オリジナルマスター
第4話 彼女が見つけた彼と動き出す暴王。
「っ!! 正体って……!」
いきなり何を言い出すのかと目を大きく開けるアイリス。
その間も前方では激しい光の柱が暴れて、バルトという男性の叫び声が聞こえるが、アイリスはそれよりもシィーナの声に意識を奪われていた。
『本当はここを無事に切り抜けた後にでも教えようかと思っていたんですが、状況が変わりました。あなたには教えておきますね』
「わたしだけ……?」
『ええ、それは他の者たちが知っているものとは違います。ここからの話は私しか知らない真実です』
つまり、ここからの話は今回参加している仲間たちすら知らない。
謎が多く本人すら知らないジーク・スカルスの真の正体だということになる。
しかし、だからこそ疑問に思う。
「どうしてこんな時に?」
そんな大事な話をなぜこのタイミングで告げようとするのか。
仮にシィーナがアイリスにだけ伝えようと考えていたのなら、話し合い時や他の時でもできた筈。
実際、本人も後で話そうと思っていたと言っている以上、なぜこのような緊張した場面で告げようとするのか、アイリスにはどうしても分からず疑問を投げかけると。
その疑問の察したシィーナから思わぬセリフが帰ってきた。
『今しかないからです。最悪の場合、このあとすぐに私は彼に殺されるかもしれないので』
「え……?」
どうしてそうなるのか、意味が分からないと彼女は首を傾げる。
話し合いの時もそう告げていたが、たとえ怒り狂うほど殺意を抱いたジークであっても、自分の師を殺すなんてするのだろうか、アイリスにはそれ信じられず大袈裟にも聞こえた。
僅か一年足らずであるが、それでも彼の性格をそれなりに知っているつもりだった。
彼が昔何をしたのか見当もつかないが、やる気のなさそうな表情の先には常に優しさもあったのを確かに感じていた。
それに自分が引きこもり親友のサナや学園の人たちから、イジメのような目に遭い続けても決して反撃しようとはせず、仕掛けられなくなるまで逃げてきたのだ。
そんな彼が師を殺そうと思うのかといえば、否と思うのが正直な気持ちだった。
そして一つ分かることもあった。
だが、まだ口にはしない。
ジークの師を信じてないわけではないが、この秘密は彼女が初めてジークと知り合った時から抱いていた疑問であった。
「そこまでしないと、彼を助けれないということですか?」
だから彼女はそう質問する。
もし自分と同じように彼女もまた知っているのであれば、この作戦がどれだけ無謀かも分かっているはず。
あの時、自分たちが必要だと口にしたあの言葉の真意を、今この時に聞けるのであれば知りたい。
アイリスはそう考えて、敢えて分かっている問いを投げることで彼女の返答を待った。
『…………まず初めに打ち明けますが』
そしてシィーナは告げる。
彼女が欲している回答の一つを。
『───私には…………彼を助ける術はありません』
アイリスの質問に一時沈黙したかと思えば、彼女の口からこの作戦の大部分である鍵の不在であることが告げられる。
『私ができるのはあくまで彼を本気で怒らせることだけ、そこから正気に戻して救う方法だけは持ち合わせてないんです』
それはこの作戦の無意味さの証明でもある。
どれだけ皆が動いたとしても、皆が共通として願う彼の救いだけは達成されないということなのだから。
裏切りとも言えるシィーナの言葉。
もしこの場で彼女の話を他の面々も聞いていれば一斉に彼女に、どういうことだと激怒するかもしれない。
そんな彼女の告白だったが、
「───やっぱり、そうなんですね」
『っ!』
その無慈悲な答えに対してアイリスは納得がいったと、怒気も悲しみもない声音で呟いた。
皆を巻き込んだことに対する憤りなども一切ない。
彼女は視線を光の柱へから変わった無数の光の奔流へと移しつつ、シィーナの言葉に耳を傾けた。
呟いた際、シィーナの方から微かに戸惑いような反応があったが、すぐにそれも無くなり落ち着いた声が返ってきた。
『そうでしたか、お気づきでしたか』
「はい、わたしも同じ結論に至りました。ですがそれはシィーナさんと同じことを知っているからだと思います」
ここからアイリスが口にするのは、彼女がこれまで疑問に思っていたこと全て。
誰にも尋ねられなかった問いかけであった。
しかし、今話しているジークの師であるシィーナであれば、その疑問にもしっかり答えてくれる。
アイリスにはそんな確証などない確信があった。
「シィーナさんもジークの魔力を感じ取れるんですよね?」
『……恐らくそれは、あなたほどではないと思います。この世界で彼の魔力を私のように半端に触れることができる者としっかり掴めれる存在がいます。そしてそれがあなたともう一人だけ』
「それがアティシアさん?」
『いえ、彼女ではありません。彼女はアイリスさんと同じでしたがもういません。私が上げたのはあなたもご存知ではないとある方です』
一体誰なのか、考えてみるがどうにも浮かばずシィーナの言う通り知らない人物なのかと納得することにしたアイリス。
『ですが、実はその人物こそが彼の正体に対して重要なんです。……時間がないので色々と省きますが、ジークの正体に触れるにはまず、世界の歴史と消えた歴史、生まれた原初と忘れた原初に触れる必要があります』
そしてそのとある人物について触れながら、シィーナはアイリスにジークとは関係なさそうな事柄について語りかけた。
『この世界の歴史には彼の出生と世界から抜けた歴史が関係してます。あなたは知らないと思いますが、この世界は何度も改変されています。しかもそれは特定の条件が重なる時だけ、一度目の改変は歴史書すらまだない時代』
『人々の中から魔法使いが誕生した時期でしょう。世界全体に満たされ使われてなかった魔力に人が干渉できるようにしたんです』
『本来は人が魔法を扱うことはできなかった。どれだけ知識を詰めても魔力を扱えれる器官がまだその頃の人類には存在してませんでしたが、そこでとある人物に関係する方が世界を改変した』
『それが一つ目の改変でしょう。結果、魔法使いが生まれましたが、それが同時にこのアンバランスな歴史への序章でもありました』
『二度目は魔物の誕生です。ただの自然生物しかいなかった世界に突然魔物が誕生したと記述された本もありますが、実際は動物たちの突然変異。その人物に関係がある者による改変により、人類と同じように魔力を受け入れる器官が生まれ、魔力を取り込んだことで変化したんです』
『三度目は多種族の誕生でしょう。生物はすべて共存すべきという気持ちからまた同じ流れである方が可能性を広げようと行ったんです。人類を改変させて人々の中に獣族、妖精族、魔族などへと変えてみせた。それも記憶と共に。だから多種族が誕生しても人類から疑問が生まれずそのまま歴史書に刻み込まれたんです』
『そして四度目、五度目と何度も改変がありました。その度に改変されて世界は少しずつ今へと近付きました。その結果、改変された回数は全部で九回。誰もそれを認識することはなく、歴史書に違和感を持つ者が現れても所詮は過去のこと、偶々載らなかっただけだと流されてきました。全ては世界だけでなく記憶まで改変されたからです』
『それともう一つ、その改変には記憶だけなく、他にも共通の違和感がありました』
『今説明したものにはありませんでしたが、他の改変の中には過去の改変をなかったことにしたり、以前改変した事柄に対して矛盾を生ませるような改変を行なったこともあったんです』
『そのことを私は学生だった頃に知りましたが、そこで思ったんです。もしかしたらこの改変を行なっている者たちは、必ずしも同じ理想を求めているわけではない』
『常に違うのは改変している人物が違うからでしょうが、その動機はそれぞれ別だったということです』
『その所為で歴史には大きな穴ができるようになりました。世界の人々の中にも私と同じようにおかしい、矛盾していると気づいた者も出てきました』
『しかし、その誰もがかつての記述や残っていた古代遺跡などを調べても答えを見つけることはありませんでした。ですが、それもそのはず、改変された物を見ても答えなど出るはずもない。答えを見つけるにはこの世界をおかしくした者を探す以外には方法などなかった』
『そうして私は見つけました。その人物の関係者であろう───彼を』
◇◇◇
───ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ!
「はぁ……」
胸の奥でそのモノの脈動を感じながら、自身を捕縛するうっとおしい黒い杭。そして封魔の魔法陣、Sランク魔法の精霊の歌を《消し去る者》が破壊し尽くして動けるようになった。
しかし、その代償は高くついたかもしれない。
その影響によって歪んだ大地、そして草から土までが彼を中心にして枯れている。
───ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ!
腐敗したのだ、彼の魔力によって。
そもそも彼の魔力というのは、放出する前にある段階に分けて調整し、素の魔力濃度を変えている。
彼の魔力の大元、原点は彼の真奥で無限に生成される源泉。
途切れることなど殆どなく、無くなろうとしてもすぐに生成されるが、素の魔力の水は非常に危険でそのまま外に流させない。
───ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ!
もしその素の魔力が地上に溢れれば、それだけで周囲の自然を殺して生物も殺してしまう。
幼少期、まだ師と出会っていなかった頃、調整の仕方も分からず自然に漏れ出してしまう魔力の所為で何度も場所を移り続けたジーク。
危険地域だったこともあり人間とは殆ど出会わなかったが、その分、自然動物や魔物などは近付いてくるだけで死んでいき、気づけば死体の山が出来ていたほどだった。
だが師であるシィーナとの修業のおかげもあって、彼は自身の魔力を段階に分けて調整し利用する方法を編み出した。
─── ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ!
そして、その術式を原初魔法を使い自身の魔力体に刻み込むことに成功した。
完全にではないが、彼が自分の魔力体に刻み込んだのは以下の工程であった。
まず、真奥から常時使える魔力に吸収、調整を行う為、術式に魔力を蓄えれる擬似的な魔力貯蔵庫とその貯蔵した魔力の濃度を下げる術式を加え込んだ。
─── ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ!
本来魔力を蓄える彼の魔力タンクは真奥と呼ぶそれであり、彼でも測りきれない器である。
だが、そのタンクそのものは常時魔力が生成され彼の身体の深くに存在する。未だに謎が多く術式が届かず消し去られてしまう為、そこに刻み込まれるほどの術式を施すのが非常に困難で、無限に近い魔力全ての濃度を薄めるのは不可能であったのだ。
そして次に身体に巡回させる魔力。
擬似的に創り上げた魔力タンクからの魔力を身体に巡らせることで、素の魔力を外に漏れないように結界膜のような物をしたのだ。
ちなみに三回のみ使用可能な《消し去る者》の特殊技法は、その工程の大技と言える。
一段階目の吸収の際により多くの魔力を組み上げて、擬似魔力タンクに入れるが、その際に一気に濃度を薄める術式を起動させて、強引かつ瞬間的に使えるようにしている。
だが、やはり強引な方法である為、使用者の反動が強くジークでも一日に三回が限界であった。
────ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ!
簡単に言うなら普段は彼自身も免疫のある毒を使用しているが、瞬間的にだけ免疫が効きにくい劇毒を身体一杯に入れるようなもの。
もちろんすぐに劇毒から彼には無害な毒に切り替わるが、その前の反動で身体全体に大きな負荷がかかってしまうのだ。
─── ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ!
「思ったよりも……よろしくなさそうだな」
そしてさっきまでジークが放出したのは、擬似魔力タンクで調整がされた魔力。
地上に漏れてもそれほど問題にはならないが、その調整された魔力であっても注ぎ続ければ有害となる。
───ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ!
今回は量が多く対象が精霊であったこともあり、異常に魔力そのものが殺気だっていた。
その証拠に封魔のチカラがなくているのに、使用者であるジークを無視してオロチのような姿をした魔力のオーラは暴れ続けようする。
恐らくだが、術者であるカグヤを探しているのだろう。
イラついた様子で精霊のチカラを失った結界を突破しようとする複数のオロチ。
─── ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ!ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ──────ドッッ……クンッッ!!!!
「いい加減、落ち着け」
そこを再び結界の支配権を取り戻したジークが抑えるように告げる。
言葉を理解しているのか怪しいが、そこで動きを止まり胸の奥から破裂しそうな巨大な脈動が収まった。
「ふぅーー」
そして放出した巨大な魔力オーラのオロチを、身体の中に取り込むと全身へ巡回させていく。
上手く馴染んだのか、膨れ上がっていたオーラは引き込み。代わりに薄い魔力のオーラが体から少しだけ出てくる。
「……!!」
「ッ! ──まじかよ……!」
先ほど違い衰えたようにも見えるが、そんな彼を見ていたバルトとデンの背筋に緊張が走る。
一応距離を取って見ていたが、彼らにはその距離もないに等しかった。
「───さてと…………反撃するか」
何故なら今、彼らの前に立つジークにはもう遠慮の気持ちなどない。
「アンタたちの実力は知っている。だから加減はないと思ってくれ」
付き合いの長く実力もSSランクに近い二人であれば、これからの自分の攻撃にも耐え切れる。
「火炎よ纏え『火炎王の極衣』───」
そう確信するとジークは満たされている魔力を操り、最高ランクSの火系統の身体強化を発現させる。
その魔法によってジークの髪は燃えるように赤く染まり、身体中には赤い模様が付き薄い火系統のオーラを纏った。
「来るぞっ!」
「……!」
彼の変化にバルトとデンはサッと武器を構える。
サナたちを置いて前に出たが、まだ距離は取っている。
だが、少しも油断できないのは見てみれば分かってしまう。そんな印象が今のジークに確かにあった。
「どういうつもりだ?」
「……何がだ」
───しかし、その警戒した彼らをジークは蔑むような目で見る。
どうしてそんな目で見てくるのか、内心首を傾げるバルトであったが、それでも警戒は緩めないまま、彼の言葉を待つが、
「分からないのか」
「───っっ!?」
「───!!」
いつの間にか彼らの前に立つジーク。
意識を逸らしていたつもりなどなく、常に警戒していた二人であったが、その急な接近にはまったく気づけなかった。
(まさか『跳び兎』! だが、全然見えなかった! Sランクの身体強化で脚力も数段上がっているのか!! )
先ほど彼が立っていた場所からここまでに僅かに残っている、視認できるレベルの魔力の残滓から予想を立てたバルト。
だが、予想はできても立証はできない。
格闘戦が得意であるバルトの眼には何も見えず、接近する気配すら感じ取ることもできなかったのだから。
「っ!」
「ぐ、デ──」
そして彼の急接近の後も無防備なまま、反応すらできないバルトの体を腕で飛ばしたデンが前に出る。
飛ばされたバルトからの呼びかけも無視して、己の大剣を振り上げてジークを、
「その姿じゃ俺には勝てないぜ──《竜王》」
振り下ろす間も無く、伸びてきた火の手刀で大剣を持つ腕を切られ。
その衝撃で上体が傾きそうになったところで胸元に火の拳を一発。
その身は青き鎧で守られていたが、鎧の強度など彼の拳の前では土塊の程度のように砕かれ。
そして吸い込むように胸元へ大きく抉るように拳を入れる。
「……!!」
「じゃあな」
その一撃を受けたデンの身体は大きく後ろへ飛び。
そのまま囲っている結界へ衝突してデンの身体は、ズルズルと結界から地面へ引きずるように落下した。
そしてその後、意識が飛んだか痛みで動けないのかデンが起き上がることはなかった。
「デン……!」
そんな彼を起き上がっていたバルトは辛そうに声を出す。
自分のミスで仲間を危険に晒してしまったことに対する後悔か、それともこの無謀な作戦に参加したことに対する後悔か。
それとも───
「今の攻撃の前、俺を迎え撃つ為の戦闘体勢に入る時間はあった筈だ。なのにアンタたちはそれをせず、馬鹿面のまま俺の前に立った」
早々に本気で挑みに行くべきであったことへの後悔か。
バルトは混乱しそうになる頭を手で掻き少しでも冷静になろうとする。
「これが舐めている以外に何になる?  本気の俺と本気でやるならさっさと本気の姿でこい」
しかし、殺気に混じった魔力がバルトの精神を圧迫させた。
いきなり何を言い出すのかと目を大きく開けるアイリス。
その間も前方では激しい光の柱が暴れて、バルトという男性の叫び声が聞こえるが、アイリスはそれよりもシィーナの声に意識を奪われていた。
『本当はここを無事に切り抜けた後にでも教えようかと思っていたんですが、状況が変わりました。あなたには教えておきますね』
「わたしだけ……?」
『ええ、それは他の者たちが知っているものとは違います。ここからの話は私しか知らない真実です』
つまり、ここからの話は今回参加している仲間たちすら知らない。
謎が多く本人すら知らないジーク・スカルスの真の正体だということになる。
しかし、だからこそ疑問に思う。
「どうしてこんな時に?」
そんな大事な話をなぜこのタイミングで告げようとするのか。
仮にシィーナがアイリスにだけ伝えようと考えていたのなら、話し合い時や他の時でもできた筈。
実際、本人も後で話そうと思っていたと言っている以上、なぜこのような緊張した場面で告げようとするのか、アイリスにはどうしても分からず疑問を投げかけると。
その疑問の察したシィーナから思わぬセリフが帰ってきた。
『今しかないからです。最悪の場合、このあとすぐに私は彼に殺されるかもしれないので』
「え……?」
どうしてそうなるのか、意味が分からないと彼女は首を傾げる。
話し合いの時もそう告げていたが、たとえ怒り狂うほど殺意を抱いたジークであっても、自分の師を殺すなんてするのだろうか、アイリスにはそれ信じられず大袈裟にも聞こえた。
僅か一年足らずであるが、それでも彼の性格をそれなりに知っているつもりだった。
彼が昔何をしたのか見当もつかないが、やる気のなさそうな表情の先には常に優しさもあったのを確かに感じていた。
それに自分が引きこもり親友のサナや学園の人たちから、イジメのような目に遭い続けても決して反撃しようとはせず、仕掛けられなくなるまで逃げてきたのだ。
そんな彼が師を殺そうと思うのかといえば、否と思うのが正直な気持ちだった。
そして一つ分かることもあった。
だが、まだ口にはしない。
ジークの師を信じてないわけではないが、この秘密は彼女が初めてジークと知り合った時から抱いていた疑問であった。
「そこまでしないと、彼を助けれないということですか?」
だから彼女はそう質問する。
もし自分と同じように彼女もまた知っているのであれば、この作戦がどれだけ無謀かも分かっているはず。
あの時、自分たちが必要だと口にしたあの言葉の真意を、今この時に聞けるのであれば知りたい。
アイリスはそう考えて、敢えて分かっている問いを投げることで彼女の返答を待った。
『…………まず初めに打ち明けますが』
そしてシィーナは告げる。
彼女が欲している回答の一つを。
『───私には…………彼を助ける術はありません』
アイリスの質問に一時沈黙したかと思えば、彼女の口からこの作戦の大部分である鍵の不在であることが告げられる。
『私ができるのはあくまで彼を本気で怒らせることだけ、そこから正気に戻して救う方法だけは持ち合わせてないんです』
それはこの作戦の無意味さの証明でもある。
どれだけ皆が動いたとしても、皆が共通として願う彼の救いだけは達成されないということなのだから。
裏切りとも言えるシィーナの言葉。
もしこの場で彼女の話を他の面々も聞いていれば一斉に彼女に、どういうことだと激怒するかもしれない。
そんな彼女の告白だったが、
「───やっぱり、そうなんですね」
『っ!』
その無慈悲な答えに対してアイリスは納得がいったと、怒気も悲しみもない声音で呟いた。
皆を巻き込んだことに対する憤りなども一切ない。
彼女は視線を光の柱へから変わった無数の光の奔流へと移しつつ、シィーナの言葉に耳を傾けた。
呟いた際、シィーナの方から微かに戸惑いような反応があったが、すぐにそれも無くなり落ち着いた声が返ってきた。
『そうでしたか、お気づきでしたか』
「はい、わたしも同じ結論に至りました。ですがそれはシィーナさんと同じことを知っているからだと思います」
ここからアイリスが口にするのは、彼女がこれまで疑問に思っていたこと全て。
誰にも尋ねられなかった問いかけであった。
しかし、今話しているジークの師であるシィーナであれば、その疑問にもしっかり答えてくれる。
アイリスにはそんな確証などない確信があった。
「シィーナさんもジークの魔力を感じ取れるんですよね?」
『……恐らくそれは、あなたほどではないと思います。この世界で彼の魔力を私のように半端に触れることができる者としっかり掴めれる存在がいます。そしてそれがあなたともう一人だけ』
「それがアティシアさん?」
『いえ、彼女ではありません。彼女はアイリスさんと同じでしたがもういません。私が上げたのはあなたもご存知ではないとある方です』
一体誰なのか、考えてみるがどうにも浮かばずシィーナの言う通り知らない人物なのかと納得することにしたアイリス。
『ですが、実はその人物こそが彼の正体に対して重要なんです。……時間がないので色々と省きますが、ジークの正体に触れるにはまず、世界の歴史と消えた歴史、生まれた原初と忘れた原初に触れる必要があります』
そしてそのとある人物について触れながら、シィーナはアイリスにジークとは関係なさそうな事柄について語りかけた。
『この世界の歴史には彼の出生と世界から抜けた歴史が関係してます。あなたは知らないと思いますが、この世界は何度も改変されています。しかもそれは特定の条件が重なる時だけ、一度目の改変は歴史書すらまだない時代』
『人々の中から魔法使いが誕生した時期でしょう。世界全体に満たされ使われてなかった魔力に人が干渉できるようにしたんです』
『本来は人が魔法を扱うことはできなかった。どれだけ知識を詰めても魔力を扱えれる器官がまだその頃の人類には存在してませんでしたが、そこでとある人物に関係する方が世界を改変した』
『それが一つ目の改変でしょう。結果、魔法使いが生まれましたが、それが同時にこのアンバランスな歴史への序章でもありました』
『二度目は魔物の誕生です。ただの自然生物しかいなかった世界に突然魔物が誕生したと記述された本もありますが、実際は動物たちの突然変異。その人物に関係がある者による改変により、人類と同じように魔力を受け入れる器官が生まれ、魔力を取り込んだことで変化したんです』
『三度目は多種族の誕生でしょう。生物はすべて共存すべきという気持ちからまた同じ流れである方が可能性を広げようと行ったんです。人類を改変させて人々の中に獣族、妖精族、魔族などへと変えてみせた。それも記憶と共に。だから多種族が誕生しても人類から疑問が生まれずそのまま歴史書に刻み込まれたんです』
『そして四度目、五度目と何度も改変がありました。その度に改変されて世界は少しずつ今へと近付きました。その結果、改変された回数は全部で九回。誰もそれを認識することはなく、歴史書に違和感を持つ者が現れても所詮は過去のこと、偶々載らなかっただけだと流されてきました。全ては世界だけでなく記憶まで改変されたからです』
『それともう一つ、その改変には記憶だけなく、他にも共通の違和感がありました』
『今説明したものにはありませんでしたが、他の改変の中には過去の改変をなかったことにしたり、以前改変した事柄に対して矛盾を生ませるような改変を行なったこともあったんです』
『そのことを私は学生だった頃に知りましたが、そこで思ったんです。もしかしたらこの改変を行なっている者たちは、必ずしも同じ理想を求めているわけではない』
『常に違うのは改変している人物が違うからでしょうが、その動機はそれぞれ別だったということです』
『その所為で歴史には大きな穴ができるようになりました。世界の人々の中にも私と同じようにおかしい、矛盾していると気づいた者も出てきました』
『しかし、その誰もがかつての記述や残っていた古代遺跡などを調べても答えを見つけることはありませんでした。ですが、それもそのはず、改変された物を見ても答えなど出るはずもない。答えを見つけるにはこの世界をおかしくした者を探す以外には方法などなかった』
『そうして私は見つけました。その人物の関係者であろう───彼を』
◇◇◇
───ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ!
「はぁ……」
胸の奥でそのモノの脈動を感じながら、自身を捕縛するうっとおしい黒い杭。そして封魔の魔法陣、Sランク魔法の精霊の歌を《消し去る者》が破壊し尽くして動けるようになった。
しかし、その代償は高くついたかもしれない。
その影響によって歪んだ大地、そして草から土までが彼を中心にして枯れている。
───ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ!
腐敗したのだ、彼の魔力によって。
そもそも彼の魔力というのは、放出する前にある段階に分けて調整し、素の魔力濃度を変えている。
彼の魔力の大元、原点は彼の真奥で無限に生成される源泉。
途切れることなど殆どなく、無くなろうとしてもすぐに生成されるが、素の魔力の水は非常に危険でそのまま外に流させない。
───ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ!
もしその素の魔力が地上に溢れれば、それだけで周囲の自然を殺して生物も殺してしまう。
幼少期、まだ師と出会っていなかった頃、調整の仕方も分からず自然に漏れ出してしまう魔力の所為で何度も場所を移り続けたジーク。
危険地域だったこともあり人間とは殆ど出会わなかったが、その分、自然動物や魔物などは近付いてくるだけで死んでいき、気づけば死体の山が出来ていたほどだった。
だが師であるシィーナとの修業のおかげもあって、彼は自身の魔力を段階に分けて調整し利用する方法を編み出した。
─── ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ!
そして、その術式を原初魔法を使い自身の魔力体に刻み込むことに成功した。
完全にではないが、彼が自分の魔力体に刻み込んだのは以下の工程であった。
まず、真奥から常時使える魔力に吸収、調整を行う為、術式に魔力を蓄えれる擬似的な魔力貯蔵庫とその貯蔵した魔力の濃度を下げる術式を加え込んだ。
─── ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ!
本来魔力を蓄える彼の魔力タンクは真奥と呼ぶそれであり、彼でも測りきれない器である。
だが、そのタンクそのものは常時魔力が生成され彼の身体の深くに存在する。未だに謎が多く術式が届かず消し去られてしまう為、そこに刻み込まれるほどの術式を施すのが非常に困難で、無限に近い魔力全ての濃度を薄めるのは不可能であったのだ。
そして次に身体に巡回させる魔力。
擬似的に創り上げた魔力タンクからの魔力を身体に巡らせることで、素の魔力を外に漏れないように結界膜のような物をしたのだ。
ちなみに三回のみ使用可能な《消し去る者》の特殊技法は、その工程の大技と言える。
一段階目の吸収の際により多くの魔力を組み上げて、擬似魔力タンクに入れるが、その際に一気に濃度を薄める術式を起動させて、強引かつ瞬間的に使えるようにしている。
だが、やはり強引な方法である為、使用者の反動が強くジークでも一日に三回が限界であった。
────ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ!
簡単に言うなら普段は彼自身も免疫のある毒を使用しているが、瞬間的にだけ免疫が効きにくい劇毒を身体一杯に入れるようなもの。
もちろんすぐに劇毒から彼には無害な毒に切り替わるが、その前の反動で身体全体に大きな負荷がかかってしまうのだ。
─── ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ!
「思ったよりも……よろしくなさそうだな」
そしてさっきまでジークが放出したのは、擬似魔力タンクで調整がされた魔力。
地上に漏れてもそれほど問題にはならないが、その調整された魔力であっても注ぎ続ければ有害となる。
───ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ!
今回は量が多く対象が精霊であったこともあり、異常に魔力そのものが殺気だっていた。
その証拠に封魔のチカラがなくているのに、使用者であるジークを無視してオロチのような姿をした魔力のオーラは暴れ続けようする。
恐らくだが、術者であるカグヤを探しているのだろう。
イラついた様子で精霊のチカラを失った結界を突破しようとする複数のオロチ。
─── ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ!ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ──────ドッッ……クンッッ!!!!
「いい加減、落ち着け」
そこを再び結界の支配権を取り戻したジークが抑えるように告げる。
言葉を理解しているのか怪しいが、そこで動きを止まり胸の奥から破裂しそうな巨大な脈動が収まった。
「ふぅーー」
そして放出した巨大な魔力オーラのオロチを、身体の中に取り込むと全身へ巡回させていく。
上手く馴染んだのか、膨れ上がっていたオーラは引き込み。代わりに薄い魔力のオーラが体から少しだけ出てくる。
「……!!」
「ッ! ──まじかよ……!」
先ほど違い衰えたようにも見えるが、そんな彼を見ていたバルトとデンの背筋に緊張が走る。
一応距離を取って見ていたが、彼らにはその距離もないに等しかった。
「───さてと…………反撃するか」
何故なら今、彼らの前に立つジークにはもう遠慮の気持ちなどない。
「アンタたちの実力は知っている。だから加減はないと思ってくれ」
付き合いの長く実力もSSランクに近い二人であれば、これからの自分の攻撃にも耐え切れる。
「火炎よ纏え『火炎王の極衣』───」
そう確信するとジークは満たされている魔力を操り、最高ランクSの火系統の身体強化を発現させる。
その魔法によってジークの髪は燃えるように赤く染まり、身体中には赤い模様が付き薄い火系統のオーラを纏った。
「来るぞっ!」
「……!」
彼の変化にバルトとデンはサッと武器を構える。
サナたちを置いて前に出たが、まだ距離は取っている。
だが、少しも油断できないのは見てみれば分かってしまう。そんな印象が今のジークに確かにあった。
「どういうつもりだ?」
「……何がだ」
───しかし、その警戒した彼らをジークは蔑むような目で見る。
どうしてそんな目で見てくるのか、内心首を傾げるバルトであったが、それでも警戒は緩めないまま、彼の言葉を待つが、
「分からないのか」
「───っっ!?」
「───!!」
いつの間にか彼らの前に立つジーク。
意識を逸らしていたつもりなどなく、常に警戒していた二人であったが、その急な接近にはまったく気づけなかった。
(まさか『跳び兎』! だが、全然見えなかった! Sランクの身体強化で脚力も数段上がっているのか!! )
先ほど彼が立っていた場所からここまでに僅かに残っている、視認できるレベルの魔力の残滓から予想を立てたバルト。
だが、予想はできても立証はできない。
格闘戦が得意であるバルトの眼には何も見えず、接近する気配すら感じ取ることもできなかったのだから。
「っ!」
「ぐ、デ──」
そして彼の急接近の後も無防備なまま、反応すらできないバルトの体を腕で飛ばしたデンが前に出る。
飛ばされたバルトからの呼びかけも無視して、己の大剣を振り上げてジークを、
「その姿じゃ俺には勝てないぜ──《竜王》」
振り下ろす間も無く、伸びてきた火の手刀で大剣を持つ腕を切られ。
その衝撃で上体が傾きそうになったところで胸元に火の拳を一発。
その身は青き鎧で守られていたが、鎧の強度など彼の拳の前では土塊の程度のように砕かれ。
そして吸い込むように胸元へ大きく抉るように拳を入れる。
「……!!」
「じゃあな」
その一撃を受けたデンの身体は大きく後ろへ飛び。
そのまま囲っている結界へ衝突してデンの身体は、ズルズルと結界から地面へ引きずるように落下した。
そしてその後、意識が飛んだか痛みで動けないのかデンが起き上がることはなかった。
「デン……!」
そんな彼を起き上がっていたバルトは辛そうに声を出す。
自分のミスで仲間を危険に晒してしまったことに対する後悔か、それともこの無謀な作戦に参加したことに対する後悔か。
それとも───
「今の攻撃の前、俺を迎え撃つ為の戦闘体勢に入る時間はあった筈だ。なのにアンタたちはそれをせず、馬鹿面のまま俺の前に立った」
早々に本気で挑みに行くべきであったことへの後悔か。
バルトは混乱しそうになる頭を手で掻き少しでも冷静になろうとする。
「これが舐めている以外に何になる?  本気の俺と本気でやるならさっさと本気の姿でこい」
しかし、殺気に混じった魔力がバルトの精神を圧迫させた。
「ファンタジー」の人気作品
書籍化作品
-
-
2
-
-
63
-
-
140
-
-
58
-
-
221
-
-
34
-
-
0
-
-
149
-
-
55
コメント