オリジナルマスター

ルド@

第12話 始まる二試合目とその裏で。

「それでは準備はいいか?」

試合場に集まっているのは、セナリア学園のシズク、エイオン学園のカルマ、ウルキア学園のサナにシオン、そしてクロウ《復讐の壊滅者リベンジャー》が立っていた。

「「「「「……」」」」」

試合はまだ始まっていないが、それぞれ既に標的を見定め始めていた。

(彼女がミヤモト流の後継者ですか、お師匠様は四:六で負けるかもしれないと言ってたけど)

長く濃い青髪をしたスレンダーな女性剣士。《霜剣》のシズクは真っ白な細剣を携えてシオンに目を向けている。同じ剣士として注目しているようだ。

(あれがカルマ・ルーディス……)

対してシオンは気合を入れてか、ポニテにした黒髪でサナほどではないが、背は高くメリハリあるスタイルをした二刀剣士。彼女の視線はシズクを捉えておらず、前の試合で弟をあっさり倒した謎の魔法使いのカルマへと移っていた。

「……」

そしてシルバー・アイズと同じ、銀の瞳と髪をした青年カルマ・ルーディスもまた視線を別に移しており、視線を真っ直ぐにして正面に立つクロウを見ていた。

正しくはクロウに憑依している《復讐の壊滅者リベンジャー》であったが。

どのような手を使用したか分からないが、どうやらクロウの姿に化けているのではなく、体に乗り移っていた。

しかし、その視線は偶然かもしれない。
カルマの思考は既にまともではなくなっている。クロウを直視しているが、それはただ正面に立っているだけ、シルバーの魔法をいくつか刻んでいるが、彼にはクロウの中に入る者を見極めれる程の眼は所持していなかった。

(やはり感情の欠落は大きいようですね。なら対処は簡単でしょうし、私はあちらを狙いますか)

対してクロウは誰ともロクに視線を合わせようとはしてないが、正面に立つカルマと一番の標的である《金狼》の娘でもある─────サナへと、さりげなく向けていた。

(ふふふ、この体はなかなか良い。忍び寄ることに適した魔法の数々に興味深いオリジナル魔法。さらに私の魔法との相性もいい。実に良い体です)

綻びそうになる口元を固定しつつ、クロウもいつでも動けるようにしていた。


そして最後にサナであるが……彼女だけは、少々他の皆とは異なっており……。

「……」

静かに目をつぶり落ち着いた様子で、始まるのを待っている。
緊張した様子もなく、闘志を燃やすこともなく、透き通りそうな静かな気配で舞台に立っていた。

……もしシオン以外、彼女の知り合いがいたら、普段と違う彼女の違和感に気付いたかもしれないが。

「では準決勝……第二試合」

審判員が告げると、それぞれが異なる構えを取り、臨戦態勢に入る。
前の試合が凄まじかった所為で、盛り上がりも下がるかと思われたが、観客達も固唾を飲んで舞台に集中していた。

─────しかし、

「始めっ!」

その僅か数分後には参加する者や観客はもちろん、すべて計画通りだと思い込んでいる《復讐の壊滅者リベンジャー》ですら、予想だにしない異常事態が発生した。


◇◇◇


「しつこいッ! ─────はッ!」
「ぐっ!」

場所は変わり会場内にあるとある室内である。
ジークが強化した拳が配下の男の腹を、抉るように殴り飛ばす。

同じく身体強化を発現させている相手であるが、元々の出力がまったく違う。

「ハァァアアッ!」
「またか!」

だが、一人倒してまた次が来る。背後から短剣を持ってさらに、別の男が迫って来た。仲間がやられたというのに、動じた様子は全くなかった。

(『属性転換・闇』『身体強化・闇の型ブースト・ダーク』『跳び虎』!)

洗練された剣さばきにジークはやはり、学生とは違うと感じつつ蹴りを入れて追い払う。リヴォルトは選りすぐりの配下を用意したようだが、ジークはSSランクの超越者である。一対一では負けない。……負けないが。

「逃がさん! うぉぉおおおおお!!」
「回り込め!」
「……!」

ジークがリヴォルトとその配下と交戦が始まって、二十分ほど経過していた。

始めは『神隠し』や専用技による範囲攻撃で殲滅したかったが、騒ぎになって自分にも飛び火が来て、明日の決勝に支障がでてしまうと厄介だと判断。室内を破壊し尽くす大技は避けて、格闘術でなんとか相手をしているが。

(次から次へと……!)

休むことなく攻めてくる相手側の連携に、どうにも押し切れずにいた。

「『火の癒しファイア・ヒール』!」
「『水の癒しアクア・ヒール』!」
「───っ!」

さらに後方で先ほど倒した男が、仲間の回復魔法で復活を果たしている。……敵の攻撃も絶えず続いている為、割り込むのが難しい状況であった。

(またか、一人一人も強いがこの連携も面倒だ。先に回復要員を片付けようとしたら全員が回復魔法を会得しているな)

既に五人ほど潰したが、端で回復魔法で治療されてしまい、数がなかなか減らずにいた。
属性を切り替えて精神干渉が可能な闇にしたが、それも回復されてしまっている。生半可な攻撃ではこの状況を打開することはできない。

「おおおおおおおっ!」
「かぁぁぁぁぁぁっ!」
「─────ちっ」

それを知ってか相手側は積極的に攻めてくる。
大技を出さないと分かった以上、ジリジリと詰めるよりも焦らせて、出せる手を封じさせる考えのようだ。

そして向こうも騒ぎになるを恐れて、魔法弾などを放つのは控えているようだが、弱くてもAランク相当のメンバーばかりだ。実戦も経験値も豊富な筈、流石のジークも試合の時のようにはいかない。

「いくら貴様でもあの戦いから、すぐこの人数を相手に抑えたまま戦うのは厳しいだろう?」
「……『瞬殺戦火バトル・コンビネーション』」

リヴォルトもそのことが分かったのか、最初の体術による攻撃後は配下に任せて、後方で控えていた。

そんな腹ただしい笑みを向けるリヴォルトを無視して、ジークは融合系のオリジナル『瞬殺戦火バトル・コンビネーション』を発現させる。

視界が景色がより鮮明になり、捉えている相手の予測線の光が浮かび上がる。

「すぐに追い詰めてやるから待ってろ」
「「「……!」」」

攻めてくる相手に自ら飛び込む。
すると配下達もリヴォルトに近づけさせないように、それぞれ魔力を強めて飛びかかる。

(沈めてやる……!)

そこからの攻防は流れるように進んでいく。動きの先を捉えるジークは、斧や剣を振るう相手を最速カウンターで僅かに生まれる隙をつく。

一人は斧を躱すと腹部に闇の専用技スキルの『夜闇の拳ブラック・ナックル』の打ち込み。片方は口元を掴み膝を蹴り押した倒すと、『夜闇の衝撃ブラック・インパクト』を叩き込んだ。

その時、背後に別の男が接近していた。
体術に自信があるのか、そのままジークの首で腕を回そうと、

「─────うぐ!?」

するも気付いていたジークよって逆に首を掴まれてしまい、苦しげな呻き声を漏らす。

(邪魔だ)

首を掴んでいたジークは闇のオーラを流し込む。それにより徐々に意識が失っていく配下の男達。

「だいぶ……減らせてきたかと思ったのにな……!」

精神干渉の影響により、次々と意識を落としにかかるジークであるが、相手も負けず回復要員を増やして、闇の精神干渉を手際よく除去していった。

「本当にしつこい奴らだ」

これにはさすがのジークも舌を巻いた。

(破壊力の高い『術式重装』が使えないのはやはり厄介か。にしてもコイツらの連携もびっくりだ。俺の魔法に臨機応変に対応している)

これも冒険者として経験なのかもしれないと感心する反面。早急に打開しなければならない脅威だと感じた。

(本気を出したばかりだからな。すぐの戦いはもちろん長期戦も遠慮したい)

冥女との対戦で《消し去る者イレイザー》を解放したこともあり、疲れもなくもない。

「これなら……どうだ!?」

可能なら殺害は避けたいジークは、殺傷能力を高めず威力を上げた『夜闇の幻弾ブラック・バレット』を撃つ。

もともと殺傷能力が低い闇系統の専用技は、やはり内側の精神を攻める弾丸である。
速さは風より遅いが、通常の『零の透矢ノーマル・ダーツ』を同じほどあり、当てるのは難しくない。

弾丸を指から放ち。腕や足などではなく、なるべく相手の胸元や頭部を狙いにいく。干渉を受ければさすがにすぐの復活は難しい精神的な致命傷の箇所ポイントであるが。

「怯むなっ!!」
「はっ! ──────“術式解放”『光の大円高壁ライト・サークルロングフォール』!!」
「『光の癒しライト・ヒール』『全体付与・魔力強化オールギフト・サポート』」
「『光の壁ライト・フォール』『絡ませる風の誘導ウィンド・リード』」
「『魔を祓う光の霧ライト・ディスペル』! 『水槍の渦アクア・ランス』っ!」
「『雷刀の型サンダー・ブレイド』──────かっ!」

リヴォルトの叱責と共に配下達は、息を合わせて受けて立ちにいく。
それぞれが味方のバックアップの魔法を展開させて、ジークを仕留める為に別の魔法も出している。

(急な人員のくせに連携が取れてる! 尖った奴が一人でも混じっていれば崩しやすいのに……!)

闇の弾丸が弾かれてしまい、逆に水の槍が迫ってくる。
ジークは闇の身体強化で叩き落とすが、内一つが風の誘導魔法によって素早く移動し、背後にも回り込んで来た。

(今度こそ……どうだ!?)

随時起動する『瞬殺戦火バトル・コンビネーション』で迎撃のカウンターを行おうとしたが、微妙にズレて直撃こそなかったが掠ってしまった。

掠れた袖の部分が僅かに切れた。

(嫌なタイミングで強化されてる。しくじったか)

慌てることなく距離を取るジーク。
相手の急な攻撃も困ったが、仲間の強化によって魔法の威力が格段に上がっているのが、また厄介なことであった。

(こいつら全員、自分の役割ちゃんと理解して動いてやがるっ! 絶対に連携を乱すようなソロプレイは控えてる……!)

一人一人の力量をだいたい把握しつつあったのが、急な強化によって防衛魔法である『瞬殺戦火バトル・コンビネーション』のタイミングがズレてしまったのだ。

アレはある程度、相手の動きや魔力の流れを把握してないと使え難い魔法である。雑魚相手であれば問題ではないが、この者たちは皆高ランクの冒険者と同じ実力者だ。その為に時間をかけて動きや魔力を見ていたが。

「一旦解除するしかないか。思いのほか手強い連中だな」

やはり相当な実戦を積んできたのだろう。ジークの規格外な攻撃にも瞬時に対応させてきた。

ジークはこれ以上は厳しいとイレギュラーな対応に弱い『瞬殺戦火バトル・コンビネーション』を解除して、迫ってきた雷を帯びた二刀使いの剣撃をバク転の要領で躱した。

「なら俺ももう遠慮はしない」

敵の本気度を改めて実感できる光景に、ジークも手加減する気持ちを捨てることにした。
フロアの破壊はしないようにするが、相手に対する加減は考えないと決めるとジークは手から闇の剣『夜闇の剣ブラック・ソード』を作り出した。

(『短距離移動ショートワープ』『痛覚過剰オーバー・ペイン』)

ここからオリジナルも隠さずに使用することに決めたジーク。
空間移動で男の一人の真正面に移動すると『夜闇の剣ブラック・ソード』を人刺し。さらに加えて痛覚を過敏にする『痛覚過剰オーバー・ペイン』を使用して、殺傷能力の低い『夜闇の剣ブラック・ソード』の痛覚ダメージを倍増させた。

「ガッ!?」
「安心しろ。死にはしない」

とジークが告げるが、男の耳には、もう届いてない。
胸元に黒剣が突き刺さった男は、今までにない異常な痛覚に狼狽し、体を脈打たせると目を見開らいていた。抵抗もなく意識が飛んで倒れてしまった。

「っ! そうきたか……!」

その様子を後方で見ていたリヴォルトから、そんな呟きがジークの耳に届くと、その声に振り返り配下と声の主に一言口にした。

「今度こそ、まずは一人だ」

それ見て少なからず驚く配下の者達と不機嫌そうな顔を隠さないリヴォルトに、ジークは不敵な笑みを浮かべて言うが、バレないように横目でチラリとショック死してないかとつい目を向けていた。……可能なら殺したくはないのだ。どうしても。

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