オリジナルマスター
おまけ編 過去の記憶と最凶の鬼神 上。
聖国の北西部にある街『トラキサム』。
そこはかつて帝国と外交的なコンタクトが行われ、双方の物資など資源の輸入輸出の際の帝国と繋ぐ拠点地でもあった。
そう、かつては。
それは休戦状態であった頃の話である。
戦争が再開されて以降は、『トラキサム』は聖国の兵士たちの拠点場所へと変わり、帝国軍との小競り合いに何度も巻き込まれ被害を受けている。
街に住む者は当然だが、街が戦地に変わることに反対する者ばかり、国からの支援などない中、街を出て行く者も続出していった。
だが、それでも街に愛着を抱き残っていく者も現れて、兵士たちのサポートに回った者も少なからずいたのだ。
それからしばらくは均衡状態なって落ち着きはしていた。
絶望を呼び寄せる────“最凶の鬼”がやって来るまでは。
◇◇◇
そこで戦っているのは三人だけであった。
一人はボロボロのローブで血塗れの銀髪をした少年。
刃先から持ち手まで銀一色の剣と、クリスタルの魔法剣を両手に握り締めて、疲れからかダラっとした脱力した体勢であるが、殺気を膨れ上がれせて、いつでも飛び掛かれる状態であった。
二人目は片翼だけの金の翼で、腹部を抑えながら膝を付いた茶髪の男。
白い盾をつけた手で血が出ている腹部を抑えつつ、剣を杖にして立ち上がろうとしているが、腹部の傷が深く口から血を吹き出して、なかなか立てずにいる。
そして最後は二人と対峙するように立つ大柄の男。
獣のような風貌して、頰には古傷も持った黒とグレーの髪をした傭兵風の格好をしている。
見たところ大した怪我もなく、多少服が傷付いている程度で、疲れて切っている二人と逆にまだまだ暴れ足りなさそうにして、獰猛な笑みが浮かべていた。
“最強の魔法使い”シルバー・アイズ。
“大空を支配する”ギルドレット・ワーカス。
“最悪最凶の鬼神”デア・イグス。
世界でたった四人しかない超越者と呼ばれた三人の冒険者。
既に崩壊して生存者は僅かな『トラキサム』の中心で、三人の超越者は激突していた。
◇◇◇
『シ、シルバー……』
『アティシアは下がってろっ! はぁ……はぁ……!』
背後に聞こえる彼女の声に背を向けたまま叫ぶ。
今の彼には、もう彼女に向ける余裕すら残っていない。
(クソ! 血を流し過ぎた……! なんとか彼女だけは逃したいのに、体が重過ぎて思うように動かないっ!)
決して近付くなと背中越しで言い放つが、もし可能であれば一人で逃げてほしかった。
(どうしたらいい? どうすれば切り抜けれる!?)
活路が見出せない絶望的な戦いの中。
ジーク────、シルバーは最悪の敵でもある《鬼神》デア・イグスと対峙していた。
一時は《鬼神》の攻撃を避けて、人質となっていたアティシアを助けることに成功したが、デアを前に彼女だけを逃すことは、もはや困難であった。
『っ……ライン』
その際の犠牲もまた、余りにも大きかった。
視界の端で血塗れで倒れている男性に、一瞬だけ意識を向けて悔しげに歯切りをする。
『お前だけは……! 絶対倒すッ!!』
『っ……ジークっ!?』
両手の剣を構えて立ち塞がるデアに飛び掛かる。
白き雷を纏わせ光速を超えて駆けると、二刀で斬り掛かり五体を切り離そうとする。
『ガハハハハハハハッ! また来るカァ! 良いぞォ! もっと来いッ!』
が、デア・イグスの超人を遥かに超えた動体視力と反射神経は、光速で放たれるシルバーの剣技を容易く見切る。
『遅い遅い遅い遅い遅いッッ! 遅過ぎるわァ!!』
身体強化など一切使用せず、間合いに入ったシルバーを捉えて、繰り出される刃を反らすように体を動かすことで躱す。
『っ!?  ッまだ!』
『あぁ? それがどうしたァ!?』
切り返して三十以上の白き剣閃を左右、斜めから突きまで剣撃で打つけるが……。
───────ガキッ!!
『────そんな!?』
すべて見切っていたデアは余裕の動作で避けて、さらには腕や脚、掌底で受け止めてみせる。
『ちゃんと刃が付いてるのか? 全然切れてないぞ?』
『化け物がッ……!』
彼の強靭的な皮膚の強度は、六王の強度さえも凌ぐ。
そして能力か着ている服も頑丈になり、ボロボロにならず服として保っていた。
『フン、“死滅の鐘”』
『ッ』
剣撃を打ち終えたシルバーを見届けて、デアはお返しにと黒きオーラを纏った拳で、真下にある大気を打ち鳴らす。
(死属性……!)
すると“ゴーン!!”と大鐘が鳴るような音して、黒きオーラが爆散。
爆散したオーラと共に音がシルバーに届くと、彼は耳を塞いで体全体を震わせて膝をついた。
『っ、ああああああああああああっ!?』
『シ、シルバーっ!! ッオオオオオオォーー!!』
そして苦しむシルバーを見て、倒れていたギルドレットも激痛の中で飛び掛かる。片翼を潰され腹を抉られて明らかに重傷だが、口から血を吐きながらも愛用の剣と盾を構えた。
一部のみ『天の羽衣』と“一体化”して腕や足が金色になり、目元も変わっているが、剣の扱いやすい、ちょうどいい形態になっていた。
『こっからはオレが相手だ怪物!!』
西洋剣の『天の栄光を刻む剣』の刃を滑らせてデアとシルバーの間に入る。
『ほぉ、もう動いて大丈夫なのカァ? ちょっと穴開けただけで、随分苦しんでいたようだがァ?』
『はは……、どうせなら休みたい──さっ!!』
軽口を挟みつつ西洋剣を振って、シルバーから離れさせる。
ギルドレットの剣もまた、デアの強靭な皮膚を切り裂くことはできないが、身体強化も加えて勢いある剣撃でデアを押し出す。
『ハハ、良い剣技だァ! 《剣聖》のジジィを思い出すぜェッ!』
『ハッ!! そいつは光栄だッ! オラっ!!』
後方でシルバーが倒れるのが見えたが、それも一瞬のみ。
四つの視点を持つ魔眼をフルに活かして、完全に標的をこちらへ移したデアと全神経を注ぐ。
(いける! このまま押して行けば……!!)
獣のような両手と西洋剣がぶつかり合う度に、激しい金属音が鳴り響く。
ギルドレット自身、まるで鋼か何か硬い物の相手をしている心境で、必死に押し返されないように食らいつく。
『お前さえ倒せれば、後でゆっくり休めるさッ!!』
『そうか、なら────“死滅の鐘”』
『何!? ───ぐぉっ!!』
繰り出されるのは、シルバーも受けたデアの攻撃。衝撃波が彼の肉体を内部から破壊しようとする。普通の人間なら数秒も保たず、身体中の有りとあらゆる内臓器官が破壊され尽くされる程の一撃だが……。
(ッ……ま、負け、るかァァァァァ!!)
破壊の衝撃をギルドレットは『天空の護り盾』で抑え切る。かなりの無茶な行為であるが、そのまま盾を籠手にして踏み込んで行く。
途端、“一体化”した『天の羽衣』の力も移り、装飾も変化して白き盾が金の盾へ。
『《鬼神》ーーっ!!』
『アレを耐えたか……』
溜め込まれた風圧を拳から爆発させて、不動のデアに打ち込んだ。
『遠慮するな。オレが直接休ませてやるから、もう楽になってもいいぞォ?』
『ハァアアアアアアア!!』
魔氣術────“六花天鳳”
解放された風圧が変化。金色の鳥となってデアへ放たれた。
片翼なって威力は落ちているが、間違いなく対象の肉体を破壊してしまうだけの威力はある一撃だったが。
『ハァ』
それに対してデアが取った手は…………。打ち込みながらどうするか見ていたギルドレットも驚愕した。
『この程度の力しか出せないのに、無理してよォ……』
『……あり得ないだろ、そりゃ?』
大した強化や防御魔法ではない。
ただ、手を伸ばして片手だけで掴み止めたのだ。
『相性の問題もあるだろうが、もうさっきの段階で力の差は分かっていると思ったけどなァ?』
『ク、頑丈過ぎるだろ!? このバケモノが!!』
『どうせなら“鬼”と呼んでくれ。結構気に入ってんだァ』
掴み止めた瞬間、足下の大地が抉れて大きな地割れが起こり、間違いなく強い衝撃がデアの腕に掛かった筈だった。
(少しも動かねぇ!? なんだコイツのこのチカラは!? 腕力どころの話じゃねぇぞ!?)
不動のデアはまったく微動だにしない。
一切グラつく気配もなく、逆に踏み込んでみせる。
『圧倒的な差をお前はどう埋める?』
『ハァアアアアアアアアア!!』
咄嗟に剣を水平に振るったギルドレットだが、払うようにデアに叩き落とされる。
拳を掴み取られた手で引き寄せられると、掌底を穴が空いた腹に叩き込まれた。
『だから言っただろう? この程度だ・と・よォ!?』
『──がほッ!?』
掌底に纏わせていたのか、黒きオーラがギルドレットの体を突き抜ける。
すると叩き込まれた腹部からさらに血が溢れ出し、口からも血を吹き出してしまう。
『反応が鈍し過ぎる。もうその肉体は重傷じゃないか』
『ガハッ!?』
痛みの影響で『天の羽衣』での衝撃の跳ね返しもできない状態。
腹部に重い一撃を受けて、前のめりに倒れそうになったところを、追撃の蹴りをまともに受けてしまい、後方へ吹き飛ばされる。
だが。
『まぁ待ちィ。そうポンポンと飛んでいくなァ』
『──!!』
軽い跳躍で追い付いたデアに、足首を掴まれて拘束される。
片翼を振るわせて逃れようとするが、強い力で逆に引き寄せられる。
『ス────』
そして頭を両手で挟むように抑えられると、戸惑う自分を無視してデアは深く息を吸い込み出した。
『なにを……? ────ッ!?』
何をしているか、初めは分からなかったギルドレットだが、異常なほど膨らんでいく胸元と魔眼で捉えた内部を見たことで絶句。
『は、離っ──』
気付き慌てて拘束を逃れようとするが、強靭な肉体を持つデアの体は彼の翼刃も剣も通さず弾いてしまい、拳も当然ことだが通らない。
────そして。
『オオオオオオオオオオォオオオオオオォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォ!!!!』
『っっ!?』
溜め込んだ息をデアは雄叫びに変えて爆発させる。
“死滅の咆哮”。
六王が得意とする咆哮の技法。デアはそれを異常な肺活量と喉の力だけで再現。
派生属性を取り込んだ黒き咆哮を、拘束され抜け出せないギルドレットの頭に直接叩き込んだ。
『────ガ、グ……!』
『よく生き延びたな』
感心したように声音で笑うデアの視線の先で、金鳥の姿となったギルドレットが吊るされていた。
“死滅の咆哮”を頭から受ける瞬間、ギルドレットは体全体を“一体化”させて金鳥獣の姿へとなって受け切ったのだ。
デアの咆哮が体を突き抜ける前に、変化したことで『天の羽衣』の魔除けの羽根で派生属性のみは、多少防ぐことができた。咆哮そのものも防御全開で少々は逸らすことができたようだが。
『やるじゃないか。普通ならショック死だぜェ?』
『は……』
しかし、至近距離からの一撃は重過ぎた。
頼みの“一体化”が解けて今にも意識が飛びそうな中、デアが頭を片手で掴み直していたが反応できない。
そして、引きずられるように地面へ叩きつけられる。
『そのまま潰しやるよォォォ!! 《天空王》ォォォ!!』
『がっ、く、くぞ……!!』
苦悶の声を漏らすギルドレットだが、異常な握力と押し潰される力に抵抗ができない。
『ガハハハハハハッッ! ハハハ、ハハハハハハハハッッ!!』
徐々に地面にめり込み出す頭蓋骨が軋み出して、あっという間に割れてしまいそうだった。
そこはかつて帝国と外交的なコンタクトが行われ、双方の物資など資源の輸入輸出の際の帝国と繋ぐ拠点地でもあった。
そう、かつては。
それは休戦状態であった頃の話である。
戦争が再開されて以降は、『トラキサム』は聖国の兵士たちの拠点場所へと変わり、帝国軍との小競り合いに何度も巻き込まれ被害を受けている。
街に住む者は当然だが、街が戦地に変わることに反対する者ばかり、国からの支援などない中、街を出て行く者も続出していった。
だが、それでも街に愛着を抱き残っていく者も現れて、兵士たちのサポートに回った者も少なからずいたのだ。
それからしばらくは均衡状態なって落ち着きはしていた。
絶望を呼び寄せる────“最凶の鬼”がやって来るまでは。
◇◇◇
そこで戦っているのは三人だけであった。
一人はボロボロのローブで血塗れの銀髪をした少年。
刃先から持ち手まで銀一色の剣と、クリスタルの魔法剣を両手に握り締めて、疲れからかダラっとした脱力した体勢であるが、殺気を膨れ上がれせて、いつでも飛び掛かれる状態であった。
二人目は片翼だけの金の翼で、腹部を抑えながら膝を付いた茶髪の男。
白い盾をつけた手で血が出ている腹部を抑えつつ、剣を杖にして立ち上がろうとしているが、腹部の傷が深く口から血を吹き出して、なかなか立てずにいる。
そして最後は二人と対峙するように立つ大柄の男。
獣のような風貌して、頰には古傷も持った黒とグレーの髪をした傭兵風の格好をしている。
見たところ大した怪我もなく、多少服が傷付いている程度で、疲れて切っている二人と逆にまだまだ暴れ足りなさそうにして、獰猛な笑みが浮かべていた。
“最強の魔法使い”シルバー・アイズ。
“大空を支配する”ギルドレット・ワーカス。
“最悪最凶の鬼神”デア・イグス。
世界でたった四人しかない超越者と呼ばれた三人の冒険者。
既に崩壊して生存者は僅かな『トラキサム』の中心で、三人の超越者は激突していた。
◇◇◇
『シ、シルバー……』
『アティシアは下がってろっ! はぁ……はぁ……!』
背後に聞こえる彼女の声に背を向けたまま叫ぶ。
今の彼には、もう彼女に向ける余裕すら残っていない。
(クソ! 血を流し過ぎた……! なんとか彼女だけは逃したいのに、体が重過ぎて思うように動かないっ!)
決して近付くなと背中越しで言い放つが、もし可能であれば一人で逃げてほしかった。
(どうしたらいい? どうすれば切り抜けれる!?)
活路が見出せない絶望的な戦いの中。
ジーク────、シルバーは最悪の敵でもある《鬼神》デア・イグスと対峙していた。
一時は《鬼神》の攻撃を避けて、人質となっていたアティシアを助けることに成功したが、デアを前に彼女だけを逃すことは、もはや困難であった。
『っ……ライン』
その際の犠牲もまた、余りにも大きかった。
視界の端で血塗れで倒れている男性に、一瞬だけ意識を向けて悔しげに歯切りをする。
『お前だけは……! 絶対倒すッ!!』
『っ……ジークっ!?』
両手の剣を構えて立ち塞がるデアに飛び掛かる。
白き雷を纏わせ光速を超えて駆けると、二刀で斬り掛かり五体を切り離そうとする。
『ガハハハハハハハッ! また来るカァ! 良いぞォ! もっと来いッ!』
が、デア・イグスの超人を遥かに超えた動体視力と反射神経は、光速で放たれるシルバーの剣技を容易く見切る。
『遅い遅い遅い遅い遅いッッ! 遅過ぎるわァ!!』
身体強化など一切使用せず、間合いに入ったシルバーを捉えて、繰り出される刃を反らすように体を動かすことで躱す。
『っ!?  ッまだ!』
『あぁ? それがどうしたァ!?』
切り返して三十以上の白き剣閃を左右、斜めから突きまで剣撃で打つけるが……。
───────ガキッ!!
『────そんな!?』
すべて見切っていたデアは余裕の動作で避けて、さらには腕や脚、掌底で受け止めてみせる。
『ちゃんと刃が付いてるのか? 全然切れてないぞ?』
『化け物がッ……!』
彼の強靭的な皮膚の強度は、六王の強度さえも凌ぐ。
そして能力か着ている服も頑丈になり、ボロボロにならず服として保っていた。
『フン、“死滅の鐘”』
『ッ』
剣撃を打ち終えたシルバーを見届けて、デアはお返しにと黒きオーラを纏った拳で、真下にある大気を打ち鳴らす。
(死属性……!)
すると“ゴーン!!”と大鐘が鳴るような音して、黒きオーラが爆散。
爆散したオーラと共に音がシルバーに届くと、彼は耳を塞いで体全体を震わせて膝をついた。
『っ、ああああああああああああっ!?』
『シ、シルバーっ!! ッオオオオオオォーー!!』
そして苦しむシルバーを見て、倒れていたギルドレットも激痛の中で飛び掛かる。片翼を潰され腹を抉られて明らかに重傷だが、口から血を吐きながらも愛用の剣と盾を構えた。
一部のみ『天の羽衣』と“一体化”して腕や足が金色になり、目元も変わっているが、剣の扱いやすい、ちょうどいい形態になっていた。
『こっからはオレが相手だ怪物!!』
西洋剣の『天の栄光を刻む剣』の刃を滑らせてデアとシルバーの間に入る。
『ほぉ、もう動いて大丈夫なのカァ? ちょっと穴開けただけで、随分苦しんでいたようだがァ?』
『はは……、どうせなら休みたい──さっ!!』
軽口を挟みつつ西洋剣を振って、シルバーから離れさせる。
ギルドレットの剣もまた、デアの強靭な皮膚を切り裂くことはできないが、身体強化も加えて勢いある剣撃でデアを押し出す。
『ハハ、良い剣技だァ! 《剣聖》のジジィを思い出すぜェッ!』
『ハッ!! そいつは光栄だッ! オラっ!!』
後方でシルバーが倒れるのが見えたが、それも一瞬のみ。
四つの視点を持つ魔眼をフルに活かして、完全に標的をこちらへ移したデアと全神経を注ぐ。
(いける! このまま押して行けば……!!)
獣のような両手と西洋剣がぶつかり合う度に、激しい金属音が鳴り響く。
ギルドレット自身、まるで鋼か何か硬い物の相手をしている心境で、必死に押し返されないように食らいつく。
『お前さえ倒せれば、後でゆっくり休めるさッ!!』
『そうか、なら────“死滅の鐘”』
『何!? ───ぐぉっ!!』
繰り出されるのは、シルバーも受けたデアの攻撃。衝撃波が彼の肉体を内部から破壊しようとする。普通の人間なら数秒も保たず、身体中の有りとあらゆる内臓器官が破壊され尽くされる程の一撃だが……。
(ッ……ま、負け、るかァァァァァ!!)
破壊の衝撃をギルドレットは『天空の護り盾』で抑え切る。かなりの無茶な行為であるが、そのまま盾を籠手にして踏み込んで行く。
途端、“一体化”した『天の羽衣』の力も移り、装飾も変化して白き盾が金の盾へ。
『《鬼神》ーーっ!!』
『アレを耐えたか……』
溜め込まれた風圧を拳から爆発させて、不動のデアに打ち込んだ。
『遠慮するな。オレが直接休ませてやるから、もう楽になってもいいぞォ?』
『ハァアアアアアアア!!』
魔氣術────“六花天鳳”
解放された風圧が変化。金色の鳥となってデアへ放たれた。
片翼なって威力は落ちているが、間違いなく対象の肉体を破壊してしまうだけの威力はある一撃だったが。
『ハァ』
それに対してデアが取った手は…………。打ち込みながらどうするか見ていたギルドレットも驚愕した。
『この程度の力しか出せないのに、無理してよォ……』
『……あり得ないだろ、そりゃ?』
大した強化や防御魔法ではない。
ただ、手を伸ばして片手だけで掴み止めたのだ。
『相性の問題もあるだろうが、もうさっきの段階で力の差は分かっていると思ったけどなァ?』
『ク、頑丈過ぎるだろ!? このバケモノが!!』
『どうせなら“鬼”と呼んでくれ。結構気に入ってんだァ』
掴み止めた瞬間、足下の大地が抉れて大きな地割れが起こり、間違いなく強い衝撃がデアの腕に掛かった筈だった。
(少しも動かねぇ!? なんだコイツのこのチカラは!? 腕力どころの話じゃねぇぞ!?)
不動のデアはまったく微動だにしない。
一切グラつく気配もなく、逆に踏み込んでみせる。
『圧倒的な差をお前はどう埋める?』
『ハァアアアアアアアアア!!』
咄嗟に剣を水平に振るったギルドレットだが、払うようにデアに叩き落とされる。
拳を掴み取られた手で引き寄せられると、掌底を穴が空いた腹に叩き込まれた。
『だから言っただろう? この程度だ・と・よォ!?』
『──がほッ!?』
掌底に纏わせていたのか、黒きオーラがギルドレットの体を突き抜ける。
すると叩き込まれた腹部からさらに血が溢れ出し、口からも血を吹き出してしまう。
『反応が鈍し過ぎる。もうその肉体は重傷じゃないか』
『ガハッ!?』
痛みの影響で『天の羽衣』での衝撃の跳ね返しもできない状態。
腹部に重い一撃を受けて、前のめりに倒れそうになったところを、追撃の蹴りをまともに受けてしまい、後方へ吹き飛ばされる。
だが。
『まぁ待ちィ。そうポンポンと飛んでいくなァ』
『──!!』
軽い跳躍で追い付いたデアに、足首を掴まれて拘束される。
片翼を振るわせて逃れようとするが、強い力で逆に引き寄せられる。
『ス────』
そして頭を両手で挟むように抑えられると、戸惑う自分を無視してデアは深く息を吸い込み出した。
『なにを……? ────ッ!?』
何をしているか、初めは分からなかったギルドレットだが、異常なほど膨らんでいく胸元と魔眼で捉えた内部を見たことで絶句。
『は、離っ──』
気付き慌てて拘束を逃れようとするが、強靭な肉体を持つデアの体は彼の翼刃も剣も通さず弾いてしまい、拳も当然ことだが通らない。
────そして。
『オオオオオオオオオオォオオオオオオォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォ!!!!』
『っっ!?』
溜め込んだ息をデアは雄叫びに変えて爆発させる。
“死滅の咆哮”。
六王が得意とする咆哮の技法。デアはそれを異常な肺活量と喉の力だけで再現。
派生属性を取り込んだ黒き咆哮を、拘束され抜け出せないギルドレットの頭に直接叩き込んだ。
『────ガ、グ……!』
『よく生き延びたな』
感心したように声音で笑うデアの視線の先で、金鳥の姿となったギルドレットが吊るされていた。
“死滅の咆哮”を頭から受ける瞬間、ギルドレットは体全体を“一体化”させて金鳥獣の姿へとなって受け切ったのだ。
デアの咆哮が体を突き抜ける前に、変化したことで『天の羽衣』の魔除けの羽根で派生属性のみは、多少防ぐことができた。咆哮そのものも防御全開で少々は逸らすことができたようだが。
『やるじゃないか。普通ならショック死だぜェ?』
『は……』
しかし、至近距離からの一撃は重過ぎた。
頼みの“一体化”が解けて今にも意識が飛びそうな中、デアが頭を片手で掴み直していたが反応できない。
そして、引きずられるように地面へ叩きつけられる。
『そのまま潰しやるよォォォ!! 《天空王》ォォォ!!』
『がっ、く、くぞ……!!』
苦悶の声を漏らすギルドレットだが、異常な握力と押し潰される力に抵抗ができない。
『ガハハハハハハッッ! ハハハ、ハハハハハハハハッッ!!』
徐々に地面にめり込み出す頭蓋骨が軋み出して、あっという間に割れてしまいそうだった。
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