オリジナルマスター

ルド@

第2話 逃げ場がなくても抗う。

「……!」

持ち手の長い大剣を構えるデンが動き出す。

重さなを感じさせない剣回しをして、その勢いのまま振り抜いた。

その瞬間、彼とデンとの間の地盤が大きく抉れる。

それは異常なまでのデンのパワーによって発生した剣圧。
凄まじい衝撃波となって地面を抉るようにしてジークへと迫った。

「───っ!」

その剣圧をジークは横に飛んで躱したが、その衝撃波でバルトを拘束していた『零の透鎖ノーマル・チェーン』が破壊されてしまう。

「よし、今度はオレだぁ!」

それを待っていたようにバルトも仕掛ける。
瞬時に手のひらに魔法陣を展開させ、巨大な大鎚を召喚させると。

「吹っ飛べーーッ!!」

大きく振り構えてデンに注意を払っていたジークに力任せにして振り投げる。
適当に投げたように見えるが、バルトが投げた大鎚は狙いであるジークへと飛ぶ。

「な……ぐぁ!?」

躱せれないと感じ咄嗟に魔力で障壁を張るジークだが、筋力を上げられて投げた大鎚の衝撃は大き過ぎた。

衝撃によって躰が後方へ飛ばされてしまい、受け身も取る暇もなく倒れて込んでしまう。

しばらくダメージで呻いくが、その中でも上体を起こして不意に息を吐いて呟いた。

「うっ、ホント容赦ないな……!」

両手をついた状態でジークはバルトとデンを見ながら肩をすくめる。
学園に入ってから今日まで色んな相手と戦ってきたが、ここまで苦戦を強いられたのは初めてであった。

───否、これも昔の彼からしたら日常の一部に過ぎなかった。

彼が自覚している以上に、彼の体は魔力とは関係なく各自に弱くなっていた


(くっ!? またか!)

とその時、頭の中で鳴り渡る。
仕掛けていた『危機予測イレギュラー・カット』の警告音が彼の動きを止める。

(今度はなんだ!? どこから来る!?)

そして事態をすぐに知らせる。
同時に彼らが立つ大地が一瞬にして赤き光に照らされた。

「───な」

夜の闇が跡形もなく消えたのだ。よく知るあの者の手によって。

「じょ、冗談だろう師匠っ!?  」

起きている現象を見て唖然とする。
流石にこれは冗談のはずだと信じたい気持ちの裏腹に、あの天然の師であれば弟子の為などと考えて起こしかねなかった。

「───『神隠し』っ!!」

すぐに腕輪の魔道具『神隠し』を発動させる。
本来『神隠し』の存在をしている面々の前で使用するのは危険な行為ではあるが、今回はそうも言ってられない。

なにせ自分どころか離れたところに呆然と立っているアイリスやサナにまで届いてしまう。

己の師の星魔法『流れ着く赤色の巨星ミーティア・ベテルギウス』の超大玉の魔力球が火吹き上げて、隕石のように落ちてきたのだ。

「おおおおおおおおーー!!」

これには流石のジークも本気の守りに入る。
出せるだけの魔力を全解放させて『神隠し』に注ぐ。

また相手側からの妨害が考えられたが、それはなく駆け出していたデンとバルトも、その様子を無言で見ているだけである。

(バルトめ! 俺を読み取る気か!!)

それが何を意味するのか分かってしまうが、もう止まれない。

『神隠し』を瞬時に操作して、自身の望む魔石スロットを選択する。
そして魔力が貯め切ったところを確認して魔法を解放させた。

(『火の大円高壁ファイア・サークルロングフォール』『水の大円高壁アクア・サークルロングフォール』『風の大円高壁ウィンド・サークルロングフォール』『土の大円高壁アース・サークルロングフォール』『雷の大円高壁サンダー・サークルロングフォール』『光の大円高壁ライト・サークルロングフォール』『闇の大円高壁ダーク・サークルロングフォール』ーー!!!!)

七色の巨大なドーム状の障壁がジークとアイリス、サナを覆うように展開される。
七重障壁とも言うべきか、ジークが展開させたその障壁は間違いなく最強クラスの障壁である。

たとえSランク魔法であっても貫くことは叶わない。


そう万全であったのだ。
それがこちらを狙う攻撃系の魔法であれば。

「───? 消えた……?」

巨大な火の玉が結界に接触する瞬間に事態は一変する。

頭上高くから落ちてきた存在感の溢れる『流れ着く赤色の巨星ミーティア・ベテルギウス』はまるで役目を終えたかのように消失したのだ。

「なぜ……」

太陽のような巨大な球体の消失により、再び夜空は舞い戻り辺りは闇が復活したが、今度は完全な闇ではない。

(見せかけ? いや、確かに発現さていた。……なら、直前で解除したのか、けどなんで……)

狙いが分からないそんな顔でジークは空を眺めていたが、ふと張っていた結界を操作しようとしてみた。

「ッ!!」

そして異変にすぐに気づくことになる。
己の魔法で張っていた筈の結界の操作が、なんの冗談か行えれなくなっていたのだ。

ジークの意思に関係なく彼が張った七重障壁は、使い手である彼を閉じ込めてしまったのだ。

自身の結界によって閉じ込めれた。
操作がまったく利かず慌てるかと思えば、呆然としている思考は静かなまま分析していた。

(バルトが俺に化けて・・・・・支配権を奪った? いや、まだ能力は使っていない。一体誰が…………アレは)

まさかと思いバルトの方へと顔を向けたが、何かした様子はない。
さらによく結界を見るとその表面に身に覚えのない魔法陣がいくつも貼られている。

(魔法式を追加している? けど何を)

複雑そうにも見えるが、それは彼が知らないだけだと分かると、その魔法陣の正体が精霊の魔法陣であるのだと認識する。

「そうか、嵌められたのか、俺は」

そこでやっと『流れ着く赤色の巨星ミーティア・ベテルギウス』が囮であった理由に気づく。

この魔法を師匠が使ったのは自分を逃がさない為。
彼の逃走、そして暴走した際に抑えておける結界のうちの一つを彼に作らせたのだ。

「随分間抜けなミスをしたな」
「ああ、まったくだ。久しぶりに師匠の『星』の魔法を見て、思わず本気で守りに入ってしまった」

(いや、近くにいる彼女たちがいたからそう動かされたのかもしれない)

と、複雑な気持ちで結界を覗く彼の表情を見て、バルトは笑みを浮かべて口にする。

片方の眼は眼帯で隠されているが、もう片方の眼は腹ただしいほど楽しげである。

「支配権を奪ったのはカグヤさんか」
「ああ、精霊魔法『儀式結界・王位の陣』だ。精霊関係との相性が悪いのが仇となったな」

ジークに問いかけにあっさり答えるバルト。
否定する必要もないのか、両手を広げて周囲の結界を指していた。

「対象となる地脈、魔法などを触媒にすることで発動させ地の利を得る精霊魔法。確かにこれなら俺の原初魔法にも干渉が可能か。精霊の魔法であるなら《竜王》のデンさんにも良いわけか」

ここまですべて誘導されていた。
彼の魔法を触媒にすれば確かに強力な結界ができる。

それも精霊魔法でできた結界だ。
彼に打ってつけであるのは明らかであった。

(本気で吹き飛ばそうとすれば破壊も可能かもしれないが、その場合だと街の安全は保証できない。それにカムさんの魔法で空間移動と身体強化を封じられている)

ジークは魔眼でカグヤの位置を把握するが、彼女は結界の外でこれでは干渉は厳しい。
現状、脱出するのはほぼ不可能となっていた。

「まぁあれだ、そう警戒するなよ。久々の再会なんだ楽しくいこうぜ?」
「こんなことしても意味はないぞ?」

仲良さげに近付いてくるバルトを、話にならないといった様子でジークが切り捨てる。
彼らがこうして出てきた目的など考えるまでもなかった。

この日を狙ったのは予知で何かを見たのだろう。
以前から危惧されていた彼の魔力暴走を無謀にも処理しに来たのだ。

彼を助けるために。

(けど、無理だ。それだけは絶対に)

だからこそジークはその救いの手を払い除ける。

「手を出すなと言った筈。これは俺自身の問題だ」

このことは前々から師から警告されていた。
彼の魔力は感情に影響しやすく、厄介なことに怒り憎しみに酷く引っ張られる。ジークの師はそれを恐れていたが、ジークはこれだけは自分で解決したいと常々拒否してきた。

「頼むから余計なことをしないでくれ。頼むから…………もう帰ってくれ」

切なそうな表情でジークは願う。
これ以上この問題で誰も犠牲を出したくないのが彼の本音だった。

(あんな想いは……もうたくさんなんだ)

あの大戦で生み出された犠牲。
それだけでもう十分懲りたのである。

「残念だが、それこそ無理な相談だ。もうお前だけの問題じゃなくない、お前が呑気に平和な日常を満喫している間に事態はお前が考えているよりも深刻化してるんだよ」

だが、バルトの方も引こうとはしない。
少々からかうような仕草と言動で述べると両手から武器召喚の魔法陣を展開させて、両手に片刃の斧と一本槍を構える。

「深刻化? ……例の魔導師ことか? 奴が何者か知っているのか?」

その様子を見ながらジークは引っかかる単語を呟く。

今この街で起きていることを考えれば間違いなく例の魔導師が怪しい。
情報も少なく誰なのか検討も付かないが、バルトたちが何か握っているのだとすれば是非知っておきたいことだった。

「話してやりたいところだが、正直今のお前には話すのは控えたいな。どんな影響を与えるかよく分からんからな」
「試してみてもいいだろ。どうせ最終的にこっちが全部聞き出すんだからな」

何より時間を稼ぎたい状態でもあった。
結界が変化した途端からであった。彼の体にも変化が起きていた。

(っ! 体重い。精霊結界の影響、いやカグヤさんの遠隔操作か)

フラつくほどではないが、確かに体が重く感じる。
恐らく結界を操っているであろうカグヤがジークに対して、何かしらの妨害魔法を加えているのだろう。

だが、それだけではない。

(魔力の流れが鈍い? 通常のコントロールが落ちている)

バルトのように武器召喚の魔法陣を展開させて武器を呼び出そうとしたのだが、術の作用がどうにも鈍く感じてしまう。

一応武器を召喚することはできたが、この結界は彼の魔法を弱める効果もあるのだと理解できる。

「流石にキツイな。さっさと結界をどうにかしないとマズイか」

そして両手に合わせて十本の短剣を刃を摘むようにしてジークは構える。

幸いここまでバルト以外からも妨害を受けてはない。
様子見かそれともバルトに一任しているか分からないが、その間にここを切り抜ける案を考えねばならない。

「随分強気だな? 本当はしんどくて辛いじゃないのか?」
「へぇ? そう見えるのか?」

とりあえずまだベラベラと喋っているバルトの話を聞きながら、打開案を検討しようするが。

「お前が思っている以上に時間がないんだ。だからそこにいるお嬢ちゃんたちにも協力を───ッ!」

そこまで言いかけたところでジークから短剣が飛ぶ。
迷うことなく放たれた十本の短剣は、それぞれバルトの四肢を、関節部を狙う攻撃だ。

「聞けよ」

しかし、その短剣はすべてバルトに届くことはない。
焦ることもないバルトの槍さばきによって呆気なく撃ち落とされる。

そこからバルトも片方の斧を使いブーメランのようにしてジークへ投げつける。

そして慣れたような手つきで投げられ回転して迫る斧を、ジークは軽く手を伸ばした。

「今はいい。どうせ後で聞き出す」

飛んできた斧の刃の部分を正確に掴んで止めた。
鋭い視線をバルトに向けたまま、斧にヒビが入りそうして砕け散った。

「ほぅ」

感心した様に声を漏らすバルト。
いきなり投げてきてキレたのか思ったが、まだ冷静な様子だ。

「だからあまり俺を刺激するような真似はしない方いい。後悔するのはそっちだぞ?」

その心情までは分からないが、少なくても持っている斧を漏れ出している魔力と握力で砕いたみせたところを見ると、

(完全にキレてはないが、影響はあったか)

つい言ってみたことだが、十分効果はあったようだと理解するバルト。

「利用できるものは利用しないとな。オレらにも余裕がないんだわ」
「巻き込むのか?  一人はアティシアの形見だぞ」
「だからさ。彼女ならお前の心の……ッて!?」

新たに出現させた剣を一本飛ばして撃ち落としてみせる。
その際、デンやカム、カグヤからの妨害が一切ないが、それはつまりこの場で戦えと言っているようにもジークは感じてしまう。

「それが余計なんだよ……!」

武器類では効果が薄いとジークは手から風属性の専用技『翠風の音曝砲グリーン・バズーカ』を放つ。

「おっ!」

その風の砲弾をバルトは新たに取り出した二本の剣で防ぐ。
前までの攻撃に比べ威力が高くバルトも身体をグラついてしまうが、上手く外側に流すように受け流す。

そしてジークに向かって斬りに行く。
身体強化が使えない以上、近接戦に入ればジークに勝機は薄いからである。

「ッ───させるか!」

だがジークも近づけさせようとはしない。
カムから妨害が難しい専用技をフルに使ってバルトの侵攻を妨げようとするが、

「ーーーーッッ!!」

大気を乱す凄まじい波動が吹き荒れた。
そして衝撃によりジークの体が大きく揺らいだ。

「っ!?」
「のわっ!? デン!」

何が起きたのかといえば、それまで控えていた青き騎士のデンが声にならない雄叫びが上げたのである。

その瞬間、ジークが立つその空間を響かせる激しい振動が巻き起こった。

竜王の激震撃咆ドレットノート・ロア

魔法とは言い難い《竜王》の専用技スキルであり、炎を吐くわけではないがその威力は、身体強化を使えず精霊の魔力であったその攻撃はジークには効果的であった。

「ぐっあああああああっ!?」

肉を裂き骨を抉り、身体の芯までも削り取るような痛み。
雷・風系統の振動魔法に近い技であるが、その技はしっかりコントロールされおり死なない程度にジークを全方位から襲っていた。

「う、が……」

痛み対する耐性があるジークでも重いダメージ。
なにより身体強化がされていなかったのが大きい。

ジークはそのまま咆哮の振動をモロに受けてしまった。───さらに、

「オッ、ラ!!」

追撃するように二本の剣で攻撃をするバルト。
属性付与をかけていた二本の剣は火のオーラを纏って、グラついているジークを斬りつけた。

「がっ!」

その剣戟を体を巡回している魔力の魔力層でガードするが、魔力の練りが弱く剣戟の傷こそないが鈍器で殴打されたような痛みで呻き声を上げる。

両肩の部分の制服が破れて痛みで動きが止まる。
そんな彼に追撃するバルトとデンはアイリスとサナがしたように、挟み撃ちで仕掛ける。

「カァァァア!!」
「ーーーーッ!!」

前からは斬撃の嵐。
背後からは剣圧による衝撃波。

「がぁあああああーー!!」

その二つを無防備なまま受けてしまったジーク。
制服は既にボロボロであるが、まだ血が出ていないのが不思議なくらいである。

しかし、今回のダメージは大き過ぎたのか、前のめりになって倒れてしまった。


ジークにとって大きな隙がこの時生まれた。


「やっ、ばいな……!」

───早く起き上がらなければ。

そう心の中で呟くよりも前に空から飛来する物体。

それは黒い杭のような物でジークの囲むように地面に突き刺さると、その一本一本から魔力の網が生まれ彼を拘束した。

(これは霊具……! 縛りの封魔か!)

七重の精霊結界の主であるカグヤの仕業だった。
彼女が放ったのは精霊の力で敵を捕縛する封魔の杭である。

本来は荒れ狂う高位な精霊を抑えるために用いる手であるが、

(う、動け、ない!!)

精霊と相性の悪いジークにも効果はあった。
身体を動かそうとしても動かすことができず、さらには魔力操作までも封じられいるのである。

「これで大人しくなったか?」

そこで武器を構えたままバルトから近付いてくる。
その表情は未だにヘラヘラしているが、その瞳はさっきまでにはなかった神妙な物がある。

火属性付与を付与させた剣を携えたまま、ジークの様子を窺っていた。

「それじゃあこれで終いとするか」

手元に先ほどアイリスが持って使おうとしていた十字架の魔道具。

ジークの師が作り出したであろう厄介な気配を纏う魔道具が再び彼の前に出た。

「できればコイツは嬢ちゃんにやって欲しかったんだが仕方ないか。コイツはお前の師がお前の為に作り上げた対消し去る者イレイザー用の魔法式が刻まれている」

これはお前の魔力でも抵抗は難しいぞ。と口にするバルトにジークは襲いかかる捕縛術で動けない状態でありながら……。

「舐……め」
「? なんだ?」

動けない筈の身体を起き上がらせようとした。

「俺と……俺の魔力を……舐・め・る・な!!!!」
「ッ!?」

精霊王でさえ抑えてしまう捕縛術であろうとジークは抗う。

魔力コントロールが利かないのであれば、もう加減など気にしなければいい。

身体が縛られているのであれば、身体を引きちぎるように動かせばいい。

「言った、はずだッ!」

幸いこの封魔の結界も強力な物のようだと、察したジークは操作など無視して身体中に巡回しているの魔力を解き放った。

「余計な、ことを、するなと!!!!」

彼の体から不規則に噴き出し始める魔力の奔流。

包囲している黒き杭にヒビが入った。

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