オリジナルマスター
第12話 超越者同士の対決。
「戦うつもりに見せかけた即退散か。さっきの砲撃、初めから狙っていたのは脱出だろ? 《大魔導を極めし者》」
「どうしてそう思うんですか? 《天空界の掌握者》」
まるでさっきのバルトのようなセリフだ。
呆れた眼差しで口にするギルドレットを前に、ジークはふとそう感じた。
戦いはいよいよ、ジークが予測する最悪の展開へと移ろうとする。
彼自身それを感じてか、視線の先をギルドレットの背中にある、金色六枚羽へと移しながら状況を整理していた。
金色に輝く六枚羽。
魔道具・精霊具とも言える武具で、名を『天の羽衣』と呼ばれている。
六王の一角『鳥王』の羽と、希少かつ貴重な古代の魔道具を合わせた、ギルドレット専用の武具だ。
片翼が二メートル近くまで広がり、その出力は『鳥王』の羽ばたきに近いとも言われる。
そして当然のように、特殊なスキルも備わっている。ジークが警戒して近づかないのは、その内の一つが近接戦闘で、とても強力であり厄介な代物であるからなのだ。
「……」
「……」
二人のSSランクが睨み合う。
お互い距離を取っているが、互いに相手の鋭利な殺気をしっかりと感じ取っている。
ジークもギルドレットも少しでも、その気を見せれば止まらなくなる。
「理由としては、そうだな……。《魔女》を狙ったのは、厄介な精霊使いを減らす為ってところか?」  
そう切り出して、話し始めたのは、ギルドレットだった。
目配せしてシャリアを離れさせると、少しずつジークへと近づく。
「お前の師も厄介だが、精霊使いである彼女も放っておくと、後々面倒だろうからな」
口元に苦笑を浮かべて口にする。本人も苦手意識があるようだ。誤魔化すように指で頰をかいていた。
「ワザと大技にして見せたのは、脱出が狙いだと気付かせない為だ。燃費が悪く、通常魔法よりも出力が弱いソレを頼ったのは、たとえ食らいそうになっても、十分耐えられるだけの出力にしたかったから。たく……、ここまで来てもお優しいな、お前は」
「馬鹿馬鹿しい」
そこまでが、彼の限界だった。
(俺が優しい? 馬鹿か)
「そうか?」
「ああ、ふざけた妄想だ」
と、少々特げな顔で述べるギルドレットにイラついて吐き捨てる。
見当違いもいいところだと、鬱陶しそうな目つきになって言うが、まったく気にした様子もなくギルドレットは続けた。
「妄想か? オレにはそうは思えないがな。さっきの外の戦闘でもお前、殺せたのに殺さなかっただろ。竜王のあれも派手目だったが、あれは竜王が人外だったからできた芸当。バルトも、お前なら初手で殺せただろ」
「やっぱりただの妄想にしか聞こえないな。俺が優しい? はっ、何なら今すぐ叩きのめして上げましょうか? 世界一の覗き魔さん?」
威嚇するように『火炎王の極衣』のオーラを迸らせる。
どうやら男は相当調子に乗っているようだ。だから目覚め一発を、本気でぶち込んでやろうかと、少々真面目に考え出したジーク。
だが、それでもギルドレットは、まったく臆さず不敵な笑みで、うんうんと頷き出した。
「強がりはそのぐらいにしておけ。本当は嫌なんだろ? 辛いんだろ? 逃げたいんだろ? よーくオレには分かるぞ」
「はぁ?」
とうとう剣呑な気配がジークが漏れ出した。
バルトたちとはまた違う付き合いのせいか、気性がやや荒くなってきた。
相手が本気でやっても、大丈夫そうな相手だからかもしれないが、口調が徐々に平坦になっていく。声音に静かに怒気がにじみ出てきた。
「いちいち回りくどく言わず、はっきり言ったらどうだ? 俺が何が嫌だって言うんだ」
挑発のは分かっていた。だが、真面目な声音でもふざけた感がどうしてもある、ギルドレットの言葉に反応してしまう。……いつになく心が揺れていた。
そして、確信の言葉を告げようとするギルドレットの表情に、これでもかというほど、憐れみの色が含まれていたから。
「戦いたくないからさ……、このオレと」
「……はっ」
その言葉が戦いの合図となった。
僅かに額に汗をかき、ジークが両手を構えて。
ギルドレットは翼を羽ばたかせて上空へ。
「形成───“六面反射鏡”」
周囲にある“反射鏡《ミラー》”の形態を変えて、人を飲み込むくらいある、立方体のキューブを複数生成させる。
「“属性付加・火”」
さらにそのキューブに火の属性を付与させる。
遠隔魔法も可能な鏡で出来たキューブは、非常に魔力の通りも良い。数秒で紅く染まると、炎を吹き出した。
「いけ」
ジークは作り出した火のキューブを操作して、上空で飛んでいるギルドレットの元に飛ばす。そして自分も追いかけようと空中歩行の『鷹跳び』で跳び上空へ。
「シっ!」
「来るかジーク!」
キューブの操作も維持して、こちらを見て笑う彼を追う。他にも空中に浮かばせている鏡たちを、足場にして駆けていくことで、移動速度を上げていく。
「ほー、よっ!」
放ったキューブのスピードは、通常の魔力弾より遅い。
作った数は多く一つの攻撃範囲も広くはあるが、やはり遅い飛び道具と変わらない。
「まるで子供のボール遊びだな」
元々飛行を得意とするギルドレットからしたら、大したレベルの攻撃にすらならない。
背中にある金の翼を己の意思だけで操作して、向かってくる火のキューブの間を、難なく抜けて躱していく。避けたキューブがまた追って、他のキューブもそこを狙ってくるが、鳥のように羽ばたいて、それらすべてを余裕で躱していく。
「ちっ、やっぱ当たらないか」
ジークも追うが、スピードは彼の方が断然疾い。
追いかけながら、何か魔力を練っているようだが、意識を四方に飛ばしてキューブにも集中している為、魔力を練るのが普段よりも遅い。
「効率が悪いのは、こっちでも一緒か」
と言っても少し遅い程度。
十分に練り上げた魔力量を感覚で確かめると、ジークはそれを四方へ飛ばした。
「まさかこんな物が当たると本気で思っているのか?」
些か以上にも拍子抜けだ。
そう言わんばかりの呆れた顔で、ギルドレットは言うが、ジークの方からは動じた反応はない。
「もちろん……、本気だ」
練り上げた魔力を四方に飛ばし終えると、お返しに同じような不敵な笑みで、鳥男に告げた。
「───“術式解放”『蛇炎の縛り』」
「……!?」
返答と共に隠していたであろう、術式を解放させるジーク。
するとギルドレットの周りで飛んでいた、火のキューブが反応する。箱のように鏡の一面が開くと、中から炎の蛇が無数に出てきた。
「っ、遠隔で起動する術式タイプ! 仕込んで隠していたのか!」
ジークが発動させたのは、火の捕縛系統である。遠隔で魔法を通すことができる、火のキューブを触媒にして、遠隔操作で発動させたのである。
「飛行を封じる方法なんて、前から考えていたさ」
キューブを生み出した時から、ジークはこのタイミングを狙っていた。
飛行を得意とするギルドレットの翼は、外部の魔力を妨げる魔除けの効果もあって、確かに厄介であるが、その翼の効果はギルドレットの技量があってこそ強力なものだ。
なら、翼を振るわれる前に素早く、一度に全部止めてしまえばどうなるか。
幸い『火炎王の極衣』の影響で、火の能力は数段跳ね上がっている。
それにキューブと違いスピードも速い。
火の箱から出てきた数百の炎蛇が、飛行するギルドレットに纏わり付こうとした。
「ッ!」
つい先ほどの呆れた顔から一変。鋭い顔つきになって、ギルドレットは背中の翼を操作。
捕まえようとしてくる炎の蛇の包囲から、逃れて次々と躱していき。
「ふっ!」
───“六花虚空”。
魔法除去の特殊技法を発動させる。六枚の羽を、竜巻のように振るい、包囲する炎蛇をすべて払っていく。
「『緋火の炎拳』!!」
「───!」
だが、そこでいつ間にか急接近したジークと対面。
払われて散ろうとする炎を束ねた炎の拳で、ギルドレットを打ち抜こうとした。
そして。
「!」
「やるな……!」
迫ってきた炎拳を寸前で止めたギルドレット。
確実に捉えたと思ったジークが目を見張る中、燃える拳をギリギリ両腕で止めてみせたのだ。
もちろん生身で止めた訳ではない。
腕には魔力を伝せて、籠手のような障壁を作っている。反動で飛ばされそうになったが、六枚の羽も瞬時に操作して、衝撃を流すことに成功している。
しかも、力を流した先は後ろではなく前方。守るためにクロスした腕とジークの拳が接触した位置。
「───っ!!」
流れるように拳の衝撃は、ジークの拳へとそのまま返ってきた。
いきなり砕けそうになる拳に、思わず後退するジークだったが、視線を外そうとしないギルドレットの眼を見て、何をしたのかすぐに気付いた。
「このタイミングでも間に合うのか、『六花転壊』」
「この魔眼がある限り、簡単には抜けれないぞジーク」
“六花転壊”とは衝撃反転の技法。
ジークの『瞬殺戦火』に似て、使用条件が魔眼と翼が必須なこと。
だが、今は呑気に思考にふけている場合ではない。
(く、また同じ方か!)
奇しくも殴った拳は、ティアに叩きつけられた腕の方だ。
痛みで痺れそうになるが、今は一度距離を取るべきだと、ジークは空中走法で後退する。
そしてすぐに魔力を練り上げると、周囲に大量の火の魔弾が生成される。
「『緋火の破球・一斉射』!!」
爆発力のある無数の火の魔弾を飛ばして、飛行しているギルドレットを襲うジーク。
対してギルドレットは、今更といった感じのため息を吐いて、口を開きつつ翼を広げる。
「そんな見え見えの囮を使って、何をする気だ?」
大きく振るうことで、またスキルを使う。 
────“六花虚空”。
魔法除去によって、再びジークの攻撃は散らされる。
その僅かな間、ジークの姿も視界から消えることになったが、ギルドレットの魔眼は、ハッキリと彼を捉えている。
「そうきたか」
「っ!」
炎の弾幕が晴れた先から、炎の大斧を振り上げたジークを見つける。
一直線に突進する彼を捉えると、背中の二枚の羽を剣のように操作。炎の大斧ごとジークを切り裂こうと動いた。
「『飛翔の刃』!」
「『緋火の破斧』!」
赤き斧の刃と金の翼の刃が激突する。
火花を散らして均衡し合うと、大気を振動させて軋み出していく。
「ぐぁっ!?」
「のわっ!?」
耐久値が限界に達したジークの大斧が爆発を起こす。
衝撃でジークは後ろへ飛ばされて、ギルドレットは翼を広げて、衝撃を抑えて静止する。
「お返しだ」
飛ばされるジークに視線を移して、翼の能力を発動させる。六枚の羽から金色の光が生成されて、両手を構えている彼の手のひらに集まる。
「“六花散華”」
寄せ集めた光の粒子を両手から放出。
金色の花びらの吹雪のように舞って、倒れているジークを襲う。
「っ、まだだ!!」
だが、その前にジークが先に体勢を立て直す。発動中の『魔鏡面世界』を展開させて、障壁として前方に張る。
迫っていた花びらは、ジークの張った鏡の結界で妨げられた。
「ギリだったな。───だが」
「? ───!!」
攻撃を防がれたが、ギルドレットの声に戸惑いはない。
金色の花びらを受け止めさせたが、衝撃で鏡が飛び散った。
───その時だった。
「惜しかったな」
伸びてきた金色の刃が、ジークを突き刺した。
六枚羽の一枚が器用に砕けた鏡の間を抜けて、ジークの胸まで伸びて突き刺していたのだ。
胸元に羽の刃が突き刺さって、驚愕の顔をしたジークは胸元を見下ろした。
「な!?」
しかし、そこで表情を大きく変えたのは、ギルドレットほうだった。
信じられない顔で突き刺した筈のジークを見て、別の羽の刃でジークを切り裂いた。
その結果、ジークの体は横に両断されることになったが、血飛沫は発生せず代わりに、ジークの体から煙が発生して、霧のように消失した。
それ以前に手ごたえがまったくなかった。
突き刺すまで確かに感じていた、魔力も消えている。
「残像!? いや、魔法でもない!!」
鏡で死角になっても、魔眼で確かに捉えていた。魔法も使えば間違いなく気づいていたが、発動されたことにすら気付かず、あっさりジークを見失ったギルドレット。
「どうなってる!?」
慌てて魔眼で見つけようとするが、何かがおかしかった。
何か嫌な予感を背筋に感じつつ、空中を旋回して警戒を強めていき。
そして、───『短距離移動』。
「ギルさん!」
「───ッ! シルバーッ!!」
突如飛んできた頭上の声に反応して、顔を上げたギルドレットはそれを眼にする。
空間移動で彼の上空へと移動した、ジークの姿に彼は眼を見開く。
「“融合”」
そしてこちらに目掛けて迫ってくる彼の手には、融合魔法で生み出され魔剣がある。
「“緋天……解放”っ!!」
緋色の雷光を纏う、鋭利な大剣が握り締められている。
『緋天の皇蕾衣』で作られた、魔剣『雷轟く緋天王の一振り』が、翼で旋回していたギルドレットを捉えていた。
「どうしてそう思うんですか? 《天空界の掌握者》」
まるでさっきのバルトのようなセリフだ。
呆れた眼差しで口にするギルドレットを前に、ジークはふとそう感じた。
戦いはいよいよ、ジークが予測する最悪の展開へと移ろうとする。
彼自身それを感じてか、視線の先をギルドレットの背中にある、金色六枚羽へと移しながら状況を整理していた。
金色に輝く六枚羽。
魔道具・精霊具とも言える武具で、名を『天の羽衣』と呼ばれている。
六王の一角『鳥王』の羽と、希少かつ貴重な古代の魔道具を合わせた、ギルドレット専用の武具だ。
片翼が二メートル近くまで広がり、その出力は『鳥王』の羽ばたきに近いとも言われる。
そして当然のように、特殊なスキルも備わっている。ジークが警戒して近づかないのは、その内の一つが近接戦闘で、とても強力であり厄介な代物であるからなのだ。
「……」
「……」
二人のSSランクが睨み合う。
お互い距離を取っているが、互いに相手の鋭利な殺気をしっかりと感じ取っている。
ジークもギルドレットも少しでも、その気を見せれば止まらなくなる。
「理由としては、そうだな……。《魔女》を狙ったのは、厄介な精霊使いを減らす為ってところか?」  
そう切り出して、話し始めたのは、ギルドレットだった。
目配せしてシャリアを離れさせると、少しずつジークへと近づく。
「お前の師も厄介だが、精霊使いである彼女も放っておくと、後々面倒だろうからな」
口元に苦笑を浮かべて口にする。本人も苦手意識があるようだ。誤魔化すように指で頰をかいていた。
「ワザと大技にして見せたのは、脱出が狙いだと気付かせない為だ。燃費が悪く、通常魔法よりも出力が弱いソレを頼ったのは、たとえ食らいそうになっても、十分耐えられるだけの出力にしたかったから。たく……、ここまで来てもお優しいな、お前は」
「馬鹿馬鹿しい」
そこまでが、彼の限界だった。
(俺が優しい? 馬鹿か)
「そうか?」
「ああ、ふざけた妄想だ」
と、少々特げな顔で述べるギルドレットにイラついて吐き捨てる。
見当違いもいいところだと、鬱陶しそうな目つきになって言うが、まったく気にした様子もなくギルドレットは続けた。
「妄想か? オレにはそうは思えないがな。さっきの外の戦闘でもお前、殺せたのに殺さなかっただろ。竜王のあれも派手目だったが、あれは竜王が人外だったからできた芸当。バルトも、お前なら初手で殺せただろ」
「やっぱりただの妄想にしか聞こえないな。俺が優しい? はっ、何なら今すぐ叩きのめして上げましょうか? 世界一の覗き魔さん?」
威嚇するように『火炎王の極衣』のオーラを迸らせる。
どうやら男は相当調子に乗っているようだ。だから目覚め一発を、本気でぶち込んでやろうかと、少々真面目に考え出したジーク。
だが、それでもギルドレットは、まったく臆さず不敵な笑みで、うんうんと頷き出した。
「強がりはそのぐらいにしておけ。本当は嫌なんだろ? 辛いんだろ? 逃げたいんだろ? よーくオレには分かるぞ」
「はぁ?」
とうとう剣呑な気配がジークが漏れ出した。
バルトたちとはまた違う付き合いのせいか、気性がやや荒くなってきた。
相手が本気でやっても、大丈夫そうな相手だからかもしれないが、口調が徐々に平坦になっていく。声音に静かに怒気がにじみ出てきた。
「いちいち回りくどく言わず、はっきり言ったらどうだ? 俺が何が嫌だって言うんだ」
挑発のは分かっていた。だが、真面目な声音でもふざけた感がどうしてもある、ギルドレットの言葉に反応してしまう。……いつになく心が揺れていた。
そして、確信の言葉を告げようとするギルドレットの表情に、これでもかというほど、憐れみの色が含まれていたから。
「戦いたくないからさ……、このオレと」
「……はっ」
その言葉が戦いの合図となった。
僅かに額に汗をかき、ジークが両手を構えて。
ギルドレットは翼を羽ばたかせて上空へ。
「形成───“六面反射鏡”」
周囲にある“反射鏡《ミラー》”の形態を変えて、人を飲み込むくらいある、立方体のキューブを複数生成させる。
「“属性付加・火”」
さらにそのキューブに火の属性を付与させる。
遠隔魔法も可能な鏡で出来たキューブは、非常に魔力の通りも良い。数秒で紅く染まると、炎を吹き出した。
「いけ」
ジークは作り出した火のキューブを操作して、上空で飛んでいるギルドレットの元に飛ばす。そして自分も追いかけようと空中歩行の『鷹跳び』で跳び上空へ。
「シっ!」
「来るかジーク!」
キューブの操作も維持して、こちらを見て笑う彼を追う。他にも空中に浮かばせている鏡たちを、足場にして駆けていくことで、移動速度を上げていく。
「ほー、よっ!」
放ったキューブのスピードは、通常の魔力弾より遅い。
作った数は多く一つの攻撃範囲も広くはあるが、やはり遅い飛び道具と変わらない。
「まるで子供のボール遊びだな」
元々飛行を得意とするギルドレットからしたら、大したレベルの攻撃にすらならない。
背中にある金の翼を己の意思だけで操作して、向かってくる火のキューブの間を、難なく抜けて躱していく。避けたキューブがまた追って、他のキューブもそこを狙ってくるが、鳥のように羽ばたいて、それらすべてを余裕で躱していく。
「ちっ、やっぱ当たらないか」
ジークも追うが、スピードは彼の方が断然疾い。
追いかけながら、何か魔力を練っているようだが、意識を四方に飛ばしてキューブにも集中している為、魔力を練るのが普段よりも遅い。
「効率が悪いのは、こっちでも一緒か」
と言っても少し遅い程度。
十分に練り上げた魔力量を感覚で確かめると、ジークはそれを四方へ飛ばした。
「まさかこんな物が当たると本気で思っているのか?」
些か以上にも拍子抜けだ。
そう言わんばかりの呆れた顔で、ギルドレットは言うが、ジークの方からは動じた反応はない。
「もちろん……、本気だ」
練り上げた魔力を四方に飛ばし終えると、お返しに同じような不敵な笑みで、鳥男に告げた。
「───“術式解放”『蛇炎の縛り』」
「……!?」
返答と共に隠していたであろう、術式を解放させるジーク。
するとギルドレットの周りで飛んでいた、火のキューブが反応する。箱のように鏡の一面が開くと、中から炎の蛇が無数に出てきた。
「っ、遠隔で起動する術式タイプ! 仕込んで隠していたのか!」
ジークが発動させたのは、火の捕縛系統である。遠隔で魔法を通すことができる、火のキューブを触媒にして、遠隔操作で発動させたのである。
「飛行を封じる方法なんて、前から考えていたさ」
キューブを生み出した時から、ジークはこのタイミングを狙っていた。
飛行を得意とするギルドレットの翼は、外部の魔力を妨げる魔除けの効果もあって、確かに厄介であるが、その翼の効果はギルドレットの技量があってこそ強力なものだ。
なら、翼を振るわれる前に素早く、一度に全部止めてしまえばどうなるか。
幸い『火炎王の極衣』の影響で、火の能力は数段跳ね上がっている。
それにキューブと違いスピードも速い。
火の箱から出てきた数百の炎蛇が、飛行するギルドレットに纏わり付こうとした。
「ッ!」
つい先ほどの呆れた顔から一変。鋭い顔つきになって、ギルドレットは背中の翼を操作。
捕まえようとしてくる炎の蛇の包囲から、逃れて次々と躱していき。
「ふっ!」
───“六花虚空”。
魔法除去の特殊技法を発動させる。六枚の羽を、竜巻のように振るい、包囲する炎蛇をすべて払っていく。
「『緋火の炎拳』!!」
「───!」
だが、そこでいつ間にか急接近したジークと対面。
払われて散ろうとする炎を束ねた炎の拳で、ギルドレットを打ち抜こうとした。
そして。
「!」
「やるな……!」
迫ってきた炎拳を寸前で止めたギルドレット。
確実に捉えたと思ったジークが目を見張る中、燃える拳をギリギリ両腕で止めてみせたのだ。
もちろん生身で止めた訳ではない。
腕には魔力を伝せて、籠手のような障壁を作っている。反動で飛ばされそうになったが、六枚の羽も瞬時に操作して、衝撃を流すことに成功している。
しかも、力を流した先は後ろではなく前方。守るためにクロスした腕とジークの拳が接触した位置。
「───っ!!」
流れるように拳の衝撃は、ジークの拳へとそのまま返ってきた。
いきなり砕けそうになる拳に、思わず後退するジークだったが、視線を外そうとしないギルドレットの眼を見て、何をしたのかすぐに気付いた。
「このタイミングでも間に合うのか、『六花転壊』」
「この魔眼がある限り、簡単には抜けれないぞジーク」
“六花転壊”とは衝撃反転の技法。
ジークの『瞬殺戦火』に似て、使用条件が魔眼と翼が必須なこと。
だが、今は呑気に思考にふけている場合ではない。
(く、また同じ方か!)
奇しくも殴った拳は、ティアに叩きつけられた腕の方だ。
痛みで痺れそうになるが、今は一度距離を取るべきだと、ジークは空中走法で後退する。
そしてすぐに魔力を練り上げると、周囲に大量の火の魔弾が生成される。
「『緋火の破球・一斉射』!!」
爆発力のある無数の火の魔弾を飛ばして、飛行しているギルドレットを襲うジーク。
対してギルドレットは、今更といった感じのため息を吐いて、口を開きつつ翼を広げる。
「そんな見え見えの囮を使って、何をする気だ?」
大きく振るうことで、またスキルを使う。 
────“六花虚空”。
魔法除去によって、再びジークの攻撃は散らされる。
その僅かな間、ジークの姿も視界から消えることになったが、ギルドレットの魔眼は、ハッキリと彼を捉えている。
「そうきたか」
「っ!」
炎の弾幕が晴れた先から、炎の大斧を振り上げたジークを見つける。
一直線に突進する彼を捉えると、背中の二枚の羽を剣のように操作。炎の大斧ごとジークを切り裂こうと動いた。
「『飛翔の刃』!」
「『緋火の破斧』!」
赤き斧の刃と金の翼の刃が激突する。
火花を散らして均衡し合うと、大気を振動させて軋み出していく。
「ぐぁっ!?」
「のわっ!?」
耐久値が限界に達したジークの大斧が爆発を起こす。
衝撃でジークは後ろへ飛ばされて、ギルドレットは翼を広げて、衝撃を抑えて静止する。
「お返しだ」
飛ばされるジークに視線を移して、翼の能力を発動させる。六枚の羽から金色の光が生成されて、両手を構えている彼の手のひらに集まる。
「“六花散華”」
寄せ集めた光の粒子を両手から放出。
金色の花びらの吹雪のように舞って、倒れているジークを襲う。
「っ、まだだ!!」
だが、その前にジークが先に体勢を立て直す。発動中の『魔鏡面世界』を展開させて、障壁として前方に張る。
迫っていた花びらは、ジークの張った鏡の結界で妨げられた。
「ギリだったな。───だが」
「? ───!!」
攻撃を防がれたが、ギルドレットの声に戸惑いはない。
金色の花びらを受け止めさせたが、衝撃で鏡が飛び散った。
───その時だった。
「惜しかったな」
伸びてきた金色の刃が、ジークを突き刺した。
六枚羽の一枚が器用に砕けた鏡の間を抜けて、ジークの胸まで伸びて突き刺していたのだ。
胸元に羽の刃が突き刺さって、驚愕の顔をしたジークは胸元を見下ろした。
「な!?」
しかし、そこで表情を大きく変えたのは、ギルドレットほうだった。
信じられない顔で突き刺した筈のジークを見て、別の羽の刃でジークを切り裂いた。
その結果、ジークの体は横に両断されることになったが、血飛沫は発生せず代わりに、ジークの体から煙が発生して、霧のように消失した。
それ以前に手ごたえがまったくなかった。
突き刺すまで確かに感じていた、魔力も消えている。
「残像!? いや、魔法でもない!!」
鏡で死角になっても、魔眼で確かに捉えていた。魔法も使えば間違いなく気づいていたが、発動されたことにすら気付かず、あっさりジークを見失ったギルドレット。
「どうなってる!?」
慌てて魔眼で見つけようとするが、何かがおかしかった。
何か嫌な予感を背筋に感じつつ、空中を旋回して警戒を強めていき。
そして、───『短距離移動』。
「ギルさん!」
「───ッ! シルバーッ!!」
突如飛んできた頭上の声に反応して、顔を上げたギルドレットはそれを眼にする。
空間移動で彼の上空へと移動した、ジークの姿に彼は眼を見開く。
「“融合”」
そしてこちらに目掛けて迫ってくる彼の手には、融合魔法で生み出され魔剣がある。
「“緋天……解放”っ!!」
緋色の雷光を纏う、鋭利な大剣が握り締められている。
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