オリジナルマスター

ルド@

おまけ編 過去の記憶と彼女との約束。

「わたしは…………学校に行ってみたいかな」
「え?」

田舎村でのある夜ことだった。
就寝時間で静かになっている村で会っていた二人の男女の子供たち。大人にバレないように家の屋根に登ると、一緒に寝転がって夜空を見上げていた。

そして声をひそめてお互いの今日の出来事を話している。
女の子のほうは少し年上でいつも村で年下の子供たちの面倒を見ているが、その間、隣の男の子とは会うことがない。

彼を拾った大人たちに才能を認められて、男の子のほうはいつも冒険者の大人たちから修業を受けている。

基本的な知識から冒険としての必須知識。
戦い方として体術、剣術、棒術、槍術、弓術、最後に魔法についても教わっている。女の子はあまり詳しくは知らないが、相当な量を教えられているそうだ。

戦いに関しては、ベテランの冒険者との模擬戦や一緒に魔物を討伐で実際に戦うことで経験値にしている。これについてもあまり知らない彼女だが、かなり危ない状況にも立たされて激戦ばかりだとか。

殆ど毎日のように朝早くからこれらを繰り返している為、二人がこうして会えるの時は朝食の時か、今のようにこっそり夜中に会っている時だけ。偶にだがこちらの子供たちに混じって来る時もあるが、他の子供たちを気にしてか距離を置かれていた。

ちなみに全然会えないことや距離を置かれていることには、不満は当然ある彼女だが、いつも疲れた様子で眠そうな顔でも会話に付き合ってくれている彼に、そんなことを口にしようとはしなかった。

そうしてお互いに今日起きたことを話している中、女の子からふいに口に出された。

「学校?」
「知らないかな? 学び舎だよ」
「意味は知っている。けどどうしてそこに? 村の勉強会でも十分なレベルだろ?」

彼女が言ったことに疑問符を浮かべた彼に言う。元々大して興味がないのか、つまらなそうな表情で呟くが、少し気にもなっている。

隣の彼女は自称お姉さんとしての立場からか、他の子達と違い頼みやお願い、我がままのようなことを言ったことが彼の知る限り、一度もなかった。

そんな彼女が無駄にしか聞こえないが、行ってみたいと言う学校。というよりも行きたい理由に彼は興味が湧いた。

「うん、確かにそうかもしれないけど、学校はそれだけじゃないよ?」
「へぇー、そうか」
「どうでもいいみたいな顔はやめてよー」
「こぅあをひぃっぱるぅな〜〜」

淡々と答える彼に頬を膨らませた彼女。指で頬を引っ張るが、彼のほうは大して効いた様子もなく口にする。

「もぉーッ! …………あっ、ふふふ〜?」
「……」

と、そこで不満そうな顔から悪戯ぽい顔をする彼女を見て、嫌な予感がした彼だが。

「言っとくけど、あなたにも来てもらうからね?」
「…………は?」

指差しで言われて思考が停止してしまう。告げられた内容の意味が分からん、といった表情で固まってしまっていた。

「よろしくね?」
「……、……、……っ!」

満面の笑顔でそう言われるが、彼のほうはそれどころではない。
予期せぬお願いに固まってしまったが、笑顔を見て正気に戻るとハッとした顔で首を振った。

「いや、なんでだよ。行きたいなら一人で行けよ」
「それじゃダメなの。あなたも一緒に来ないと行けないだから」
「だからなんで、って声が大きいぞ?」
「とにかくダメなのぉーー!! 一緒に来てぇ〜〜!!」
「こ、声が大きいって。分かった、分かったからっ!」

なんという我がまま振りの発揮かとビックリするが、これ以上は大人たちが起きると慌てて頷いてしまった。

しかし、頷いてから思い出したのか、申し訳なさそうに頬をかいて口にする。

「オレまだ修業中なんだけど、修業が完了しないと絶対許可を貰えないぞ?」
「けど、あと数年もしたら一人前だってお姉さんが言ってたよ? そのあとなら暇でしょう?」
「うっ、あの口軽師匠が……!」

思わず余計なことしか言わない師に負の念をぶつけてしまう。

確かに以前、師からあと三〜四年もすれば一人前として認めていいかもしれないと、言質を頂いたことがあったが、まさか隣の彼女もその話を知っていたとは。

別に内緒話でもなかったが、これで断る理由が見つからなくなってしまったと嘆く彼に。

「だからその修業が無事に終わったら、一緒に学校に入ろうねジークくん!」

嬉しそうな顔で彼女───アティシアは告げる。
さりげなく隣の彼───ジークの腕に腕を絡ませて、最後の最後で逃げないようにした。

「じょ」

───冗談じゃない。とジークは口を開きかけたが、彼女の───アティシアの瞳を見て閉じてしまった。

(……なんて目をしてんだよ)

彼女の瞳に宿っていたのは、不安であった。

彼が断ったら、彼が拒絶したら、様々な不安が彼女の瞳には宿っており、呑まそうにも見えた。

しかし、顔は懸命に真っ直ぐと彼の目を捉えている。
その瞳の色さえ分からなければ、彼も別の捉え方もしたが。

「……っ」

口元が少し震えている。
寒さからでないのは間違いなかった。

「……」

そんな彼女を見た彼はしばらく黙り込むと。

「はぁー、分かったよ」

深くため息を吐き、折れてしまった。

「ほ、ホント ︎」
「もう決まってんだろ? 行くよ。付いて行きますよ」

もうヤケクソ気味にそう口走るジークに、アティシアはうるうると瞳を濡らしていき、ガバッと彼の首元に腕を回して胸に飛びついて来た。

「お、おい!」
「っ〜〜!」
「……」

振り払ってしまおうかと思ったが、自分の肩にアゴを乗せて顔が見えない状態である彼女から聞こえる、微かな嗚咽にジークの体が固まる。

───泣いているのだ。彼女は。

そう気づいた瞬間、彼は振り払うために動かした腕をあたふたさせて、どうしたら良いのか頭を悩ませ。

「あ、ありがとう……」

だが、そのあと口にした彼女の一言を聞いて、不思議と悩ませていたことがバカらしく感じて、自然と手を彼女の頭の上に乗せて撫でてみた。

撫で方がいいのか、くすぐったそうにする彼女にジークは告げる。

「言っておくが、オレは真面目に授業を受けるつもりはないからな? 授業なんか受けてる暇があったら冒険者ギルドで依頼でもしてる。……あとは」
「あとは?」
「……」

途中で黙り込む彼に見上げて彼女は問い掛ける。少し思案するようにジークは夜空を見上げると、胸に抱き付いている彼女を見下ろして口を開いた。

「オリジナルを、集めてみようかな。可能なら始まりの原初も」

彼女を支えながらそう口にする。
“始まりの原初”───その言葉をまだ魔法知識が乏しいアティシアはよくは知らないが、どんな魔法でもすぐにモノにしてしまう彼が探すほどの物だとすれば、相当な物なのだと少なからず理解はした。

「それってお姉さんが持ってる『イクスカリバー』と同じ?」
「ああ。オレは全て集めてみたいんだ」
「それはどうして?」

抱き締めてくる彼女に彼も抱き締める。
少し寒いのか彼女の体温を確かめるように、強く抱き締める彼は悲しげに告げる。

「オレが、異常だから」
「そんなこと……ないよ」

彼女もまたさらに強く抱き締め、彼の言葉を弱々しくではあるが否定する。

「そうかな」
「そうだよ。ジークくんは普通だよ。だってこんなに優しくて温かいもん」
「そうかな?」

そんな彼女の反論に苦笑を浮かべるジークだが、特に反論を言わず彼女を抱き締めたまま語りだした。

「師匠から聞いて知ってると思うけど、やっぱりオレの魔力は異常なんだ。あらゆる属性に適応出来て凄いのは分かるが、そのありえない高濃度の魔力がオレの体内には宿っている。しかも大量に。……それにオレの魔力が外に漏れて流れると」

喋りながら彼は手から魔力を軽く放出する。普段は心身で抑えながら流すが、ジークは魔力を抑えず屋根に生えた草を抜いて、それに流し込む。

すると───。

「っ」

微かに息を呑むアティシア。
彼が魔力を流し込んだ瞬間、手のひらにあった草が一瞬で枯れてしまった。
そして形も保てなくなりバラバラになって散った。

「オレの魔力はこの世界とって毒なんだよ。漏れた純粋な魔力が触れただけで対象を殺してしまう。自然も動物も魔物も、そして人間も例外じゃない。唯でさえコントロールが難しいのに、仮にそれが抑えもなく全部放出してしまったら、そう想像するだけで眠れないほど辛くなるな」
「そこでオリジナルが関係あるんだ」

聞いてた彼女からの言葉にジークはコクリと頷く。

「オリジナルは魔力で出来た魔法式だが、普通の魔法式と違いオレの魔力とオリジナル魔力が繋がることで使用ができる。前に取り込んでみたら魔力が変化したのか、少しだが扱いやすくなったんだ。理由は分からないが、オリジナルの魔力がオレの魔力を相殺しているのか無害にしているのかもしれない」

実感はあまりないので若干言葉に力がない。
しかし、確かに何か変わっている節もあり、師であるシィーナの言葉にも影響されていた。

「取り込み続ければこの異質なモノを掌握できるかもしれない。って師匠も言ったんだ。だけどオレの魔力をすべて掌握しようと思うと、かなりの数のオリジナルが必要だと予想が付いたんだ。だから“始まりの原初”の魔法に手を伸ばしたら何か分かるかもしれないんだ」

そうして彼は再び夜空を見上げる。
満遍なく広がる綺麗な星空が彼の瞳に映り込んだ。

「それに取り込み続けることで、他にも分かったことがあった。師匠のツテで手に入った魔法や自分の魔力を利用して開発したのを取り込んでみたが、通常魔法よりも断然使い易かった。……もしかしたらオレの魔力は、元々原初魔法を使うためにあるのかもしれない」

まだまだ始めたばかりであるが、魔法に関しては全然苦ではないジーク。
最終的にどのような形を迎えるか分からないが、やめようとは思わなかった。

「どれくらい掛かるか分からないが、それでもオレは諦めない。いつかきっとこのチカラを物にするさ」
「出来るよ。あなたなら……ジークくんならきっと」

自然と握りしめた拳を見てそう宣言するジーク。
そんな彼の腕の中にいるアティシアは、微笑を浮かべると小さい声で彼に呟いた。

「ありがとうな、アティシア」
「あ、そこはやっぱりお姉ちゃんって───」
「呼ばない」
「ん、もぉぉーー!」

さらにギュー!  と不満全開なアティシアから力強く抱きしめれてしまった。

抱き締めている彼女から感じる体温に、自然と笑みが溢れるジーク。
そんな中、ふと先ほどの約束ごとを思い出す。

(学校か、それもありかもな)

彼女と一緒なら学校生活も悪くない。ジークは微かに笑みを浮かべてそう感じた。



そうして話を終えて寝ないかと、ジークは切り出そうとしたが。

「契約?」
「うん、契約してみないかなって?」

また何を思ったのかアティシアがそんなことを言い出した。
そろそろ屋根から降りたほうがいいと思うジークであるが、いつもより積極的なアティシアに押されてつい聞いてみた。

「契約ってさっきの約束のか?」

先ほどの話の流れからだとすればそう思うが普通だが、アティシアの言っている契約はその後にあった魔法についてだった。

「違うよ。わたしが言っている契約は、わたしの原初魔法とだよ」
「? どういうこと?」
「ちょっと特別な方法なんだけど……んー、ジークくんってさ」

何か思案するように口元に指を当てると、アティシアは一度ジークから離れて横目で彼を見る。
また悪戯好きそうな顔を向けるが、どういうわけかその瞳に先程とは違う潤みがあったのを、月の光によって見えたジークだったが。




「キスって…………知ってるかな?」

その言葉と共に鼻先まで急接近したアティシアの顔に、また言葉を失い目が点になったジーク。何を言われたか初めは理解できなかったが、視線を近くにある彼女の口元に移ると───ジークは。



……その返答に対して彼がどう答えたかは。
受けたであろうアティシアのみが知ることであった。

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