オリジナルマスター

ルド@

第9話 対面する知将と白き人と最強の剣士。

「皆さん配置に付きましたね?」
『はい、指示通り配置完了です学園長』

手に持った通信石で呼びかけるのはリグラ。
呼びかけに応えて通信石から返事をするのはクロウ。

ジークたちが場所代えてに決戦に入ろうとしていた頃。
王都で暗躍をする《復讐の壊滅者リベンジャー》とその一味を制圧しようと彼らが拠点としていると思われる貴族の館を前に、リグラは堂々と一人。

正門の前で立っていた。

「よろしい、では入りますが、万が一合図がなければ即突入してください」
『了解しました。いつでも行けるように待機しています』

伝え終えると通信石を切り仕舞う。
普段着とも言えるスーツに黒のコートと帽子を被ったまま、門についた呼び鈴に触れて鳴らした。

リリンッ
リリンッ

数回、呼び鈴が鳴る音が響く。
返答があるかどうか分からないが、十中八九向こうは気づいている。この流れはまず間違いなく相手側が狙っていた流れの一つであったのだ。

返り討ちに合い操られたクロウが正気に戻ったのが、偶然かどうかは判断は難しい。が、その後ろに《知将》の異名を持つリグラが控えていると分かれば、簡単にクロウを使い捨てにしても解放するはずがない。

そこから何かしらの情報を抜き取っていたかもしれない。それに用心してすぐには踏み込まず様子見をしたとしても、遅かれ早かれ結局は攻めていた。

つまりリグラの予想が正しければ、この後の敵の行動はこちらの有利でないものな筈。

だからこそ、ここで門が開かないと言う可能性は……。

「お待ちしておりました。ガンダール様」

ありえなかった。
そう、開いた門の前で出迎えた、黒のローブを深く被った老人を見てリグラは確信した。

姿を隠すようにしているが、リグラは目の前のご老人が何者か察していた。

「《死霊の墓荒らしネクロマンシー》ソフェルノ・アートですね」
「ご存知でしたか」

リグラの言葉に肯定して、軽く頭を下げてお辞儀する《死霊の墓荒らしネクロマンシー》。顔を上げた際にローブを少し上げて、老いただけでは説明がつかないそのひび割れた素顔を晒す。

傀儡となって生気のない顔。
それを見たことでリグラは得ていた情報が確かであることを理解する。

「こちらへ、主人がお待ちしております」
「失礼します」

ソフェルノの手招きに従い門の中に入るリグラ。
背後で静かに門が閉まる中、先導するソフェルノに視線を送り目の前の館にも意識を向ける。

(予想通りですが、人の気配が全然しませんね。元々不要だと要請していないのかもしれませんが、数名はいた筈。……にしては静か過ぎますね)

この館は本来はパーティー用としており普段は人は住んでいない。
そこで管理者である総ギルドマスターであったリヴォルトが、彼らの為に貸し出したのだ。

詳しくは報告にはないが、身の回りの世話と監視の為にと数名、使用人に化けた部下を潜り込ませたという情報があるのが、その気配らしきものは武闘派でなくとも、気配には鋭いリグラにも感じられなかった。

では、潜ませていた部下たちはどうしたのか。
推理などする必要もなくリグラはその思考を切り捨て、杖でありながら問題なく歩き先導しているソフェルノに向く。

「拠点を変えなかったのは懸命な判断です。王都側から協力していた者たちは既に捕獲され、あなた方は支援を失った孤立した組織。もしここを切り捨てれば一時的に行方をくらませても包囲されるのは時間の問題」

歩きながら話をする。所詮配下の者でしかないかもしれないが、この者の幹部の一人だ。反応を見るのも悪くないと、歩きながらリグラは続ける。

「この街には《天空界の掌握者ファルコン》がいますから見つかるのは確実。仮にそれを利用して騒動を起こし街を混乱に堕とそうとしても、こちらがそれを見越して迅速に対応すれば、あなたたちは街にいる《天空界の掌握者ファルコン》を含めた冒険者や憲兵、警備に当たっている騎士団をすべて相手にすることになるでしょう。こうして拠点を利用して守りに入る方が…………今後の仕事までの、時間は稼げますからね?」
「ほー……こちらの目的に気付いていると?」

後ろを振り向かず、少し驚いたような声で尋ねるソフェルノ。
別に本気で探ろうとしている訳ではないが、相手が相手なので念の為に聞いているような口調である。

もっともその質問が返ってくるなどとは、少しも予想はしていなかったが。

「ええ、そちらの目的は《赤神巨人プロキオン》と控えているであろう駒を使った王都殲滅」

と、ここまではまだいい。バレていてもおかしくはないと、ソフェルノも想定していた。

しかし。

「さらに王都中心にした儀式・蘇生魔法を使用して、あなた方の主人の完全復活・・・・。つまり、あの者の肉体を手に入れたいのでしょう?」
「───!!」

反射的に立ち止まって、振り返ってしまったソフェルノ。
そして待っていたようにしたり顔で笑みを見せるリグラ。振り返った勢いで動揺の顔は見えたのだ。

その笑みにソフェルノは揺さぶりをかけられたのだと悟り愕然とした。

(死した顔にも感情は映るのか。あまり期待はしてませんでしたが、良い反応がきました)

リグラは自分の推測は間違ってなかったのだと心の中で頷く。
そして怪しい気配を漏らし出すソフェルノに苦笑して、フォローするように口を開く。

「おや? どうかしましたか? まだ館には着いてませんが?」
「……失礼」

今度は動揺を見せないように深くローブを被り直して再び案内する。
迂闊だったと悔いるが、今は与えられた使命がある。

これ以上は余計なことをせずソフェルノは、愚かにもやって来たリグラを主人がいる館に招いた。


◇◇◇


「よくいらっしゃった。歓迎しますよガンダール卿」

広間まで案内されたところでその者と対面したリグラ。
室内でありながら白のフードを頭から被って椅子に腰掛けている。フードの所為で顔は見えないが、袖からは包帯が巻かれた腕が見えた。

得ていた情報通りの特徴にリグラは入り口前で止まり、向かうような位置で立つ。とりあえず彼の言葉に些か不快そうな表情をして返してみることにした。

「歓迎されに来た覚えはありませんよ。帝国ネフリタス第一王子スベン・ネフリタス」
「はは、こんな姿でも・・・・・・私だと分かりますか? 表に出たことはありませんでしたので、知らないと思ってましたが」

リグラの返答に対して笑いと共に口にする《復讐の壊滅者リベンジャー》───スベン・ネフリタスは両手を広げて歓迎するように見せるが、リグラは対した姿勢を崩すことはしない。

「帝国が君を養子に取ってから約四年が経っちましたが、一度たりとも公の場に姿を見せたことがありませんでした。それに噂では過去の怪我の所為で人目に晒せず隠している。そんな情報がある時点であなた自身が表に出られない、衆目に晒せない存在であることは大体察してました」
「ですが、疑問には思わなかったんですか? 私はこれでも男がいない王族からの、次期王として養子に選ばれた者ですよ?」
「その帝国も今では外部とは隔絶して、定期的な交流すら殆ど行ってない。さらに風の噂で皇帝が病で寝込んでいると言うではないですか? ここ数年の間にも第一王女と第二王女が謎の病で命を落としている。既に帝国はあなたの手中にあるんですね」
「ふふふっ、どうですかね?」

案内させたソフェルノを背後に控えさせ、不敵な余裕の笑みを浮かべるスベン。
リグラの問いかけに面白そうな声音で言うと軽く手を振った。

「それより聞かせて頂きたい。あなたがここにやって来た理由を」
「それは言わなくてもお分かりの筈です」

立ったまま座ろうとしないリグラの姿勢。
それが何をしに来たのか答えているようなものであった。

「国を脅かす君に自首を求めに来たんですよ」
「……、……、……ぷっ、あははははははははっ! 自首ですか!?  この私が!?  ふふふふっ、愚かな思考ですねぇー。戦略家でもただの魔法師でしかない。あなた一人でどうしようと?」

肩をすくめて視線を別に向けて目配せをするスベン。

───ズゥ……ズゥ……。

すると部屋の影から渦が発生する。
浮き出てくると次第に人の形へ姿を変えていく。

それは一つだけではない。
部屋の至る所にある影が膨らんで人の形が浮き出てきた。

「話に聞いた禁術ですか」

そして完全に出てきたところで、リグラはそれらを一瞥する。
出てきた者たちは十数名いる。その中にはリグラも知っている者が含まれていた。

「七罪獣の頭領《狂犬》デット、それにウルキアから逃走した《悪狼》と《死狼》、幹部の《暴狗》、《堕犬》の面々も揃えていたんですか」
「彼らだけではありません」

正気を失って剣を握り立つ面々の他にも、気になる顔もちらほら混じっている。

帝国Sランク冒険者。派生属性使いの《血雨》、魔槍使いの《槍喰い》、Aランクの剣術士《燕》、弓使い《鈴落》、有名な傭兵に帝国騎士も混じっていた。

「まだまだこちらの手駒は出尽くしてませんが、どうですか? この爽快な光景は?」
「禁術の乱用は大きなリスクを背負うことになる。そんなことはただの魔法師でも知っていることですが」
「会話は聞いていたので言っておきますが、拠点を移さなかったのは、その必要がないからです。そう、私は特別なんですよ? この力・・・がある限り私はただ待ち構えていればいい。この力があれば傀儡の生成に代償なんてなくなるんですよ!」

そう口にするスベンは手のひらに、宿っている淀んだ魔力をリグラに見せるように掲げた。

「…………シルバー・アイズの魔力ですか。それがあなたが選ばれた理由」

それを真剣な眼差しで見るとリグラは呟く。
スベンが操る傀儡の群れに囲まれた状況であるのに、冷静な声音でそう口にした。

「あなたが何者か、それは分かりませんが、それでも推測はできます。四年前に養子となった身分で彼の魔力を宿しているのであれば、考えられる可能性は二つ」

笑みを崩さないスベンを見据えて、リグラは自分の考えついたことを告げる。

「一つはあなたが元大戦経験者で戦時中にシルバーに討たれた場合。彼が帝国に攻め入った際に狙われて辛うじて生き残った場合です。もしその際に彼の魔法を直に浴びて、体内器官が彼の魔力を受け入れたとすれば。……それはありえなくない話だ。さらに二つ目として帝国に大量に降り注いだ彼の魔力。それを研究して利用する為に、帝国があなたを実験体にして運良く成功した素体だった時です。これについてもありえなくない可能性なので、私としてはこのどちらかだと思っています」

だが、どちらかなのは間違いない。言葉にはしないが、リグラは前者の可能性が高いと感じた。

「……ええ、まぁそんなところですよ。私はかつてシルバーの死闘に巻き込まれた雑兵の一人。即死しなかったのが不思議なくらいに死にかけましたが、そこを帝国の回収部隊に拾われたんです」

特に隠すつもりがないのか、リグラが気にしていたきっかけをいとも簡単に明かす。

「研究対象となった私は帝国で大量に降り注がれた魔力を無理体内に取り込まされて、どこまで耐え切れるか耐久実験を繰り返されましたが、死にかけた際に魔力を宿していた私は、その力を動力にして束縛を破り、シルバーの殲滅魔法で弱っていた帝国をあっさり手に入れました。彼が攻め入ったことで戦場には出ず、待機していた主力メンバーも殺されましたからかなり簡単でした……!」

「皇帝は死んだんですか? 王族の王女たちのように」

「いいえ、あの方は一応人形にしたまま、玉座に座らせています。あれでも顔は利きますから、まだ潜んでいる不安分子の反乱を抑えるのにも役に立ちます。第一第二王女たちは実験の失敗で亡くなりました。どうしても王族の血の可能性を確かめたかったんですが、成功したのは唯一第三王女だけ。彼女も些か不安定な状態ではありますが、それでも有効に使ってきました」

楽しげな声音でそう語る。
そのまったく後悔の色もない雰囲気で、口するスベンにリグラは眉間に皺を寄せて嫌悪感を覚えた。

「あなた自身もまた不安定なままでしょう? 取り込めたシルバーの魔力を完全に支配できない所為で、肉体が朽ち始めているようだ」
「ええ、だから必要なんですよ。この魔力チカラに耐えられる彼の肉体が……! その為に明日、決行させてもらいます」

決して譲れないそういった声音で言うスベン。
顔は見えないが、目的を果たす為には手段を選ばない。顔は見えなくても、リグラには彼の本気が感じ取れていた。

「話を聞いて疑問がいくつか晴れはしましたが……」

なのでリグラは立ちはだかる。
目的達成の際に起きる惨劇を回避する為に。

「それをさせると思いますか?」
「あなたに何ができますか? それとも外で控えている者たちの中に、私を抑えれるほどの者が混じっていると?」

既に館の外では、リグラが用意してきた騎士団が控えているが、その者たちのことも最初からスベンは把握している。かなりの数なのも分かっているが、スベンは動じた様子はない。

たとえ突入してきても排除することなど容易い。
自信以上の確信を持ちスベンは告げていた。

「確かに……いませんね」

僅かに視線を下にして言うリグラ。
確かに待機している騎士たちの中に今のスベンや、その傀儡たちを相手するほどの実力者はいない。

その中には出張できている団長や副団長クラスもいるが、彼らでもスベンの傀儡たちと死闘を繰り広げたら逆に傀儡にされかねない。男の言う通りリスクなく禁術を乱用できるのなら、ヘタに人員を投入すれば戦力を増加されてしまう危険があった。

しかし、これもリグラにとっては想定の範囲内である。
いや、寧ろ当然の展開であった。

最初からこの段階で控えているクロウたちを、突入させるつもりは彼にはなかった。

彼らを配置させているのは、館の外に被害が出ないようにする為の保険である。ここは王都の中である。この戦いで起きる余波が、どのように街の被害となってくるか警戒していたのだ。

もっとも、だからといってリグラは一人で対処するつもりなどもない。
戦力としては、ほぼ一般レベルの彼では勝てる可能性などあるはずもない。

(もう一つ保険をかけて、正解だったと言うわけですか)

なので彼は事前に集めていた情報から、利用が可能なものを見つけていたのだ。

この状況を打開できる可能性を秘めた、最強クラスの手札となる者を。



「確かに戦える存在はいませんよ。───彼女以外は・・・・・



「彼女? いったい誰のことを言って「クズが」───ッ!?」

声がしたと思った時には、スベンの首に一閃が入る。

『『────ッ!!』』

だが、ギリギリでその一閃は素早く守りに入った槍、剣、斧、鉈、棍棒に遮られる。

鋭い金属のぶつかり合う音が響く中、スベンの傀儡たちと均衡して刃を合わせる者が吐き捨てる。

「ふ、やはりクズですね。懐に入る刃をその者たちに守らせるなど怠惰な。あなたが何者か興味も失せるほどの外道ぶりですね?」

冷たい殺気が込められた女性の声。
いつの間に大穴が開いた天井から落ちた女性は、握る剣に殺意を乗せてぶつける。

「っ、あなたは……!!」

突如現れた女性の剣に一度は驚くが、改めて顔を見た途端に顔を引きつらせるスベン。

(大変頼りにはなりますが、やはり賭けにはなりますね)

女性を呼んだであろうリグラも頼もしいと思える反面。大騒動に発展しないか多少不安であった。

(ですが、ギルドレット・ワーカスが動けない以上、偶々見えていた彼女を頼る以外に選択肢はありません。彼と同格の彼女なら……たとえ我々にとっては絶望的な状況でも、『超越者』として圧倒することは間違いないのだから……)

黒い髪を伸ばして、上は着物を羽織るようにして付けている。
中は浴衣のような格好で軽装どころか戦闘装備にも見えないが、手元にある武器とはっきり分かる殺意を感じれば、戦闘の意思が大いにあるのは間違いなかった。

「虫唾が走る。なんて光景だ」

そして一度離れると女性は刀の刃をスベンに向ける。
スベンもこの者が相手である以上、呑気に座ってられないと背後のソフェルノに目線を送って立ち上がった。

「貴様に天罰を下してやる。我が刃で地獄へ落としてやろう」
「あなたに干渉した覚えはないんですが、相手がSSランク超越者ならこちらも覚悟を決める必要がありそうですね……」

無双の掃刀射ブレイド》、《無音瞬殺の斬殺者サイレント》、《千矢一刃を操る者マスター・ソルジャー》などと異名を持ち中でも《無双》と呼ばれている女性。

中立国『アルタイオン』が誇る剣士であり弓兵。
四人しかいないSSランク冒険者が一人。

《無双》のアヤメ・サクラ。

最強の剣士の登場であった。

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