だァ!! 良いぞォ!!』
両手の剣で手刀を落とし、時には躱してデアを斬り裂こうとする。
肉体を無理に操作しているような状態な為、常に筋肉が悲鳴を上げている。無茶が過ぎると内部の肉が裂けて、ところどころで血が噴き出てしまう。
まだ内臓までは損傷しないようだが、時間かければそれも起こり得るのは明らかだった。
『ハハッ!! いいぞ! いいぞ! もっとだッ!』
対してデアも普通なら両断されるシルバーの原初魔法を帯びた剣を叩き、払い落とすと軽い動作で、しかし、異常なほど速く蹴りや手刀で迫り、シルバーの腕や肉を掻き爪の手で削り取ろうする。
『オォ……!!』
『ハハッ!! ハハハハハッ!!』
そうして暫しの閃光のような激闘が続く。
限界を超えて一方的に血塗れになっていくシルバーだが、懸命に食い付いてデアの命を取りに行くが。
『グ……アッ!!』
デアの攻撃を躱し切れず、顎門のような掻き爪を受けて体の肉が削れてしまう。体の各部位が削げて血が噴き出ているが、どうにか掠った程度に済んでいた。
傷が増えていく。ギリギリだった攻防は確実に加速していく。
『はぁはぁ……! はぁはぁ……!』
そして激闘が長引くに連れて、シルバーの疲労も溜まって動きが鈍くなっていった。
打ち出してきた拳を躱して右側から回り込もうとしたが、寸前のところで足下をフラつき────。
『オラァァッ!』
僅かに避けるのが遅れて顔を蹴りを入れられてしまう。
反動で勢いが止まってしまったシルバーを流れるようにデアは、首元のローブを掴んで軽々と投げ飛ばした。
『ぐうっ、まだ……!!』
地面に大きなクレーターを作り転がるシルバー。
すぐさま起き上がろうとしたが、顔めがけて蹴りを入れられそうになり、咄嗟に腕でガードしたところで逆に背中から蹴りを加えられてしまう。
『カァッ!!』
その衝撃で上体が上がったところを、鋭いデアの肘打ちが頭部から落とされた。
『ッ!?』
『ラァアアアアアアアアアアアアアアアア!!』
もろに攻撃を受けたことで崩れ落ちるシルバーへ。デアは追い討ちを掛けて左右の拳を何度も打ち出していく。
何度も。
何度も。
顔、腹部、脇、背中。
手刀や掻き爪は使用せず、拳を握り締めて堪えるシルバーを追い詰め────。
『ガァアアアアア!!』
『ンッ!』
数え切れないほど打撃を浴びていたシルバーだったが、次の瞬間、纏っている魔力を爆発させると、雷の弾丸と化してデアを殴りつけた。
『ぬ! ──く!!』
さらに上空から落雷が命中。
溜め込んでいた白雷の一撃を天から落とした。
『おおおおおおおおっ!! か──っ!』
『ぬう……!!』
その思わぬ反撃連続にデアは動きが止める。
すぐにでも追撃すべき場面だったが、殴り飛ばして距離を置くとそのまま膝をついてしまうシルバー。
改めて見るが、彼の体は既にボロボロの重傷だ。白のローブも赤く染まるほど血が満たされ、銀髪だった髪も顔も血塗れだった。これまでのダメージが蓄積して既に限界を超えていた。
特に頭部へのダメージが大きい。
どうにか押し返したが、まだ脳震盪が続いて足下がおぼつかない状態であった。
『ハハハハ……。楽しいなァ、こんなに楽しいと思ったのは久しぶりだァ』
膝をついて動けなくなったシルバーに対し攻めようとはしない。どうやら気が乗ったのかデアは立ち止まって楽しげに語り出し始めた。
『六王じゃ“幻王”だった。アイツの【滅】はオレの【死】と相性が良くて面白かった。他にもお前らのところにいる“剣聖”に“大賢者”、“巨沈王”のジジイたちだな。昔はまだ弱かったからよく深手を負わされた。ま、最後はしっかり引導をくれてやったがな。あの“巨沈王”がほぼ引退したのもオレと戦ったのが原因だ』
『だったら殺してくれれば良かったがな。あのクソジジイにはオレも困らされてるんだ』
田舎育ちのシルバーでも知っているような異名が次々と並べられている。
呆然と彼の話にシルバーは耳を傾けていたが、その常識外な内容に呆れて思わず口が開いてしまった。
『ハハッ、そうか────やっぱ面白なお前も』
ところが彼の返答が面白かったらしく、デアは心底楽しそうに笑うと、シルバーに対し思わぬ提案を持ちかけた。
『本当に気に入ったぞシルバー・アイズ。あり得ない魔力と異常な種類の魔法もそうだが、その限界に挑戦し続ける姿勢が特に気に入ったァ!』
まるで王のような振る舞いに見える。
そんな彼を注意しながら、少しでも消耗を抑えようと雷の出力を下げるシルバー。
暴走状態に近い分、肉体的にも精神的にも消耗が激しい融合属性の出力アップ。
危険は承知の上での決断であったが、やはり複数融合でもある“帝天”は中でも反動が大きく、数分の出力アップだけでシルバーの体を重傷まで追い詰めていた。
『どうせならこのまま楽しでいたいくらいだが、それは──もう無理みたいだ』
残念そうにして肩をすくめるデア。
胸の奥が疼きを抑えるように胸元を握り締めて、それでも嬉しげな顔を見せていた。
『オレの中の鬼が“さっさと殺せ”と騒いでしょうがないんだ。本当に参るが、どうやら早くお前の命を喰い尽くしたいらしい』
まるで別の誰かのことを言っているように聞こえる。
その言葉は本当かそれとも冗談か。シルバーに判断するほどの余裕もなく、あったとしても分からなかっただろうが。
『だからここからは本気でやってやる』
それが嘘でないことだけは彼にも理解できてしまう。
告げた途端、デアが発している気配が大きく変化しシルバーを、そしてどうにか起き上がっているギルドレットに重く乗し掛かってきた。
あまりにも絶望的な流れであるが、不思議とシルバーの顔に絶望の色はない。
『やっぱり本気じゃなかったか。反則過ぎるだろ……』
しかし、嬉しそうな声音でもなく常識外れなデアに、いよいよ驚くのをやめて諦めているようにも見えたが。
次のデアの言葉を耳にしてその表情は一変する。
『だが、ここまで楽しめた礼だ。最悪お前が死んでもさっきの小娘だけは見逃してやる』
一体何を言っているのか。シルバーが初めに助けた際には空間移動で逃げようしたところを瞬足で止めに入った男が、どういう気まぐれか。
同じ人物のセリフとは思えなかった為シルバーの驚きも大きく、予想外のデアの言葉に目を剥いていた。
これこそ嘘ではないかとつい疑いの眼差しを向けてしまう。
しかし、デアはそんなシルバーの視線など気にした様子もなく、次々とこちらに良い好条件を提示してくる。
『それにお前も《天空王》もそうだ。もしトドメを刺す前に動けなくなったのなら仕方ない。特別に見逃してやる』
『そこまでいくと気前が良過ぎて返って怪し過ぎる。お前はオレたちを殺しに来たんじゃないのか?』
『そもそも戦争そのものにも興味が薄い。もう何年もやっているんだ。いい加減飽きてんだよ。だから偶に出てくるお前らみたいなタイプがいた時だけ、オレも参加して暴れてるのさ』
まさかオレの所為でこの街がこうなってしまったのか。
苦笑混じりに言うデアの言葉に思わずそう感じてしまうシルバーだったが、だからといってもうどうにもならないこともまた事実。
信用できるかどうか分からないが、どちらにせよ。
『本当に守ってくれるのか?』
『オレは嘘は言わん主義だ。ま、わざと手を抜いたら殺すが』
キッパリとそう返すデアを見てシルバーも迷うのやめて選択する。
といっても彼が取れる選択は一つのみ。
勝算など殆ど残されていないが、この絶望的な戦いにケリを付ける為、決心する。
『オレのことは……いい。ただ彼女だけは──どうか頼む』
『そこまで大事なら──それだけのオレの期待に応えろ。言ったろう? ここから本気だってよ』
ニヤリと笑みを浮かべ────否、鬼神の笑みで。
『楽しむのは、もう終わりだ』
“身体強化”──。
だが、デアが放出された派生属性の黒きオーラは、とてもそんなレベルではなかった。
少し前に異常なほど跳ね上がった殺気が、また何段も飛ばして周囲を呑み込む。シルバーは見えていなかったが、真の鬼神の形相へ変貌を遂げた瞬間。
放たれた殺気を浴びる前に周囲で見ていた精霊たちが一斉に逃げ出していた。
僅かに残っていた鳥や動物もどこからともなく駆け抜ける殺気に恐怖して、慌てたように四方へ逃げ回っていく。
そしてその殺気をダイレクトに浴びるシルバーは、傷口が刺激されているのを感じながら、怯むことなく前を向き睨み返していた。
『くたばる前に、倒すだけだ』
『倒せると? お前程度でオレを?』
『やるしかないだろう。最強を超えてオレたちは帰る』
やるしかない。
やらなければ確実に死ぬのはこちらであり、彼女にもその死が降り注いでしまう。
心の中で噛み締めると治ってきた脳の揺れから立ち上がってシルバーは──。
『“魔力解放”』
一息を吐くと両手の剣に纏わせた魔法を解除。
デアの皮膚が斬れない以上、纏わせてもしょうがない。
『っ!』
一気に魔力を制御可能な限界値まで引き上げる。
両手の剣にギリギリまで注ぎ、二つの超絶滅魔法を展開させる。
『──散らし迸れ“帝天王の罰雷”!! ──終焉を呼べ寄せ“竜蒼の息吹”!!』
片方の銀剣には先程と同じ白き雷を。
銀剣と融合し合い白銀の大剣へと変貌した。
もう片方のクリスタルの魔法剣には“青き蒼炎を”。
水色のクリスタルと融合すると原型を変えて“蒼炎の剣へ”。
魔力を凝縮された高密度の二本の剣を構えて、重傷のシルバーは立つ。
『ほう、まぁまぁだ』
その様に拍手でも送ろうしたデアだが、作り出された二刀と共に鋭い殺気を放つ彼を見て、冗談もここまでにする。
『……』
『……』
互いに意識を相手のみに注ぎ切る。
纏っている魔力のオーラが次第に形を変えて、まるで獣のような風貌が姿を見せ合い。
互いの中にある何かが雄叫びを上げた。
『アアアアアアアアアアアアアアアアァァァ!!!!』
『カァァアアアアアアアアアアアアアァァァ!!!!』
そしてシルバーは大地を蹴る。
この世で最も危険な男に────。
“最凶の鬼”に最後の戦いを仕掛けた。
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